"人によるサービス"にこだわるWOW WORLDの「WEBCAS」‐20年以上選ばれ続ける理由に迫る


写真中央:美濃 和男 氏
株式会社WOW WORLD 代表取締役社長
写真左:髙波 香織 氏
株式会社WOW WORLD 営業1部長
写真右:玉田 優子 氏
株式会社WOW WORLD 開発部 エグゼクティブエキスパート(企画担当)
目次を閉じる
オンプレミスからクラウドへ。上場後の苦境を打開した一手
―――今年が設立30周年ということで、御社の変遷や「WEBCAS(ウェブキャス)」がうまれた背景についてお聞かせください。
美濃:弊社(旧:株式会社エイジア)の創業は1995年、Windows 95が登場したインターネット黎明期です。当初はホームページ制作会社でしたが、いずれは自社製品を開発してアジアから世界へ展開したいという思いがありました。ホームページ制作から受託開発へと事業を広げて、あるお客様向けにオーダーメイドで開発したメール配信システムが、主力製品「WEBCAS」誕生のきっかけです。そのシステムに機能を追加して汎用化し、2001年に「WEBCAS e-mail」として製品化しました。
2002年には、Webアンケート・フォーム作成システム「WEBCAS formulator」を開発しています。今でいう"ノーコード"でWebアンケートや各種フォームを作成するものですが、当時はほとんど競合がおらず、斬新なサービスとして注目されました。この2つの製品は市場で高く評価いただき弊社の成長をけん引しまして、その勢いを背景に東証マザーズ市場(現:東証グロース市場)に上場しました。
―――WEBCASの開発によって事業は順調だったんですね。
美濃:上場までは業績が良かったのですが、上場後は苦戦する日々が続きました。というのも、2006年にライブドアショックがあり、新興IT企業への風当たりがかなり強くなりました。そこに追い打ちをかけたのがリーマンショックです。
もともと「WEBCAS」は性能の高いオンプレミス製品として販売しており、受注1件で数百万円、カスタマイズを入れたら数千万円という金額帯でした。しかし、ライブドアショックとリーマンショックの影響で、数百万円~数千万円する製品はなかなか売れなくなりました。

―――上場してすぐに苦境に立たされてしまったのですね。どうやって乗り越えたのでしょうか?
美濃:この危機を乗り越えるために、2009年の頭にオンプレミスからクラウドサービスに一気に舵を切りました。当時はまだクラウドという言葉も世間に普及していないころでした。
当時、規模の大きい案件を何本か受注して成り立っていた弊社が、小額な案件を数多く受注するビジネスモデルに変化するのはなかなか大変でしたが、この決断が功を奏しました。その後は性能や専門性を高めるために、コミュニケーション系のチャネルに特化してラインナップを増やしていき、現在に至ります。
―――クラウドへシフトしたことが転換点だったんですね。しかし、御社は現在もオンプレミスでの提供を続けているんですよね?
美濃:はい。弊社はオンプレミスとクラウド、両方のラインナップがある珍しい会社となっています。
それが実現しているのは、この「WEBCAS」という名前の由来にも関係しています。「CAS」はコンポジット・アプリケーション・システムの略で、機能ごとの部品の組み合わせによって製品が構成されていることをあらわしています。オンプレミスのみの時代からこの構成で開発していたこともあり、大規模な作り直しをすることなく、比較的容易にクラウドに転換できました。
昨今はオンプレミス販売および保守を打ち切る業者が増えていますが、今でも「個人情報をクラウド環境に預けるわけにいかない」「セキュリティ要件が満たせない」という企業様は多くいらっしゃいます。オンプレミス市場が今後大きく伸びることはないかもしれませんが、当社はそのような企業様を支え続けるため、これからもオンプレミスの提供・保守は続けていく方針です。
クラウドなのに?カスタマイズを積極的に行う経営方針
―――次に「WEBCAS」シリーズについて、強みや特徴を教えてください。
髙波:大規模運用ができるように設計しているので、性能の高さには自信があります。メール配信システムでは大量・高速な配信が可能な点、アンケート作成システムについては規模の大きいプロジェクトにも適応している点、そしていずれのシステムにおいても複数人での同時作業が円滑におこなえる点などの性能が高く評価され「WEBCAS」を選んでいただくことが多いです。
また、クラウドサービスでありながら積極的にカスタマイズを行っている点も「WEBCAS」の強みです。クラウドサービスは通常カスタマイズできることが少ないと思いますが、弊社はお客様のご要望を叶えるために積極的にカスタマイズをご提案し、対応しています。お客様ごとに個別の環境を構築して専用の機能を入れたり、セキュアなデータ連携のために個別の構成を組んだりしてお客様の運用にフィットさせています。

