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「ウィンドウの中が20年変わっていない」 経産省がDXレポートを公表した本当の狙いと"深層の課題"

最終更新日:(記事の情報は現在から710日前のものです)
経産省が2018年に公表した「DXレポート」は2025年の壁を問題定義し、世間に衝撃を与えました。 その産みの親である経産省の和泉憲明さんにレポートの本当の狙いをじっくり聞きました。霞が関から見た危機感とは。

多くの企業経営者はDXが重要課題だと理解しているものの、思うように進められていないのではないでしょうか。経済産業省は2018年、「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」を公表し、世間に衝撃を与えました。

その産みの親、同省商務情報政策局情報経済課 アーキテクチャ戦略企画室長の和泉憲明さんに、日本企業におけるDX推進の現状分析や危機脱出への糸口などを聞きました。インタビューの前半では、DXレポートを公表した意図やDXの現状などを語って頂きます。

【インタビュー】
和泉憲明氏 経済産業省商務情報政策局情報経済課 アーキテクチャ戦略企画室長

平成8年12月 静岡大学情報学部 助手、平成14年4月 産業技術総合研究所(産総研)サイバーアシスト研究センター・研究員、産総研・情報技術研究部門・上級主任研究員などを経て平成29年8月 経済産業省商務情報政策局情報産業課企画官、令和2年7月より現職。博士(工学)(慶應義塾大学)。その他、これまで東京大学大学院・非常勤講師、北陸先端科学技術大学院大学・非常勤講師、大阪府立大学・文書解析・知識科学研究所・研究員などを兼務。

ウィンドウの中が20年変わっていない

ーDXレポートを公表された意図を聞かせてください

私が経済産業省の情報産業課に移り、「ソフトウェア産業政策を立ててほしい」と言われた時、情報産業の最大の問題は、窓の外の景色や建物が一新されているのにウィンドウの中の画面がこの20年全く変わっていないということでした。

いわゆる越境プラットフォーマーの国内進出を典型に、クラウド化やスマホ利用へと世の中が変わっているのに、ITベンダーの収益構造や情報システムの構成は全く変わっていません。これでは、我が国のIT産業、そしてそれを使わされているユーザーを含めて皆が競争力を失うのではないかと危惧しました。

ITベンダーやユーザー企業が何もしていないわけではなく、顧客に課題をヒアリングしたり、情報収集したりは十分行っていました。しかし、これは悪く言うと、我が国にIBMのホストコンピュータが入ってきた時の話に似ています。当時、日系のコンピュータメーカー各社もそれぞれホストコンピュータを作り、進化させていきました。

彼らは新しい技術を学んで、それと同等以上のものを作ることには長けていました。課題をヒアリングして、製品やサービスを改善・改造するということはできました。しかし、「その活動を続けていたらクラウドコンピューティングになったのですか」というと、そんなことはありませんでした。

となると、改善・改造という我が国の強みが、今や弱みになってきているフェーズなのではないか。「このままではいけない」という危機感を警鐘したく、「DXレポート ~ITシステム『2025年の崖』克服とDXの本格的な展開~」として、2019年にまとめ公表しました。DXという用語を用いたのは、「ITの延長上ではダメだ」という意図を持っていたからです。

経営者らの生活習慣病、不健康自慢のよう

ー日本企業におけるDX推進の現状をどう見ていますか

一言でいうと、経営者らの生活習慣病&不健康自慢ではないかと思っています。要するに、「自分たちの生活は身体に悪いと思わないし、きっと健康に違いない」という願望を持っているのです。私は、「あなたたちは本当に鏡の前で自分の体形を見たことがあるのですか」と聞いてみたいです。

自分では健康であると思っていても、階段を少しでも上がると突然死のリスクがあるくらい息が切れるような状況なのではないでしょうか。それにも関わらず、経営者同士で集まったり、業界同士で打ち合わせをしたりした際に、情報交換をしても、「おたくのデジタル化はどう?」「いやあ、全然だめだなあ」と言い合っています。

例えるなら、「この前健康診断をしたら血圧がDだったよ」「俺なんかずっとEだけど、この通りぴんぴんしているよ」と言う不健康自慢をしているのと同じなのです。願望だけで健康は回復できないですよ、と言いたくなってしまいます。

DXはばば抜き?

また、ある業界トップの社長に話を聞くと、「これはとても大切だと思ったのでDXの話題を皆に振った瞬間に、経営会議がまるで“ばば抜き”みたいな雰囲気になってしまった」と語っていました。DXの推進は総論としては賛成。必要性や意義はわかるものの、いざ自分の部署でやるとなると大変だと思っているということです。

この経営者も危機感から「“ばば抜き”みたいだ」と言ってはいますが、つまり経営者が経営をできていないのではと思ってしまいます。先ほどのダイエットや生活習慣病にたとえると、「ダイエットが重要だと思うのだが、どう思う?」と話しかけたに過ぎないのではないでしょうか。「体重が減ったかな」と体重計に乗ってもいないのです。

本来は、どういう運動をすれば良いのか、糖質ダイエットなのかたんぱく質ダイエットなのかと決め、体重計に乗り、さらに運動やダイエットを実践した後に体重計に乗るべきです。それで初めて「これは効果ある」とか、「これを続けていこう」「これをもっとやろう」と考えるのが正しいダイエットです。

それなのに、定期的に体重計に乗って「まだ体重が減っていない」「もう少し減ってほしい」と願望しているだけ。これが今の日本企業の経営、DXの現状だと思っています。

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