ライドシェアとは | 世界中に普及するTNCサービス - 日本の現状は?

最終更新日: 公開日:

記事の情報は2020-04-21時点のものです。

乗用車の相乗り移動を意味するライドシェアは、カープールから進化したサービス、ビジネスとして進展したTNCサービスに分類することが可能です。Uberの日本進出で交通革新が起こるのか?世界的に普及したサービスが日本にもたらした現状を解説します。
ライドシェアとは | 世界中に普及するTNCサービス - 日本の現状は?

ライドシェアとは?

「ライドシェア」という言葉からどんなことを連想するでしょうか。日本にもUberが進出していることから「オンラインを活用した配車サービス」を思い浮かべる方が多いかもしれません。

しかし、ライドシェアを日本語に直訳すれば「相乗り」となり、同じ目的地、もしくは近い場所まで1台の乗用車に複数人数が同乗することを意味します。これはアメリカで一般的に行われている「カープール」であり、Uberなどがビジネスモデルとしている「TNC(Transportation Network Company)サービス」とは区別して捉えられています。

日本ではライドシェアという言葉の定義が曖昧になりがちであり、一部で混乱が生じる原因となっているようにも思えます。

まずはライドシェアとはなにかを定義する前に、カープールとTNCサービスがどのようなものかを解説していきます。

カープール

国土が広く、住宅が点在するアメリカでは公共交通機関が発達しにくく、必然的に通勤や通学、生活の移動手段としてクルマが必要不可欠。1世帯で複数台の乗用車を所有することも珍しくありません。

このため、通勤・通学時間帯の渋滞が深刻化すると同時に、環境への影響が懸念されるようになり「1台の乗用車に複数人数が同乗する」カープールを推奨することによって、走っているクルマの総数を減らす試みが行われるようになりました。

一般的には、出勤の際に近くに住む知人同士で相乗りすることが多く、その性格から「運転者と同乗者の利害が一致」した場合に、無償もしくは実費のみで行われるのが、カープールだといえます。

TNC(Transportation Network Company)サービス

旅先などで自家用車が使えないケースでは、多くの場合タクシーなどが利用されます。しかし、大都市などではともかく、少し郊外に出るとタクシーを捕まえることは容易ではなく、移動手段に苦慮することも。

これを解決するサービスがTNC(Transportation Network Company)であり、UberやLyftなどのマッチングソリューションが知られています。

具体的には、スマートフォンを介して登録されたドライバーとライダー(利用者)をマッチングし、乗車・決済までを行うサービスです。リソースを有効活用したい一般ドライバーと、タクシーよりも安価で利便性の高い移動手段を求める利用者、お互いの利害が一致したことにより爆発的に普及しています。

ライドシェアの定義

TNCサービスが普及したことにより、従来型のライドシェアであるカープールでもスマートフォンなどを介したマッチングが行われるようになってきました。TNCとカープールの境界は曖昧になってきているともいわれています。

本記事ではライドシェアの定義を「スマートフォンアプリやWebサイトを活用して、ドライバーと利用者をマッチングさせる」サービスとして解説していきます。

スタイルの異なる2つのライドシェア

カープールとTNCサービスの境界は曖昧になってきているとはいえ、ある意味では大前提になる動機がまったく異なり、ライドシェアを2つのスタイルに分けて考えることが必要です。

TNCサービス型

「Uber」や「Lyft」などがTNCサービス型ライドシェアの代表です。

登録されたドライバーとライダーのマッチングをスマートフォンアプリを介して行い、乗車・決済までを行うもので、TNCサービス事業者は仲介手数料によって収益を得るというビジネスモデルをとっています。

このことからもわかるように、TNCサービス型は事業としての側面が大きく「利用者が希望する場所へドライバーが送り届ける」ことが前提となっており、登録しているドライバーの目的も実費以上の「収益を得る」ことが主になります。

こうしたビジネスモデルを維持するため、ドライバーとライダーの双方がお互いを評価するシステムが装備されていることも特徴でしょう。

TNCサービス型に多い利用ケース

複数のクルマを所有する世帯が多いアメリカでは、タクシー代わりにTNCサービスが利用されるケースが多くなります。

つまり、旅先などで自家用車が使用できない場合や、飲酒後に移動する場合などであり、短距離での利用が多い傾向にあるといえるでしょう。このことから、TNCサービス型はタクシーやレンタカーと競合しがちです。

カープール型

一方、1台の乗用車に複数人が同乗するカープール型の代表は、ヨーロッパで普及が進んでいる「Bla Bla Car」です。

ドライバーと利用者のマッチングをスマートフォンアプリやWebサイトを介して行う点はTNCサービス型と同じですが「ドライバーの目的地と利用者の目的地」をマッチングさせる、という点でTNCサービスと大きく異なっています。

このことから、カープール型はソーシャルサービスの側面が大きく、登録しているドライバーは「ガソリン代などの実費」以外の利益を受取ることがありません。

国が陸続きになっているヨーロッパでも、鉄道などの公共交通機関がそれほど発達しておらず、これを補完するインフラとしての役割がライドシェアに期待されている、という側面もあります。

