日本は「デジタル化社会じゃない」?充足度が24か国中最下位、苦手意識も根強い

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記事の情報は2019-05-18時点のものです。

スマートフォン中毒が問題視され、生活とのバランスを重視するデジタルウェルビーイングという概念が広まっている。とはいえデジタル技術は欠かせないし、今後の経済発展も、デジタルの活用度合いや必要な層への行き渡り具合に左右される。このような視点で世界各国の現状を比較した電通の調査レポートからは、デジタル社会を信頼せず苦手とする日本の姿が浮き彫りになった。
日本は「デジタル化社会じゃない」?充足度が24か国中最下位、苦手意識も根強い

24か国のデジタル社会指標を調査

全世界にインターネットが張り巡らされ、スマートフォンでオンライン環境に常時アクセスできる現代社会において、スマートフォン中毒が問題視されている。ICTを発展させたシリコンバレーですら、スマートフォンなどへの過剰依存から抜けだして「時間をより有意義に使おう」というムーブメント「Time Well Spent(TWS)」が起き、デジタルウェルビーイングやデジタルデトックスといった概念が広まったほどだ。

具体的な対応としては、スマートフォンやSNSに対する中毒を緩和し、過剰でなく適切に活用するためのツールが、AndroidとiOSのそれぞれ最新版に搭載された。Androidの「ダッシュボード」「アプリタイマー」「おやすみモード」「ふせるだけでサイレントモードをオン」と、iOSの「スクリーンタイム」「休止時間」「ベッドタイム」「おやすみモード」「App使用時間の制限」がそれに相当する。

とはいえ、PCやスマートフォン、インターネットのようなデジタル技術は、家庭や職場など社会のさまざまな場面で役立つ。今後どれだけ経済発展できるかも、デジタルがうまく活用されているか、社会の必要な層に行き渡っているかなどの条件に左右される。

このような視点で世界各国の現状を比較した調査レポート「Digital Society Index 2019」が、電通の海外本社である電通イージス・ネットワークから公表された。独自指標の「デジタル社会指標」「デジタルニーズ充足度」で24か国を比較している。

気になるのは、日本のデジタル社会指標が22位、デジタルニーズ充足度が24位で最下位と、極めて低いことだ。

デジタル社会指標とは

Digital Society Index 2019は、電通イージス・ネットワークがマクロ経済シンクタンクのオックスフォード・エコノミクスと共同で調査を実施し、社会と市民に役立つデジタル経済がどの程度構築されているか示す「デジタル社会指標(DSI)」と、デジタル経済が人々のデジタルニーズを満たしているかどうか示す「デジタルニーズ充足度」を決定している。

調査対象国はアジア太平洋地域、米大陸、欧州の24か国で、4万3,000人以上から回答を得たという。

トップはシンガポール

DSIは、「“人”視点で捉えた」独自の「ダイナミズム」「インクルージョン」「トラスト」という分析軸をベースに、スコアとして指標化したとしている。社会のあらゆる面に対して、デジタル経済が役立つよう適切に発展しているかどうかを、数値で示せるそうだ。

ダイナミズムは、ICT業界の規模と成長度、研究開発への投資、トップレベルの技術系大学と人材にアクセスできるかを調査し、デジタル経済の成長度合いと活力を評価する。インクルージョンは、デジタル経済の恩恵を受ける層の厚さを表し、デジタルインフラの利用しやすさと、技術教育のレベルも示せる。トラストは、デジタル社会に対する信頼度を評価しており、サイバー犯罪への備え、データ保護規制、企業および政府のデータ利用に関する透明性を調査し、ユーザーデータ利用への信用度と将来に対する期待を数値化した。

こうして算出されたDSIのトップ3は、シンガポール、米国、中国だった。シンガポールは、3分析軸すべてが高い。米国はダイナミズムが高く、トラストが低い状態で、ほかの西欧諸国も同様の傾向を示した。中国のダイナミズムは中程度だが、インクルージョンとトラストは最高レベルにある。

22位の日本は、ダイナミズムが低くないものの、インクルージョンとトラストが最下位レベルで、結果的に低評価DSIとなった。

出典:電通イージス・ネットワーク / Digital Society Index 2019

日本はニーズ充足度で最下位

デジタルニーズ充足度は、デジタル経済が人々のデジタルニーズを満たしているかどうかを示す指標だ。「マズローの欲求段階説を参考に独自開発」した「基本的ニーズ」「心理的ニーズ」「自己実現ニーズ」「社会課題解決ニーズ」という切り口から、各国の状況を分析した。

基本的ニーズは、デジタル経済で必要とされる条件を満たすデジタルインフラに常時アクセス可能かどうかを調べている。アクセス可能と考える人の割合は、平均で49%にとどまった。もっとも高い国は69%の中国で、インドが67%でこれに続く。日本は29%で最下位。

心理的ニーズは、デジタル技術が利用者の健康やウェルビーイングに貢献するかどうかを示すが、貢献しているという回答は平均38%と高くない。アジアの国々が低く、日本は26%でほぼ最下位だった。

自己実現ニーズは、仕事での目標達成に必要なデジタル教育や技能、機会にアクセスできると考えている人の割合。平均45%がアクセス可能と感じており、全体的にはデジタルスキルの活用が不十分と判断された。日本は21%でもっとも低い。

社会課題解決ニーズは、将来デジタル技術が社会によい影響を与えるだろうと楽観視し、雇用創出や社会問題の解決につながるとみなす人の割合。平均は49%で、アジアと中南米で高い傾向がみられた。32%の日本はここでも最下位になってしまった。

出典:電通イージス・ネットワーク / Digital Society Index 2019

デジタルが信頼できず苦手な日本

ICT全盛の世界だが、意外にもデジタルニーズに対する満足度は低い。電通は「デジタル経済が進展する中で、人々の実際のニーズは見過ごされており、持続的経済成長への懸念が浮かび上がる結果」とまとめた。

また、技術の変化する速度が速すぎると感じる人が平均57%、個人情報の不適切な使用を懸念する人が64%いるなど、デジタル技術に対する信頼性の欠如も表面化した。

出典:電通イージス・ネットワーク / Digital Society Index 2019

出典:電通イージス・ネットワーク / Digital Society Index 2019

日本は、「デジタル経済が社会において上手く機能しておらず、また日本人のデジタルニーズをあまり充足できていない」状況で、デジタル社会への信頼とデジタルの活用に改善余地があるという。

さらに、全国どこでも高速ネットワークが利用可能なほどICTが普及しているにもかかわらず、デジタルに苦手意識を抱いているらしい。というのも、デジタル技術に関する何らかのトレーニングを受けた記憶のない人が日本は61%おり、調査対象国のなかで群を抜いて高いのだ。

こうした弱点を一つひとつ解消していかないと、日本は世界の後塵を拝すことになる。

出典:電通イージス・ネットワーク / Digital Society Index 2019

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