小野和俊(左)
株式会社セゾン情報システムズ 常務取締役 CTO
株式会社アプレッソ 代表取締役社長
1976年生まれ。1999年慶應義塾大学環境情報学部卒業後、同年サン・マイクロシステムズ株式会社に入社。入社後まもなく米国 Sun Microsystems, Inc での開発を経験し、2000年より株式会社アプレッソ代表取締役に就任、データ連携ミドルウェア DataSpider を開発する。2002年には DataSpider が SOFTIC ソフトウェア・プロダクト・オブ・ザ・イヤーを受賞。2004年度未踏ソフトウェア創造事業 Galapagos プロジェクト共同開発者。2007年~2010年日経ソフトウェア巻頭連載「小野和俊のプログラマ独立独歩」執筆。2008年~2011年九州大学大学院「高度ICTリーダーシップ特論」非常勤講師。2013年よりセゾン情報システムズHULFT事業CTO、2014年より他事業部も含めたCTO、2015年より取締役 CTO、2016年より常務取締役 CTOを兼任。
吉田哲也(右)
株式会社アプレッソ 開発本部 本部長
1972年生まれ。2000年神戸大学大学院自然科学研究科修了。大学入学直後に出会ったWebのダイナミズムに衝撃を受け、ソフトウェアの世界に身を投じることを決める。大学の研究では今日のWebサービスに当たるシステムを研究、プロトタイプを開発。卒業後はサン・マイクロシステムズ株式会社において学術機関向けのコンサルティングに携わる傍ら、XMLのエキスパートとして各種執筆活動と講演を行なう。2001年アプレッソに入社し、2007年より現職。
簡単にデータ連携を実現させる「DataSpider」
―――――貴社ではEAIツール(Enterprise Application Integration:異なるシステムを連結しデータやプロセスを統合するツール)として2000年からオンプレミスの「DataSpider」、2017年1月からクラウドの「DataSpider Cloud」を提供されています。まず2000年にオンプレミスの「DataSpider」を開発された背景はいかがでしょうか?
私(小野氏)はもともと大学の時に野村総研でアルバイトをしていて、システムの企画や設計、運用、実装を担当していたのですが、野村総研にはリサーチャーやアナリストの方が多いので、自身が担当しているテーマやアカウントに関するニュースや政府発行の白書などが出れば押さえておきたいということで、朝出社したら皆でチェックするといった業務がありました。
それを自動化したいというニーズがありましたので、私は情報を引っ張ってきて自動的にパーソナライズされたページが作られる仕組みを構築したのですが、その時に接続先によって文字コードやフォーマット、プロトコルに大きな違いがあって、データ連携という分野に対して問題意識を持つようになりました。
その後、サン・マイクロシステムズに入社して米国で仕事をするようになりまして、米国のシリコンバレーは5年進んでいると言われているのでもっとスマートな解決策があると思っていたのですがありませんでした。一応EAIツールはありましたが、設定という名の作業が多くて実際には開発と言っていいほど大変なものでしたね。
これをより直感的にドラッグ&ドロップで連携の処理ができるような環境を作れたら良いなと思っていて、世の中になければ作ってしまおうということで「DataSpider」を開発しました。例えば14,000のステップのプログラムコードをわずか13個のアイコンを並べて繋ぐだけでデータ連携を実現できたりします。
【出所】セゾン情報システムズ/アプレッソ提供
―――――ドラッグ&ドロップと言えば、SaaS業界のトレンドとして現場にとっての使いやすさを磨き込むことで、現場主導で導入が進むということがあります。貴社の場合は2000年の時点から既に意識されていたということですね。
そうですね、とはいえ完全なプロフェッショナル向けを10、完全なアマチュア向けを1とすると、データ連携の場合は絶対に1になりません。データベースのこのテーブル、ブランクという言葉を使った時点でデータベースのことを知らない人には使えません。このように1はいずれにせよ実現できませんが、例えば10のものを4にするなど、できる限り使いやすいようにすることはできます。この発想で開発を進めてきました。
仰る通り最近ではシチズンディベロッパ―やシチズンインテグレーターという言葉も出てきていますし、ノンプロフェッショナルな方でも開発できたり使えたりするような時代になってきていますので、そういう意味ではすごく時代にフィットしているのではと感じていますね。
例えば創業から30年以上の歴史の長い製造業の会社さんで、社長が自らSalesforceと奉行シリーズを自動的に同期するために「DataSpider」を活用して連携処理を定義した事例があります。社長も理工学部や情報学部を出ているわけでもなく、HTMLを少し書いたことがあるといった程度ですが連携させることができたようです。
―――――簡単にデータ連携ができるツールを開発する手段として「ペルソナ/シナリオ法」を採用していると伺いました。
そうですね、12~3年前から採用しています。神尾みかさんという、入社2年目の文系の人で、Microsoft Officeは使いこなしているものの、プログラミングは勉強し始めた程度という方をペルソナで想定していて、UI/UXの作り込みにおける目線合わせをしています。例えば誰かがこのコマンドは誰でも打てますよと発言すると、あなたは打てても神尾みかさんは打てると思う?といった具合に水準化を客観化させることができます。ユーザーのスキル設定の部分で変な議論にならないように工夫しています。
オンプレ版とクラウド版を状況に応じて使い分ける
―――――「DataSpider」はテラスカイさんと連携して2017年1月からクラウドとしても提供されています。現状、テラスカイさんではオンプレミスが2割で、クラウドが8割の比率と伺いましたが、やはり今後はクラウドが中心になっていくのでしょうか?
