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【特集3】SaaSのエンタープライズ開拓で対応すべき12の開発要件と付加価値の作り方とは

最終更新日:(記事の情報は現在から1736日前のものです)
2019年4月25日(木)、SaaS比較サイト「BOXIL SaaS」を運営するスマートキャンプと、これまでに多くのSaaS企業に最新テクノロジーを提供してきた日本IBMがSaaS企業のグロース戦略に関するセミナーを開催した。本記事では、昨今トレンドとなっているエンタープライズ企業の開拓について全4回の特集を通じて徹底的に解説。第3回はエンタープライズ企業を開拓する上で対応すべき12の開発要件と付加価値の作り方についてCOO阿部が解説する。

エンタープライズ開拓に必要な12の開発要件

米国にエンタープライズを開拓するうえで開発として対応すべき要件についてまとめている“Enterprise Ready”というサイトがある。これはSlackやSalesforce, Dropboxなど海外の有名SaaS企業50社のケーススタディに加えて、TrelloやGitHubなどのCEOやCIOによるコメントをもとにプロダクト要件が整理されたコミュニティサイトである。


※1 参照:EnterpriseReady

“Enterprise Ready”によれば、エンタープライズ開拓にあたって開発が対応すべきものとして12の要件がある。

(1)Product Assortment(機能のバリエーション)
(2)Single Sign On(シングルサインオン)
(3)Audit Logs(監査ログ)
(4)Role Based Access Control(アクセス権限の設定)
(5)Change Management(アップデート管理)
(6)Product Security(セキュリティ)
(7)Deployment Option(デプロイメント)
(8)Team Management(チーム管理)
(9)Integrations(インテグレーション)
(10)Reporting & Analytics(レポート作成と分析)
(11)SLA and Support(SLAとサポート)
(12)GDPR(GDPR対応)

以降、12の要件について一つひとつ見ていく。

(1)Product Assortment(機能のバリエーション)

エンタープライズ企業にSaaSを導入する場合、多様な機能(12の要件としても登場するが、アクセス権限の管理やセキュリティ、チーム管理など)を幅広くラインナップとして取り揃えておく必要がある。またはじめから全社導入されるのではなく現場の1チームから導入されるケースも多いため、エントリープランなど段階に応じた幅広いプランも用意するべきだ。

営業戦略の観点からも、1チームにエントリープランで導入された後、チームから部門、部門から全社への拡大を促すための上位プランを用意することは入口の開拓、そしてアップセルをしやすくなるため、時間のかかるエンタープライズ開拓を進めていくうえでは非常に有効な打ち手だと言える。

(2)Single Sign On(シングルサインオン)

国内ではまだトレンドとして現れていないが、海外ではOktaなどのシングルサインオンサービスが普及しており、エンタープライズ企業におけるSaaSの利用状況の管理や大量のアカウント管理をシングルサインオンで行うケースがある。そのため、SaaS企業としてはSAML認証への対応など、シングルサインオンに準拠するための開発が必要だ。

今後国内においてもSaaS市場の拡大、多様なSaaSの登場、そしてSaaSプラットフォーマーの登場に伴ってシングルサインオンへの対応が求められていくと考えられる。エンタープライズ企業を開拓したいSaaS企業はシングルサインオンへの対応を念頭に置いておくべきだ。

(3)Audit Logs(監査ログ)

大量の従業員にSaaSのアカウントを付与するエンタープライズ企業では、たとえば誰がどのSaaSを利用したのか、いつ利用したのか、どのような変更を行ったのか、どのデータを閲覧・ダウンロードしたのかなどの行動ログを有事に備えて確認できるようにする必要がある。そのため、Web上で常時見られる状態にする、また少なくともCSVでダウンロードできるようにするなど、行動ログの確認機能が求められる。

(4)Role Based Access Control(アクセス権限の設定)

