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IPO後も高成長を続けるSaaSの作り方‐前田ヒロ×マネーフォワード辻庸介が「組織」と「プロダクト」を語る

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ALL STAR SAAS CONFERENCE TOKYO2019が、11月7日に開催された。前田ヒロ氏率いるALL STAR SAAS FANDが主催し、今年で4回目となる同カンファレスでは「1つ1つの議論を、来場者それぞれのビジネスのプラスに繋げること。」を目的に、12のセッションで深い議論や質疑が交わされた。本記事ではマネーフォワードCEOの辻氏が登壇した「IPO後も高成長を続けるSaaSの基盤」と題したセッションをレポートする。

【登壇者プロフィール】
辻 庸介氏 マネーフォワード 代表取締役社長 CEO
2001年京都大学農学部卒業、2011年ペンシルバニア大学ウォートン校MBA修了。ソニー、マネックス証券を経て、2012年マネーフォワードを設立。お金の見える化サービス「マネーフォワード ME」、ビジネス向けのクラウドサービス「マネーフォワード クラウドシリーズ」などを提供し、2017年9月に東京証券取引所マザーズへ上場。一般社団法人新経済連盟 幹事。

前田ヒロ氏 ALL STAR SAAS FANDマネージングパートナー
2010年にスタートアップの育成プログラム「Open Network Lab」をデジタルガレージ、カカクコムと共同設立。のちに、BEENOSのインキュベーション本部長、東南アジアなどを拠点とする「BEENEXT」を設立し、世界のスタートアップ100社以上に投資を実行。2019年SaaSベンチャーに特化した投資と支援行うALL STAR SAAS FUNDを設立。

売上高67%増、マネーフォワードの成長は加速

2012年に設立されたマネーフォワードは、同年に個人向け「マネーフォワード ME」、翌年にBtoBの「マネーフォワード クラウド会計・確定申告」をリリース、2017年9月に東京証券取引所マザーズ市場に上場した。

現在はMoney Forward Business(法人向け)、Money Forward Home(個人向け)、Money Forward X(金融機関向け)、Money Forward Finace(金融)の4部門で展開しており、2019年3クォーター連結売上高は前年比67%増と高成長を続けている。

同セッションでは、高成長を続けるために必要な「組織」「プロダクト」という2つの視点から、辻氏の価値観、経験した失敗や対策などが語られた。

マネーフォワード辻庸介氏

拡大を続ける「組織」で起こること

スタートアップの時期は経営者の一声で伝わっていたことが、人が増え伝わりにくくなっていく。採用が間に合わなくなる。IPO後に離職する人が増える。どれも拡大する組織に起こる事態だと、経営者たちは口を揃える。現在従業員数が500名を超えたマネーフォワードも、例外ではない。採用での失敗、IPO後の離職などをどのように乗り越えてきたのだろうか。また辻氏は、創業時から大切にするマネーフォワードの文化の作り方についても語った。

【採用】カルチャーに合わない人を採用し、組織が崩壊しかけた

前田氏:ARR100億に近づいてきている中で、「この時期がきつかったな」「大変だったな」というタイミングはありましたか?

辻氏:3~4年前、我々のビジョンやカルチャーがまだ確立できていなかった時にマッチしない人を採用してしまったんですよね。それで組織が崩壊しかけました。そこが一番きつかったですね。だいたい問題になるのは「組織、人」です。

僕たちの強い部分はなにかと考えると、それぞれの分野で任せきれる人間がいるということ。そういう人たちを何人集めてこれるかが、経営者の仕事だなと思います。

前田氏:もし、その時期やり直せるとしたらどう対策をとりますか。

辻氏:SaaSのTHE MODELを徹底的に作ること、そしてやせ我慢してでも、カルチャーに合う人を採用するということですね。

【IPO】 上場後に大量離職、経営者はどう受け止めるべき?

