副業・兼業元年到来 | 現状と促進背景 - 企業が許可に消極的なワケ

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記事の情報は2020-02-20時点のものです。

本業以外に職を持ち、副業・兼業で報酬を得ることは、雇用主である企業側からは歓迎されませんでした。しかし厚生労働省のガイドライン公表により、副業・兼業の事情は大きく変わろうとしており、「終身雇用神話」は崩壊へと向かうかもしれません。現状・背景・メリット・課題・企業意識や対応について解説します。
副業・兼業元年到来 | 現状と促進背景 - 企業が許可に消極的なワケ

副業・兼業の促進背景

主な収入を得ている本業のほかに、在宅ビジネスやアルバイトなどによって収入を得ることを副業といい、兼業やサイドビジネスなどと呼ばれることもあります。

企業と雇用契約を結び、正社員として勤務することが一般的な日本では、実際に副業・兼業が行われることは少ないと見られていましたが、近年では従業員側の意識の変化や雇用を取り巻く環境の変化などを背景に、あらためてその意義が注目されてきているといえます。

雇用環境の変化

まずは、日本企業で長らく常態化していた「終身雇用」が崩壊するという、雇用環境の大きな変化を挙げることができるでしょう。

長期化した不況、グローバル化の加速する市場経済に対応するため、企業は経営の合理化やリストラを進めるざるを得ず、結果的に非正規雇用が大幅に増加する一方で、正規雇用は縮小を続けるという構造ができあがってしまったのです。

こうした状況は、若い世代を中心とした働き手の意識に、大きな変化をもたらしたといえます。

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労働生産性・賃金の低迷

「優秀な製品を大量生産して供給する」という日本企業のビジネスモデルは、ユーザーの価値観の多様化とともに力を失ってきており、市場ニーズに合わせた企業構造の変革も進んでいるとはいえません。

それは、先進諸国と比較した労働生産性の低迷に現れており、結果的に実質賃金の低迷を招いています。

つまり、労働者はこうした状況を打破するための手段として、副業・兼業を潜在的に意識するようになっているのです。

以下の記事では経営者目線から生産性向上のポイントをまとめています。興味のある方はぜひお読みください。

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働き方改革の推進

それでも副業・兼業が盛んにならなかったのは、ほとんどの企業で副業・兼業が禁止されていたからです。

しかし、2017年3月に政府主導で決定された働き方改革実行計画により、状況が大きく変化しました。

労働者が抱える、さまざまな課題を解決することを目的とした働き方改革には、非正規雇用の処遇改善や、長時間労働の是正などとともに「柔軟な働き方」の実現が盛り込まれており、副業・兼業を促進するガイドライン作りが継続して行われていたのです。

2018年が副業・兼業元年として、大きな変革を迎えると目されているのは、こうした背景が要因となっているのです。

以下の記事では、働き方改革実行計画についてより詳しく解説しています。

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副業・兼業の現状

法律や労働法で禁止されていないため、副業・兼業は一部の企業で従来から容認されてはいました。
また、雇用主である企業には内密で、副業・兼業を行っていた従業員も一定数いたとも思われます。

それらを踏まえ、副業・兼業はどのような現状になっているのでしょうか。

副業・兼業に対する企業方針

下図は、副業・兼業に対する企業方針が、現状どのように規定されているか、という調査結果をグラフ化したものであり、2017年3月に公表されたものです。

出典:日本経済新聞社 働き方改革に関する企業実態調査

現時点で副業・兼業を認めている企業は、全体の18.0%にとどまっており、従来からの流れを汲んだ状況になっているといえます。

しかし、35.9%の企業が今後も副業・兼業を認めないとしている反面、条件さえ整えば認めるという企業が36.9%となっており、全体では64.1%の企業が容認の方向へ傾いているともいえます。

副業・兼業に対する企業意識

下図は、副業・兼業に対する企業意識を、容認・禁止の場合に分けてヒアリングした調査結果であり、2017年2月に公表されたものです。

出典:株式会社リクルート 兼業・副業に対する企業の意識調査

これによると、副業・兼業を容認・推進している企業の理由で、もっとも多いのが特に禁止する理由がない」である一方、禁止している理由では「長時間・過重労働を懸念」が、もっとも多い結果となっています。

