ワンオペ育児から「チームわが家」令和時代の両立戦略(後編)

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これだけ共働き家庭が増加しても、なぜワンオペ育児が続くのか。ワーキングマザーが感じがちな罪悪感はどこから来るのか。家事育児と仕事の両立に葛藤を抱える、令和時代の働く親をサポートする「チームわが家」の考え方、具体的な構築方法について、その提唱者である wonderLife LLP 代表、NPO法人ファザーリング・ジャパン理事の林田香織氏にお話を伺いました。

ワンオペ育児から「チームわが家」令和時代の両立戦略(後編)

「チームわが家」とは

連載前編では、 wonderLife LLP 代表で男子3人の母親でもある林田香織氏に、ワンオペ育児や夫婦の暗黒時代に苦しんだ実体験と、人生を変えたという『「イクメン」現象の社会学』(お茶の水女子大学の石井 クンツ 昌子教授著)との出会いについて、お話を伺いました。

後編ではいよいよ、ご自身の家事育児と仕事の両立体験、大学院での研究、両立支援やイクボスなどの参加型の研修を手がけるなかで、構築した「チームわが家」について、詳しくお話を伺います。

藤川 チームわが家とは、ワンオペ育児の対極にある、家族のあり方のように感じますが、具体的に教えてください。

林田 チームわが家とは、祖父母や、ママ友・パパ友、行政や民間のシッターサービスや家事代行サービス、家事時短のためのアイテム導入など、多様な家事育児サポートを得られる体制を構築し、ワンオペ育児からチームで育児へシフトしよう、という考え方です。詳しくは、こちらの図にまとめています。

提供:wonderLife LLP

この図だけを見ると、ワンオペ育児を担ってきたお母さんが家事育児をアウトソースできれば、もっと自由に働ける、そのためにチームわが家は理想的だ、という風に共感してくださる方がいらっしゃるかもしれませんが、実はそれだけではありません。

チームわが家が目指すのは「家族の変容」

藤川 チームわが家とは、何を目指すものなのでしょうか?

林田 最大のミッションは、安心して子育てができるコミュニティを作ることです。

 第一次産業が盛んだった時代は、家族は地域コミュニティや親族ネットワークの中にありました。各家庭は今よりコミュニティに開かれていて、子どもたちは、多様な大人と交流し成長できていた。地域に安心・安全が守られていました。

 産業化以降、職住分離が起こり、同時に地域コミュニティの機能が弱くなりました。核家族が増えて、安心・安全を守るために、家族と外部との壁が厚くなりました。

 その結果、外部からの悪い影響はシャットアウトできるけれども、いい影響も入ってこなくなった。家族の内部が、孤独な子育てや、教育が加熱しやすい環境になっていても、それが外から見えづらくなりました。頼ることもできないし、見えないから手を差し伸べることもできない。閉ざされた家庭の中の子育ては親も、子どもも、つらいですよね。

提供:wonderLife LLP

 地域コミュニティという多様な大人がいるなかで安心して生活できたり、人間関係を構築できる環境は、子どもの成長発達過程でプラスです。だからといって昔と同じような地域コミュニティを作るというのは難しい。昔とは違うけれど、今の時代にあったコミュニティを作るにはどうしたら良いか長い間考えていました。そしてたどり着いたのが「チームわが家」です。

 親自身が、信頼できる多様な大人に、家事・育児のサポートをサポートしてもらいつつ、自分たち家族のためのコミュニティをつくる。子どもはそこでいろんな大人と関わりながら、成長できる。周りに頼って家事・育児が楽になるのはもちろんですが、それによって、親も子どもも安心できるコミュニティを作るために周囲に頼りながら子育てをするというのが「チームわが家」の考え方です。

ワンオペ育児から抜け出す、「言い訳」が必要だ

藤川 チームわが家というフレームワークを構築するなかで、一番の気づきは?

