国家戦略特区とは | 目的・取り組みを地域・分野ごとに解説

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記事の情報は2020-04-08時点のものです。

国家戦略特区とは、規制緩和や税制優遇で民間投資を促し、経済活動を促進させていく目的を持つ経済特別区域構想です。その地域を限定した取り組みを解説していきます。
国家戦略特区とは | 目的・取り組みを地域・分野ごとに解説

国家戦略特区とは

国家戦略特区とは、アベノミクスで掲げられた成長戦略の中核となる取り組みのことで、地域を限定した規制緩和/税制優遇で民間投資を促し、経済の活性化を目指す経済特別区域構想です。
2013年12月に国家戦略特別区域法が成立し、医療・雇用・教育など6分野の特区設置が認められました。

以後、2014年5月1日に指定された

  • 東京圏(東京・神奈川・千葉)
  • 関西圏(大阪・京都・兵庫)
  • 沖縄県
  • 新潟県新潟市
  • 兵庫県養父市
  • 福岡県福岡市

を皮切りに、次の地域も順次国家戦略特区に指定されました。

  • 秋田県仙北市
  • 宮城県仙台市
  • 愛知県
  • 広島県
  • 愛媛県今治市
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東京圏での国家戦略特区の取り組み

東京都、神奈川県、千葉県千葉市と成田市からなる東京圏国家戦略特区は、次の目的のため国家戦略特区として指定されています。

  • ビジネスのしやすい環境整備して世界中から資金・人材・企業が集中する国際ビジネス拠点の形成
  • 創薬分野などにおける起業・イノベーションを通じ国際的に競争力を持つ新事業の創出

そして、これらの目的を達成するためにさまざまな取り組みが行われています。

都市再生

東京都心各駅の整備を含めた「交通網の強化」および「国際ビジネス拠点の整備」、「道路占有許可の規制緩和」による都内の道路を使用したイベントなどが東京都で進行中です。

また、千葉市では幕張メッセ周辺の道路をコンベンション開催と連動したイベントに使用しています。

医療

二国間協定により、医療行為に制限があった外国医師の規制を特区内で緩和する特例や、医薬品、病院の開設・増床に関する規制緩和も東京圏の特例として認められています。また、千葉市では粒子線治療の研修にかかわる在留期間の規制緩和を、成田市では国際医療福祉大学が医学部を新設することを決定しています。

女性の活躍推進

女性が社会で活躍できる環境を整えるため、東京都では都市公園内に保育所などの設置を可能とする都市公園法が制定されました。これは荒川区・世田谷区・品川区などで施行されています。また、特区内において家事支援サービスのための外国人の入国・在留を可能とする特例も実施されています。

雇用・創業

東京開業ワンストップセンター/東京圏雇用労働相談センターの設置や、日本での創業計画を持つ外国人に対する規制緩和である創業人材受入促進事業の創業などが実施されています。また神奈川県では、横浜市と川崎市の共同で、健康・未病産業と最先端医療産業の創出による経済成長プランを計画しています。

観光

旅館業法により、1か月未満の宿泊施設ではフロント設置などの義務が生じますが、特区内の認定を受ける事業者にはこの適用を除外した民泊を可能としています。
東京都では大田区が2015年末に条例を制定したことに続き、幕張新都心内でもマンションを活用した民泊を計画しています。

自動走行

2020年東京オリンピック・パラリンピックを見据え、羽田空港周辺での自動走行技術を活用した実証実験「サンドボックス」特区制度の構築を計画しているほか、千葉市でのドローンによる宅配サービス・セキュリティ計画、自律走行ロボット実証実験・パーソナルモビリティ試乗体験が行われています。

その他の地域での国家戦略特区の取り組み

東京圏以外の国家戦略特区についても、指定された目的は東京圏と同様ですが、取り組みについては特区独自の事情を反映して行われている物もあります。

次では、東京圏以外の国家戦略特区での取り組みを紹介します。

福岡市・愛知県「都市再生」に向けた整備

福岡市では、地区計画の検討・承認を迅速に進めるため、航空法の制限による高さ制限の規制緩和を通知が行われています。

愛知県では、地方道路公社が公社管理の有料道路運営を民間事業者に委託することを可能とする特区法が制定されました。

福岡市・仙台市「創業」のための人材確保・育成へ向けて

福岡市では、人材流動化センターを設置、労働市場での流動性とスタートアップ起業への優秀な人材確保を援助する特区法が制定されました。

仙台市では、NPO特定非営利活動法人の設立を促進するため、手続きを大幅に迅速化する特区法が制定されました。

福岡市クールジャパンに関わる「外国人材」の活動推進のため

東京圏と同様、福岡市でも日本での創業計画を持つ外国人に対する規制緩和である創業人材受入促進事業に関する特区法が制定されました。また、クリエイターや和食料理人など、クールジャパンに関わる外国人の活動を促進するための特区法も成立しました。

