電子カルテ導入で医療現場はどう変わるのか?メリットやその普及を妨げる課題とは
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- 電子カルテとは
- 電子カルテとレセコンの違い
- 電子カルテと連携するPACSとは
- 電子カルテに記載されている項目
- 電子カルテの目的
- 医療の質と安全性の向上
- 医療ミスの防止
- 地域医療連携と遠隔医療の促進
- 電子カルテの種類
- オンプレミス型
- クラウド型
- ハイブリッド型
- レセコン一体型
- 電子カルテのメリット
- 情報検索性と共有性の向上
- 業務効率の向上
- 管理の効率がアップ
- データ共有で診療の精度アップにもつながる
- 電子カルテのデメリット
- 導入コスト
- 患者データの漏えいリスク
- システムダウンで診療不可能に
- 電子カルテの課題
- 普及率の低さ
- 法規制
- 電子カルテの標準化
- システムの操作性
- 電子カルテの導入費用
- 電子カルテにはどのようなメーカーがあるのか
- 電子カルテシステムER - 株式会社ワイズマン
- RACCO電子カルテ - システムロード株式会社
- MegaOakHR - 日本電気株式会社
- 電子カルテの普及が医療費削減のキーポイントか
- BOXILとは
電子カルテとは
電子カルテとは、患者の診療情報を電子化して一元管理するシステムのことです。電子カルテは一般的に医療機器には分類されませんが、診断支援機能を備えたものは医療機器プログラムに該当する可能性があります。
電子カルテとレセコンの違い
レセコン(レセプトコンピューター)は医療機関で診療報酬請求を行うために使用されるシステムであり、電子カルテとは異なります。電子カルテは、医師や看護師が患者の診療記録を管理・参照するために使用し、レセコンは医療機関や調剤薬局の窓口で、医療事務スタッフが主に使用します。
なお、調剤薬局では『調剤レセコン』と呼ばれるシステムが使用されることが一般的です。
電子カルテと連携するPACSとは
PACSとは、「Picture Archiving and Communication System」の略で、医療用画像を管理するシステムのことです。病院や診療所で撮影されるレントゲンやCT・MRI・超音波などの医療用画像を、デジタル形式で保存・管理し、ネットワークを介して必要な場所で迅速に閲覧できるようにします。
PACSは電子カルテと連携し、患者の診療記録に画像を統合することで、医師が一元的に情報を閲覧できます。
電子カルテに記載されている項目
電子カルテには、患者の診療情報が詳細に記載されています。主な項目を表で示します。
| 項目 | 情報項目 |
|---|---|
| 基本情報 | 患者氏名 生年月日 性別 患者ID 住所・連絡先 緊急連絡先 |
| 診療記録 | 初診日および来院履歴 診療科名 主訴(患者が訴える症状や問題) 現病歴 既往歴 家族歴 |
| 診断情報 | 傷病名 感染症 薬剤アレルギー その他アレルギー 各種検査結果(血液検査、尿検査、画像診断など) |
| 処置・治療情報 | 処方薬および投与記録 手術記録 処置内容(注射、点滴など) リハビリ計画 |
| 看護記録 | 看護師による観察記録 バイタルサイン(体温、血圧、脈拍など) 患者ケアの内容 |
| 経過記録 | 診察ごとの記録 病状の進行状況や変化 |
| その他の情報 | 紹介状や診療情報提供書 同意書 保険情報 生活習慣(喫煙、飲酒など) |
従来はカルテに添付する形だった画像情報も、PACSを内蔵または連携している電子カルテから参照できるので、患者の情報を一括管理できます。
電子カルテの目的
医療の質と安全性の向上
電子カルテの主な目的は、医療の質と安全性を向上させることです。従来の紙カルテでは、情報の検索や共有が時間と手間を要しましたが、カルテの電子化により迅速かつ正確な情報管理が可能になりました。この効率化により、医療従事者は患者の状況を正確に把握し、より高度で安全な医療を提供できます。
また、複数の医療従事者が電子カルテにアクセスすることで、診療プロセス全体が効率化され、チーム医療の質も向上します。
医療ミスの防止
患者情報を一元管理することで、診療の効率を高めるとともに、医療ミスの防止にも寄与します。電子カルテで過去の診療履歴を迅速に確認することで、不必要な検査や処方を回避可能です。
また、薬剤アレルギーや禁忌薬の情報を即座に確認し、安全性を向上させる取り組みにもつながります。
地域医療連携と遠隔医療の促進
