ミレニアル世代の人生観・結婚観は世界共通、「男性の育児休業」は経済効果の鍵に

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記事の情報は2020-01-22時点のものです。

2020年1月14日、巡回写真展『スウェーデンのパパたち』クロージングイベントが、スウェーデン大使館内アルフレッドノーベル講堂(東京都港区)で開かれた。テーマは、父親の育児休業。本レポートでは登壇者のコメントをヒントに、男性が気兼ねなく育児休業を取得できるために必要なことを考察する。
ミレニアル世代の人生観・結婚観は世界共通、「男性の育児休業」は経済効果の鍵に

「男の育休」のゆくえ

2020年1月14日、2年6か月に渡り日本全国を巡回した写真展『スウェーデンのパパたち』クロージングイベントが開かれた。登壇したのは、駐日スウェーデン大使ペールエリック・ヘーグベリ氏、積水ハウス株式会社 代表取締役社長 仲井嘉浩氏、イケア・ジャパン株式会社 代表取締役社長 兼 CSO ヘレン・フォン・ライス氏。モデレーターはジャーナリストの治部れんげ氏がつとめ、スウェーデン大使館内アルフレッドノーベル講堂は熱心に聞き入る聴衆でほぼ満席となった。

パネルディスカッションの風景

このパネルディスカッションが実現したきっかけは2018年5月に遡る。仲井氏がスウェーデン出張の折、スマートシティ視察のためストックホルム市内を見学した際に驚いたという、スウェーデンではありふれた日常の風景だ。

「平日昼間の公園に、ベビーカーを押して歩く男性があふれている。」(仲井氏)

積水ハウスは同年9月、「男性の育休完全取得」を宣言。イクメン休業制度開始、イクメン白書発表など、男性の育児休業取得への積極的な取組で一躍脚光を浴びたが、同社における「男の育休」の原体験は、まさにスウェーデンにある。

巡回写真展『スウェーデンのパパたち』展示の様子

しかし一握りの"先進的"な企業の取組だけで、日本社会は変わらない。先日、小泉進次郎環境相が育休取得を宣言したが、このニュースには批判も相次いだ。

  • 新卒男性の8割が育児休業取得を希望している

  • 産後の妻の死因、第1位は産後うつによる自殺

  • 第1子での夫の育児時間が長いほど、第2子が生まれる

  • 2019年の出生数は86万人、初めて90万人を割り込んだ

  • 2060年までに、日本の人口は約4000万人減少する

既知の事実だろうか。本イベントでも、これらは各登壇者から指摘された。しかし2019年、日本で男性の育休取得率は6.16%だった。いまだに、パタハラのニュースが後をたたない。

日本の男性が育児休業を取得しない、できないのは、男性のための制度がないからではない。原則1年の育児休業取得や、休業開始時の賃金の67%(6か月経過後は50%)相当の給付など、日本の制度内容は実は世界的に見ても充実している。

スウェーデンも、パーフェクトなパラダイスではない

一方のスウェーデンでは、両親はあわせて480日間の育児休業を取得する権利がある。そのうち90日間は、両親のそれぞれ片方に割り当てられ、他方の親に譲れない。しかも、片方が取得しなければ、権利が消滅する。

シングルペアレントの場合は1人で480日取得できる。実子誕生はもちろん、養子を迎える場合も適用可能だ。

育休中の給付も手厚い。390日間は給与の80%、1日あたり最高946クローナ(116ドル相当)の給付が受けられ、残りの90日間は一律1日につき180クローナが支給されるという。

そんなスウェーデンでは、男性の育児休業取得率は9割以上。しかし、駐日スウェーデン大使ペールエリック・ヘーグベリ氏は、まだまだ課題があると指摘する。

「スウェーデンも、パーフェクトなパラダイスではない。父親と母親のどちらが取得してもよいとされる育児休業期間を、半々に取得している夫婦、およびパートナーは、25%に過ぎない」(ヘーグベリ氏)

冒頭に挨拶する駐日スウェーデン大使ペールエリック・ヘーグベリ氏

国が定める制度改定や保育所の整備はもちろん必要だが、育児休業中の給与の見直し、復職する女性への差別をなくす、戻ったときにちゃんと仕事があるとメッセージを出すこと、育児休業を時間単位で分割して取得できるようにするなど、従業員が育児休業を取得しやすくするため企業にできる打ち手は、まだまだ多く残されていることが議論された。

ミレニアル世代の人生観・結婚観は世界共通

1か月に1日「会社にきてはいけない日」を設け、生産性やワークライフバランス向上へのアプローチを積極的に行っているというイケア・ジャパン CEO ライス氏は、「マインドが変わってきた」と時代の変化に言及。