テラスカイさんの場合はもともとクラウドインテグレーターですので必然的にクラウドファーストになっていて、どうしても要件が合わないときにオンプレミスという流れのようです。弊社の場合は最近でもオンプレミスが中心ですが、とはいえクラウドの案件は増えてきていますので、世の中の流れとしてはクラウド化が進んでいくのだと思っています。
このような背景で、クラウドとの連携やクラウド上での連携といった面では弊社の製品が一番進んでいるというポジションは結構重要だと思っていますので、クラウド時代の連携というのは意識して戦略を立てていますね。
―――――クラウドのメリットとして拡張性があること、データを分散して保有することができること、そのためサイバー攻撃を受けた際にルーティングを切り替えるといった対策が打てるためセキュリティレベルが向上することなどがあげられますが、反対にオンプレミスならではのメリットはどのような点でしょうか?
社内のデータソース同士を連携する時には連携の部分だけをクラウド化して社内のデータを一度クラウド上に流入させるということは、セキュリティの観点からも効率の観点からもコストの観点からも良くないのであり得ません。
一方で、連携先がクラウドとクラウドの場合にはできればクラウドにすべきです。要は連携させたいというお客様のデータソースがどこにあるのかといった点が最初の分岐点で、クラウドにある場合はもちろんクラウドの方が良いですし、オンプレミスで固めている場合にはオンプレミスの方が良いということになります。例えばサイボウズさんのkintoneをお使いのお客様はクラウドで連携させたいという意思が強いですね。
「HULFT」と「DataSpider」を併せ持つシナジー
―――――セゾン情報システムズの主力製品としてファイル転送ミドルウェアの「HULFT」、アプレッソの主力製品としてデータ連携ツールの「DataSpider」を提供されていますが、具体的にどのようなすみ分けになるのでしょうか?
「HULFT」はファイル転送ミドルウェアですので、転送するためのファイルを作る必要があります。ではそのファイルをどのように作るかというと、社内に存在する様々なシステムから持ってくるのですが、そこで「DataSpider」を使います。
例えばクラウドから持ってきたデータのIDに紐づいて、社内のデータベースから関連するデータを持ってきて、マージしてファイルを作るといった部分はまさに「DataSpider」の領域で、こうして作成されたファイルを「HULFT」に渡して転送します。
ファイルが届いた後も、例えば何列目のこのデータはERPに反映させる、何列目のデータをEDIで別の会社さんに送る、何列目のデータはバックアップデータを取っておくなど、こういった部分も「DataSpider」の領域です。つまり、ファイル転送の前後の諸々の連携処理を「DataSpider」が担うことできれいに繋がります。
―――――販売基盤の点でもシナジーがあるのでしょうか?
「HULFT」の国内シェアは約80%で、例えば銀行業界では全国銀行協会加盟行の100%、自動車業界でも日本自動車工業会会員企業の100%に導入されていて、日本の企業におけるファイル転送は基本的に「HULFT」で行われている状況です。
というのも、「HULFT」はものすごくバグが少なくて、絶対に失敗してはいけないファイル転送を20年以上続けてきていますので実績と信頼があるからです。このシェアや実績、信頼は「DataSpider」から見ても大きな強みになっています。
―――――海外展開についてはいかがでしょうか?