地域医療連携や遠隔医療の分野でも、電子カルテは重要な役割を果たします。異なる医療機関間で患者情報を共有することで、連携診療がスムーズに進むようになります。患者は自分の状況を何度も説明する負担が軽減され、医療資源の効率的な活用が促進されるでしょう。
とくに、遠隔地に住む患者が高度な医療を受ける場合、電子カルテを活用した情報共有は不可欠といえます。
電子カルテの種類
オンプレミス型
オンプレミス型電子カルテは、医療機関内に設置された専用のサーバーでデータを管理するシステムです。オンプレミス型は、データが院内に留まるため、セキュリティ面で安心感があります。また、カスタマイズが容易で、個別のニーズに応じた設定も可能です。
ただし、初期費用やメンテナンスコストが高い点が課題です。さらに、システムの運用には専門的な知識が必要であり、トラブル発生時には迅速な対応が求められます。
クラウド型
クラウド型電子カルテは、インターネット経由でデータを管理する形式です。クラウド型は、物理的な設備を必要とせず、複数拠点からのアクセスが容易です。また、システムの更新や保守がサービス提供者によって行われるため、運用負担が軽減されます。
一方、インターネット接続が必須であることや、データの外部保存に伴うセキュリティリスクが考えられ、セキュリティ対策として暗号化やアクセス制御の強化が不可欠です。
ハイブリッド型
ハイブリッド型は、オンプレミス型とクラウド型の利点を組み合わせた形式です。基幹データは院内サーバーに保存し、一部の情報をクラウドで管理することで、セキュリティと利便性のバランスを図ります。この方式は、災害時やシステム障害時にも柔軟に対応できる点が特徴です。
ただし、両方のシステムを運用するため、導入や管理のコストがやや高くなる傾向があります。また、クラウドとオンプレミス間のデータ連携を円滑に行うための技術的な調整も必要です。
レセコン一体型
レセコン一体型電子カルテは、医療機関のレセプトコンピューターと統合されたシステムです。診療記録から直接レセプトを作成可能で、事務作業の効率が大幅に向上します。とくに中小規模のクリニックで導入が進んでおり、操作が簡単であることが特徴です。
レセコン一体型システムは、医療事務の負担軽減に寄与し、患者対応により多くの時間を割ける点がメリットといえます。
電子カルテのメリット
紙のカルテが電子化されることによって、医療現場に実際にどのような変化があるのか、患者側の私たちにはいまひとつピンとこないことかもしれません。
データベース化された電子カルテは、デジタルシステムの柔軟性によって、医療現場に劇的な変化をもたらし、導入することによって大きなメリットを享受できます。
情報検索性と共有性の向上
電子カルテの最大のメリットは、情報の検索性と共有性が向上する点です。
医療従事者は必要な情報に迅速にアクセスし、診療の質を高められます。また、患者の診療履歴や検査結果を一目で把握することで、診断や治療計画の精度を向上できます。
さらに、複数の医療機関間で情報を共有することにより、重複する検査や治療を回避できるのも患者にとってメリットです。
業務効率の向上
電子カルテは業務の効率化にもつながります。手書きのカルテでは文字の判読が難しいケースがありましたが、電子カルテではその心配がありません。さらに、処方箋の自動作成や、検査結果の自動取り込みといった機能により、医療従事者の負担を軽減できます。
また、電子カルテに検査画像をリンクさせるだけでなく、画像自体にコメントを埋め込んだり、データをグラフ化したりするなど柔軟な記載も可能です。すべての患者情報を整理してデータベース管理することにより、キーワードによる検索やデータの絞り込みが簡単にできるようになります。
電子カルテ導入による効率化は、医師や看護師が患者と向き合う時間を増やし、診療の質を向上させることが期待できるでしょう。
管理の効率がアップ
電子カルテをデータベース管理することにより、紙のカルテを物理的に管理する必要がなくなり、紛失のリスクを減らすと同時に、カルテの長期間・大容量保存に必要な収納スペースを節約できます。
また、用意されたテンプレートにカルテデータを適用し、診断書や紹介状の作成機能を持つ電子カルテもあり、情報の柔軟な再利用と管理効率が劇的に向上します。
データ共有で診療の精度アップにもつながる
電子カルテの自動チェック機能により、薬の処方時に縦覧点検・突合点検を行って重複併用を避けるといった、紙のカルテで起こりがちな人的ミスを減らし、診療精度を向上できます。