―――クラウドサービスなのに積極的にカスタマイズ対応をされているんですね。
美濃:はい、これは経営方針で決めていることです。一般的に、弊社のようなクラウド事業者はカスタマイズを避けるのがセオリーです。面倒ですし、コストもかかるからです。しかし、弊社はもともとカスタマイズを前提としたオンプレミスを手がけていたので、カスタマイズ対応に慣れています。
「WEBCAS」は汎用型ソフトなので最大公約数的な考え方で企画・開発しています。汎用型ソフトは、だいたいどの企業にとっても求められる要素に対して8割フィットすれば合格とされます。それに対して弊社が個社ごとにカスタマイズでお応えしていていく場合、100点は無理でも98点ぐらいまでにすることができます。クラウドベースであれば、98点のものをオーダーメイドで作るよりも早く安く提供できるので、我々はそのご要望に積極的にお応えするようにしています。
これはクラウドネイティブの事業者にはなかなかできないことだと思います。しかし、我々にはそれができる体制と文化があります。弊社の強みのひとつです。
評判が集まる専任サポート体制の仕組み
―――BOXILに寄せられた口コミを見ると、御社はサポートへの評判も良いですよね。サポート体制についても詳しく教えてください。
髙波:個社ごとにカスタマイズして提供することが多いこともあり、弊社ではお客様一社ごとに、必ず専用の営業と技術メンバーがチームでサポートする形をとっています。
カスタマーサポートへのお問い合わせもご用意していますが、込み入ったお話は直接担当にご連絡いただき、「もうちょっとこうして欲しい」といった細かなご相談を常時受けられるようにしています。そういったサポート体制や提案の速さも、お客様に評価いただいている点かと思います。
―――どのタイミングから担当の方がつくのでしょうか?
髙波:お問い合わせをいただいた段階から、会社の規模に関わらず専任の営業担当がつきます。どのオプションを選べばいいかわからず困っている、といったご相談も直接お話しいただけます。
お客さまの環境を開発・管理する技術メンバーとは、データ連携のトラブルが起きた際に環境を調査したり、追加のカスタマイズやアップデートの際に技術的な提案を作成したりといった形で日々連携しています。
自社サーバーだから実現する高セキュリティ
―――競合他社とのコンペや他社からの乗り換えの際に、どういった点が評価されて選ばれますか?
髙波:選んでいただく要素として、先にお伝えしたカスタマイズやサポートのほかに、「セキュリティ」に関しても高く評価いただきます。たとえば、お客様のセキュリティポリシーが変更になり、クラウドサービスを見直した結果、利用中の既存サービスでは対応できなくなり、「WEBCAS」を使用していただくことになったケースがありました。
―――セキュリティにおける御社の強みは何でしょうか?

美濃:他社にない大きな特徴として、私たちはクラウドサーバーを自社で運用しています。クラウドサービスを提供する際、通常はAWSを代表とした外部サーバーを借りていることが多いですが、弊社はサーバーを自社で構築しています。データセンターの設備は借りていますが、設計から設置、運用まで自社で内製しています。
これによって、お客様からお預かりした個人情報を含む貴重なデータを、すべて国内サーバーに保存することが保証できます。外資系サーバーを利用しているような場合には、データの国内保存を100%保証することは困難です。
「情報がどこにあるかわからない状況を避けたい」「海外にデータが出るのは避けたい」というお客様には弊社の自社サーバー体制が完璧にお応えできます。そうしたことから、弊社では金融系や官公庁、自治体といったセキュリティにこだわられるお客様が多くいらっしゃいます。
メールが届かなかった人だけにSMSで再送も可能
―――「WEBCAS」シリーズの主な活用シーンや、よくある製品の組み合わせについて教えてください。
髙波:最初に販売した「WEBCAS e-mail」は、シェアの高い製品です。メルマガ配信や緊急告知、購買後のサンクスメールの自動送信などに使われています。 WebアンケートやWebフォームを作れる「WEBCAS formulator」では、お問い合わせフォームや顧客満足度調査などで利用されています。「WEBCAS e-mail」と「WEBCAS formulator」を組み合わせて使っていただいているお客様はかなり多いですね。
最近注力しているのはSMS配信システムの「WEBCAS SMS」です。弊社は類似製品の中で後発にはなりますが、「WEBCAS e-mail」と連携して、メールが届かなかったお客様にSMSで再送するといったことがワンクリックでできるようになっています。通数課金で配信にコストのかかるSMSは必要な場合のみに絞り、普段はメールでお知らせをするといった使い分けの提案もしています。

