改正宅建業法の施行で不動産取引が“オンライン完結”可能に、DXの波が来るか
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「アナログ」イメージが強い不動産業界だが
さまざまな手続きを電子化、オンライン化することの重要性は、ことあるごと強調されてきました。しかし、はんこや紙の書類はいつまでも使われ続け、なかなか廃れません。それがコロナ禍という想定外の事態になり、やり取りや手続きの多くがオンラインで済ませられるようになりました。
そうした状況でも、法律の制約でデジタル化の難しいものは残っています。身近なところだと、不動産がこれに該当する領域です。
GA technologiesが不動産売買の経験者を対象に実施した調査(※1)では、56.1%の人が不動産業界に対して「アナログだと思う」とのイメージを抱いていました。「デジタル化(DX)が進んでいると思う」という回答は、その半分程度の26.1%です。
これまでの不動産取引で「不満があった」人(14.2%)と「どちらかと言えば不満があった」人(29.7%)に不便に感じた手続きを質問したところ、58.7%が「書面でのやり取りや押印などの契約手続き」、53.7%が「重要事項説明や売買契約書の説明など、購入の申込み」を挙げました。もっとも、現在の宅地建物取引業法(宅建業法)ではこれら手続きで紙の書類を使うよう定めているため、不動産業者の対策は困難でしょう。
※1 GA technologies『改正宅地建物取引業法の施行により、いよいよ「ネット不動産」解禁間近!』,https://www.ga-tech.co.jp/news/12119/
5月、いよいよ電子化が全面解禁へ
このようにデジタル化の難しい不動産取引ですが、様変わりするかもしれません。宅建業法が改正され、書類の電子化が可能になるからです。
書面の電子化が可能に
これまでの宅建業法だと、不動産の取引時に必要となる「重要事項説明書(35条書面)」と「売買契約・交換契約・賃貸契約締結時の交付書面(37条書面)」は紙の書類にしなければなりませんでした。
それが、2021年5月に改正され、2022年5月には施行される予定の宅建業法では、これら書類の電子化が認められました。電子署名やタイムスタンプといった条件を満たせば、書面への押印も不要になり、契約手続きをオンラインで済ませられる電子契約が可能です。つまり、オンライン完結型の不動産取引サービス「ネット不動産」を提供できるようになります。
書面の電子化を実験したら
国土交通省(国交省)は不動産取引オンライン化の可能性を検討するため、書面電子化の社会実験を2021年3月より実施していました。
その結果報告書(※2)によると、電子書面交付やオンライン説明でトラブルはほとんどなく、多くの人がメリットを感じていました。たとえば、「郵送時間が不要となることでスピーディーに契約できる」(賃貸:76%、売買:72%)、「書類の管理が容易になる」(賃貸:35%、売買:25%)、「拡大縮小などの閲覧がしやすい」(賃貸:19%、売買:15%)、「複製が容易にできる」(賃貸:9%、売買:9%)といった具合です。
今後も電子書面交付を利用したいか、との質問に対しては、「受けたい」(賃貸:43%、売買:51%)という回答が「受けたくない」(賃貸:9%、売買:0.6%)を大きく上回りました。
また、GA technologiesの調査では、物件の検索から面談や商談、契約に至るすべてをオンラインで完結させる不動産取引サービスについて、積極的に利用したいか尋ねたところ、14.5%が「そう思う」、39.8%が「どちらかと言えばそう思う」と答えています。
過半数がネット不動産の利用を望んでいることもあり、宅建業法の改正は好意的に受け入れられそうです。
※2 国交省『重要事項説明書等の電磁的方法による交付に係る社会実験【結果報告】』,https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001463826.pdf
内見もオンラインで
不動産の取引では、物件をあらかじめ直接確認する内見が欠かせません。コロナ禍では、この内見もオンライン化しつつあります。
オンライン内見のメリット、デメリット
GMOグローバルサインといい生活は、不動産の購入や賃貸を検討している人を対象として、不動産DXのニーズを調査しました(※3)。それによると、現地へ行かないで内見する「オンライン内見」の経験者、「知っていて利用したことがある」人は19.2%でした。また、「知っているが利用したことはない」人は47.4%で、全体の3分の2程度が存在を知っていました。
オンライン内見利用者の感じたメリットには、「自宅にいながら部屋の様子を確認できたこと」(71.9%)、「内見の日程調整をしやすかったこと」(53.1%)、「外出や接触を避けられたこと」(36.5%)、「内見のためだけに交通費をかけずに済んだこと」(26.0%)があります。
一方、利用したことのない人は、利用しなかった理由として、「実際に部屋を訪問してみないとわからないことがあると思うため」(72.2%)、「建物の周辺環境がわかりにくいため」(43.5%)といった回答をしました。
※3 GMOグローバルサイン、いい生活『不動産の購入・賃貸を検討する人の8割が「オンライン契約を利用したい」』,https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000003362.000000136.html
内見や契約まで完全オンラインを希望
確かに、移動せず内見できることに大きなメリットがある一方、その場に行かないと確認できないこともあります。賃貸にしろ購入にしろ、経済的に大きな決断をする取引なので、オンライン内見を活用しつつ、最終的にはリアルな内見は必要でしょう。それでも、全体の78%がオンライン内見の利用を希望していました。
また、内見や契約まで含め、すべてオンラインで完結可能な不動産を積極的に利用したいという人は、「そう思う」(16.6%)と「どちらかと言えばそう思う」(46.0%)を合わせ、約3分の2います。
宅建業法の改正はDXの好機
宅建業法の改正により、ネット不動産サービスを提供したり、オンライン内見を可能にしたりする不動産業者が増えるでしょう。
そのため、全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連)も業界のDXを推進しようとしています。不動産経済オンラインの報道(※4)によると、全宅連は2022年3月に開催した理事会でDX推進に注力する方針を示しました。具体的には、会員を支援するための取り組みとして、電子契約システム「ハトサポサイン」と新たな物件登録・流通システム「ハトサポBB」を提供していくそうです。
消費者は、コロナ禍で各種オンラインサービスの利用に慣れました。ネット不動産サービスを提供できれば、不動産業者もオンライン商談が行えるようになり、業務の効率化につながります。
仮想現実(VR)やメタバース、スマートロックといった最新技術の活用も検討しましょう。オンライン内見を有意義なものにしたり、リアル内見の負担を軽減したりできます。
不動産DXを推進するにあたって、改正宅建業法はよいきっかけになるのではないでしょうか。
※4 不動産経済オンライン『全宅連、22年度は会員支援でDX化注力』,https://fk-online.jp/archives/9443