また、蓄積された電子カルテのデータを、類似症例に分類して分析、データベース化することによって医療品質の向上も可能です。電子カルテを受付・予約システムと連動させることにより、患者の待ち時間短縮や、院内感染リスクの低下も期待できます。
電子カルテのデメリット
一方で、電子カルテには紙のカルテにないデメリットも存在し、電子カルテ普及に伴う課題にもなっています。
導入コスト
データベースシステムである電子カルテの導入にあたっては、初期費用が問題となることが多いです。
汎用の電子カルテシステムも存在しますが、各医療機関ごとにカスタマイズやバックアップシステムの追加が必要になる場合があり、小規模な医療機関では大きな負担となる場合があります。また、システム更新時には追加の費用が発生する可能性もあります。
患者データの漏えいリスク
患者の診療データである電子カルテは、非常に重要な個人情報であり、これが情報漏えいすることは医療機関の信用問題につながります。近年では、医療機関を狙ったサイバー攻撃が増えており、強固なセキュリティ体制の構築が求められている状況です。
また、患者データの漏えいや改ざんを防ぐためには、医療機関内部のセキュリティ管理、および内部要因による情報漏えいリスク対策も必要となってきます。
セキュリティシステムについて詳しく知りたい方は、次の記事を参考にしてください。
システムダウンで診療不可能に
電子カルテシステムにおいては、災害やネットワーク障害が要因となり、システムダウンする可能性が否定できません。このような事態に陥ると、患者のカルテ閲覧が不可能となり、結果、緊急時の診療が不可能になってしまいます。
システムダウンのリスクを最小化するために、ネットワークやシステムの多重化、バックアップ体制の整備や障害時の代替手段の確保といった対策が推奨されますが、その分設備投資費用が膨らんでしまいます。
電子カルテの課題
電子カルテの解決すべき課題について解説します。
普及率の低さ
厚生労働省は、電子カルテを2006年度までに、全国の400床以上の病院と全診療所のそれぞれ6割以上へ普及させる目標を立てていました。しかし、2020年における電子カルテの普及率は、一般病院全体で57.2%、一般診療所で49.9%と普及が遅れているのが現状です。
※出典:厚生労働省「電子カルテシステム等の普及状況の推移」(2025年8月25日閲覧)
法規制
カルテには、医師法第24条および歯科医師法第23条にもとづいた記載と、5年間の保存が義務付けられる準公式書類という法的側面があります。
電子カルテの保存に際しては、厚生労働省から「電子保存の三原則」として、「真正性」「見読性」「保存性」の3つの要件を満たすことが求められています。
真正性
記録の作成者が明確であり、虚偽の入力や改ざん、消去、混同が防止されていること。
記名・押印が必要な文書については、電子署名、タイムスタンプを付けることが必要です。また、ネットワークの転送途中で電子カルテが改ざんされないように注意する必要もあります。
見読性
保存された情報が必要に応じて迅速に表示・印刷でき、肉眼で判読可能であること。
必要な情報を必要なタイミングで情報利用者に提供できなかったり、記録時と異なる内容で表示されたりすることを防ぐための、バックアップや冗長性の確保といった電子カルテシステムの保護対策が必要です。システム障害が発生した場合においても、診療に重大な支障がない最低限の見読性を確保するための対策も求められます。
保存性
法令で定められた保存期間中、情報が真正性と見読性を保ったまま保存されること。
電子カルテの情報を保存する場合に、保存性を脅かす次の要因への対策を施す必要があります。
- データ保存自体が機器やソフトウエァの障害等によりなされていない可能性
- 記録媒体、設備の劣化による不完全な読取
- コンピュータウイルスや不正なソフトウェアを含む設備・記録媒体の不適切は管理による情報の喪失
- システム更新時の不完全なデータ移行
※参照:厚生労働省「医療情報システムを安全に管理するために」(2025年8月28日閲覧)
電子カルテの標準化
電子カルテの標準化は進んでいるものの、現時点では十分ではなく、医療機関間のデータ共有に課題があります。
電子カルテの標準化は、医療機関間での情報共有を円滑にし、医療の質を向上させるための重要な取り組みです。標準化には、Web技術を活用した標準規格「HL7 FHIR」という国際的な規格が用いられる予定です。厚生労働省は、「電子カルテ情報共有サービス」を2025年度中に本格稼働させる予定で、標準化された電子カルテを通じて医療機関間での情報共有が可能になります。
