テレワーク8割が「狙い通り」効果実感 - 必要なツールは揃っている

20年夏までにテレワーク導入率35%へ
「Asana」というプロジェクト管理ツールの提供元である米国アサナが2月、株式を公開すると発表した。Asanaは、業務に関わる個々のタスクやプロジェクト全体を見通し、情報共有することで進捗状況を管理するためのツールだ。
ICTが発達し、1つのプロジェクトに参加する関係者がリモート環境で働く場面も増えたため、こうしたツールが必要となり、アサナのような企業の上場が注目された。同様のツールは「Trello」「Backlog」「kintone」などAsanaのほかにも多くあり、テレワークへの関心が高まる状況下で導入あるいは検討する企業も増えている。
東京では7月から8月にかけてオリンピックが、8月から9月にかけてパラリンピックが開催される。ただでさえ人口密度が高く、企業が集中している東京圏の道路や鉄道は、開催期間中の大混乱が心配だ。そこで東京都は、企業のテレワーク導入を推進し、交通混雑の緩和を狙うとともにワークスタイルの多様化を目指している。
テレワーク導入企業は2割にとどまる
東京都が掲げている目標は、オリンピック開始までに“テレワーク導入率35%”である。現状はどうなのだろうか。東京都の産業労働局が都内の企業を対象として2018年7月に実施し、2019年3月に公表した調査レポート「多様な働き方に関する実態調査(テレワーク)」をみていこう。
調査によると、テレワークを「導入している」企業は全体の19.2%で、東京都の目標にはまだ遠い。ただし、前年調査の6.8%からは大きく伸びており、また「現時点では導入していないが、具体的に導入予定がある」が1.6%、「現時点では導入していないが、1年以内の導入を検討している」が1.4%、「現時点では導入していないが、将来的に導入予定がある」が18.0%あり、今後の増加が期待される。導入率は従業員数が多いほど高く、30人から99人の企業だと16.2%、300人以上の企業だと31.7%だった。
これに対し、「現時点では導入していないし、導入予定もない」企業が全体で59.6%存在する。その割合は、従業員数が300人以上だと39.6%と下がるが、30人から99人だと65.8%もあり、東京都の目標達成は難しいだろう。
出典:東京都産業労働局 / 多様な働き方に関する実態調査(テレワーク)
テレワーク経験者の挙げるメリット
企業へのテレワーク導入は増えているが、テレワークを経験した従業員は多くない。過去1年間の経験を尋ねたところ、「テレワークはしたことがない」人が84.3%に及ぶ。
対してテレワーク経験者の勤務形態は、「在宅」が8.8%、「サテライトオフィス」が1.9%、「外出先や移動中にテレワーク(モバイルワーク)」が10.9%だった。
出典:東京都産業労働局 / 多様な働き方に関する実態調査(テレワーク)
在宅テレワークの経験者が挙げるメリットとデメリットは、以下の項目が多かった。「デメリットを感じていない」という回答は17.2%あり、テレワーク導入は従業員の満足度向上につながりそうだ。ただし、デメリットとして「社内の評価に不安がある」(14.1%)、「昇給、昇任に不安がある」(6.6%)という意見があり、企業はこうした不安を解消しなければならない。
メリット
- 通勤時間・移動時間の削減:69.0%
- 育児との両立:40.1%
- 業務への集中力の向上:36.4%
- 家族と過ごす時間の増加:34.5%
- 定型的業務の生産性の向上:29.2%
- 自律・自己管理的な働き方の実現:25.4%
- 創造的業務の生産性の向上:19.7%
デメリット
- 勤務時間とそれ以外の時間の管理:37.3%
- 社内のコミュニケーションに支障がある:34.8%
- 長時間労働になりやすい:23.2%
- 情報漏えいが心配:19.1%
- デメリットを感じていない:17.2%
- 周囲の社員にしわ寄せがある:16.3%
- 業務効率の低下:15.4%
- 顧客等外部対応に支障がある:13.8%
出典:東京都産業労働局 / 多様な働き方に関する実態調査(テレワーク)
出典:東京都産業労働局 / 多様な働き方に関する実態調査(テレワーク)
不安は抱えながらも全体としてはメリットを感じている従業員が多いためか、テレワーク経験者は50.9%が「ぜひ継続したい」、28.7%が「まあ継続したい」と答えた。また、未経験者も24.7%が「してみたい」、30.9%が「どちらかといえばしてみたい」としており、利用意向は高い。
出典:東京都産業労働局 / 多様な働き方に関する実態調査(テレワーク)
出典:東京都産業労働局 / 多様な働き方に関する実態調査(テレワーク)
効果は企業の「狙い通り」
従業員はさまざまなテレワークのメリットを挙げていたが、企業が導入目的とした項目は「定型的業務の生産性の向上」(50.5%)、「従業員の通勤時間、勤務中の移動時間の削減」(45.5%)、「育児中の従業員への対応」(39.2%)、「介護中の従業員への対応」(33.1%)、「その他通勤に支障がある従業員への対応」(32.5%)が多かった。
出典:東京都産業労働局 / 多様な働き方に関する実態調査(テレワーク)
そして、テレワーク導入で「非常に効果があった」項目と「効果があった」項目の合計が多かったのは、「従業員の通勤時間、勤務中の移動時間の削減」(83.1%)、「定型的業務の生産性の向上」(79.0%)、「育児中の従業員への対応」(78.4%)、「その他通勤に支障がある従業員への対応」(74.8%)という具合で、狙い通りの効果が得られたといえる。
出典:東京都産業労働局 / 多様な働き方に関する実態調査(テレワーク)
そのためか、テレワークに対する企業の姿勢は積極的だ。具体的には、「継続・拡大したい」が50.0%、「継続したいが、拡大は考えていない」が28.0%で、「継続・拡大したくない」は3.2%と少なかった。
出典:東京都産業労働局 / 多様な働き方に関する実態調査(テレワーク)
導入に向け積極的な検討を
テレワーク可能な環境を整えれば、通勤ラッシュを回避することで従業員の負担が軽減される。通勤圏外でもサテライトオフィスや住宅から作業ができると、地方の優秀な人材を集められる。
総務省が推進している「ふるさとテレワーク」という方針とも合致する。従業員が出社せず作業可能な状態なら、災害や感染症に対する備えとしてのBCP(事業継続計画)も作りやすいだろう。そのため、企業も従業員もテレワークに前向きな意見は多い。
ただし、業務の種類によっては導入の難しい環境もある。事実、企業から指摘されたテレワークを導入しない理由は、「テレワークに適した仕事がないから」が67.6%でもっとも多かった。これに「情報漏えいが心配だから」(40.6%)が続いた。
出典:東京都産業労働局 / 多様な働き方に関する実態調査(テレワーク)
テレワーク未経験の従業員が挙げた理由は、「勤務先にテレワークできる制度がない」(65.8%)に続いて、企業の回答同様「テレワークに適した仕事ではない」(38.0%)が多い。
出典:東京都産業労働局 / 多様な働き方に関する実態調査(テレワーク)
確かに、現場で作業する必要のある業務だとテレワークは無理だ。とはいえ、オリィ研究所の遠隔操作ロボット「OriHime-D(オリヒメディー)」を活用し、身体障がい者など外出の難しい人たちがリモート接客するカフェといった試みをみると、工夫の余地はあるかもしれない。必ずしも対面する必要のない仕事なら、コミュニケーションや情報共有、勤怠管理、プロジェクト管理など、テレワークに使えるツールは揃っている。
職場の習慣や前例にとらわれず、テレワーク導入の可能性を検討してはどうだろう。
