地域や収入で生ずるデジタルデバイド、「デジタル田園都市国家構想」で悪循環を断ち切れるか
目次を閉じる
仕事でも余暇でも、ICTと無縁ではいられない時代です。買い物や旅行の予約は当然オンラインで済ませられますし、映画もインターネットの映像配信サービスで楽しめます。このように、日本での生活はすっかりオンライン化されました。
ところが、行政サービスでは、いまだに窓口へ出向いたり、紙の書類を郵送したりする必要のある手続きがたくさんあります。民間のサービスに比べ、公的サービスはオンライン化がまだまだです。
日本のICT活用状況は?
実際のところ、日本におけるICT活用はどのような状況なのでしょう。総務省が網羅的にまとめた資料「令和3年版情報通信白書」(※1)のポイント(※2)を中心にみていきます。
※1 総務省『令和3年版情報通信白書』,https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/html/nb000000.html
※2 総務省『令和3年版 情報通信白書のポイント』,https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r03/pdf/01point.pdf
インフラと端末は充実
情報通信白書によると、ICTに必要不可欠な通信インフラの普及状況は、日本が世界トップレベルです。
固定ブロードバンド回線における光ファイバーの割合は約80%あり、80%強ある1位の韓国に遜色ありません。しかも、モバイルブロードバンドの普及率は堂々1位でした。2000年にIT基本法が制定されて以降、日本では光ファイバーなどの整備が急速に進展したそうです。
こうしたデータから、総務省は「我が国のデジタルインフラは、国際的にみても普及が進んでいる」としています。
インターネット回線の利用がどんなに容易でも、接続するための端末がなければ始まりません。その点でも、日本の環境は充実しています。
情報通信機器の世帯率は、スマートフォンが86.8%、PCが70.1%です。スマートフォンの所有率が急速に高まっていて、日本においてはモバイル接続が当たり前に可能といえる状況でしょう。
なお、タブレットの所有率は高くなっていたものの、2018年以降は4割程度で頭打ちになっています。また、PCは徐々に所有率が下がってきました。
公的サービスは低利用率
ICT活用に欠かせないインフラと端末の普及は、十分です。ただし、インターネット経由で利用しているサービスには、偏りがありました。
普段利用してるサービスのうち、利用率の高かったものは以下のとおりです。このように、多くの人が日常的に多彩なサービスを利用しています。
サービスの種類 | 利用率 |
---|---|
インターネットショッピング | 73.4% |
支払・決済(クレジットカード等) | 66.9% |
地図・ナビゲーション | 61.4% |
情報検索・ニュース | 57.9% |
動画配信 | 55.6% |
QRコード決済 | 51.1% |
メッセージングサービス | 50.0% |
SNS | 48.6% |
一方、「公的サービス」の利用率は19.7%しかなく、民間サービスと差が大きい状況でした。
行政手続きオンライン化、希望する声は多いが
日本の公的なサービスは、ICT化が求められていないのでしょうか。
オンライン行政手続きの利用意向は、「とても利用したいと思う」(38.7%)と「やや利用したいと思う」(38.6%)を合わせ、77.3%もありました。行政手続きのオンライン化を求める声の多さは、外出や他者との接触を最小限にするよう求められた、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックも影響していそうです。
それなのに、なぜ「公的サービス」の利用率は低いのでしょう。電子申請サービスを利用しなかった理由を調べたところ、「電子申請できる行政手続きが限られているから」(33.2%)、「電子申請できることを知らなかったから」(28.7%)、「電子申請の使い方が複雑で使いづらいと感じたから」(22.6%)という意見がみられました。
行政手続きのオンライン化に向けた開発が進んでいないだけでなく、広報不足に加え、ユーザーの立場に立ったサービス提供が行われていないことなど、複数の要因が絡み合っていると考えられます。
ICT利用に関する格差
行政サービスは、日本中であらゆる人に提供するものです。これをオンライン化するには、ICTに関係する格差を解消しなければなりません。
“デジタルデバイド”の実態
情報通信白書では、さまざまな属性ごとにインターネット利用率も調べています。全体としてのインターネット利用率は8割以上ですが、属性別にみると大きな差が存在ありました(なお、2019年は調査内容が一部異なるため、ほかの年と単純な比較はできないそうです)。
年代別では、13歳から59歳までの利用率が100%近くに達し、6歳から12歳が80.7%、60歳から69歳が82.7%と高い状態です。それに対し、70歳から79歳は59.6%、80歳以上は25.6%と低く、行政サービスを完全にオンライン化すると取り残されてしまう層になります。
世帯年収別でも、以下のようにデジタルデバイドが現れました。
所属世帯年収 | 利用率 |
---|---|
200万円未満 | 59.0% |
200万円~400万円未満 | 73.6% |
400万円~600万円未満 | 86.1% |
600万円~800万円未満 | 90.3% |
800万円~1,000万円未満 | 91.2% |
1,000万円以上 | 93.1% |
居住地域でも差が
住んでいる地域によっても、インターネット利用の状況に差があります。
都道府県別でインターネット利用率をみると、高いのは「神奈川県」(89.7%)や「東京都」(88.3%)、「埼玉県」(86.8%)、「京都府」(86.3%)、「大阪府」(86.2%)、「愛知県」(86.0%)、「福岡県」(84.5%)など大きな都市のある地域です。逆に低いのは、「秋田県」(70.7%)、「福島県」(73.3%)、「岩手県」(74.1%)、「青森県」(75.3%)、「島根県」(75.3%)といった地域でした。
さらに、スマートフォンでインターネットを利用する人の割合が50%強から80%弱の範囲に収まっているのに対し、PC利用の割合は30%強から70%弱と幅が広くなっています。行政サービスをオンライン化するにあたっては、この点にも注意する必要がありそうです。
悪循環の連鎖を断ち切れ
所得や居住地域などの差がデジタルデバイドを生じさせ、教育や職業などの格差につながります。この格差は、デジタルデバイドをさらに広げて、格差の悪循環をもたらすでしょう。この連鎖を断ち切らなければ、日本全体の成長は見込めません。
政府主導の「デジタル田園都市国家構想」
政府は、デジタル技術を活用して地方を活性化させ、日本として持続可能な経済社会を実現しようと、「デジタル田園都市国家構想」を2021年に発表しました。
ICT基盤を公共インフラとして整備し、地方のデジタル実装を支援していくことで、都市部と地方の差を縮める考えです。地方に多くみられる高齢化や過疎化などの課題を技術活用で対策して、「『大都市の利便性』と『地域の豊かさ』を融合した『デジタル田園都市』を構築」することで、「地方の魅力をそのままに、都市に負けない利便性と可能性を」提供するとしています。
コロナ禍では、リモートワークやオンライン会議をする人が増え、遠く離れた場所でも仕事ができるようになりました。デジタル田園都市国家構想が実現されれば、住みたい場所、暮らしたい場所を生活の拠点に選びつつ、全国どこでも仕事ができて、確実に医療や行政などのサービスが受けられる社会になるかもしれません。この構想を支えるデジタル庁やデジタル臨時行政調査会の動きを、注視していきましょう。