今は中国の北京・上海、シンガポール、北米のシリコンバレー近くのサンマテオに拠点を置いて「HULFT」と「DataSpider」を展開しています。例えば中国では現地の銀行に採用されています。
「HULFT」と「DataSpider」はほとんど一緒に展開しているのですが、HULFT事業全体としてはアジアのファイル転送量の46%が「HULFT」になっているなど、海外展開はとても進んでいます。とはいえ、日本では80%のシェアがありますので、アジアでもまだまだこれからとは思っています。
※1 出典:IDC, Oct 2014, "Worldwide Managed File Transfer Software 2013 Vendor Shares”
※2 出典:株式会社富士キメラ総研「2004-2010 パッケージビジネスソリューションマーケティング便覧」「ソフトウェアビジネス新市場 2011-2014年度版」〈パッケージ・金額ベース〉
【出所】セゾン情報システムズ/アプレッソ提供
―――――海外展開にあたってはローカライズが求められますが、「HULFT」と「DataSpider」でもローカライズをしているのでしょうか?あるいはグローバルで共通の機能でしょうか?
海外展開に向けてはインターナショナライズしていて、その上でローカライズもしています。例えば中国ではこのような機能が必要、北米ではこのような機能を追加すべきなど現地の要望はありますので、そこはローカライズということで現地専用の機能を開発しています。
ですが、それをずっと続けてしまうとインターナショナライズ版とローカライズ版のダブルメンテナンスになってしまいますので、安定してきたらタイミングを見てインターナショナライズ版の方に取り込んでいくようにしています。
ハイブリッドクラウド化を支援する
―――――世の中の流れがオンプレからクラウドへと向かっている中で、データの連携対象もクラウドが増えてきているのでしょうか?
そうですね、テラスカイさんがもともとSalesforceを専門にしていたこともありますが、やはりクラウドサービスの中でもSalesforceがはじめに普及しましたのでSalesforce連携が多くなっています。
勢いのあるクラウドサービスへの連携が多くなりますので、AWSの勢いがぐっと強まってからはAWSアダプターの出荷数が目に見えて増えましたし、kintoneも立ち上がりの時には出荷数は多くありませんでしたがある時から急に出始めました。
―――――「DataSpider」のクラウド版として注力していく点はいかがでしょうか?
バージョンアップの頻度を年4回に増やす予定です。やはりクラウドのメリットの1つは手軽にアップデートできる点ですので、このメリットを活かしてお客様のニーズに応えていきたいと思っています。クラウドもリリースしたばかりですので、お客様からのご要望も多くいただいていて、まずはそこに対応していきます。
また、弊社では「Thunderbus」という製品も展開しています。こちらはクラウドからオンプレミスへのデータ連携を実現するツールで、クラウドの方で更新をしてもオンプレミスは通常ファイアウォールに守られているので特別なVPNや専用線を用意しないと連携されないのですが、「Thunderbus」を使えば簡単に連携できるようになります。Fromオンプレミスtoクラウドは比較的簡単にできるのですが、Fromクラウドtoオンプレミスの場合はネットワークの設定など工夫をしなければいけない点が多くて、これをソフトウェアだけで解決できてしまうことは大きな価値です。
クラウドサービスを利用しているお客様にはオンプレミスを同時に使いたいというハイブリッドクラウドニーズがあり、クラウドベンダーにとってもハイブリッドクラウドニーズに応えられなければ導入が進まないといったケースもありますので、ユーザーからもベンダーからも「Thunderbus」が求められています。
弊社ではオンプレミスの「DataSpider Servista」、クラウドの「DataSpider Cloud」、クラウドからオンプレミスへのデータ連携を実現する「Thunderbus」を持っていることで、ハイブリッドクラウドなど様々な形態でのデータ連携に対応可能ですので、この強みを活かしていきたいと思っています。
―――――ハイブリッドクラウドはクラウド業界において1つのテーマになっていますが、具体的にどのようにクラウドとオンプレミスの使い分けがなされているのでしょうか?
例えばデータのストレージやアプリケーションの開発はクラウドで行いたいけど、手元でスピーディに打ち込みたい部分ではオンプレミスで行いたいといった話はよくあります。そこに対してはオンプレミスで一気に打ち込んだデータをクラウドに反映させておくために「DataSpider」をご利用いただいています。
データ連携を起点にサービスを拡大
―――――業務フロー可視化ツール「DataSpider BPM」も展開されていますが、こちらはどのようなツールでしょうか?