エンタープライズ企業では企業や個人の情報流出や意図しない変更などによる損失を防ぐため、どの情報に誰がアクセスできるのか、どの情報を誰が編集できるのかなど、情報の閲覧や編集などのアクセス権限の細かい設定を役職や部門、チーム、個人など、さまざまな単位でできることが必須である。

そのため、たとえばSalesforceでは権限グループ・ロールを作成する機能、それぞれのグループ・ロールにおける閲覧・編集権限などの細かい設定をチェックボックス形式で簡単に設定できる機能、ユーザーにグループ・ロールを割り当てる機能などが設けられている。

(5)Change Management(アップデート管理)

SaaSはインターネット経由で提供されるため、随時機能を最新版にアップデートできる点が従来のオンプレミスに対する強みである。しかし、利用者・関係者が多く、また業務フローもしっかりと組まれているエンタープライズ企業では機能のアップデートによる影響が大きくなるため、アップデートを行う場合には早いタイミングで事前にアップデートの内容、タイミングを伝えておく必要がある。また、アップデートを反映せず従来の機能のまま利用する選択肢も選べるようにすることも望ましい。

(6)Product Security(セキュリティ)

情報漏えいによる被害が甚大となるエンタープライズ企業において、セキュリティは非常に重要な要件である。これは暗号化などデータのセキュリティ、DDoS対策などのネットワークセキュリティに加え、オフィスやデータセンターの環境など物理的なセキュリティやBCP対策(事業継続対策)なども含まれる。セキュリティ要件のロングリストが用意されている場合もあり、要件を満たすことが導入の大前提となる。

(7)Deployment Option(デプロイメント)

エンタープライズ企業では、特に金融業界、医療業界、法律業界、公的機関など高いセキュリティレベルが求められる業界ではすでに構築されているオンプレミスの環境でアプリケーションを動かしたいというケースが多く存在する。また複数のクラウドを組み合わせるマルチクラウド環境でアプリケーションを動かしたいというケースもある。

このようにSaaSを活用したい環境のパターンは複数存在するため、どのような環境でもアプリケーションを利用できるように対応する必要がある。最近ではこのようなトレンドを受けてIBMをはじめとしたIaaS事業者もベンダーロックイン(特定のベンダーへの依存)からマルチクラウドへとサービス提供の考え方が変化している。

(8)Team Management(チーム管理)

アカウントを一つだけ用意し、IDとパスワードを組織内で共有して利用するケースも多く見られるが、ID・パスワードの漏えいの原因になり得るなどセキュリティ上のリスクが高いため、アカウントは原則個人単位で発行すべきだ。この個人単位でのアカウント発行を前提として、チームの設定、チームでの共同作業や管理のための機能を用意することが必要だ。

ちなみにこのような背景を踏まえると、SaaSの料金設定としては個人単位での従量課金が望ましいと考えられる。1社1アカウントで月額数十万円という料金設定ではなく、1人1アカウント当たり月額数百円~数万円の料金設定になるため、なおさら従業員数の多いエンタープライズ企業にサービス提供する方が投資対効果が良くなるだろう。

(9)Integrations(インテグレーション)

エンタープライズ企業では、オンプレミス、クラウドの形態を問わず、すでに大量のITサービスが利用されている。そのため、既存のITサービスとの連携のしやすさが重要なポイントになる。特に連携が求められるのはデータまわりであり、Salesforceに買収されたMulesoftなどデータ連携サービスが急成長している。

(10)Reporting & Analytics(レポート作成と分析)

エンタープライズ企業ではさまざまな役職、部門の関係者が、蓄積されたデータを多様な切り口で集計して分析したいと考えている。そのため、集計・分析の需要を満たすためにカスタマイズ性の高いレポート作成機能を用意できれば、それ自体がプロダクトの付加価値・差別化のポイントになる。また、自動でレポートをチャットやメールで配信する機能など、レポーティングの利便性を高めることも重要だ。

(11)SLA and Support(SLAとサポート)

