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Bluetoothを広めたワイヤレスイヤホン
街で音楽を聴いている人の耳を見ると、Bluetooth対応のワイヤレスイヤホンを使っていることが当たり前になった。ケーブル接続の不要なBluetoothイヤホンやヘッドホンは以前から存在していたものの、イヤホン用3.5mmジャックの廃止された「iPhone 7」「iPhone 7 Plus」と、アップル純正ワイヤレスイヤホン「AirPods」の発売された2016年が、Bluetooth普及のターニングポイントであったことは間違いないだろう。
Bluetoothの標準化団体、Bluetooth Special Interest Group(Bluetooth SIG)によると、Bluetooth市場は順調に拡大しているらしい。最新の調査レポート「Bluetooth 市場動向2019」に掲載されたBluetoothデバイス出荷台数は、2018年に37億台だったものが、2023年には54億台まで増える予想だ。その間の年平均成長率(CAGR)は8%ある。
ちなみに、毎年約20億台も出荷されるスマートフォン、タブレット、ノートPCのBluetooth対応率は100%だという。日常的に使う機器でBluetoothが利用できることは、対応デバイスの広がりに大きく貢献しているはずだ。
各分野のBluetooth活用状況
無線イヤホンで知名度の高まったBluetoothだが、Bluetoothは別にオーディオ専用でない。そもそも近距離データ通信向けの技術であり、たとえばPC用のキーボードやマウスはポピュラーな存在だ。消費者もよく目にするイヤホンやマウスのようなデバイスに限らず、幅広い分野でBluetoothは活用されている。
以下では、Bluetooth SIGの調査レポートをベースに、Bluetoothが使われている分野の状況をみていこう。
オーディオはBluetooth、という時代に
音声データをBluetoothでワイヤレス通信するイヤホンやヘッドホン、ヘッドセット、スピーカー、ホームエンターテインメント機器が増加している。2018年の出荷台数は11億3,000万台で、これが2019年には12億2,000万台、2023年には16億台へ増える見込み。
なかでも、イヤホンとヘッドホンの人気が高く、現在販売されている機器の半数がBluetooth対応だそうだ。この種のデバイスは2023年に7億2,000万台出荷され、勢いが衰えない。また、2023年には、販売されるスピーカーの9割、テレビの半数以上がBluetoothに対応するという。
自動車のBluetooth対応率は9割超へ
Bluetoothは、自動車でも使われるようになった。Bluetoothに対応する自動車向けデバイスの出荷台数は、2018年が8,900万台、2019年が9,500万台、2023年が1億1,500万台と、着実に増えていく。
その結果、2023年時点で出荷される乗用車、トラック、SUVにおいて、車載インフォテインメントシステムのBluetooth対応率は93%に及び、ほとんどの新車が対応する状況となる。そして、道路を走る車の54%が何らかの形でBluetoothに対応している見通しだ。
車載オーディオのBluetooth対応は、自動車におけるBluetooth活用に広がりをもたらす。たとえば、Bluetooth搭載率100%のスマートフォンを自動車の鍵として流用するキーレスエントリーなど、Bluetoothの用途が拡大していく。
Bluetoothヘルスケア器具が拡大
Bluetooth SIGは、Bluetoothに対応するスマートウォッチなどのウェアラブルデバイス、血圧計や体重計、体組成計、忘れ物防止タグなど多種多様な機器をコネクテッドデバイスに分類し、データを整理した。それによると、出荷台数は2018年が4億3,000万台、2019年が5億2,000万台、2023年が10億4,000万台と、順調に増えると予測している。
そのなかで、スマートウォッチは2023年の出荷台数が2018年の3倍にまで増加するとみられる。また、スマートイヤホンやイヤーウェアなどと呼ばれるヒアラブルデバイスは、140%増と好調だ。ヒアラブルについては、カウンターポイント・テクノロジー・マーケット・リサーチとIDCも成長すると指摘している。
さらに、生体センサー付きスマートウォッチや血圧計、体重計などをヘルスケア関連Bluetoothコネクテッドデバイスとして分類すると、2018年から2023年にかけてのCAGRは40%となり、拡大が期待される。
Bluetoothがスマートホームを推進
家庭でもBluetooth対応デバイスは増えている。よく見かけるようになったスマートスピーカーはBluetoothに100%対応しているし、Bluetooth対応の照明器具も存在する。Bluetooth SIGは、こうしたBluetooth対応スマートホーム機器の出荷台数を、2018年が6億7,000万台、2019年が7億6,000万台、2023年が11億5,000万台とした。
スマートスピーカーやスマートフォンで操作できる便利さが受け入れられるのか、Bluetooth対応スマート照明器具の2023年における出荷台数は対2018年比4.5倍になるという。もっとも大きな成長が見込まれているスマート家電は、CAGRが59%と高く、ホームオートメーションの浸透に寄与するだろう。
商業や工業の分野でも
このように身近なところで多用されるBluetoothは、商業や工業の分野でも使われる。Bluetooth対応デバイス同士が多対多でやり取りしてメッシュネットワークを構築する規格「Bluetooth mesh」により、数十、数百、数千といったコネクテッドデバイス、IoT機器の相互通信が可能になった効果だ。これにより、ビル管理や工場制御などでBluetoothを使ったシステムが導入され始めた。
ビル管理を効率化するスマートビルディング
ビルの照明や空調を賢く効率的に制御しようとするスマートビルディングの分野では、Bluetooth対応デバイスの出荷台数を、2018年に5,100万台、2019年に9,800万台、2023年に3億7,400万台と見込む。
Bluetoothビーコンを活用した位置情報システムも、商業施設での販促や案内、病院における患者の状態監視などに利用される。
工場でも注目されるBluetooth
工場でのBluetooth利用も、スマートインダストリーの一環として注目されている。Bluetooth対応産業デバイスの出荷台数は、2018年が5,200万台、2019年が9,100万台、2023年が2億7,800万台と、右肩上がりだ。
この分野でも、移動させて使う機器の追跡や在庫管理などのため、位置情報システムとしてBluetoothが使われる。
スマートシティの位置情報システムで
都市全体をスマート化するスマートシティも、Bluetoothの有望な市場である。出荷台数は、2018年が2,800万台、2019年が5,000万台、2023年が1億9,700万台と、この期間に約7倍となる。
なかでも、公共施設でBluetoothベースのリアルタイム位置情報システム(Bluetooth RTLS)が使われ、その導入増加率は空港だと500%にも達する。
もっとも急成長するBluetoothソリューションは?
当初Bluetoothは数メートルという通信距離が想定された規格であることから、対応デバイスが特定のエリアに存在するかどうか、エリアに入ったかどうかなどの検知に使いやすい。忘れ物防止タグは、その応用の1つだ。商業施設では、ビーコンと組み合わせた屋内測位システム(Indoor Positioning System:IPS)として利用し、Point Of Interest(POI)マーケティングなどに使える。
そのためか、位置情報サービスで利用されるBluetooth対応デバイスは、2018年から2023年にかけてのCAGRが43%で、Bluetoothソリューション別ではもっとも急成長する分野になる。具体的な出荷台数は、2018年が7,200万台、2019年が1億3,200万台、2023年が4億3,100万台という見通し。
Bluetoothの活用を考える場合、この領域は特に注視しておいた方がよさそうだ。