業務フローにおいては、例えば承認にあたって金額の正しさを確認するなど必ず基幹システムと連携が必要なタイミングがあって、通常のBPM(Business Process Management)製品の場合、連携の部分はお客様の方で組んでくださいといった流れになるのですが、弊社では「DataSpider」がありますのでその連携の部分まで担保することが可能です。
逆もまた然りで、データ連携にあたっても重要なデータを投入してマスターデータを更新する場合には承認が必要となるケースが多くて、これを「DataSpider」の視点から見ると作り込んでくださいということになってしまいますが「DataSpider BPM」があれば作り込みをお願いする必要もなくなります。ですので、「DataSpider」と「DataSpider BPM」は相互補完の関係にあります。
【出所】セゾン情報システムズ/アプレッソ提供
―――――スケジュール・ToDoの同期ツール「PiMSYNC」も展開されていますが、こちらはどのようなツールでしょうか?
「PiMSYNC」は以前マイクロソフトさんと話をしていた時に、マイクロソフトさんにはカレンダーのようなツールが複数あって、ツール同士の連携が大変で二度打ちやダブルブッキングでお客様が困っているという話があり、これはデータ連携ですねということで「PiMSYNC」を開発してご支援しました。
とはいえ、グループウェアを2つ導入する会社はあまり多くありませんので、実際にはグループウェアとSFAのスケジュール・ToDoを同期させるケースが中心です。例えばグループウェアはOffice 365でSFAはSalesforceというケースが多くあります。
その他にはM&Aの場合に、買収企業と被買収企業で異なるグループウェアを利用している場合に、買収後もそのままとする場合には「PiMSYNC」で連携することがあります。我々もセゾン情報システムズとアプレッソでカレンダーツールが違うので、「PiMSYNC」で同期させています。
IoT時代のサイバー空間のロジスティクスベンダーを目指す
―――――データ連携という観点では今後特にIoTも重要なテーマになりますが、貴社ではどのようにIoTに対応していますか?
IoT対応だと2つの動きがありまして、1つは「HULFT IoT」によってセンサーから集まってくるデータをいかに確実にクラウドや自社サーバーに転送するかといった、「HULFT」の確実性をIoTの世界に持ち込むような動きです。
ちょっとしたサンプリングデータなど、多少誤差があっても問題がないような場合には必要ありませんが、例えばセンサーから収集したデータによって課金額が変動する、製造業において全量検査をする、あるいは防犯で犯人の車両データを送るなど失敗が許されない場合には「HULFT」の確実性が求められます。
もう1つは、センサーからデータを収集してくる部分は例えばAWSやMicrosoft Azureなど別の手段を活用して、蓄積したデータを連携する際に「DataSpider」を利用していただくといった動きです。センサーからデータを収集してくる部分から、あるいはデータを連携する部分だけといった複数のニーズに対応できるようにしています。
―――――マルチクラウド化やハイブリッドクラウド化、IoTの動きが進んでいる今の時代においてはセゾン情報システムズとして「HULFT」、アプレッソとして「DataSpider」を展開していることは大きな強みだと感じました。今後、これらデータ連携ツールで目指している世界観についてはいかがでしょうか?
やはりIoTも含めてものすごく多様なものが相互に繋がる時代ですので、この繋ぐという部分については無意識に繋がっているという世界を実現したいと思っています。我々はサイバー空間のロジスティクスベンダーと言っているのですが、デジタルなデータの流通に関しては何も気にしなくても確実に流れるようにして、ちゃんと流れているかなと心配する必要がないようにしたいと考えています。
リアルのロジスティクスで言えば、日本ではヤマト運輸さんや佐川急便さんはとても安心感がありますよね。一方、例えば東南アジアですと盗難にあうなど不安はあります。デジタルのロジスティクスにおいても途中で届かないといったことがよくあるのですが、こういうことのない、安心して任せられるというサイバー空間のロジスティクスベンダーを目指しています。
SaaS業界レポート著者の視点
SaaS業界ではユーザーにとっての付加価値を高めるために、自社で価値を生み出すだけでなく他社と連携をして価値を練り上げる動きが活発化しています。つまり、ベンダー同士が連携してエコシステムを構築することで付加価値を高めるSaaS 3.0の時代へ突入したということです。
セゾン情報システムズ/アプレッソではSaaS 3.0時代におけるデータ連携をより簡易に、より高度に、より広範にするためのコネクターとして「DataSpider」を提供しています。「DataSpider」によってプログラミング不要のデータ連携、複数のデータベースから抽出・統合して上でのデータ連携、クラウドやオンプレなど多様なデータ連携が実現します。
クラウドサービスの連携という意味では、海外ではアクションの連携ツールとしてZapier, Usermind, IFTTTなどのツールも登場しています。SaaS 3.0の流れにおいて、DataSpiderのようなデータ連携ツール、ZapierやUsermindのようなアクション連携ツールの需要は益々高まっていくことが想定され、今後注目の領域です。