トヨタも出資、米カーシェア大手が仏企業を3億ドルで買収し世界最大規模に

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記事の情報は2019-05-08時点のものです。

米国で個人間カーシェアを手がけているゲットアラウンドが、欧州の同業大手ドライビーを3億ドル(約335億円)で買収し、500万ユーザーを抱える世界最大規模の事業者となった。ゲットアラウンドは、トヨタやソフトバンクも出資している注目企業である。日本ではまだなじみのない個人間カーシェアだが、世界では広まりを見せている。
トヨタも出資、米カーシェア大手が仏企業を3億ドルで買収し世界最大規模に

世界で広まるカーシェアリング

移動手段のサービス化、つまり「MaaS(マース)」という考え方が広まり、自動車を個人所有せず共有するカーシェアやライドシェアといったシェアリングエコノミーが受け入れられてきた。世界では、日本よりはるかにシェアリングエコノミーが拡大していて、欧米や中国など人口の多い都市部では自動車や自転車、電動スクーターなどの共有サービスが日常的に利用されている。

そんななか4月末、米国で個人間カーシェアリングサービスを展開しているゲットアラウンド(Getaround)という企業が、フランスのドライビー(Drivy)3億ドル(約335億円)で買収、とのニュースが入ってきた。まだ日本でなじみのない個人間カーシェアが、これほどの市場になっているのだ。

ゲットアラウンドとドライビーとは

ゲットアラウンドとドライビーは、どんなサービスを手がけているのだろう。

欧米300都市で500万人以上が利用

ゲットアラウンドは、所有している自動車を空き時間に貸し出したい消費者と、必要なときだけ自動車をレンタルしたい消費者を仲介する。レンタカー業者の車を使うのではなく、車の貸し借りが個人間で行われるCtoC型事業だ。サービス地域は、米国の140都市に及ぶという。

一方のドライビーは、ゲットアラウンドと同様のサービスをフランス、ドイツ、スペイン、オーストリア、ベルギー、英国で提供中。対象地域は170都市あり、ユーザー数250万人、登録台数5万5,000台という規模だ。

ドライビーを買収したことで、ゲットアラウンドは欧米の300都市以上でユーザー500万人を抱える「世界最大級」の事業者となった。

個人間で自動車を貸し借り

カーシェアとして日本で一般的なのは、事業者の自動車を借りるタイプのBtoCサービスである。従来のレンタカーと違うのは、店舗での手続きが必要なく、スマートフォンなどを使って無人の駐車場で手軽に利用できる点くらいだ。

これに対しゲットアラウンドやドライビーのサービスは、これまで友人や知人にとどまっていた自動車貸し借りの範囲が、ICT活用によりインターネット利用者全体へと拡大した。もちろん、自動車の貸し借りなので、範囲は多くの場合1つの都市内に限られるものの、個人間カーシェアの可能性を大きく広げている。

自動車は、動かすと燃料代や通行料などのコストがかかる。それどころか、持っているだけで駐車場代や税金、保険料、車検費用などが発生する。使っていない空き時間を有効利用し、有料で貸し出すことができれば、オーナーは自動車の所有にともなう負担を軽減できるだろう。

このようなメリットのある個人間カーシェアを大規模かつ容易に実行できるようにしたのが、ゲットアラウンドやドライビーなのだ。

トヨタやソフトバンクも出資

ゲットアラウンドの事業は、さまざまな方面から期待されている。そして、期待の高さは資金調達という事実につながった。

たとえば、2017年のシリーズC投資ラウンドでは4,500万ドル(約50億2,470万円)、2018年のシリーズDでは3億ドル(約335億円)もの資金を得ている。ちなみに、シリーズCにはトヨタ自動車や中国最大の自動車メーカーである上海汽車が参加し、シリーズDはソフトバンクが主導する形で実施された。

日本の個人間カーシェアは?

個人間カーシェアはまだ日本でなじみがない、と冒頭で書いたが、ゼロではない。

カーシェアは実用性よりも楽しみ目的

DeNA系の「Anyca(エニカ)」が先行し、それを「CaFoRe(カフォレ)」が追いかけている。2019年初夏には、「ガリバー」ブランドで中古車取り扱い事業を行っているIDOMが「GO2GO(ゴーツーゴー)」というサービスを開始する予定だ。

ただし、Anycaでさえも借りられる自動車の登録台数は少ない。群を抜いて多い東京は1,450台あるが、2桁のところがほとんどで、1桁の県もいくつかある。この状況だと、空いているときは常に貸し出す、使いたいときに近所ですぐ借りる、ということができるのは、都市部の一部地域に限られるだろう。

地方では車がないと生活が成り立たたず、こうしたサービスの需要はそもそも多くない。貸し手と借り手の密度が低く、両者を結びつけることも難しい。Anycaに登録されている自動車が都市に集中するのも、当然の結果だ。

逆に都市部では、駐車場代などで車の維持費が高くなる。鉄道や路線バスなどの公共交通も整備されていて、車なしでも生活できる。車を持たない人が多いので、カーシェアに対する需要は存在する。人口が集中していることもあり、貸し手と借り手のマッチングもしやすい。

とはいえ、Anycaで登録されている自動車のタイプや、貸し手と借り手のコメントを見ると、現時点では実用性よりも、自分で所有しにくい「憧れの車に乗ってみたい」といった楽しみ目的で利用している人が目立つ。

ライドシェアは難航しているが

自動車のシェアリングといえば、相乗りを仲介するライドシェアサービスのウーバー(Uber)やリフト(Lyft)がよく知られている。もっとも、日本ではライドシェアがいわゆる白タク行為と見なされてしまうため、日本で提供されているウーバーのサービスはライドシェアでなく配車サービスに過ぎない。

リフトは3月末にIPO(新規公開株)を実施済みで、ウーバーも間もなくIPOする見通しだ。このように将来性のある事業でありながら、日本では法律の壁が立ちふさがる。ウーバーに出資しているソフトバンクグループのトップ、孫正義氏も苦言を呈している

カーシェアにしろライドシェアにしろ、自動車を共有するという習慣が当たり前になれば、特に都市部では車の台数が減り、渋滞の緩和や排気ガスの減少につながる。現在は法律の問題で提供できないライドシェアだが、個人間カーシェアで利点が理解され、導入へと動き出すかもしれない。