サンフランシスコで顔認証規制の動き - GAFAMは規制派?推進派?

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生活のさまざまな場面で使われるようになった顔認証技術。便利な一方、悪用に対する懸念も根強く、サンフランシスコ市は、警察などの機関を対象として顔認証による監視技術の導入を制限しようとしている。GAFAM(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフト)は、どう対峙しているのだろう。

サンフランシスコで顔認証規制の動き - GAFAMは規制派?推進派?

顔認証への「慎重な意見」が増加

スマートフォンのロック解除やユーザー認証のほか、ライブ会場や野球場への入場、旅客機のチェックインなど、さまざまな場面で使われるようになった顔認証技術。指紋や虹彩パターンを利用して人物を区別するほかの生体認証と同様、パスワードや暗証番号を覚える必要がなく、IDカードやセキュリティ・トークンも不要なため、使いやすい

商用サービスの利便性を向上させるだけでなく、行方不明者の捜索への応用も期待されている。調査会社のガートナーは注目すべき革新技術の1つとして人工知能(AI)を取り上げ、AI顔認証の活用で2023年には行方不明者数を2018年比で80%減らせると予測した。

メリットの多い生体認証技術だが、従来のユーザー認証技術より安全性が高いわけではない。すでに偽造した指紋や顔で認証システムをだます攻撃手法がいくつも考案されている。しかも、身体的特徴を認証に利用するため、パスワードと違って変えられないという致命的な欠陥が存在する。したがって、生体認証は補助的な手段でしか利用できない。

各種生体認証のなかでも、顔認証には個人の行動を追跡しやすいという特徴もある。顔をとらえれば個人の識別が可能なので、街なかや公共施設に設けた監視カメラの映像を集めて解析すれば、特定の人物がいつ、どこで、何をしたのかが手に取るように分かってしまう。犯罪捜査には威力を発揮するが、政府による個人の監視に悪用されかねない。

どうしても、ディストピア小説「1984年」で描かれた監視装置「テレスクリーン」を思い出す。そのため、顔認証に対する慎重な意見が増えてきた。

サンフランシスコは顔認証を法規制へ

米国のカリフォルニア州サンフランシスコ市では、顔認証技術の利用を制限しようとしている。

サンフランシスコの監理委員会は、市の機関が顔認証による監視技術を導入する場合、同委員会の事前承認を求めるよう決定した。このルールを定めた条例案は、現地時間5月14日にまず賛成8、反対1、棄権2で可決され、その後5月21日に賛成10、反対1で確定した。

この条例は、監視システムの導入を許可制にすることで、警察などの監視活動を暴走させないためのものだ。犯罪やテロの防止と捜査で得られるメリットよりも、市民の自由侵害というデメリットを重視した結果だ。しかし、連邦政府と地方自治体の役割が明確に分けられている米国らしく、連邦政府が管理している空港や港湾施設は条例の制約を受けない。

ただし、市長は5月31日に署名せず、条例は効力をまだ発揮していない。今後、条例が修正される可能性もある。

出典:サンフランシスコ市 / City and County of San Francisco

GAFAMはどう対峙している?

市民の権利を守るべきサンフランシスコ市のような組織は、顔認証を安易に導入できないだろう。それに対し、激しい競争に巻き込まれている民間企業は、法律で規制されない限り積極的に利用したいはずだ。

多くの先端技術を活用して収益を上げているであろうGAFAM(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフト)は、どう顔認証に対峙(たいじ)しているのだろうか。

マイクロソフト:顔認証に対する法規制を要求

かつては悪の帝国などと嫌われたマイクロソフトだが、顔認証に関しては政府の法規制が必要との立場を明確に打ち出している。社会的な利益が得られる一方、乱用のリスクが存在するためだ。

市場での成功を求めるテクノロジ企業が世界のために最善を尽くすことは考えにくい、とまで指摘した。顔認証技術を健全に発展させる唯一の方法が、責任の基準を作ることだという。

そして、社内で適用する顔認識テクノロジに関する行動規範として、公正性、透明性、説明責任、差別的使用の禁止、通知と同意、合法的監視という6項目を制定した。

出典:マイクロソフト / Facial recognition: It’s time for action

グーグル:課題が解決されるまで外部提供しない

グーグルのクラウドサービスに人物写真を保存しておくと、画像解析で同じ人の写っている写真が自動的に分類される。個人的に利用する分には便利で楽しい機能だが、同じ技術が外部に販売されるなどしたら、個人の行動監視に使われるだろう。