この部分では、長時間労働の是正も掲げる「働き方改革」のなかで、対応に揺れ動く企業心理も伺えます。

正社員の副業・兼業の実態

これに対して、労働者である従業員の副業・兼業の実態はどのようになっているのでしょうか。

下図は、正社員5,000名以上を対象におこなった調査結果をグラフ化したものであり、それぞれ副業・兼業に対する興味、経験のパーセンテージを表しています。

出典:エン・ジャパン 正社員に聞く「副業」実態調査

実に、88%もの正社員が副業に興味を持っているという結果となり、さらに、33%は実際に副業の経験があることがわかりました。

企業が副業・兼業に消極的なワケ

上述した調査結果からも明らかなように、8割前後の企業が副業・兼業を禁止しており、容認に傾いている企業でも、懸念が払拭されない限りは容認しないという、消極的な姿勢が見て取れます。

これは社会的な問題ともなっている長時間労働のほか、以下の要因が考えられています。

  • 情報漏えいのリスク
  • 企業イメージ悪化の懸念
  • 労働時間などの管理
  • 労災や雇用保険の適用
  • 利益相反する競業リスク

どれも企業リスクを回避する、という思考からの要因になりますが、これらを積極的に解決していくという方向にはなっていないといえます。

副業・兼業の促進に関するガイドライン

このような状況のなか、2017年12月に政府から発表になったのが「副業・兼業の促進に関するガイドライン」です。

これは、会社員の副業・兼業に際して、労働者・雇用主双方が注意すべき点を盛り込んだ、厚生労働省の指標であり、2018年1月から各企業への周知をはかるとされています。

これによって、副業・兼業に対する政府の立場が明確にされたことになり、今後の行方が注目されるようになっているのです。

副業・兼業が従業員と企業の双方にもたらすメリットとは

それでは、ガイドラインにも記載されている指標や注意点を紹介する前に、副業・兼業にはどのようなメリットがあるのか、現在の視点で、従業員側・企業側のポイントを押さえておきましょう。

従業員側のメリット

まずは労働者である従業員側のメリットです。

8割を超える正社員が副業・兼業に興味を持っているという事実から、その理由はさまざまであることが考えられますが、大きなメリットとしては、以下を挙げることができるでしょう。

キャリア形成

本業とは異なる職種を副業とすることにより、自身のスキル向上が期待できるほか、これまでに得られなかった知識、人間関係などを築くことによって、キャリア形成の道が開けるというメリットが考えられます。

また、副業によって「自身が成長している」という実感がより得られるという調査結果もあり、副業していない場合よりも高い数値を示しています。

収入の増加

副業・兼業を行う大きな目的ともいえるのが報酬であり、収入の増加です。

これまで解説してきた時代背景などから、実質賃金は低迷、さらに残業などで収入を増やす方法も断たれつつあることから、副業・兼業は収入増への数少ない手段といえるでしょう。

起業・転職への利用

自身のスキルを高め、経験値を増していくなかで、キャリア形成としての転職や独立・起業という選択肢が生まれてくるでしょう。

そうした場合に、新たな職場で能力が発揮できるか、新事業が軌道に乗るかどうかといった懸念を副業・兼業を活用することで、最小限にリスクを抑えつつ解消することができます。

リスク分散

現代の日本では、上述したように終身雇用はすでに崩壊しており、グローバル化する市場経済のなかでは大企業でも安泰とはいえません。

このような状況では複数の収入源を確保し、リスク分散が可能なようにしておくことが有効です。

副業・兼業はそうした場合に最適であり、本業とは異なったスキルを磨けば、よりリスクを回避できることにつながります。

企業側のメリット

それでは、従業員に副業・兼業を容認することによって、企業側にはどのようなメリットが考えられるのでしょうか。

従業員のスキル向上

たとえば製薬会社の研究員が、副業として街の薬局で働くことにより、購入者の視点で薬の開発に取り組めるようになったという事例があります。

このように、関連した業種で副業を行うことにより、本業のスキル向上に役立つというメリットが考えられます。

業種が異なる副業の場合でも、業務をとおして学んだ人間関係などが役立つことも考えられ、企業にとってもメリットだということができるでしょう。

優秀な人材の流出防止

従業員が副業を希望する理由にはさまざまなものが考えられますが、それが収入や仕事内容に関するものであれば、副業として認めることにより、離職などを防げる可能性が大きくなります。

