「競合は必ずAIを使う」AI活用に成功/苦戦する企業の違い‐日本の商習慣に最適化するJAPAN AIが描く未来

2023年に株式会社ジーニー(東証グロース上場)のAI戦略子会社として設立。AX(AIトランスフォーメーション)の伴走支援を行い、法人向けに高精度なRAGや「法人向けAI CHAT」「AI議事録」、営業やマーケティング、人事など部門ごとの課題に特化したAIエージェントサービスを次々に開発。2024年11月に自律型AIエージェント「JAPAN AI AGENT」の提供を開始。2025年7月にはジーニーの持分法適用関連会社として約19億円の資金調達を行う。
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飯田 海道氏
JAPAN AI株式会社
執行役員 CMO
マーケティング部 部長
"日本の商習慣"に最適化したAIエージェント&支援体制
―――貴社が提供されているサービスやソリューションについて教えてください。
弊社では、企業のAX(AIトランスフォーメーション)に初期段階から伴走できるパートナーでありたいと考え事業を行っています。
事業は3つの柱があり、1つ目はAIプラットフォーム事業です。企業ごとにノーコードで簡単に独自のAIエージェントを作成できる機能を提供しています。AI議事録やAIチャットといった一般的な機能も標準搭載しており、まずは議事録作成からAI活用を始めたい、といったニーズにもお応えできます。
2つ目はコンサルティング事業です。お客様の現状や中長期的な目標をヒアリングし、どのような業務プロセス改革が可能か、そのためにどうデータを整備し、AIエージェントを活用していくか、といったロードマップ策定から支援しています。
3つ目はAI開発事業です。既存のAIプラットフォームでは実現が難しい、より専門的で個別性の高い課題解決に取り組みます。たとえば、AIエージェントが活用しやすいように大規模なデータ基盤の構築などのご要望を多くいただいております。
―――御社が事業を展開するうえで大切にされている価値観は何でしょうか?
JAPAN AIは、日本企業の生産性向上をテーマに掲げています。現在、AIエージェントのツールが多数登場していますが、その中で私たちは日本の商習慣に最適化した"より実用性の高い"ものを提供することにこだわっています。

―――日本の商習慣に最適化、とはどういうことでしょうか?
日本の企業ではface to faceのコミュニケーション文化を重視する側面が今もあると思います。日本企業ならではの「人に寄り添ったサポート」を大切にし、日本の会社がAIへの適応を進めていけるよう支援を行っています。
―――AIエージェントを提供する企業が増えていますが、御社のAIエージェントの強みや特徴を教えていただけますか?
3つの事業により、「これからAIを使いたいけど、何から手をつけていいかわからない」「すでにある程度活用しているが、もう一段階レベルを上げたい」など、お客様がどのようなフェーズにいらっしゃっても、我々と一緒にAXを実現できるような体制を整えている点が特徴のひとつです。
また、先ほど挙げた日本の商習慣に最適化させるために、広告やPR、人材派遣といった特定の業界のプロフェッショナル企業と業務提携を行っています。彼らの業務の中で我々のAIエージェントを使っていただき、その業界のプロの業務に最適化されたAIエージェントを共同で開発するのです。
そうして生まれたAIエージェントを汎用化・抽象化し、「公式AIエージェント」として我々のプラットフォームに標準搭載しています。実際の現場で生まれた質の高い公式AIエージェントを、我々のAIプラットフォームを契約いただければどの企業様でもすぐにご利用いただけます。
―――そうした公式AIエージェントは、現在どのくらいの種類がありますか?
現時点で公式AIエージェントは100種類以上ありますね。営業職、マーケティング職、広報職など業務や業種に合わせたものを数多く搭載しています。

【導入事例】二段構えのアプローチでスムーズなAI導入を実現
―――貴社のサービスを導入し、業務変革を実現した印象的な事例を教えてください。
従業員数1,600名ほどの武州製薬様の事例は印象的でした。武州製薬様の取り組みが興味深いのは「短期的な成果」と「中長期的な目標」の二段構えで進めている点です。
短期的には、議事録やナレッジ検索など効果が出やすい「クイックウィン」施策を複数導入し、短期間で約266時間もの業務削減を実現しました。
その一方で、中長期的には全国5つの工場に散らばっていた作業手順書や製造マニュアルといった膨大なデータを一元化し、AIで横断的に検索できるようにする、という大きな目標に取り組んでいらっしゃいます。

