iDeCo+(イデコプラス)導入メリットは「採用難時代の人材獲得」だった

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記事の情報は2019-03-05時点のものです。

この1年で「金融機関から提案があった」「社員から事業主証明の記載を求められた」といったきっかけをもとに新たな退職給付制度として、iDeCo+(イデコプラス)に着目する企業が増えています。ここでは、話題のiDeCo+も含めこれからの退職給付について理解を深めます。
iDeCo+(イデコプラス)導入メリットは「採用難時代の人材獲得」だった

企業の約8割が「売り手市場」を実感

日本経団連が実施した「2018年新卒採用に関するアンケート調査」によれば、企業の約8割が、前年よりも売り手市場であることを実感しています。新卒採用においては大半の企業が「学生側が有利」と感じており、採用担当者の採用努力だけで人材を確保していくことが困難な現状が浮き彫りになりました。

一方、enが実施した「20代、30代が転職で重視することとは?年代別調査結果 [2017年版]」では、第4位に「待遇・福利厚生」がランクイン。20代〜30代の求職者の6割弱が、待遇・福利厚生を重要視しているのです。同調査では、「売り手市場の影響を強く受けている」と指摘しています。待遇や福利厚生施策の見直しに重い腰をあげる企業が増えているのは、このためです。

新たな福利厚生施策としての退職給付

待遇・福利厚生の見直しは、企業にとって目先のコスト増に直結します。けれども採用難時代は、これからも長く続きます。上昇する採用コストやその後の人材定着までを総合的に考えると、福利厚生の見直しは将来的にプラスに転じる可能性の高い施策です。

待遇・福利厚生見直しの具体策を検討する上で、私がお勧めしているのは退職給付の見直しです。理由は2つ。1つめは、既存社員も含めて全員が対象となるため不公平感が生まれにくいこと。もう1つは、人生100年時代と叫ばれるなか老後資金に対する不安が膨らむいま、退職給付制度の拡充は、誰からみても企業の魅力アップにつながるためです。

他の施策と比べても企業メリットは大きい

例えば、採用競争力強化として即効性がありそうな初任給アップ。しかし初任給の見直しには「毎年、なかなか踏み切れない」という企業は少なくありません。問題として挙がることが多いのは、現職社員とのバランスです。ある年から初任給を上げた場合、それ以前に入社した新卒の給与はどうしたらよいか?と悩む企業は多いです。

他方、福利厚生施策については、近年ユニークな施策を導入する企業が増え、企業の特色の打ち出しにつながる一方で、対象者が限定される施策も多いのが現状です。例えば、育児と仕事の両立支援施策をいくら拡充したとしても、子どもを持たない社員にとっては何のメリットもありません。そればかりか、「子育て社員ばかり優遇されている」「子育て社員のフォローが増える」といったネガティブな感情を助長してしまう懸念も見逃せません。

せっかく新設した制度が対象者限定のものでは、社員や求職者が「自分にはあまり関係ない」と感じてしまっては、採用競争力強化にまでは結びつかないのです。その点「退職給付制度」は誰しもに平等で喜ばれる、企業メリットの大きな施策といえるでしょう。

退職給付制度の導入状況

ここで紹介している「退職給付」とは、大きく退職金(一時金)と退職年金のふたつに分けられます。厚生労働省が実施した「平成30年就労条件総合調査」によれば、80.5%の企業が退職給付(一時金・年金)制度のいずれかをすでに導入していることが分かります。この数字だけを見ると、「退職給付が人材獲得に結びつくなんて」と懐疑的に思われる方も多いでしょう。

しかしさらに細かく見てみると、一時金の制度のみを導入している企業は73.3%で、退職年金を導入している企業はかなりの少数であることが分かります。また企業規模が小さくなるほど、一時金の制度のみを導入している率が上がり、99人以下の中小企業では、22.4%の企業がいずれの退職給付制度も導入していません。

