ムーアの法則とは | 限界とその理由 - 収穫加速の法則も徹底解説

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記事の情報は2020-04-21時点のものです。

ムーアの法則とは、半導体のトランジスタ集積率は18か月で2倍になるという法則です。インテル創業者のひとり「ゴードン・ムーア」が提唱しました。しかしムーアの法則は近年、限界説が唱えられています。本記事ではムーアの法則の概要や、限界を指摘される理由、将来性について解説します。
ムーアの法則とは | 限界とその理由 - 収穫加速の法則も徹底解説

ムーアの法則とは

ムーアの法則とは、半導体のトランジスタ集積率が18か月で2倍になるという法則です。半導体のトランジスタ集積率は、簡単に言えばコンピュータの性能です。18か月あれば、おおよそ倍の性能にできるということです。インテル創業者のひとり、ゴードン・ムーアの論文が元になっています。

ムーアの法則の公式

「18か月でトランジスタ集積率が2倍になる」はいいかえれば、1.5年で集積回路上のトランジスタ数が2倍になるということです。

これを、n年後のトランジスタ倍率=pとすると、公式は以下のとおりです。

公式に当てはめると、指数関数的に倍率が増加するとわかります。数年後の状況を計算すると、おおよそこのような倍率になります。

時間 倍率
2年後 2.52倍
5年後 10.08倍
10年後 101.6倍
20年後 10,321.3倍

この法則によると、20年後は現在の約10,000倍、性能が発展していると考えられます。

ムーアの法則の影響

ひとつには「性能向上」があげられます。コンピューターにとって、トランジスタが2倍になることは、処理能力が2倍になることを意味しているからです。

もうひとつは「コスト」です。ムーアの法則は、「同じ面積の集積回路上に、2倍のトランジスタを実装できる」ともいえます。同じ性能なら半分の面積で作成できるので、コストは半分になります。

ムーアの法則は、半導体に関わる企業にとって、無視できない法則です。なぜなら、半導体の性能・コストに基づいた経営戦略が必要だからです。


ムーアの法則のように難しい単語を、下の記事で紹介しています。本記事のようにわかりやすく解説しています。

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ムーアの法則の現状と限界

ムーアの法則は1965年に提唱されてから、すでに50年以上経過しています。その間、半導体の集積率はほぼ法則どおりに進化してきました。

しかし近年、性能改善のスピードにも陰りが見られるようになりました。ムーアの法則に従えない、物理的な限界が近づいている、などと指摘する人が現れています。

ムーアの法則の限界

現在の半導体製造プロセスは10nm(1nm=10億分の1メートル)に移行しています。いわゆるナノテクノロジーと呼ばれる技術が使われています。

ナノテクノロジーを使うということは原子サイズまで微細化されることを意味します。原子レベルに到達したことから物理的な限界が近いと推定されています。

今後もムーアの法則に従うためには、以下の問題もクリアしなくてはなりません。

  • 微細化に起因するトランジスタ特性のバラツキ
  • リーク電流による電力消費
  • 現時点でも継続して対応を迫られている問題

これらを解決する技術の発展速度は、ムーアの法則に追いつけないとも考えられています。

見方の分かれる現状

ゴードン・ムーア自身が「ムーアの法則は長くは続かないだろう」と、2005年4月のインタビューで発言しています。

インテルの上級副社長ステイシー・スミス氏が2017年4月に語ったところでは、「ムーアの法則は健在で、さらに大きなステップを踏み出している」と自信を見せています。

直後の5月には大手半導体企業NVIDIAのCEO、ジェン・スン・フアン氏が「ムーアの法則は終わった」と語っており、現状認識に関しては意見が割れているといえます。

ムーアの法則を継承する収穫加速の法則

このように、集積回路の進化が物理的・技術的な限界点を迎えつつある中、「テクノロジーの進化は技術革新を含めて指数関数的に成長を続ける」という収穫加速の法則が提唱され、ムーアの法則を継承するものとして注目を集めるようになっています。

収穫加速の法則とは

収穫加速の法則とは、広義に「進化の速度は本質的に加速度を増していく」というもので、アメリカの発明家・未来学者、レイ・カーツワイルの自著で提唱されている法則です。

収穫加速の法則は、生命の進化も含んだ広義の意味を持つ法則ですが、テクノロジーの分野では「新たな技術が生み出す産物は、次の新たな技術のために使われ、産物に成果を重ねることで、指数関数的に進化する」と捉えられています。

言いかえれば「技術革新による新たな技術が、次世代の技術革新をもたらすまでの時間間隔は、時の経過とともに短くなる」ということを意味しており、半導体の進化のみを表すムーアの法則を、より広義なテクノロジーという観点で捉え直したといえるかもしれません。

集積回路が発展を続ける可能性

カーツワイルは、ムーアの法則による半導体の進化が限界点に近づく中、三次元分子回路という技術革新を迎えることによって、コンピューターの性能としての指数関数的進化は続くと予想しています。

しかし、数値化された人間の脳の能力をスーパーコンピューターが追い越している現在でも、半導体製造の技術的進化によって、それが手の届く範囲にコストダウンされるであろう2020年頃まで発展を続けるとも予想しています。

テクノロジーの進化に対応するには

パーソナルコンピューターの黎明期から進化を見届けてきた方は、ムーアの法則が実感できるものとして捉えられるかもしれませんし、ムーアの法則が限界を迎えつつあることも実感できるものかもしれません。

また、インターネットの普及により、流通を含む従来の価値観の崩壊と再構築を人々が体験している現在では、収穫加速の法則も実感できるものかもしれません。

普遍的な事象が存在しないともいえる現代では、価値観の変化に対応できる柔軟性が何よりも重要になってくるのかもしれません。