前田氏:上場時の離職は仕方がないものなんでしょうか。

辻氏:それも価値観だし、仕方がないですよね。当時は一人辞めてしまうとすごく打撃が大きくて、気持ちよく送りだせない自分がいたんです。でもそれは人の人生だし、辞めるのは経営者として足りないところがあったからなので、それをちゃんと受け入れて応援しなくちゃいけないと、最近ようやく思えるようになりました。

前田氏:辞めてしまう前に対策できたと思うこと、または辞める前提でやっておけば良かったと思うことはありますか。

辻氏:会社には時期によって必要な能力や、やりたいことがあるので、会社の成長とともに経営者も社員も一緒に課題を見つけていければいいとは思います。でも、それぞれの価値観なので辞めてしまう人は送りだすしかない時もあるでしょうね。辞めてしまうって、すごくエモ―ショナルなことで、泣いちゃうじゃないですか。今でも実はすごく傷つくし、自分の力不足を感じます。

でも、経営者としてできることは、会社のステージに必要な方がちゃんと来る仕組みを作ることだと思います。

前田氏:ビジョン・ミッションなどはどのような仕組みで、誰が決めていったのですか。

辻氏:創業時のビジョンから2年目~3年目に作り直したのが今の形です。もともとの自分の想いをもとに、社員が「こういう会社にしたいよね」「前の会社はここが良かった」などの意見を出し合って、その中で共通する価値観は何かということを探していきました。ディスカッションの過程を共有することが大事ですし、これは早い時期にやっておいたほうがラクだと思います。

たとえば49対50でどちらでも良いよね、という事象があった場合、Valueに「User Focus」があるので、迷わずお客さんが良いと思うほうを選べる。日々の議論の中の意思決定がしやすくなりますね。

【文化】サイエンスの先に「ココロ動かすクラウド」

写真左:ALL STAR SAAS FAND 前田ヒロ氏

前田氏:SaaSはARR0から1億円まではアート、ARR1億円からはサイエンス。サイエンス化するためには徹底的に数値と指標管理をする必要があると僕はよく言っているんですが、オペレーションの最適化とか、数字の世界を追求しすぎて、経営者としてビジョンや成長が弱くなる場合がある。辻さんは感じたことはありますか?

辻氏:SaaSはアートからサイエンスになり、もう1回アートに戻ると僕は思っているんです。人が意思決定をする際にはもちろん数字や合理性が必要なんですが、そこから先は「営業さんがいい人だから」とか、「きちんと寄り添ってくれる」とかエモーショナルな部分が多い。

僕らは「ココロ動かすクラウド」というコンセプトを決めてやっています。サイエンスの先、本当にユーザーさんをハッピーにさせるのはエモーション。そこを経営陣がビジョンを持ち、意識するようにしなければならないですよね。「クラウド」というのはツールにすぎません。そのツールがユーザーさんをハッピーにすることが一番大事ですし、僕たちはARRをあげるために事業をやっているわけではないですから。

【人材】マネーフォワードの「巻き込み力」の秘訣とは

前田氏:マネーフォワードは、普通のベンチャーでは巻き込めない人を巻き込んでいる印象で、辻さんの巻き込み力だなと。どういうふうにアプロ―チしているんですか。

辻氏:僕の場合は、どんな時もせっかくいただいた機会なので、お役に立てたらいいなという気持ちなんですね。たとえば銀行の頭取とお会いした際には、頭取が知らないことを少しでも教えて差し上げられたらいいんじゃないかと思って、話題を選びました。まわりの方は恐れ多くて言いづらいと思うのですが、結果として喜んでいただくことができましたね。

経営者仲間から学ぶこともたくさんあります。先日BASEの鶴岡さんや若手起業家の方々と食事をしていたんですが、鶴岡さんが「自分のまわりの5人の平均値が自分になる。だから傷をなめ合うようなことをいう人とは付き合うべきではない。自分より先をいく人のコミュニティに入り、自分の平均値をあげよう。」とおっしゃっていたんです。良いことをいうなぁ、と思いました。

他にも、Sansanの寺田さんとか、ユーザベースの梅田さんとか、いろいろな方と一緒に飲みに行かせてもらっています。社外取締役にも、東芝の取締役/代表執行役会長CEO 車谷さん、日本ペイントホールディングス代表取締役会長 田中さん。どちらも一兆円企業の方です。SaaS視点ではDNX Ventures Managing Director 倉林さん、人事面ではプロノバ代表取締役 岡島さん。