兵庫県・秋田県「観光」促進のための一手

兵庫県養父市では、歴史的建築物への旅館業法適用除外することで観光事業を促進する特例が制定されました。
秋田県仙北市では、旅行業務取扱管理者試験の一部免除により、農家民泊事業者などに対する規制緩和を行う特例がされました。

大阪・京都府「医療」活性化の手段として

大阪・京都府では、東京圏と同様、条件付き医薬品を適用外しようする際の評価迅速化を狙う保険外併用療養の拡充の通知が行われています。

京都府では、医薬品の研究開発などの国際競争力を高めるため、血液を使用したiPS細胞から試験用細胞の製造を可能とする特区法が制定されました。

北九州市「介護」におけるロボット活用

北九州市では、ユニット型指定介護老人福祉施設施設基準に関する特例を制定したことにより、2016年10月下旬より、選定された対象2施設においての介護ロボット実証実験を実施しました。

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神奈川県・成田市・大阪府・沖縄県・仙台市「保育士不足解消」

神奈川県・成田市・大阪府・沖縄県・仙台市では、保育士不足解消に向け、3年間該当区域のみで通用する保育士資格を付与するため、地域限定保育士試験を通常の試験に追加して実施する特例が制定されました。

北九州市「雇用」促進のために

北九州市では、50歳以上の就職支援を重点的に行う職業相談窓口シニア・ハローワークの設置を可能とする通達が行われています。

福岡市では、雇用条件明確化のため雇用労働相談センターを設置する特例法が制定されました。

愛知県「教育」制度の拡充

愛知県では、個性に応じた教育などの実施に向け、教育委員会の関与を前提とした公立学校の運営を民間に開放する特区法が制定されました。

愛媛県今治市では、獣医学部の設置認可を一校に限り行う特例の告示が行われています。

新潟市・兵庫県養父市「農林水産業」

新潟市では、農業従事者が自身の生産する農産物を材料とする場合、それを提供する農家レストランを農用地区域内に設置できる省令が制定されました。

兵庫県養父市では、農業委員会の農地権利移動許可関係事務を、市町村が行うことを可能とする特区法が制定されました。

秋田県仙北市「近未来技術」の確立へ

秋田県仙北市では、電波を使用した実験を促進させるため、特定実験試験局制度を円滑に調整、免許の申請から発給まで原則即日という短縮化を実現させる通達が行われています。

経済活動を促進させる動き

国家戦略特区ではさまざまな取り組みが行われ、実際のプロジェクトも動き出していますが、グローバル企業や起業者の受け入れ、それに伴う都市開発は特に経済活動を促進させる効果を持っているといえるでしょう。それには以下のようなプロジェクトがあります。

容積率・都市計画ワンストップ

競争力のある国際都市形成のために、開発・再生事業計画の認可などをワンストップ化を、コンベンション施設などの迅速な整備のために行っています。また、建築基準法上の大臣承認の廃止することによって、グローバル起業などのオフィスに隣接する住宅整備のための容積率の緩和などを実現しています。

開業ワンストップ

外国人を含む、起業・開業に伴う登記・税務・年金・定款認証などの各種申請窓口を一本化し、創業に関する相談を含めた総合的な支援を実施しています。

創業外国人材受入

外国籍の人材が日本において創業の意志を持つ場合、地方自治体の審査を要件に、経営・管理の在留資格基準の緩和を実施しています。

国家戦略特区の取り組みを経済活性化につなげる

経済特区として規制緩和や税制優遇を行う実験的な試みは、日本だけでなく、世界的に行われています。国が主導する公共事業など、従来からの景気刺激策が効果を発揮しなくなっている現在、さまざまなプロジェクトをスピーディーに進めることができるのは国家戦略特区の大きなメリットといえます。

特に、国際ビジネス拠点の形成を目的とした都市再生計画は、資金・人材・企業を世界から集中させるという意味で、日本経済を活性化させ、世界的な競争力を持たせるために非常に重要です。

また、取り組んでいるプロジェクトが成功した場合、特区法として認可された規制緩和などがどのように成功に作用したのかを分析・精査し、より幅広い範囲で適用を広げていくなど、国としての柔軟な法整備が期待されます。