「社長に直接メールを送ったことはありますか?」組織を変える社内有志活動のリアル
最初の1歩の踏み出し方とは
大川氏:みんな、課題感は同じだと思うんです。その中からやれることをまず1個1個やっていったということだと思います。仲間が引っ張ってくれたり、タグがついたり、何回も何回もそれを繰り返して今がある。とはいえ、最初の1歩目。踏み出す、踏み出さないというときは葛藤があったと思うんですね。失敗談なども含めて、エピソードを聞かせてください。
佐藤氏:One Benesseの場合は、社内の有志活動を立ち上げたいと思っていた私と、後に発起人となってくれたメンバーを濱松さんがつないでくれました。先輩の家であるだけのワインを飲みながら、濱松さんのプレゼンを聞いて。でも、すぐに立ち上げられたわけではなく、着想から半年かかりました。
瀬戸島氏:私もお酒の力を借りて、というのはありましたね。ONE JAPANに所属していたので、風土改革のような活動をやりたいなとは思っていたものの、なかなか行動に移せていませんでした。転機になったのは、たまたま社長と少人数で飲みに行くという場があったことです。その1週前くらいに社長が外部向けに行った講演について、「いい話だったんですけど、若手は全然聞いてなかったですよ」って、酔っぱらって言っちゃったんですよね(笑)。僕が若手向けの活動をやります、と。
そして次の日、はじめて社長にメールを送って、やらざるを得なくなりました。ONE JAPANのメンバーって、みんな当たり前のように「社長にメールしたことあります。」とか、「役員にメールしたことあります。」とか言うんですよね。これは刺激をうけますよね。
大川氏:僕もはじめてこういうイベントに出たとき、前にいた濱松たちが全員社長にメールしたことがあると言っていて。自分が社長にメールを送っていないのが、おかしいんじゃないかと思ったんですよね(笑)。
諸藤氏:僕は、はじめた頃はびびりまくっていました(笑)。会社の中で10年くらいやってきた中で、上司とか幹部を飛ばして直接社長に声をかけたら、いろいろなところから怒られるんじゃないかとか。
でもそのときに、「やるべきことならやるしかないじゃん」と言ってくれる友人が何人かいて、ONE JAPANの人たちもみんなそうしているという話も聞き、それでいいんだなと思えたのが自分のマインドチェンジですね。
本田氏:僕も怒られたことはあります。へこんでいたら、「お前何やってんだよ」と叱咤してくれる人や、サポートしてくれる人がけっこういたんですよね。今の時代、ひとつの会社で勤める期間のほうが、もしかしたら短いかもしれない。だったら何もやらないより、やったほうがいいんですよ。
活動を継続していくためにやるべきこと
大川氏:大企業の洗礼をみなさんうけているんですね。一歩目の踏み出し方というのは、瞬発力で立ち上げる人もいれば、半年かける人もいる。今やれていないのが悪いわけでもないし、考えがなくても明日からやってみようでもいい。人それぞれの個性の中でやっていけばいいのかなと思います。
ただ、1歩目は簡単でも、2歩目より先。100歩まで続けないと沸騰しないと思うんです。続けることは非常に大事ですよね。続けるためにどんな工夫をしていますか。
大辻氏:僕がよくやっているのは、他人に締め切りをいうようにしています。思いついたことで良さそうだなと思うことを人に話して、「これ二週間後くらいに実際にやるから来てよ。みんなにメールする」といって、メールしちゃう。こうなるとやらざるをえない。1週間たってやっぱり一人じゃできなかったから、相談乗ってとまわりを巻き込んだりしながら、進めています。
佐藤氏:最近読んだ本、ハイディ・グラント著「人に頼る技術」にこんな研究結果が出ていました。「人は助けてくれない」と自分が思っている人の割合よりも、「助けてあげたい」と他人が思う割合のほうが実は多いんです。私たち自身が思うよりも、実は「助けたい人」が多いんですよ。言われたら助けてあげたいなと思っているが、実はマッチングがうまくいっていない。「自分が助けになるのか」、「どのタイミングか」がわからないし、「助けを求めて断られたら」と思ったりもする。そんな探り合いなんですよね。
だから、「こんなこと考えてるんだけど、自分一人じゃだめだわ。お前が必要だ。」とさらけ出していく。一人の悩みとか情熱とか、そういうところから何かがはじまっていくんだと思います。
本田氏:僕はバカになる人と、まわりで一緒にバカになれる人の二つが大事だなと思っていますね。巻き込まれたい人ですね。自分だけじゃなくて、誰かを巻き込み、巻き込まれることでカタチになる。そういう関係が必要ですよね。
諸藤氏:私は巻き込まれる側に近いですね。ぼくは仕事がプロジェクトマネージャー、成功請負人なので、なかなか失敗を覚悟してイチからできないんですよね。そこに仲間が勇気を出して1歩目を踏み出してくれるとやれる、というのはありますね。あとは継続していく中で「楽しさ」という部分も大事だと思います。
企業の中の有志活動だと、会社変革のために何ができるかを考えがちです。しかし、それは本来コーポレート部門がやるべきことですよね。CONNECTのなかでは、「会社がやりたいこと」ではなく、「社員個人がやりたいこと」を第一に考えることを大切にしています。