電子カルテの標準化により、問診の効率化や正確性の向上や、診療所でも安価なクラウド版電子カルテを導入可能になることが期待されています。
システムの操作性
電子カルテシステムの使い勝手が悪いと、医療従事者の負担が増え、導入効果が十分に発揮されません。
電子カルテシステムのエラー防止機能や入力チェック機能が不十分な場合、誤った記録や入力ミスが発生し、医療記録が不正確になるリスクがあります。
また、電子カルテから紙媒体へ出力する場合、診療報酬請求や医療法で定められた形式に従う必要がありますが、この対応が不十分なシステムがあるので注意が必要です。
電子カルテの導入費用
電子カルテの導入費用は、システムの種類や規模・機能・導入形態によって大きく異なりますが、費用の相場は平均すると300万円程度です。
クラウド型の電子カルテの場合、初期費用は100万~200万円、月額費用は無料〜数万円程度です。
オンプレミス型の場合、初期費用は250万~400万円、保守費用が年間で数十万円程度となります。
また、レセコン一体型のシステムの場合、導入費用がさらに増加し、約450万円前後となることがあります。
電子カルテにはどのようなメーカーがあるのか
電子カルテを導入するにあたり、どのようなメーカーを選択すべきかは難しい判断となります。電子カルテを提供するサービスを紹介します。
電子カルテシステムER - 株式会社ワイズマン
- 中小規模病院向けの汎用電子カルテパッケージ
- 部門システムとのデータ連携も容易に可能
- 介護・福祉システムとの連携にも対応
ワイズマンが提供する電子カルテシステムERは、中小規模病院の業務に特化した汎用性のある電子カルテパッケージシステムです。介護・福祉システムとの連携にも対応し、オーダや他部門の記録を引用できるため、転記作業が軽減されます。また、部門システムとのデータ連携も容易に可能で、医師と部門スタッフのスムーズな情報共有をサポートします。
RACCO電子カルテ - システムロード株式会社
- 日医標準レセプトソフトと連携
- 医療機関の規模に応じたパッケージ設定
- 内視鏡記録システムも提供
RACCO電子カルテは、「不妊治療施設向け」「産婦人科向け」「全科目向け」など、医療機関の規模や専門にあわせてパッケージングされた電子カルテシステムです。日医標準レセプトソフト(ORCA)と連携し、無駄のないコストパフォーマンスに優れたシステムを提供します。
診療支援システムでは、Web問診や診療予約システム、内視鏡の撮影や報告書作成に対応した内視鏡記録システムなど多くの機能を利用できます。
MegaOakHR - 日本電気株式会社
- 医療情報システム標準化「IHE-J」に対応
- 業務効率化と安全医療の両立
- 診療内容をもとにした経営改善をサポート
MegaOakHRは、NEC(日本電気株式会社)が提供する、「医療安全」「業務効率化」「操作性向上」「経営改善」をテーマにした電子カルテシステムです。カルテ作成の際に記録をより簡単に作成できるテンプレート機能、標準化により診療の質向上をサポートするクリニカルパス機能、一連の看護過程に沿った入力ができる看護業務支援機能などを備えています。
診療内容をもとにした医学管理料や、看護必要度の判断を支援する機能で経営改善もサポートします。
電子カルテの普及が医療費削減のキーポイントか
電子カルテは、初期投資こそ大きいものの、医療現場全体の効率化や医療費抑制に寄与する有力なシステムといえます。米国では、医療保険の多くが個人負担であることから、医療コスト削減を迫られるなかで電子カルテの普及が急速に進みました。高騰する医療費を軽減するため、電子カルテの導入が当然の選択肢になったわけです。
一方、日本では国民皆保険制度に支えられ、これまで比較的低水準に抑えられた医療費が、電子カルテ導入の遅れにつながる一因となっていました。コスト削減は必ずしも最優先事項ではなかったため、医療現場におけるシステム転換は進みにくかったといえます。
しかし現在、国民皆保険制度の財政的な不安要素が顕在化し、医療費の負担増大は避けられない課題となりつつある状況です。そのようななかで、電子カルテは情報共有の円滑化や業務改善を通じ、長期的なコスト抑制を可能にする存在として見直されはじめています。
電子カルテの早期普及は、日本の医療体制が直面する財政的問題や将来的な負担増への解決策となり得ます。電子カルテは、患者・医療機関双方にメリットをもたらすのみならず、持続可能な医療環境づくりにも寄与するでしょう。
BOXILとは
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