―――幅広いチャネルに対応されているので、できることも豊富ですね。これまでで印象的な導入事例はありますか?
髙波:印象的な事例ですと、クリスピー・クリーム・ドーナツ・ジャパン様で、アプリのダウンロードを促進するための告知メールを短期集中的に配信したいという内容でメール配信システム「WEBCAS e-mail」をご契約いただきました。契約開始当初、アプリが普及したのちにはメール配信は不要になると考えていましたが、実際に運用してみると「やはり複数のチャネルでお客様に連絡できた方が安心だ」ということになり、その後も弊社のメール配信のご利用を継続いただけています。
―――では次に、通常とは異なる使用例はありますか?
髙波:少し変わった使い方としては、ドン・キホーテなどを運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)様が、従業員向けのコンプライアンス研修ツールとしてアンケート作成システム「WEBCAS formulator」を利用されています。こちらは社内研修時の利用例などをご紹介しながら、運用開始までサポートしました。
同社では半年に一度、セキュリティに関する知識を読み物形式で学んでもらい、最後に四択の質問に答える、といったインタラクティブな研修をフォーム作成の各機能を活用して構築・実施されています。 弊社のクローズドフォーム機能を使えば、社員IDなどを入力することで回答状態がわかり、未回答者には再送することも可能です。店舗勤務でPCを普段使わない従業員の方でも、スマホで隙間時間に研修を受けられるよう、スマートフォンでも利用しやすいようになっています。
"人によるサービス"が高い付加価値を生む
―――直近で予定している新機能やバージョンアップなどはありますか?
玉田:まだ詳しくはお伝えできませんが、アンケート作成システムの「WEBCAS formulator」がより使いやすくなるように準備を進めています。弊社の製品はセキュリティやサポートに強みがある一方で、回答する方が楽しく回答できるような操作性やUI/UXが少し弱いと自覚しています。

そこで、今後はユーザーが回答しやすいようにフォームのデザイン性を強化していきます。 ユーザーが回答しやすいフォームにすることで、回答率向上を狙っています。あわせて用途拡大につながるようにブラッシュアップしていく予定です。
―――今後の市場での競争戦略について教えてください。
美濃:弊社が事業を行っている領域は競争が激しく、変化も速いうえに常に新規参入があります。新規参入してくる企業の多くは低価格戦略で臨んできますが、我々は価格競争をするつもりはありません。高い付加価値を提供することで戦っていきます。先ほど申し上げたカスタマイズやサポート、セキュリティといった強みに通じる部分でもありますが、弊社は"人によるサービス"を大切にしています。
たとえば、低価格戦略をとった場合はコストを徹底的に落とすため、サポートにあまり人手をかけられません。そうしたサービスでは契約後にわからないことがあっても電話サポートがなく、チャットで何往復もやり取りしてやっと解決する、というケースもあります。
しかし弊社は、カスタマーサポート全員が正社員かつ製品知識が豊富なので、電話一本で素早く正確に対応できます。弊社はこうした"人によるサービス"にこだわっています。これまでも、そこに価値を感じてお客様に選んでいただけることが多かったです。
「量から質へ」 WOW WORLDが目指すメッセージコミュニケーションの未来
―――御社が注目しているトレンドや最新技術はありますか?
美濃:個人的な意見ですが、「AIエージェント」に注目しています。AIエージェントとは目標実現に向けて自律的にタスクを実行するAIシステムのことです。
よく耳にする”生成AI”とこの”AIエージェント”の違いについて、弊社のメール配信システムで例えるならば、「○○なお客様に響くメールの文面を考えて」といって文章を作成してくれるのが生成AIです。対してAIエージェントは、「○○なお客様に響くコンテンツを作って、社内データベースから対象者を抽出し、最適なシステムを使って、最も効率的な方法で成果の上がるメッセージを送って」という指示で動いてくれます。
あたかも人間のように、さまざまなシステムを自ら選んで操作してくれるのがAIエージェントです。これが普及すると、たとえば他社システムと連携するためのAPI開発やデータ連携の在り方が大きく変化すると思います。
―――企業と消費者のメッセージコミュニケーションは、今後どのように変化していくとお考えでしょうか?
美濃:今後のコミュニケーション変化については、正直どうなるかわかりません。しかし、我々が目指すのは「量から質への転換」です。これまで弊社は、顧客データベースと連携し、顧客属性や購買データなどに基づき相手にとって最適化したOne to Oneメールを高速に生成し、それを高速に送りだせるシステムのベンダーとして勝負をしてきました。
しかし、その高速性能を今の2倍に高めても、顧客にとって不要なメールが増えるだけで世の中の役には立たないし、当社の売上も増えないと考えています。我々の直接のお客様は企業ですが、その企業がその先にいるお客様とのコミュニケーションの質を高めることができなければ我々の存在意義はないと思っています。
ですから、これまでの「とにかく数を打つ」という考え方から「このメッセージを送れば良い成果が出せるだろう」というものに厳選し、必要であれば数を減らしていく方向にも進みたいと考えています。それが、我々の考える今後のメッセージコミュニケーションのあり方です。

―――その目標に向けて、すでに取り組んでいることはありますか?
美濃:はい。2年前にオンラインリサーチのサービスを提供する会社が弊社グループに参画しました。彼らは「人間が意志をもって答えた情報」を蓄積しています。
一方で弊社のシステムに蓄積されるのは、お客様の年齢や購買履歴、サイト訪問履歴といった「事実データ」です。この事実データだけを分析して仮説を立てても、それがユーザーのすべてを語っているとは限りません。たとえば、ウェブページを見たといっても、たまたま間違ってクリックしただけかもしれません。
そこで、先述のグループ企業がもつ「人間の意志データ」と、弊社がもつ「事実データ」を組み合わせることで、より精度の高い仮説が立てられるようになります。そのアプローチで、コミュニケーションの質を高めていきたいと考えており、現在その企画を進めています。ぜひ楽しみにしていてください。