企業規模 退職給付(一時金・年金)制度がある企業 退職一時金のみ 退職年金制度のみ 両制度併用
平成30年度調査計 80.5%(100) (73.3) (8.6) (18.1)
1000人以上 92.3%(100) (27.6) (24.8) (47.6)
300〜999人 91.8%(100) (44.4) (18.1) (37.5)
100〜299人 84.9%(100) (63.4) (12.5) (24.1)
30〜99人 77.6%(100) (82.1) (5.4) (12.5)

(「平成30年就労条件総合調査」第17表よりBeyond編集部にて加工)
( )の数値は、退職給付(一時金・年金)制度がある企業を100とした割合

退職給付制度の導入や拡充をあらためて検討することで、採用において競合となり得る同じくらいの規模の企業や同業他社よりも、一歩リードできると考えられるのではないでしょうか。

退職給付としてのiDeCo+

そこでご提案したいのが、退職給付としてのiDeCo+(イデコプラス)です(※)。特に、まだ企業年金を実施しておらず、従業員数が100人以下の会社がこれから退職給付を検討する際は、ぜひ検討のひとつに加えてほしいです。

(※)iDeCo+(イデコプラス)とは
2018年5月より、一定の要件を満たしている中小事業主に使用される従業員で個人型確定拠出年金(iDeCo)に加入している方については、中小事業主が必要な手続き等をとった場合、従業員の加入者掛金に対して、中小事業主が中小事業主掛金を上乗せ(追加)して拠出することが可能になりました。これを「中小事業主掛金納付制度」(愛称「iDeCo+」)といいます。

iDeCo+は、個人が加入する個人型確定拠出年金(iDeCo)に、会社が月1,000~22,000円の範囲で掛金を上乗せして拠出する年金のしくみです。この場合、個人が月1,000~22,000円の範囲で拠出する掛金は給与天引きされ、会社の上乗せ分と一緒に会社から運営管理機関に納付されることになります。

ただし主体はあくまでも個人なので、会社にとっては運用にかかる手間やコスト負担をおさえて制度を導入できるというメリットがあります。また事業主が負担する掛金額は経費にでき、税制上の優遇を得られる点も大きなメリットではないでしょうか。

個人にとっても掛金納付の手間が省けて、なおかつ企業を退職後も年金を変わらず維持できます。企業と個人、双方にとってメリットがある施策なのです。

前提としてiDeCo(イデコ)に加入している必要がありますが、iDeCoの加入者は2018年12月末時点で112.4万人。12月単月の加入者だけで3.4万人と加入者数は増加傾向が続いています。

さらに現段階で加入している方は、節税や資産形成などに興味と一定の知識があり、情報感度が高い方が多いと考えられます。仮に求職者の方がiDeCoの加入者であった場合には、採用競争力としてひとつの強みになるでしょう。

「 iDeCo+ (イデコプラス)」と相性がよい企業とは

私は、退職給付の導入についてアドバイスする際、iDeCo+(イデコプラス) と相性がよさそうな会社か見極めるひとつのポイントとして、副業の解禁に前向きかどうかに着目しています。

副業を通じて本業以外で経験を積んだり収入を得たりすることは、自分のキャリアやライフプランを会社に依存せず個人が主体となって考えていくことにつながります。個人が主体となって資産運用を考えるideco+と、副業の解禁はスタンスに共通点があると考えています。

逆もしかりで、社員にもっと自分のこれからを主体的に考えてもらいたい会社にとっても、iDeCo+ の導入は、はじめの一歩を後押しすることにつながるのではないでしょうか。

運営管理機関によっては、社員向けに個人型年金の理解を深める講座やもっと広くマネープランの講座を実施してくれるところもありますので、上手に活用し、社員教育にも活かしていくとよいと思います。

今回は、iDeCo+ を中心に退職給付の導入についてご紹介しましたが、退職給付の選択肢はひとつではありません。投入できるコストのほかに会社の方向性や会社が求める社員の働き方によっても相性の良い制度は変わると思います。企業の魅力アップに効果的な退職給付をぜひ今一度、検討してみてください。