シックス・シグマとは | 統計学に基づいた品質管理法を解説!

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記事の情報は2020-02-20時点のものです。

モトローラが開発し、主に製造業を中心に広がってきた品質管理フレームワークであるシックス・シグマについて、基本的なプロセスの説明から導入のメリットについて解説していきます。
シックス・シグマとは | 統計学に基づいた品質管理法を解説!

シックス・シグマとは

シックス・シグマとは、1980年代後半にアメリカの電子・通信機器メーカーであるモトローラが開発した品質管理フレームワークです。
自社製品の品質と、日本企業における品質のレベル差の原因を追究することにより体系化された手法として知られています。

後にGE(General Electric)社の伝説的な経営者として知られるジャック・ウェルチ氏が推薦したことで、その有効性が世界中に知られることになりました。製造業の人にとっては常識的な手法ではあるものの、比較的古いフレームワークなので、知らない人もいるかもしれません。

そこで今回は、このシックス・シグマについて基本的なところから解説していきたいと思います。
企業の品質管理に携わっている人は、ぜひこの機会に知っておきましょう。

シックス・シグマが提唱された背景

シックス・シグマは、本来、製造業における業務プロセスの改善により、製品やサービスの品質にバラつきが出るのを抑えることを目的に導入されました。
開発元として知られるモトローラでは、まず日本の製造現場で活発に行われていた「QCサークル」を参考にしたといわれています。

QCサークルとは?

QCサークルとは、簡単にいえば、企業内で自発的に行われる活動の総称です。
いわゆるPDCAサイクルを軸として、その組織全体や製造現場における品質管理上の問題点を洗い出し、継続的に性能や生産性の向上を追及しながら品質管理を行う活動を指します。

全社的な品質管理の一環として相互に啓発活動を行いつつ、管理レベルの向上や改善を日常的に行います。安全性を確保しながら生産性を高められる方法として、主に日本の製造業者によって日常的に行われていた活動を体系化したものともいえるでしょう。

統計学的手法を加えたアレンジ

モトローラでは日本企業によるQCサークル活動を参考にしながら、さらに統計学的手法を取り入れました。また、品質管理活動に定量的な評価を与えられるようにアレンジを加えました。
これを発展させたのがシックス・シグマです。

いわば現場のスタッフが自発的に行っていたボトムアップのアプローチに、さらに客観的な評価指標を加えることでトップダウンで実施できるようにしたものといえるでしょう。
これによって汎用性のあるフレームワークとして、さまざまな業種で応用することが可能になりました。

今では製造業に限らず、事業経営のなかで発生するミスやエラーの発生を抑えるための革新的な経営手法としても活用されています。

シックス・シグマと統計学

シックス・シグマにおける「シグマ(σ)」とは、統計用語でバラツキ(標準偏差)を表すための指標のことをいいます。
バラツキ(標準偏差)とはデータの散らばり具合のことであり、多くの場合、いわゆる正規分布にしたがってバラツキの度合いを判断するための一つの方法とされています。

シグマ(σ)レベルと品質

データが正規分布となる場合は、この標準偏差(σ)が「±1σ」の中に全体の約68%のデータが収まり、「±2σ」の中には全体の約95%、そして「±3σ」の中に全体の99%以上のデータが収まることになります。

統計学的な詳しい説明は避けますが、工程管理ではこのσレベルがその工程における異常を判断するための目安になっています。

つまり製造現場においては、このσを平均的な品質を図るための指標としてみたとき、そこからかけ離れた品質のものは自社製品の基準を満たしていない「不良品」として扱われます。

100万回の作業でエラーを3.4回に抑える

そしてモトローラは、このσレベルが「6(±6σ)」を目指すように品質管理を行う手法としてシックス・シグマを誕生させました。
これは100万回作業を行ったとしても、エラーの発生を3.4回に抑えることを意味します(※この値自体は、厳密には正規分布の確率とは若干のズレがあります)。

このアプローチによって、シックス・シグマは品質のバラツキを最小限に抑え、顧客に対して常に一定の品質の製品を提供するために非常に有効な手法として、多くの製造現場で取り入れられることになりました。

シックス・シグマの発展

現代では、製造業に限らずさまざまな企業でシックス・シグマが取り入れられていますが、適用する業態に合うように発展しているといえます。

企業ごとに独自のコンセプトで導入されることも多いようですが、特に近年は「リーン・シックス・シグマ」と呼ばれる手法が評価されています。

ここでは両者を簡単に比較してみましょう。

シックスシグマ:SS(オリジナル)

モトローラで開発されたことがきっかけに広がったオリジナルのシックス・シグマです。

業務プロセスや製造プロセス、サービスの品質向上のために導入されることが多く、運用プロジェクトの頭文字で「DMAIC」と呼称されることもあります。これに関しては以下で詳しく説明します。

リーンシックスシグマ:LSS

これまでのシックス・シグマとトヨタ自動車の生産方式を組み合わせたもので、主に欧米の大企業で多方面に活用され、大きな成果を出しているとされる手法です。
バラツキを最小限に抑えるためのDMAIC手法に加え、さらにムダを排除して効率化を図るためのリーン生産方式を融合したマネジメント手法として注目されています。

従来の品質向上に加えて、さまざまな業務プロセスからムダを排除し、リードタイムの短縮といった課題を解決するのに有効といわれています。

シックス・シグマの活動サイクル

次に、シックス・シグマの活動サイクルについて解説します。

上述のように、シックス・シグマは「DMAIC(ディマイクあるいはディーマイク)」と呼ばれることもあり、これは導入時のプロセスを頭文字にしたものです。

Define(定義)