―――そのプロジェクトで最も大変だった点は何でしょうか?
やはり「データを作るところ」ですね。これはどの会社様でも苦戦される点ですが、AIが読み取りやすい形にデータを統一し、一箇所にまとめる作業は、実際にやろうとすると極めて大変です。
武州製薬様のケースでも、工場によっては作業報告書が手書きだったため、それらを一枚一枚OCRでテキストデータ化し、データを整備していくといった地道な作業が必要になりました。膨大なデータを統合するには、各工場とその従業員の方々の協力が不可欠です。
そこで先ほどお伝えしたように、武州製薬様は「短期的な成果」と「中長期的な目標」の二段構えのアプローチを行いました。
―――二段構えのアプローチを行った狙いについて詳しくお聞かせいただけますか?
AI導入における最大の障壁は、しばしば「AIはなんだかよく分からない、怪しい」といった従業員の心理的なハードルです。いきなり大規模かつ地道なプロジェクトから始めると、現場の協力が得られず頓挫してしまうリスクがあります。
武州製薬様はそこで、まずは会議の議事録作成やメール文作成、資料のたたき台作成などといった分かりやすく便利な体験を社員にしてもらうことで、「AIは便利だね」というポジティブな空気感を醸成したんです。
そうして社員にAIへの理解を深めてもらいながら、本命である大規模なデータ統合プロジェクトを並行して着実に進めています。AXを効果的に進めるうえで、非常に戦略的なアプローチだと感じています。
武州製薬の導入事例記事はこちら(JAPAN AI公式サイト)
AIエージェントの注目により生まれた市場変化
―――昨今の生成AIの急速な進化は、貴社のプロダクト開発やサービス提供にどのような影響を与えましたか?
非常に大きな恩恵がありました。
まず私たちのプロダクトは、特定のアプリケーション群から「中立」の立ち位置です。
たとえば、GoogleはGoogle Workspace、MicrosoftはMicrosoft 365というように、それぞれが自社の経済圏の中でAI活用を最適化しようとしています。しかし、実際の日本の会社では「メールはOutlook、でもファイル共有はGoogleドライブ、経費精算は別のSaaS」というように、複数のサービスを横断して使っているケースがほとんどです。
私たちのAIエージェントプラットフォームは、それら個別のアプリケーション郡を「つなぎこむ役割」も果たします。つまり「AIがGoogleドライブのファイルを参照して、Outlookでメールを送る」といった、ツールを横断した動きが実現できます。

