セールスフォースも参入「ノーコード・ローコード 」- DX推進の起爆剤になるか?
DX推進したいがIT人材を確保できない
日本ではデジタル化の必要性が以前から叫ばれていたものの、かけ声ばかりで一向に進展せず、長らく停滞していました。ところが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策でテレワーク(リモートワーク)や在宅勤務の必要性が高まり、風向きが変わったようです。
デジタルトランスフォーメーション(DX)という概念も、日本のデジタル化を推進する追い風といえるでしょう。調査会社のIDCによると、2020年から2023年にかけての対DX投資額は全世界で6兆8,000億ドル(約708兆2,200億円)規模と予想され、DXは世界的にも期待されています。
業務をDXで効率化するには、現場をよく知る従業員がITツールを使いこなす必要があります。そのためには、自らコーディングして業務用システムを構築できると理想的です。
ただし、システム開発には専門的なプログラミング知識が欠かせません。実際には無理な話でしょう。そこで、専門の社内ITスタッフや外部のSIサービス企業などに依頼して開発してもらいます。しかし、できあがったシステムは現場の求めるものと微妙にずれていて、使いづらいことがあります。
そもそも、日々変化する業務上の要望に合わせられるほど柔軟なシステムを作ることは困難です。業務のデジタル化は、やはり現場中心で取り組む必要があります。現場スタッフがIT開発者に協力するだけでは、痒いところに手が届かないことになりがちです。
ノーコード・ローコードが注目される理由
そうした背景から、コードの記述やプログラミングなしにシステムを調整できる「ノーコード」「ローコード」が注目されています。この技術を活用すると、現場の従業員が使いたい機能を自分で作れるのです。
たとえば、Webサイト制作、モバイルアプリ制作、システムどうしを接続する「iPaaS」といったサービスで活用が進んでいます。
基本的なPC知識さえあればOK
ノーコードとは、コーディングをまったく行わずに開発する手法です。これに対し、多少のコーディングをして開発する手法をローコードと呼びます。いずれも、プログラミング知識のない人でも比較的容易にシステムを開発できることがポイントです。
プログラミングなしでアプリなどを開発するツール自体は新しいものではありません。これまで高速アプリケーション開発(RAD)やコンピューター支援ソフトウェア・エンジニアリング(CASE)といった名称で呼ばれていた技術と、本質的には同じものです。現在でも、ノーコード/ローコードを指す別の表現として、「ノンプログラミング」という言葉も使われています。
具体的なノーコード/ローコード環境の操作方法は、環境によって異なります。PCの画面上で各種部品をドラッグ&ドロップして組み合わせていくものもあれば、何らかの方法で設計情報を入力してコードを自動生成するものもあります。使い方は違っても、ワープロや表計算ソフトを扱えるPCの基本知識があれば利用できるようです。
ノーコード/ローコード市場は拡大へ
DXが注目されるとともに、ノーコード/ローコードに対する関心も高まり、活用され始めました。
IDC Japanは最新の国内アプリケーションPaaS(Platform as a Service)市場予測を発表した際、企業で業務アプリケーションを迅速に開発するニーズが高まっており、ノーコード/ローコード開発機能への需要が拡大しているとし、今後の市場拡大を予想しました。
BOXILマガジンを運営するスマートキャンプも、最新版「SaaS業界レポート」で「SaaS業界の7つのトレンド」の1つとして、ノーコード/ローコードを取り上げています。具体的なノーコード/ローコードSaaSもいくつか紹介しているので、確認してみてください。
また、ジャストシステムの実施した「『ノーコード/ノンプログラミング』に関する調査」では、「ノーコード/ノンプログラミング」という言葉を知っている情報システム部門の人に(ノーコードなどを)業務に取り入れたいかどうか尋ねたところ、52.1%が「思う」または「やや思う」と回答していました。
さらに、「『ノーコード/ノンプログラミング』アプリを必要とする業務がある」と答えた人は36.6%いて、プログラミングの知識を持つ人のあいだでもノーコード/ローコードに対する期待は高いようです。
現場で開発、スピーディーに業務改善
プログラミングせずシステム開発できるノーコード/ローコードを使えば、現場で働く人が自分たちの必要とするアプリを素早く自作できます。これは、DXを推進するにあたって、理想的です。
適用可能な領域は多種多様
ノーコード/ローコードは、実にさまざまな分野で利用できます。
スマートフォン用アプリ開発ツール「Yappli」、ECサイト構築ツール「Shopify」、「Amazon Alexa」「Google Assistant」用スキル(音声対応アプリ)を作れる「Voiceflow」といったサービスが人気を集めており、適用可能な領域は多種多様です。
マイクロソフトの「Power Apps」、アマゾンの「Honeycode」、グーグルの「AppSheet」、セールスフォース・ドットコムが発表したばかりの「Einstein Automate」「Lightning Platform」なども大手ITベンダーも取り組んでいて、本格的な基幹システムと連携可能なSaaS型ノーコード/ローコード・ツールもあります。
どのような業務を行っているにしても、その業務で必要とされるアプリやサービスをプログラミングなしで開発できるツールが存在している可能性は高い状況です。
アプリ乱立の恐れも
ノーコード/ローコードは魅力的ですが、問題もあります。例えばアプリ制作の場合、IT部門から見えないところで無計画に雑多なアプリが作られると、部門や個人レベルで利用されるシャドーIT化を招く可能性があるのです。
そうしたアプリには仕様書などなく、適切な品質管理やバージョン管理が行われず、メンテナンスなしで放置されがちです。アプリの用途によっては、重大な問題を引き起こしてしまうかもしれません。
ノーコード/ローコードは、発展途上の分野です。このような弱点の存在を把握したうえで、IT部門と協力して積極的に活用していきましょう。現場がノーコード/ローコードを使って自らシステム開発に取り組めば、それがIT部門との共通言語となり、優れた業務システムを迅速に開発できる可能性があります。