瀬戸島氏:私の場合は、小さな1歩をたくさんやっています。たくさんやって、ほとんどが失敗なんです。でもその中で出会えた役員とか、友だちと次のフェーズでまた会うんですね。2回目のときに「あれ、またあいついるな」。3回目で「またいるな」って、少しずつ認識してもらえる。私はなかなかインパクトが出せない人間なので、1回会ってガチっとつかむというよりは、偶然を積み重ねていくタイプかもしれません。
それから、私も「楽しく」というのは重要視していますね。仕事じゃないので、なかなか強制力を働かせづらいですし、「みんながやりたいことを軸に自己実現する場として利用してね。」という言い方をしています。いろいろな人がいるけど、みんなで同じ船にのってやっていこうということですね。
大川氏:10歩までは踏み出せたんだけど、100歩まで行けずに折れちゃった経験がある人はいますか。
大辻氏:常にですね(笑)。100歩までは行けていないし、まだまだ2歩目3歩目なんです。でも有志活動だから失敗してもいいので、失敗してもしょうがないよねというような気持ちでやっていますね。
諸藤氏:CONNECTに参加しているうちに、みなさん自分自身のやりたいことが加速されて、逆にいなくなっちゃう、みたいなことはよくありますよね。でもそれで良いと思っています(笑)。
失敗してもいい、種を捲き続けよう
立ち見が出る中でのセッション。参加者の中には、実際に有志活動を立ち上げたい、新規のプロジェクトを立ち上げるためにノウハウを学びたいという人も多く、質疑応答では、有志の活動から成果につなげるコツ、個人のやりたいことをつなげるためにはどうするべきかなどの質問が飛んだ。
佐藤氏:One Benesseではたとえば、現在やっている20プロジェクトの中で、実現できているのは3~4くらいしかないんですよ。それでも、たくさん種を捲いておく。そういう感覚でやっていいと思います。
そうすると、いつか仕事で似たようなことをやる人が出てくるので、そのときにプロジェクトを渡してあげて、One Benesseは裏方として協力するんです。プロジェクトが成功すれば、それが会社を変えていく一歩になるのかなと僕たちは思っています。
大川氏:裏方に徹するというのは、ありますよね。こっそりやってしまうというのも、手段としてはある。
大辻氏:僕は、成果を出そうとしてやるのは、個人的にはどうかなと。そもそも仕事で日々成果を出そうとやっているのに、有志活動でも成果を求めたら疲れちゃうじゃないですか。
それでもあえて成果を出すというところでいうと、「たいしたことないことを成果風にいう」ということ(笑)。今日僕が発表していることも成果ではないんですけど、成果風に発表すると「なんかあの人すごそう」ってなるわけなんです。他の人から見た部分では成果風に言いながら、自分の中ではやりたいことをやるというふうに考えればいいんじゃないでしょうか。
諸藤氏:CONNECTでは、ワークショップで個人のやりたいことを書いてもらう、つながりたい人を書いてもらうなどをやっています。ただ我々が全部それを把握して、つなげていくというのは不可能だと思っているんですよね。
大事なのは、「自分のやりたいことを職場でも言っていいんだ」と思ってもらうこと。行動の1歩目として、誰かに対して「私はこれがやりたい」と言えるかどうかなんです。それには、背中を見せるというのが大事ですよね。たとえば私が、恥ずかしがらずに「失敗しました」という。社内で、ましてや年下の人が「失敗しました」というと、メディアで見聞きするようなこととは全然ジブンゴト化が違うと思うんですよね。
大川氏:場づくりとか、ワークショップって世の中にたくさんありますよね。でもどんなに素敵なものでも、1回じゃ成功しない。やりたいという人がいたら、どんどんやって、それをずっと繰り返すというのが、唯一の解なんじゃないかと思いますね。
佐藤氏:間違いないですね。同じことをやっても、同じ会社で、同じ方法が、同じタイミングで成功するとは限らない。私たちは今成功事例をたくさん言っていますけど、たくさん失敗もしています。笑えるくらい(笑)。
会社と個人の良好な関係構築のために
組織の中の個人は、日々成果を求められ、成功へのプレッシャーがのしかかる。いつのまにか挑戦できなくなり、いわれたことをやればいいと、組織の歯車になってしまう。それがいわゆる大企業病だ。
会社側もまた、あるべき組織の姿を模索している。成果を求めるのは当然だが、やり方は妥当か。マネジメントはうまくできているのか。どうすれば、組織として最高のパフォーマンスが発揮できるのか。
NECの諸藤氏は、セッション中こう語っている。
「幹部の人たちは会社をよくするために何をすべきか悩んでいる。逆に行動を起こしてくれる人が歓迎されるというのは、今感じることですね。」
個人と会社が持つ課題を包括し、個人のやりたいを加速させ、良好な循環を生む。それが彼らの有志活動だ。ONE JAPAN、そして所属する有志団体の事例は、組織づくりに変化をもたらすひとつのロールモデルになるだろう。