みなさん各分野で活躍されている方ばかりで、そういう方々に引き上げていただいている感じです。

前田氏:社外取締役はどのように選んだのでしょうか。

辻氏:僕は経営者として難しい意思決定をしている人、僕よりも先を行っている人の意見ならば素直に聞けると思っているので、基本は経営者を選んでいます。正しいことはわかっていてもできないことって、経営にはありますよね。その矛盾を超えて意思決定をして、体系化し、言語化できる方たちにお願いをしています。

SaaSプロダクト設計の正解とは

創業当初は「マネーフォワード ME」の1プロダクトだった同社だが、現在は4部門複数プロダクトを運営し、高成長を続けている。新しいプロダクトを立ち上げる際の基準、価格設定、顧客セグメントなど、これまでの経験やマネーフォワードの価値観について辻氏が語った。

【新プロダクト立ち上げ】会社として何をしたいのか

前田氏:新プロダクト立ち上げの際、ある程度見込みのARRを出す、など判断基準はありますか。

辻氏:組織としてある程度大きくなってきているので、新プロダクトを立ち上げる際、リソースをどこに配分すれば最適なリターンなのかという視点はもちろん必要です。でも「僕たちが何をしたいのか」はもっと重要だと思うんです。マネーフォワードという会社が世の中に存在するために、何をすべきなのか。これだったら既存のプロダクトでは提供できない価値ができる、僕らがやれば新しく世の中前に進むかどうか。大事にしている議論のポイントです。

【プライシング】 提供価値を上げれば、価格も上がる

SaaSを提供する企業にとって、難しいのがプライシングだ。サブスクリプションの形態であるがゆえに、値上げには顧客の理解が必要である。マネーフォワードでは、サービス立ち上げから7年で、プライスチェンジは1回のみ。単なる値上げではなく、もともとはバラ売りしていた商品を、30名以下の企業向けに1パッケージで提供するという新プランを提供するものだったという。

前田氏:直近でプライスチェンジをしていますね。きっかけは何だったのでしょうか。

辻氏:もともと、バラ売りと1パッケージを両方売っていたんですが、お客さまからの1パッケージのニーズがすごく高かったんです。請求書、会計、給与、経費と複数プロダクトを使っていただいたほうが、企業の生産性は間違いなく上がりますし、その提供方法のほうがお客さんがハッピーになれると考えました。

前田氏:新しいプランへの移行をスムーズにするために、どんな対策を取りましたか。

辻氏:開発も含めて、全部署が対応しなくてはならないわけで、全員が背景を理解し、同じ説明をする必要があるなというのは思いました。良いねと言ってくださるお客さまと、解約されるお客さまがどうしてもいる。その中で、きちんと同じ説明ができるというのは大事だと思います。

前田氏:SaaSは最初の値段設定が高いわけではないし、プロダクトが増えていくとパッケージ化していくほうがユーザーにとっては良い。そうなれば、プライスチェンジは避けて通れない道ですね。

辻氏:そうだと思います。僕らは7年間やってきて、初期と比べると今のプロダクトは別物といっていいくらい、プロダクトの提供価値はあがっていると思うんです。そういう意味では、今のプライシングより提供価値のほうが高いという確信はあったので、ご提供する上で後ろめたい気持ちはまったくなかったです。

社内でもよく言っているのは「僕たちの提供価値をあげよう。提供価値があがれば、プライスも上がる。」と。海外のSaaSベンダーさんは、定期的に値上げをする企業さんも多いですけど、そういうのを横目で見ながら、日本の社会にどうやったら受け入れられる形を作っていけるのかと考えていますね。

お客さま満足度と経営。収益をあげないと良いセールスをとれないし、良いプロダクトにできないので、正の循環を作るのが経営です。そして値付けは経営者しかできない仕事ですし、一番難しい仕事だと思いますね。

【顧客セグメント】顧客層の変化、選定はどう行うべきか

辻氏:最初は、個人事業主向けからはじまりました。会社が大きくなるにつれて、一緒に成長していくユーザー企業から「IPO準備に使いたい」などのご要望があったので、より大きな規模の顧客向けサービスも提供するようになってきたという経緯があります。