SLAとはService Level Agreementのことであり、多額の費用をかけてサービスを利用してもらう代わりに、サービスの品質を担保することが求められる。SaaSのサービス品質として求められるのは主に稼働時間と応答時間で、稼働時間については年間で99.9%以上の時間稼働し続けることが基準になるとのことだ。また、応答時間については通常時のサポート、緊急時のサポートなど場面に応じて時間が設定される。

(12)GDPR(GDPR対応)

GDPRとは「EU一般データ保護規則」のことで、2018年5月に施行されたEUにおける個人情報保護に関する法律である。現状、日本でGDPRは適用されないがエンタープライズ企業の場合グローバル展開しているケースも多いため、グローバル企業にSaaSを提供する場合にはGDPRへの対応を意識する必要がある。

以上、エンタープライズ開拓における12の要件を解説してきたが、重要なのはこれらの要件に対応していくためのクライアントコミュニケーションと開発の体制を整備することである。エンタープライズ開拓に向けて、どのような時間軸で、どのような体制を組み、どのような機能から開発していくのかというロードマップを引く力が重要だと言える。

バリューチェーンの拡大による付加価値の向上

SaaSのプロダクトの価値を高めていく方向性の一つとして「バリューチェーンの拡大」がある。特にSaaSは一つの特定の業務に対するソリューションからスタートするケースが多いが、エンタープライズ企業ではトータルソリューションが求められる場合も多いため、周辺業務に対応する機能を増やしていくことは付加価値の向上につながると考えらえる。

バリューチェーンの拡大の意味として、カバーする機能の拡大だけでなくカバーするデータの拡大も重要なポイントである。上流業務におけるデータから下流業務のデータまでを統合させることで、特定の業務だけでなく業務プロセス全体を見渡しながらPDCAサイクルを回せるようになり、インパクトの大きな業務から改善を行えるだけでなく、全体を見渡したからこその示唆を得られるようになる。

機能・データの連携として、最近では特にマーケティング・営業系のSaaSと、HR系のSaaSが話題にあがることが多い。マーケティング・営業系のSaaSに関しては、上流に位置するマーケティング活動(リード獲得)から、下流に位置する受注後のカスタマーサクセス活動(顧客の満足度・解約状況)までのデータを統合することで、マーケティング・営業プロセス全体の関連性を見ることができるようになり、リード獲得チャネルやターゲット顧客の見直しを行えるようになる。

HR系のSaaSに関しては、入社前の採用チャネルや面接の評価、過去の経歴から、入社後のパフォーマンスまでを一気通貫で見れるようにすることで、どのような人材がどのような活躍をするか、自社のカルチャーにマッチするかなどを分析できるようになる。

テクノロジー活用による付加価値の向上

BOXIL SaaS 業界レポートの中で、SaaSにおいて活用が進むテクノロジーとしてモバイル、スクリーンレス、AI, VR・AR, IoT, ブロックチェーンの6つをまとめているが、この中でもAIやIoT, ブロックチェーンなどのテクノロジーはIBMをはじめとしたIaaS・PaaS系のベンダーによって誰でも簡単に導入できるサービスとしての提供が進んでおり、プロダクトの付加価値として取り入れやすくなってきている。

特にAI・ビッグデータ活用の文脈では、「データでどこまで価値を提供できるか」と「SaaSならではの集合知の価値の構築」の2つが意識すべき点である。

(1)データでどこまで価値を提供できるか

データ活用のフェーズとして、可視化、レコメンド、自動化の3つのフェーズがあると言われている。ダッシュボードなどの機能を通じてデータを可視化できればそれだけでも価値はあるが、さらにそのデータからどのような判断をすべきかレコメンドされるようになればより価値が増すだろう。そして、その判断すら自動で行えるようになればさらに大きな価値になり得る。

現実的に自動化のフェーズはまだまだ先ではあるが、AIを活用して最終的にどの部分を自動化し、どの部分をレコメンドしたいのかを決めて、逆算で戦略的にAI活用・ビッグデータ収集を進めるのが望ましい。

