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日銀が「デジタル円」の実証実験をスタート、進む中央銀行デジタル通貨の検討 - 電子マネーと何が違う?

最終更新日:(記事の情報は現在から1209日前のものです)
生活のさまざまな場面でキャッシュレス決済が広まり、現金が使われなくなりそうな勢いです。円やドル、ユーロのような法定通貨をデジタル化する、「中央銀行デジタル通貨(CBDC)」というアイデアも検討されています。近い将来、「デジタル円」が発行されるのでしょうか。

急速に広まるキャッシュレス決済

地域差はあるものの、キャッシュレス決済サービスの利用が広まりました。都市部だと、クレジットカードはもちろん、QRコードの決済に対応した店舗も少なくありません。オンライン通販ではカード払いを利用しますし、給与も銀行振込です。現金を扱う場面は減りました。有料道路を利用するときは、今やETC払いばかりです。

公共交通機関が発達した地域なら、FeliCaベースの電子マネーが当たり前のように使えます。電子マネーの形態も、ICカードとスマートフォンだけでなく、スマートウォッチなど多彩です。指輪型の「EVERING」まで登場し、話題を集めています。

こうした状況なので、業務の中でもさまざまな場面でキャッシュレス決済を利用します。業務でキャッシュレス決済した場合、条件を満たせば経費精算時に紙の領収書を提出する必要がなく、電子マネー口座への払い出しが可能となるなど、ペーパーレス化が進んでいます。

さらに、給与の支払いもキャッシュレス化されそうです。電子マネーやQRコード決済の登録アカウントに支払う「デジタルマネーによる賃金支払い」制度が、2021年度中に解禁される可能性があるのです。

現金はこのまま使われなくなるのでしょうか。

法定通貨をデジタル化するアイデア

円やドル、ユーロのような法定通貨は、国などの中央銀行が発行するものです。キャッシュレス決済技術がこれだけ進歩した時代なのだから、物理的な紙幣や硬貨でなく、デジタルデータで発行してはどうだろうか、というアイデアも当然生まれました。「中央銀行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)」と呼ばれる考え方です。

中央銀行デジタル通貨に求められる条件

デジタル通貨は、現金の代わりに取引に利用できる電子データです。電子マネーと似ていますが、求められる機能や信頼性は異なります。日銀によると、円などの通貨と同様に扱えるCBDCは、(1)デジタル化されていること、(2)円などの法定通貨建てであること、(3)中央銀行の債務として発行されること、という条件を満たすものです。

以前からCBDCの実現可能性を検討してきた日銀は、2020年10月、どう取り組むべきかの方針を公表しました。そのなかで、CBDCの必要とする特性として以下の5つを挙げています。

(1)ユニバーサルアクセス
誰でも使えるようにするため、送金や支払いで使う端末、カードなどの利用対象者を制限せず、携帯性などに配慮する。

(2)セキュリティ
偽造を困難にするなど、不正行為を防ぐ。

(3)強靭性
システムや通信ネットワークの障害、停電などが発生しても利用できる仕組みを確保する。

(4)即時決済性
現金と同様に、迅速に決済処理を完了させられるようにする。しかも、多数のユーザーが高頻度で決済することも可能にする。

(5)相互運用性
銀行や電子マネー業者などの運用する民間決済システムなどとの相互運用性を確保する。

出典:日本銀行 / 「中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み方針」参考資料

電子マネーや暗号資産との違い

電子マネーは一見CBDCと似ていますが、あくまでも決済業者が管理しているデータに過ぎません。使える店舗などは、その業者と契約しているところに限られます。基本的には、ほかの電子マネーと交換することもできず、残高を現金化することも簡単ではありません。また、商品やサービスの代金を電子マネーで受け取った店舗は、現金の入金を1カ月なり2カ月なり待つことになります。

これに対しCBDCは、中央銀行が発行する「誰でも1年365日、1日24時間使える支払決済手段」である銀行券を、デジタル化するものです。使える店を選びませんし、誰にでも送金で、受け渡しも即座に完了します。しかも、かさばる紙幣や硬貨を運んだり保管したりする必要がなく、残高を手作業で数える作業からも解放されます。

それでは、ブロックチェーン技術で実現された暗号資産とはどう違うのでしょうか。ビットコインなどの暗号資産は、発行元が中央銀行でなく、価値が保証されません。価格変動が激しく、普段の決済に使えたものではありません。

CBDCの価値は法定通貨と完全に一致するので、暗号資産のような変動はしません。現在の現金と同じ感覚で決済に使えます。

日銀はCBDCを実証実験中

CBDCは、世界各地で試験的な運用や検討が行われています。日銀も、机上の検討にとどまらず、2021年4月に実証実験を開始しました。

4月にフェーズ1を開始

実験の目的は、CBDCに求められる機能や特性が技術的に実現可能かどうか確認することです。4月に始まった今回は「実証実験(概念実証フェーズ1)」とされ、実験的なシステムを構築し、CBDCの発行や送金、還収といった基本機能を検証します。フェーズ1は2022年3月に終える計画で、その後のフェーズ2ではさらに機能を付加して検証を行うそうです。

2段階の実証実験後に必要性が認められれば、民間事業者や消費者に参加してもらうパイロット実験を行う可能性もあります。その場合は、地域や対象者は限定的ですが、いち早くデジタル円を体験できるかもしれません。

欧州中央銀行と日銀のプロジェクト・ステラ

デジタル円のようなCBDCは、他国の法定通貨との連携も想定しておく必要があるでしょう。そこで、日銀は「Project Stella(プロジェクト・ステラ)」という取り組みを行い、欧州中央銀行と共同で検討しています。

プロジェクト・ステラの調査対象は、CBDCなどの基盤となる分散型台帳技術(Distributed Ledger Technology:DLT)です。DLTが金融市場インフラに与える影響や課題を洗い出し、今後の議論に役立てようとしています。直近では、2020年2月に第4フェーズの調査報告書が公表されました。

多くの主要国はデジタル通貨に慎重な姿勢

メリットは多いのですが、安定して365日24時間使える強固なCBDCシステムの構築は技術的に困難です。それでも、脱税やマネーロンダリングを防ぐ強力な手段となる可能性があるため、各国で検討されています。ただし、プライバシー保護の観点から、CBDCの全取引を国家が監視することは許されないでしょう。CBDCの実現には、そうした法的な問題を解決する必要があります。

そのため、「デジタル人民元」に向けて積極的な中国など一部を除き、多くの主要中央銀行は慎重な姿勢だそうです。日銀も検討しているだけで、現時点でデジタル円の発行を計画してはいません。

とはいえ、いずれCBDCは多くの通貨で導入されるでしょう。デロイトが世界各地で行った調査「Deloitte 2021 Global Blockchain Survey(米国時間8月19日公表)」によると、企業経営者たちの76%は、現金は近い将来使われなくなり、今後10年でデジタル資産と法定通貨が置き換わるだろう、と考えていました。今すぐ対応を迫られることはないにしろ、意識しておく必要はありそうです。

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