開発の反省としては、個人向けと法人向けを同じプラットフォームで作ってしまったことです。こんなに大きくなると思わなかったので(笑)、DBとかもすごく大変で。

前田氏:セグメントが違うと、プロダクトラインも変えたほうがいいかという議論は、意見がわかれるところですよね。経営者の中には、できるだけひとつのプロダクトにしたほうが良いという人もいる。

辻氏:ひとつ思うのは、カスタマイズはしないほうが良いということですね。マイクロサービス化で機能ごとに分けていって、それをコピーして違う風に進化できる。拡張性のある形にするというのを、もっと早くにやれば良かったというのが、一番の反省ですね。

前田氏:最初小さいところからはじまって、どんどん大きくなっていっていますよね。これはSaaSのセオリー的で、ある程度セグメントを決めてそれ以外やらないほうが良いとかいう意見もありますが。それについてはどうお考えですか。

辻氏:これもけっこう意見が分れるところですよね。経営者の性格、会社のカルチャー、やりたいことが一番最初にあり、それが大きく起因すると思います。セグメントを狭くするプレイヤーさんは、その分野で突き抜けると他をよせつけない強さがあるので。

前田氏:だいたいスタートアップは、上を見て、大きなお客さんに引っ張られますね。

辻氏:もちろん収益的に見れば、大きい会社さんを狙うほうが売上は上がりますし、そのほうが合理的です。でも合理的な意思決定はどのプレイヤーもやることなので、競争に勝てるかどうかは別問題ですよね。

【IPO】上場後からが勝負、その先に打つ弾を考えておく

前田氏:上場前に整えたほうがいいことはありますか。

辻氏:「スモールな上場をしてしまうと、そのあとの調達も難しいし、投資もしにくくなる。」ということ、そして「上場後にグロースのシナリオを考えるのではなく、上場後のクォーターに出す弾のシナリオを作っておいたほうがいい。」ということは、DeNAの執行役員である原田さんからアドバイスをいただきました。これは本当にそうだなと思います。上場がゴールではなく、そこからが勝負なので。

前田氏:辻さんは何年先まで仕込んでいたんですか。

辻氏:1~2年先までは仕込んでいました。

前田氏:予実管理が重要になってきますが、うまくなるためのポイントはありますか。

辻氏:上場準備のときに毎週、予実管理をやることにしたんです。予算をしっかり見られる体制を作っておいたのは、良かったと思いますね。

また、外にコミットメントする数字はコントロールしておくというのは経営上大事だと思います。上場すると投資家は厳しい目線で見ていますし、期待値もそれぞれ違うわけですよね。その対策として、比較的堅い数字を出しておくということですね。

前田氏:自分たちが予実管理ができると、自信を持ち始めたタイミングは何年目くらいですか。

辻氏:こういうのはすごく時間がかかることなので、IPO準備とか外圧がないと難しかったと思います。上場準備、審査に入ってから徐々に組織の力がついていきました。今は上場当時よりも、組織の力はさらに上がっています。一朝一夕には強くならないので、みんなで作っていくというのは大事だとすごく思います。

日本のSaaS業界をもっと盛り上げるために

SaaSのビジネスモデルが理解されない原因のひとつは、営業・マーケコストの行き先が見えないことだと、前田氏は指摘する。SaaSは継続売上のため、営業・マーケコストのほとんどは新規のために回していて、既存顧客はカスタマーサクセスが守ってくれている。継続売上という概念がない既存のビジネスモデルと比べると、そのギャップが理解しにくいのだという。

辻氏もまた、ちょうどセッションの1週間前に海外でIR活動を行い、海外投資家のSaaSに対する理解度の高さを感じたという。

「日本の金融機関、投資家への理解をもっと深めていかなくてはならないですよね。ただでさえ、日本は遅れてしまっているんです。外資系のSaaSプレイヤーが国内を席巻している中で、日本のSaaSプレイヤーとして、理解していただけるように頑張りたいです。我々には説明責任がある。」(辻氏)

高成長を続ける組織とプロダクトは、一朝一夕に作れるものではない。「会社として何をすべきか」「顧客のためにどうすべきか」。フェーズごとの課題に真摯に向き合いながら、カスタマーのハッピーを追求し続けてきたマネーフォワードの姿勢から、SaaS企業が学ぶべきことは多いだろう。

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