(2)SaaSならではの集合知の価値の構築

SaaSならではの特徴として、インターネット経由で利用されるためオンプレミスと異なりほぼすべての顧客の利用データがSaaS事業者に集約される点と、常に最新機能にアップデートできる点がある。

そのため、SaaS事業者側でSaaSの利用方法、言い換えればSaaSが組み込まれた業務のベストプラクティスを定義できるようになり、そしてそのベストプラクティスを常に機能として反映しながら提供していくことができる。

エンタープライズ企業からは既存の業務フローに合わせてカスタマイズが求められるケースは依然として多いが、SaaS事業者は自分たちがベストプラクティスを提供しているというスタンスで臨むべきであり、カスタマイズに対応する場合でもそれがベストプラクティスになる得るものなのかを意識して対応していくべきだろう。

IBMパートナーリーグを含む、SaaSとの協業取り組みはこちら

IBMパートナーリーグは、日本のエンタープライズ企業に最新のテクノロジーを提供している日本IBMが生み出す次世代のエコシステムだ。エンタープライズ企業の開拓においては前述のとおり営業とプロダクトが重要になるが、IBMパートナーリーグは、営業の観点ではIBMやパートナー企業の営業ネットワーク、プロダクトの観点ではIBMおよびパートナー企業のテクノロジーを活かして競争力のあるサービスを構築。最終的には、パートナーのサービスを通じてエンタープライズ企業に価値を届ける高度なコラボレーションのためのエコシステムを構築している。

以下、IBMパートナーリーグを含む、IBMとSaaSの協業取り組みを紹介していきたい。

(1)ビジネス企画の拡大におけるコラボレーション
OBCの奉行シリーズといえば、中堅・中小市場において会計や給与人事の分野でシェアNo.1([2016年/2017年]ノークリサーチ調査)を持つサービスだが、IBMビジネス・パートナーが奉行V ERP10や奉行i 10シリーズの展開を全国でけん引している。

エンタープライズ要件を理解している各地のIBMビジネス・パートナーが適切なサービスを選択、組み合わせ、ときには業界特化型サービス(Vertical SaaS)と組み合わせながら、最適なシステムを顧客に届けている様相だ。

IBMパートナーリーグは、販路を拡大したいサービス(SaaS)ベンダーと、顧客の幅広い要件に応えることで差別化を測りたいサービス・インテグレーターとが出会える貴重な場だ。

(2)SaaSによるデータやテクノロジー活用の例
IBMパートナーリーグにおけるコラボレーションではないが、日本IBMのデータやテクノロジーをビジネスに活用している事例もある。

たとえば、気象ビッグデータを分析し、その日の天気や気温の変化に合わせたコーディネートを提案するWebアプリ「TNQL(テンキュール)」では、IBMグループ企業The Weather Companyが提供する気象データを活用、ユーザーのコーディネートや色の好みをIBM Watsonに学習させ、パーソナライズされたサービスを提供している。

また、iPhoneにインストールしておくだけで歩数と道のりを自動で記録し、訪問場所や撮影した写真をログできるアプリ「SilentLog」では、毎日の生活から蓄積される大量のライフログをIBM Analytics Engineを活用してデータ分析し、分析時間の削減、データ付加価値の拡大に成功している。

IBMパートナーリーグに関心のある方は気軽に事務局に問い合わせてほしい。

【IBMパートナーリーグお問い合わせ先】
IBMパートナーリーグ事務局
LGSOL@jp.ibm.com

IBMのパートナーに対する取り組みはこちら
ibm.biz/japancsp

特集連載記事一覧
第1回 SaaS企業がSMBではなくエンタープライズを開拓すべきワケ
第2回 営業マネージャーが押さえるべき3つの営業チャネルとは
第4回 IBMが考えるSaaSがエンタープライズ規模で利用されるポイント

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