特に、外部にやってみたい仕事があるなどのケースでは、モチベーションアップも期待でき、本業にもいい影響をおよぼすなどのメリットが考えられます。

新たな知見による事業拡大

異業種での副業・兼業を行うことによって、新たな知識・スキルを獲得した従業員が、それを元に、事業拡大につながるアイディアを持ち込むことも考えられます。

自分自身を客観的に見つめることが難しいのと同様、企業内にいる人間が自社を客観的に分析することも難しいものです。

副業・兼業を容認することにより、こうした外部からの視点を得ることができ、業務改善におおいに役立つことでしょう。

副業・兼業の課題と懸念

一方で、企業が副業・兼業に消極的な理由でもある、懸念・課題にはどのようなものがあるのでしょうか。

就業時間や健康状態の把握・管理

現状、従業員の就業時間や健康状態の把握・管理は、本業である企業が行っていることがほとんどです。

しかし、労働法で定められている所定労働時間は、本業のみならず、副業や兼業で勤務した労働時間も含まれることになります。

これによって、所定労働時間の超過分に関しては割増賃金が発生することになり、この処理とともに、複数事業所での健康管理をどうするか、という点が懸念されています。

雇用保険などの適用

同様に、雇用保険や労災保険などの対応も懸念されています。

原則、これらは雇用形態にかかわらず従業員に適用されるはずですが、現実的には適用されていないケースも多く、万一の責任の所在やリスクが心配されているのです。

職務専念・秘密保持・競業避止

また、必然的に増加する労働時間で疲労が蓄積することが考えられることから、本業への専念がおろそかになることが懸念されるほか、同業種での副業による情報漏えいのリスク、利益相反する競業のリスクも無視できません。

調査結果からも、これらのリスクに対する懸念が一番大きいともいえるでしょう。

査定への懸念

それに対して従業員側では、企業が消極的である副業を実践することにより、本業の査定面で不利益を受けるのではないか、ということが懸念として挙げられます。

実際、こうした事態が起こらないとはいいきれず、副業経験者の6割が継続を断念している要因のひとつだともいえます。

副業・兼業への対応はどう変化するのか

このような副業・兼業のメリット、課題を踏まえ、政府の見解として厚生労働省から公表されたのが「副業・兼業の促進に関するガイドライン」です。

その中心となるポイントを紹介してみましょう。

モデル就業規則改訂

副業・兼業の促進に関するガイドラインでは、そもそもの焦点である「副業・兼業の法的解釈」に触れており、裁判例をもとに、原則として副業・兼業を認めることが適当とされており、企業に対してもその方向で検討するよう求めています。

これにともない、多くの企業就業規則の基本ともなっている「モデル就業規則」も改訂されています。

許可制から届出制へ

これによって、副業・兼業は従来の「本業である雇用主の許可を得る」方式から、副業・兼業を認めることを前提に「従業員から雇用主へ届け出る」ことが望ましい、とされています。

この場合も、懸念点である秘密保持・競業避止を解決するため、双方が充分なコミュニケーションを取ると同時に、副業先の業務内容などを明確にするなどが推奨されました。

就業時間管理・健康診断

就業時間の管理に関しては、従来どおり複数事業所での合算が基本となることが確認されたうえで、副業先の勤務時間を本業の雇用主へ報告することなど、ここでもコミュニケーションを円滑に行うことが推奨されています。

また、年間20万円を超えて副業での報酬を得た場合、本業先の年末調整ではなく、個人的に確定申告を行うことも明記されました。

そのうえで、副業を行う個人側で就業時間に留意する必要があること、健康診断などは主たる本業側が主導で行うことという見解も示されています。

労災・雇用保険など

あらためて現行制度について言及されているのが労災・雇用・社会保険などの取り扱いです。

万一の場合のリスクを考え、副業を行う者が不利益を被らないように各事業者に釘を刺した形ともいえるでしょう。

多様な優秀人材獲得のチャンス

ガイドラインとはいえ、厚生労働省から正式に見解が公表されたことにより、会社員の副業・兼業に大きく道が開け、柔軟な働き方実現に向けた、大きな一歩を踏み出そうとしているのが現状だといえます。

一方では、企業にとっても多様な働き方を求め、副業・兼業を考慮する優秀な人材を獲得できるチャンスでもあり、今後の展開を注視しつつ、準備をしておく必要があるでしょう。

ガイドラインでは、従業員の就業時間や健康の管理に、ツールの使用を推奨していることもあり、同時に採用管理システムを準備しておくというのも手段のひとつです。

以下の記事では、採用管理システムの比較を行っていますので、参考にしてみてはいかがでしょうか。

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