顔認証技術にこうした懸念があることから、グーグルは技術的および運用ポリシー上の課題が解決されるまで汎用的な顔認識APIの提供を控えるとした。マイクロソフトと異なり法規制にまでは踏み込んではいないが、同様の姿勢だ。

さらに、糖尿病網膜症の検査肺がんの診断にAIを応用しているグーグルだが、AI悪用の可能性を排除するため、AI利用時の7原則と利用しない4領域を表明した。具体的には、AIを社会貢献に使い、偏見を助長することには適用せず、兵器の開発などには使わない、と宣言している。

出典:グーグル / AI for Social Good in Asia Pacific

フェイスブック:及び腰で落し所を探す

フェイスブックもSNS「Facebook」のなかで顔認証技術を多用している。誰かが投稿した写真からユーザーの顔を見つけ出し、タグ付けを提案してきたりする。グーグルの写真分類機能と同じく便利であると同時に、悪用されたら恐ろしい。

心配するユーザーに対し、フェイスブックは「顔認証技術が難しい問題であり、単に恐れるべきものかどうか」という曖昧な態度をとった。

たとえば、かつてコダックの安価なカメラが発売されてプライバシー侵害が懸念されたものの、カメラ自体を制限しないことで写真の大衆化が可能になった歴史を挙げ、技術発展の重要性を主張した。また、写真内の人物名を読み上げるFacebookの機能は、視覚障がい者の役に立っている、という長所にも触れた。そのうえで、タグ付けの拒否機能を実装し、ユーザーの声に耳を傾けるとして、顔認証技術を使い続けるための落し所を探しているようだ。

フェイスブックは顔認識の活用を推進させたいようで、似た顔の別ユーザーに友達申請やメッセージ送信する技術を特許出願している。

出典:米国特許商標庁 / SOCIAL ENGAGEMENT BASED ON IMAGE RESEMBLANCE

アマゾン:顔認証システムの政府向け販売を継続

アマゾンは、顔認証技術の外販に積極的だ。事実、クラウドサービス「Amazon Web Services(AWS)」上で動く顔認証システム「Amazon Rekognition」を警察などに販売しており、アメリカ自由人権協会(ACLU)などから非難されている。株主からもRekognitionを政府機関へ販売することをやめるよう提案された。

2月には法規制への協力を表明していたアマゾンだが、株主提案は総会で否決されてしまった。CEOのジェフ・ベゾス氏が議決権の多くを握っていることから、これが企業としての方針なのだろう。

アップル:一線を画したビジネスモデル

アップルも「iPhone」に顔認証システム「Face ID」を搭載するなど、高度な顔認証技術を持っている。しかし、ほかの4社と異なり、この技術を外部へ販売したり、広範囲に適用してユーザーの行動を追いかけたりするつもりはないらしい。

マイクロソフトは別にして、グーグルとフェイスブック、アマゾンは、いずれもユーザーの行動や購買履歴といった情報を集約して分析し、広告配信や商品レコメンドすることで収益を上げている。つまり、個人情報を利用するビジネスモデルで成り立っている企業だ。

ところが、アップルはハードウェア販売を事業の中心に据え、これに音楽配信や映像配信といったサービスを組み合わせている。購入者やサービス利用者の個人データをビジネスに利用しないと明言し、写真や位置情報、ウェブアクセス履歴といった情報をiPhoneやMacから出さずに各種機能を実現させる仕組みを採用した。

アップルにしたら、顔認証の問題で巻き込まれるのは迷惑な話なのかもしれない。

今が正念場の顔認証技術

このように、GAFAMの立場はビジネスモデルが違うこともあってそれぞれ異なる。

これら5社に限らず、企業の多くは顔認証技術の開発を進めて収益源にしたいが、悪用で批判に晒されることは避けたいと考える。しかし、自社だけ開発を止めたら他社に後れ取ってしまう。それならば、法律で規制されて横並びになった方がよい、という判断にも至るだろう。

そうした消極的な判断であっても、乱用を防ぎつつ有効利用につなげられれば、技術開発としては成功だ。今が顔認証技術の正念場といえる。

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