中立の立場にいる私たちにとっては「AIが進化すればするほど、私たちのAIエージェントがパワーアップする」という関係が成り立ちます。Geminiが賢くなれば私たちのAIエージェントも賢くなりますし、Microsoftのツールが進化すればそれも取り込める。音声認識や画像生成のモデルが進化すれば、それらを活用して弊社サービスの精度を向上させることができます。
―――SaaSにおけるAIの市場ニーズや顧客の期待値には、どのような変化がありましたか?
1年ほど前は、お客様のニーズの中心は「セキュアな環境でAIを使いたい」という点でした。当時はAIエージェントという概念もまだ浸透しておらず、SaaSとしてのAI議事録やAIチャットを安全に使いたいという要望が多かったです。
それが今年の5月ごろからAIエージェントという言葉が一気に浸透しました。東京のビジネス展示会では、単体のAI議事録やAIチャットだけでは注目されなくなり、「どのような特徴をもったAIエージェントなのか」というレベルで語られるようになっていますね。
―――「セキュアなAI環境」のニーズも変化しているのでしょうか?
はい、変わってきています。セキュアなAI環境といえば、ほぼオンプレミスを意味していました。「AIはデータを学習に使われるかもしれないから危ない」という漠然とした不安から、特にエンタープライズ企業ではオンプレミスでなければ導入できない、という風潮が強かったです。
しかし今は、クラウドサービスも選択肢に入るようになりました。これは、エンタープライズ企業でのクラウド活用事例が増えたことや、ユーザー側でオプトアウトの設定や、AIに渡して良いデータとダメなデータの区別といったAIリテラシーが向上したことが背景にあると思います。
ソフトウェア開発の在り方を変える「JAPAN AI STUDIO」
―――SaaSにおけるAIが浸透していくことで、将来の私たちの働き方はどのように変化すると思いますか?
まず、いくつものSaaSを個別に開いて作業する、ということがなくなるでしょう。基本的にはAIエージェントと自然言語(話し言葉)で対話するだけで、裏側でAIが必要なSaaSにアクセスし、業務を完結させてくれるようになります。
将来的には、PCに向かって話しかけるだけで経費精算が終わる、といったことも技術的には可能になるはずです。
―――そうした便利な未来で、人間に求められるものは何だとお考えですか?
「素直で良い人」じゃないでしょうか。発想力や分析力のような、いわゆる「頭の良さ」の価値は相対的に下がっていく気がします。代わりに重要になるのは、対面でのコミュニケーション能力だと思います。
コミュニケーション能力が高い人材であれば、仮にAIの出した答えがその状況では不正解だったとき、そのAIのミスを検知しやすいはずです。それは、普段から社内のさまざまな人と対話し、現場の状況を理解しているからこそできることであり、そうした能力の価値はますます高まっていくと考えています。
私たちが、ただのプラットフォーマーでなく伴走支援に力を入れるのも、こういった背景が一因です。時にはお客様のオフィスに常駐して現場の理解を深め、課題を発見したりします。
こういった人と人の信頼関係はますます重要になると考えます。
―――貴社がAI事業を通して実現したい未来について教えてください。
現在、「JAPAN AI STUDIO」というソフトウェア開発プラットフォームの準備を進めています。このサービスで私たちは、ソフトウェア開発の在り方を変えたいと思っています。
今、世の中的に普及していっているAIエージェントには課題があります。それは、作られたAI社員がそれぞれの利用者のもとで独立しており、情報や学習内容が共有されない状態に陥っていることです。
「JAPAN AI STUDIO」は、社内のデータや業務の進め方といった情報を一箇所に集約し、AIエージェントたちがその共通のコンテキストを認識したうえで動く仕組みを構築します。これにより、あるエージェントの経験や学習が、他の全エージェントに共有・反映されるようになります。

また、これまでのソフトウェア開発には、開発会社に数千万円を払って開発を依頼し、その後のメンテナンスにも多額の費用と時間がかかるのが当たり前でした。しかし、「JAPAN AI STUDIO」があれば、業務担当者がノーコードでAIエージェントを作り、プロンプトを修正するような感覚で、アジャイルに業務プロセスを改善していくことが可能になります。
これによって、企業はシステム開発にかかるコストと時間を劇的に削減できるだけでなく、AIに関する知見を自社内に蓄積していくことができます。私たちは、こうした新しいソフトウェア開発の形を当たり前にしていきたいと考えています。
「ご自身の会社がAIを使わなくても、競合は必ずAIを使う」失敗する前提でPDCAを回そう

―――AI搭載SaaSの導入で成功する企業と苦戦する企業の違いはありますか?
うまくいく企業様は、社長や経営陣が「うちはAI活用をやるんだ」と明確な意思表示をされています。一方で、社長や経営陣が疑心暗鬼なまま現場のDX推進担当者だけが頑張っているケースは、かなり苦戦している印象です。
また、苦戦する企業で陥りがちなことは「一度うまくいかなかっただけで諦めてしまう」ことです。AI活用に成功している企業様のほとんどが「失敗するのは当たり前」と捉え、フットワーク軽く試行錯誤を繰り返しています。
導入を成功させるには、「AI活用はPDCAを回していくことが前提である」という認識が必要だと思います。
―――最後に、これからAI搭載SaaSの導入でビジネスを変革していきたいと考えている経営者や担当者の方々へメッセージをお願いします。
今後AIがどれだけ進化するかを正確に予測することは誰にもできません。ですから、完璧になるまで進化を待つのではなく、まず今のAIテクノロジーでできることから着手してみてはいかがでしょうか。
私たちは、一足早くAIエージェントプラットフォームの提供を行っていますが、AIエージェントを業務に組み込むことは、数年以内には当たり前になっています。ご自身の会社がAIを使わなくても、競合は必ずAIを使います。その分、競合との競争力にも差が生まれるでしょう。その前提で、ぜひ一歩を踏み出していただければと思います。
「AIを使って何ができるかわからない」「業務に組み込むために必要なことを知りたい」といった方は、伴走支援を得意とする弊社にご相談ください。