まずはシックス・シグマによって改善すべき課題を明確に定義することからはじまります。

顧客の声(VOC)を起点として、彼らの不満点を調査して満足するポイントを探ります。それを既存の製品・サービスの欠陥とみなして、その改善を取り組みべき課題として定義しつつ、具体的な数値目標を設定します。

Measure(測定)

自社の現状の正確な把握に努めます。自分達の認識と実際の状況とは異なっているケースがほとんどであるため、主観を排除して客観的な判断を下すための十分なデータ収集を行います。

また、現状の業務プロセスを「見える化」し、収集したデータと照らし合わせながら本質的な問題を抽出していきます。プロセスマップなどを効果的に活用すれば、実際に何がボトルネックになっているかを明らかにすることが可能です。

Analyze(分析)

根本的(本質的)な原因を特定していきます。測定によって抽出した問題が「なぜ」起きているのかを明らかにするために、各種データを統計的に分析し、強い影響を及ぼしている要因を絞り込んでいきます。

実際の分析にはMSA(Measurement System Analysis)SPC(Statistical Process Control)といった手法が使われることが多いようです。こういったツールを駆使して問題と要因との因果関係を明らかにしていくわけです。

Improve(改善)

Analyze(分析)によって明らかになった原因について、改善策を立案し、検証していきます。

基本的には複数の改善策を立案し、これまでの段階で得たデータから実現性やコストパフォーマンスを計算し、どの施策を採用すべきかを検討します。
各々の改善策を小規模に導入し、その結果をもとに判断することもあります。場合によっては、複数の改善策を同時並行で行うこともあるでしょう。

Control(管理)

施策の成果を確認し、定着を図る段階です。現場のチームに新しい改善策のプロセスと導入方法を伝え、定期的に定義した課題が解決できたかどうかを確認します。
解決が確認できたら、新しいプロセスや改善策をチームに定着させ、さらに改善を繰り返します。

DMAIC手法の出発点は顧客であるため、彼らの嗜好や評価ポイントが変われば、当然それに準拠した改善を上述のプロセスで行うことになります。

シックス・シグマのメリット

次にシックス・シグマのメリットについて、特に重要と思われるポイントを解説します。

汎用性がある

シックス・シグマは製造業だけではなく、さまざまな業種・業態の組織で活用することができます。

もともとは製造現場の品質改善手法でしたが、今では顧客満足を実現するための本質的な問題解決手法として定着しています。
企業それぞれの業務上の課題を論理的かつ定量的なプロセスを踏むことで解決につなげることができます。

解決策は、企業ごとにプロセスのなかで個別に考える方法ですから、大企業のみならず、規模の小さいビジネスでも、問題なく導入・活用が可能です。

客観的なデータを活用できる

シックス・シグマでは客観的なデータ収集をすることが重要視されます。組織内の一方的な価値観や判断を可能な限り排除し、中立的で論理的な判断のもとで決断を下していきます。

多くの企業では、業務改善プロセスを事前の解決策ありきで進めてしまう場合や、影響力のあるスタッフの意見だけで決める傾向があります。
しかし、シックス・シグマでは、客観的なデータを収集・活用することによって、本質的な問題とその原因を抽出でき、改善プロセスについても客観的な評価を下すことができます。

人材育成に寄与できる

シックス・シグマによる業務改善プロセスを経験させるなかで、自社スタッフのリーダーシップの開発や、業務意識の向上を図ることができます。

特にスタッフ間に客観的な判断を重視する価値観や、PDCAサイクルを回す習慣が生まれ、自発的に業務改善を行う空気が醸成されていきます。
事実、シックス・シグマの導入によって、多くの企業で自社スタッフが自ら業務改善に貢献するようになったと報告されています。

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シックス・シグマの関連キーワード

最後に、シックス・シグマを実践するにあたって重要となる関連キーワードについて簡単に解説しておきます。

VOC(Voice Of the Customer)

シックス・シグマでもっとも重視すべき「顧客の声(VOC)」です。これを基準として課題を定義し、改善プロセスを進めていきます。

とはいっても、盲目的にVOCを課題として取り入れるわけではありません。
多くの場合、VOCを以下で説明するCTQに置き換えてから定義することになります。

CTQ(Critical To Quality)

VOCを踏まえつつ、自社の経営理念や経営状況を鑑みて最終的に決定される解決すべき課題をCTQ(Critical To Quality)と呼称する場合があります。これに基づいて改善ポイントを選定し、上述の改善プロセスを進めることになります。

複数のテーマが考えられる場合は、顧客満足度に貢献し、経営的なインパクトのあるものが優先的に選ばれることになるでしょう。

ブラック・ベルト

シックス・シグマの活動の中心となる、必要な資格をもつ人物をブラック・ベルトということがあります。

専門の教育機関によって、プロジェクトにおける課題の設定から、シックス・シグマの手法に則って解決プロセスを進めるための技能を修得した人物が認定されます。
アメリカの企業が日本の柔道の黒帯(ブラックベルト)を語源として考え出したものです。

シックス・シグマの基礎を理解し、自社の品質管理に活かす

製造業の品質改善に限らず、汎用的な業務プロセスの改善法として知られているシックス・シグマについて、基本的な説明から導入のメリットまで解説してきました。

こういったフレームワークは主に大企業が取り入れるものと思われがちですが、どんなビジネス規模の企業でも問題なく取り入れられる手法です。
多くの導入企業が独自のアレンジを加えて取り入れていますから、ぜひ自社の業務改善プロセスとして取り入れてみましょう。