カープール型に多い利用ケース

多くの国が陸続きのヨーロッパでは移動が長距離に及ぶことが多く、必然的にカープール型は長距離バスや鉄道代わりに利用されるようになります。

また、目的地に加えて共通の趣味などをマッチングさせる場合も多く、共通のフェスティバルやコンサートに参加するときに活用されることもあるようです。

日本でのTNCサービス型ライドシェア

米国を中心に広まったTNCサービス型ライドシェアですが、日本での状況はどのようになっているのでしょうか。日本で行われているサービスを紹介しながら、現状と問題点を挙げていきます。

Uber(ウーバー)

Uberは、TNCサービス型ライドシェアサービスのパイオニアです。

日本では2014年からタクシーの配車を行う「Uber TAXI」「Uber TAXILUX」および、専属ハイヤーの配車を行う「Uber BLACK」サービスを東京で提供しています。

モバイルアプリを活用した配車・乗車・決済・評価という流れは共通しており、利便性を追求した移動を行うことが可能ですが、一般ドライバーとライダーをマッチングさせる「Uber X」サービスは現時点で実現していません。

みんなのUberが中止された過去

Uberの代名詞でもある、一般の人が一般の顧客を乗せるTNCサービス型ライドシェア「Uber X」は、日本では行われていないのが現状です。

2015年には福岡で、「みんなのUber」というUber Xに近いサービスが実験的に実行されたこともありましたが、行政指導により開始からわずか1か月で中止されてしまいました。

なぜこのような事態になってしまったのでしょうか。

ライドシェア普及を阻む法規制

日本では、「道路運送法」において「他人の需要に応じて、有償で、自動車を使用した旅客運送」を行うために「旅客自動車運送事業」の許可を取得しなければならないと定められています。

さらには、許可を持つ事業者の自動車以外の自家用車は旅客運送に使用できず、いわゆる「白タク」として禁止されています。みんなのUberは、この白タク行為にあたると判断されてしまったのです。

日本でのTNCサービス型ライドシェアがタクシーやハイヤーなどに限定されているのは、こうした法規制の壁が存在するため。Uberも中途半端な状態でサービスを行うしかないという状況です。

日本でのカープール型ライドシェア

それでは、カープール型ライドシェアは日本でどのような展開を見せているのでしょうか。日本で行われているカープール型ライドシェアサービスをいくつか紹介するとともに、普及の進捗度や課題についても解説します。

notteco

nottecoは、ドライバーと利用者の目的や趣味をマッチングさせ、クルマでの移動を楽しいものとすることを目的にした、カープール型のライドシェアサービスです。

Webサイトで登録したドライバーと利用者は、目的地や趣味を基準に最適な同乗相手を検索、ガソリン代や高速代などの実費をワリカンにすることでリーズナブルに移動できます。

純粋にマッチングのみを行っているためクレジットカードの登録は必要なく、支払いは当日現金で行うことが基本となっています。

nori-na

nori-naは、モバイルアプリも利用可能なカープール型の相乗りサービスです。

ドライバーと利用者は移動希望のルートと日時を登録、アプリがピックアップした候補者の中から、最適なドライバー/利用者を選べるという仕組み。ワリカンとなる実費の支払いも事前にアプリで完了できるため、当日は互いに気兼ねなく移動を楽しめます。

日本の国民性が普及の障害に?

TNCサービス型ライドシェアが法規制で普及しづらいなか、日本国内のライドシェアは実質カープール型に限られるのかもしれません。しかし、カープール型ライドシェアが日本で普及しているかというと、そうともいえない状況です。

一つには、ライドシェアという文化自体がなじみの薄いものだという日本の現状と、見知らぬ相手への警戒感があると思われます。もう一つには、自身の持つリソースを利益化するという考えが広まりづらいという、ある種「おもてなし」精神の根強さも考えられます。

収益確保が難しい

また、nottecoなどのカープール型ライドシェアマッチングサービスは、サービス仲介手数料0円で提供しています。道路運送法上、仲介手数料が有償になると移動サービスを斡旋しているとみなされ、規制の対象となってしまうためです。ここでも法規制の問題が出てくるのです。

つまり、現行法では免許などの許可・資格を持たない一般ドライバーと利用者をマッチングさせ利益を得るというビジネスモデルは成立しづらく、カープール型ライドシェアサービスを拡大するには、収益確保が大きな課題といえます。

規制緩和でライドシェアは活発化するか

世界的に広まるライドシェアサービスですが、日本では法規制のため実質「ライドシェア禁止」状態となっています。結果的に国際的な競争力低下につながっており、ソフトバンク孫社長も怒りのコメントを出すほど。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控え、外国人観光客の利便性を高めるためにもライドシェアの規制緩和が検討されてはいるものの、現実的な案は出ていません。今後の政府の対応、状況の変化を注視していく必要があるでしょう。