働き方、DX……現場との埋まらない溝 経営層が真に認識すべき課題は?
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コロナ禍2年、今後の働き方どうする?
マイクロソフトが世界各地で実施した調査(※1)によると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの影響か、仕事よりもウェルビーイングを優先する人が圧倒的に多い状態でした。健康やウェルビーイングを優先する気持ちの程度を尋ねたところ、パンデミックを境に気持ちの強まった人が53%いたのに対し、弱まった人は6%に過ぎません。
強まった人の割合を地域別でみると、中南米の70%が目立って高く、欧州が44%とやや低いといった差があるくらいで、どの地域も強まった人が多数派です。Z世代、ミレニアル世代、X世代、ベビーブーマーといった世代別でも、大きな傾向の違いはみられません。
※1 マイクロソフト『ハイブリッドワークを成功させる秘訣を発表』,https://kyodonewsprwire.jp/release/202203188805
現場と経営層にズレ
仕事や生活に対する考え方が変化した要因の1つは、コロナ禍で広まったリモートワークです。これが働き方や生活の質を改善したのか、働く人の52%は「今後1年間にリモートワークまたはハイブリッドワークへの移行を検討」するとしました。
ところが、企業の経営に携わるリーダー層はなんと50%が「今後1年以内に従業員にフルタイムでの対面勤務を求める予定」としたのです。また、リーダーの54%が「リモートワークやハイブリッドワークへの移行以来、生産性に悪影響が出ることを懸念」しています。こうした懸念が、対面勤務の復活へとリーダーを傾かせているのでしょう。
マネージャーは板挟み
従業員とリーダー層のあいだに挟まれたマネージャーたちは、54%が「経営幹部の行動が従業員の期待とずれている」と考えていました。働く現場に近いマネージャーは、両者間の不一致を認識できています。
ただし、「自分のチームのための変革を行いたいが、十分な影響力とリソースがない」との回答が74%あり、状況の打開は難しいようです。
DXでも現場と経営層に大きな差
現場で働く従業員と、経営層とのあいだにある意識の相違は、企業のデジタル化やDXに関しても同じように存在しています。ProgateとMMDLaboが国内で実施した調査(※2)でも、経営層の認識不足が浮き彫りになりました。
※2 Progate、MMDLabo『企業のDXおよびデジタル課題に関する実態調査』,https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000069.000015015.html
デジタル化推進は働き方改善のため
デジタル化を進める必要があると考える企業の関係者は、全体の3分の2弱いました。その内訳は、「デジタル化を積極的に進めている」が26.6%、「デジタル化を進めることを検討している」が18.8%、「デジタル化を推進したいが、実行に移せていない」が17.8%です。
企業の規模別でみると、「デジタル化を積極的に進めている」大企業は50.6%あるのに対し、中小企業は16.7%だけです。中小企業の場合、予算や人材の不足が足かせになるのでしょうか。また、「デジタル化は現状必要ない」という回答は、大企業が13.3%、中小企業が38.3%で、こちらも大きな差がありました。
デジタル化推進を必要としている人に目的を尋ねたところ、「業務効率化」が45.9%で最多です。これに「働き方改革の一環」(31.9%)と「社員の生産性向上」(31.4%)が続きました。
業務の負担をデジタル化で削減できれば、ワークライフバランスの改善にも繋がる可能性があります。上位にこうした項目が並んだことから、企業内では働き方の改善が意識されているといえるでしょう。
経営層はIT人材不足を課題に感じにくい?
デジタル化の推進を難しくしている課題は、どのようなものがあるのでしょうか。推進派の人が多く挙げた項目には、「社内のデジタルスキルに格差がある」(29.3%)、「デジタル化を進めるためのIT人材が不足している」(29.3%)、「デジタル化のための費用がかかる」(29.2%)がありました。
このIT人材不足に着目したところ、企業で教育や福利厚生を担当する社員・役員・経営者は、66.8%が「IT人材採用に対する課題を感じている」と答えました。
この内訳を企業規模と役職別にみると、興味深い結果が得られました。「課題を感じている」と答えた人の割合が、大企業の教育担当社員は79.5%、中小企業の教育担当社員は69.5%と高かったのに、経営者・役員は36.0%と低かったのです。
現場の状況を把握できていないのか、経営層のIT人材に関する認識不足が顕著でした。
デジタルスキルも認識不足
社員の一般的なデジタルスキルについても、教育担当の社員と経営層には意識の違いがみられます。社員のデジタルスキルに課題があるかどうか質問したところ、「ある」と答えた人の割合は、大企業の教育担当社員が84.5%、中小企業の教育担当社員が77.5%、経営者・役員が48.0%といったように、大きな差がありました。
なお、課題の内容は、以下の項目が多く挙げられました。
課題の内容 | 割合 |
---|---|
デジタルスキルを学ぶ時間を確保できない | 32.0% |
若手社員とミドル・ベテラン社員間の デジタルスキルの格差が大きい |
29.8% |
ミドル・ベテラン社員の習得意識が低い | 26.1% |
課題はあるものの、 どれを身に付けてもらえばいいか分からない |
25.8% |
研修制度が整っていない | 25.3% |
対メタバースにも意識差が
リモートワークとオフィス勤務、IT人材やデジタルスキルの課題などについて、現場で働く従業員と、企業全体の舵取りをする経営陣とのあいだには、大きな認識の隔たりがありました。しかし、デジタル化推進で働き方を改善したい、という目的意識は共通して持っているようです。
ところで、冒頭で紹介したマイクロソフトの調査では、最近話題のメタバースが職場で受け入れられる可能性も調べています。それによると、従業員の52%が「今後1年間にメタバース内のデジタル没入型スペースを会議やチーム活動に使用することに前向き」、47%が「今後1年間に会議で自分をアバターとして表現することに前向き」と考えていました。そして、Z世代の51%、ミレニアル世代の48%、X世代の37%が「今後2年間に仕事の一部をメタバースで行うことを想定」しているのに対し、ベビーブーマーは28%だけです。
オフィス勤務にこだわる人にとって、メタバース内でアバターとして仕事をすることなど、とても受け入れられない働き方かもしれません。そもそも、メタバースを職場に採用しようとする企業は、現時点で少数派でしょう。
とはいえ、リモートワークや業務のDXも、程度の差はあれど職場や働き方を大きく変える技術、という点でメタバースと同様です。生産性を高め、働き方を改善し、生活の質を向上させる方策の導入に向けて、新しい技術に対するアンテナの感度を高め、現場の声や若い人の考えから積極的に学ぶ必要があります。