「パートナー選びはとても大切」と、夫婦で価値観を共有する重要性に言及するライス氏

ライス氏はイケア・ジャパンのCSO(チーフ・サステナビリティ・オフィサー)も兼務しており、人とコミュニケーション、サステナビリティに熱い情熱を傾けてきた。

「若い方にとって、報酬やキャリアだけではなく、子どもと一緒にいる価値はとても大きい。子育てだけではなく、健康や、大切な人とともに時間を過ごすことなどに、重きを置いている。人材開発や休暇制度は、若い人のマインドが変わってきていることを念頭に置いて行わなければ」(ライス氏)

ヘーグベリ氏も、同様の見解だ。スウェーデンでは、人口減少を背景に移民を積極的に受けている。ミレニアル世代に就労先の国として魅力を感じてもらうために、国策としてワークライフバランスにアプローチすることは極めて重要になるという。ストックホルムは、ユニコーン企業輩出都市としても有名だ。

「若い世代が、人生の意味をどこに見出しているのか。それを意識し、いかに働く人の生活スタイルを変えていくかは、イノベーションにもつながる」(ヘーグベリ氏)

ちなみに、同セッションのあと、イケア・ジャパンと積水ハウス両社から、育休取得した男性従業員によるパネルディスカッションもあったが、「何気ない日常から、家族の絆が生まれた」「いろんな人の気持ちがわかるようになった」と、自身の育休取得を"自然体"で振り返る。

治部氏は、「少し前に育休を取得した男性は、何かと戦っている感じだったが、とても自然体でママの話を聞いているみたい」とコメント。ミレニアル世代の人生観・結婚観は、多くの国で共通しているのではないだろうか。それも男女を共通して。

日本で「男の育休」を広げるために必要なこと

では、そんな時代の変化に対して、日本の企業はどう対応すべきか。積水ハウスでは、1か月の育児休業期間を、4回まで分割して取得することを認めている。人によってニーズは違う。「フレキシビリティが重要なのでは」と仲井氏。

業態や働き方に合わせた制度が必要だと話す仲井氏

積水ハウスでは、育児休業取得の対象者となった男性従業員には、まず面談を行って業務の棚卸しをする。休業中の業務の代理を、自部署はもちろん他部署も含めて検討するという。仲井氏は、隠れ介護(会社には言わないで親の介護をしている働き手が多数いる)問題にも言及し、イクメンから風土を変えていきたいと話した。

「育児休業を取得する前に、業務の棚卸しをすることで、会話が生まれる。有休消化や、介護との両立なども、その延長線上でやっていけるのでは」(仲井氏)

しかし冒頭でも触れたとおり、制度の周知だけでは男性の育児休業取得は広がらない。最大の壁は、世代間ギャップ。アンコンシャスバイアスを乗り越えることだ。

仲井氏の場合は、年の離れた弟から、育児の話を聞いていたことがヒントになった。「30代は、人生観、結婚観が違う。時代が変わってきている。」そのベースがあったからこそ、ストックホルム市内の公園で、平日昼間に育児をする男性を見たことが、気づきとなったのだ。

積水ハウスの役員会でも、当初は慎重論があったそうだが、「お孫さんの子育て」を話題にあげることで賛同を得やすくなったという。50代〜60代の反対派には、子・孫世代の話が効く。1つのTIPSになるかもしれない。仲井氏は「半年で定着する」と、半年間は辛抱だと訴えた。

子育てから「深い自己理解」、キャリアの糧に

男性の育児休業取得から、多様な働き方を選べる社会が実現して、労働力が増え、経済活性につながる。社会あるいは企業からみればそうだが、個人としてのメリットはなんだろう。

男性に限った話ではないが、子どもを持ち育てることで、時間、費用、体力、気力など、払うべきコストは少なくない。育児休業を取得して休むこと自体が、キャリアダウンにつながるリスクだと感じる人も、多いだろう。

ヘーグベリ氏は、第1子誕生時には9か月の育休を取得した経験を「あの期間がなければ、子どもとの関係性は変わっていただろう」と振り返りつつ、子どもを持ち育てるメリットをこう語った。

「子どもから学べることがたくさんある。子どもを通じて、自分をより深く知るきっかけにもなる」(ヘーグベリ氏)

深い自己理解は、激動の人生100年時代を生き抜くため、キャリアをシフトしていくために必要不可欠な無形資産だ。現在18才、16才の子を持つひとり父親であるヘーグベリ氏の言葉は、育児休業を取得することに不安を感じる日本の父親や母親への、非常に的を得た激励になるのではないだろうか。