林田 頭ではわかっても、心がついてこない。そういうお母さんたちが、非常に多いことに気がつきました。

 ワンオペ育児をしながら、気持ちがもやもやしてしまうのは、(前回の記事でも)お伝えしたとおり、親世代の生育過程で培われた規定概念や社会のシステムとか制度とかによるいろんな刷り込みがあるから。

 それに気がついて意識を変えよう、家事育児をもっと夫はじめ他者に頼ろう、と頑張るのだけど、「私が本来やらなきゃいけないことを誰かに頼んでいる」「だから、やってくれてありがとう、やってもらってごめんね」と感じてしまう。でも、それだとつらいばっかりなんですよね。

 お母さんたちが罪悪感を感じない、感じないことはないかもしれないけど、緩和できるようなアプローチの仕方がないかな、とすごく考えました。

藤川 そうした課題に対しては、どのように対応されましたか?

林田 頼るということにものすごくハードルを感じてしまうのなら、「ポジティブな言い訳」を作ろう思いました。

 「私ができないから、これはあなたがやって」ではなく、「親も子も時間的にも精神的にもゆとりを持って生活するための環境づくり」として捉えることで、ハードルが少し下がります。ちょっとかっこいいし、お父さんも納得しやすいようです。

 子どもも親も安心・安全でいられるような、「チームわが家」という自分なりのコミュニティを持つことで、子どものよりよい成長に役立ち、時間的な余白を生み出すこともできる。家族みんなが笑顔でいられるための、余白を作りたい、と。

ワンオペ育児をやめると、家族みんながハッピーに

藤川 私も家事代行やシッターサービスを利用していますが、最初の頃は罪悪感がありました。こうした「家族みんなのために」というロジカルな言い訳があると、家族に相談する心理的ハードルが下がる気がします。

林田 そういう意味ではチームわが家は、ロジカルな男性にも受け入れやすいようですね。

 ワークとライフは影響し合うので、家庭生活において家族全員が充実感を持つことで初めて、夫も妻も、仕事やキャリアに対してポジティブに考えられるようになる。

 30代以降は多くの方が、仕事、親、配偶者としてなど、多重役割を担っています。ひとつの役割でポジティブを増やせば、別の役割でのネガティブを相殺できる。チームわが家を構築することで、多重役割の相乗効果を生み出せるようになれば、家族みんながハッピーだと思います。

チームわが家を目指すために、知っておこう

藤川 最後に、チームわが家を自分の家庭でも築きたい、と考える方々に、メッセージをお願いします。

林田 多様な社会だからこそ、自分たちがどうしたいか、わが家の軸を決めることが大切です。

 家族の価値観や、大切にしたいこと、キャリアプランや働き方の希望などを、まずは話し合って折り合い点を探すこと。いずれの言い分も聞いて折り合いをつけていくのは、誰かが妥協するのとは違います。

 職場の約7割が制約社員といわれるいま、介護や育児やご自身の病気など、何らかの制約を抱えながら働く方のほうがマジョリティになりました。大手企業で男性の育休義務化が進められたり、社会全体がどんどん変わってきていますから、家族みんなが笑顔でいられることを目標にがんばっていただきたいですね。

藤川 時代が変わったのだから、働き方も育児も家族の在り方も、誰かや自分が悪いといった犯人探しはやめて、自分がどうしたいかに沿って、柔軟にやっていくことが重要ですね。

今日は、ありがとうございました。

林田 ありがとうございました。

編集後記

 「チームわが家」という考え方を知った頃、「我が家」ではなく「わが家」なのだということを聞いて、とても心に残りました。自分ひとりのためではなく、家族みんなの笑顔のためだと。

 「ワンオペ育児」や「家事育児と仕事の両立」というテーマでは、とかく「家事育児の役割分担」というタスク管理に目が向きがちです。けれどもまずは、どんな家族でありたいかを話し合うことが、原点です。お互いの価値観の違いに気づき、折り合い点や共通点を見つけることで、家庭は人生100年時代を戦略的に歩むためのかけがえのないプラットフォームとなるのではないでしょうか。