ただ“デジタル化”しているだけ、トランスフォーメーションできない日本 - DX白書2023
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日本のDXは進んだか
日本でもデジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性が認識されてから、数年が経過しました。特にこの3年間は人の移動や接触が制限された影響で、DXの緊急性が高まっています。ところが、日本企業の意識や取り組みは遅れているようです。
情報処理推進機構(IPA)は2021年12月、企業のDXに対する取り組み方を日米で比べたレポート「DX白書2021」を公開し、日本企業の現状や課題を明らかにしました。
それから1年が経過し、状況に変化はあったでしょうか。新たに公開されたIPAの「DX白書2023」(※1)のなかから、特にDX人材面に注目し、「第1部 総論」(※2)と「第4部 デジタル時代の人材」(※3)をみていきます。
※1 IPA『DX白書2023』, https://www.ipa.go.jp/publish/wp-dx/dx-2023.html
※2 IPA『第1部 総論』, https://www.ipa.go.jp/files/000108044.pdf
※3 IPA『第4部 デジタル時代の人材』, https://www.ipa.go.jp/files/000108046.pdf
日本企業のDXに対する姿勢
まず、企業がDXにどう取り組んでいるかを確認します。
取り組む企業は増えたが、まだ弱い
DXに取り組んでいる日本企業は、「全社戦略に基づき、全社的にDXに取組んでいる」「全社戦略に基づき、一部の部門においてDXに取組んでいる」「部署ごとに個別でDXに取組んでいる」の合計で69.3%あり、前年調査の55.8%から増加しました。米国企業の77.9%(前年は79.2%)に近づいています。
取り組む企業は増えているものの、日本の場合は部署ごとの取り組みが比較的多く、全社的な推進が弱いようです。さらに、日本では「取り組んでいない」企業が約3割もあり、着手の遅れも目立ちます。
DXの「成果が出ている」と回答した日本企業は58.0%あり、前年の49.5%から増えています。しかし、こちらも米国企業の約9割に比べると、十分とはいえません。
デジタル化は確実に進んだ
取り組んだ内容と、それによって得られた成果について調べると、興味深いことがわかりました。
まず、「アナログ・物理データのデジタル化」について、日本企業は「すでに十分な成果が出ている」が16.5%、「すでにある程度の成果が出ている」が59.6%でした。米国企業は前者が46.3%、後者が36.9%で、日本企業の得た成果の度合いは小さいながら、成果にはつながっています。「業務の効率化による生産性の向上」の成果が得られた企業も、日本が78.4%、米国が79.1%で、同様の傾向です。
ところが、「新規製品・サービスの創出」と「顧客起点の価値創出によるビジネスモデルの根本的な変革」は、成果を得たとする回答の割合が日本企業で2割強、米国企業で約7割となり、日米で大きく異なります。取り組みの割に成果が得られないという、日本企業の多さが目立ちました。
トランスフォーメーションの意味が理解されていない
この点について、IPAはDXを「D:デジタル化」と「X:トランスフォーメーション」の2つに分けて考えます。そのうえで、日本企業において「デジタル化は危機意識と共にその推進が進みつつあります」とした一方、「トランスフォーメーションは残念ながら、まだまだその意味からして理解されていない」と指摘しました。
DXは、業務を単にデジタル化する取り組みではありません。ビジネスモデルを変革し、新たな事業を創出したり顧客を獲得したりする、トランスフォーメーションが欠かせない要素です。そのためには、組織の文化を変え、経営の視点から全社的にトランスフォーメーションまで実行しなければ十分な成果につながりません。
DX人材に対する認識は?
DX推進には、デジタル時代に必要とされるスキルを持つ人材が必要不可欠です。日本企業のあいだでも、DX人材の不足が認識され始めています。
DXを推進する人材の不足を強く実感
DXを推進する人材について、まず量の面で企業はどう考えているでしょうか。
日本企業は、33.9%が「やや不足している」、49.6%が「大幅に不足している」と回答しました。合計すると83.5%で、前年の84.8%と大差ありません。ただし、「やや不足してる」が減り、「大幅に不足している」が増えたことから、DX人材不足を強く実感している企業が多くなったようです。
逆に、DX人材が「やや過剰である」「過不足はない」とする回答は、日本企業が10.9%、米国企業が73.4%と、ここでも日本企業の遅れが際立っています。
人材の質についても同様で、DX人材不足を強く感じ始め、米国から大きく引き離された日本の企業、という状態が調査結果に表れました。
リスキリングの浸透は不十分
DXを推進するには、事業やビジネスモデルを理解している人物にリスキリングを施すと、高い効果が得られるでしょう。
そこで、企業がDX推進人材の育成にどう取り組んでいるか調べたところ、日本企業は全般的に米国企業より会社の関与が弱い、ということがわかりました。
たとえば、「DX案件を通じたOJTプログラム」を「会社として実施」している企業は、日本が23.9%、米国が60.1%です。反対の視点では、「社内外兼業・副業における経験」を「(会社として)実施・支援なし」としている企業が、日本は6.4%もあり、米国は13.0%でした。
リスキリングそのものについて、何らかの形で従業員に実施している日本企業の割合は、今回調査が56.1%、前回調査が48.3%と、広まっています。しかし、米国企業の96.6%に比べると、リスキリングが浸透しているとはいえません。
明確に描けていないDX人材像
DX推進人材に対する日米の相違は、ほかの項目でもみられます。
DXを推進する人材の人材像を設定して社内に周知しているかを尋ねたところ、日本企業は「設定し、社内に周知している」が18.4%、「設定しているが、社内に周知していない」が12.0%、「設定している最中」が15.2%でした。米国企業の「設定し、社内に周知している」が48.2%、「設定しているが、社内に周知していない」が19.9%、「設定している最中」が22.3%に比べると、日本企業はDX推進人材の明確化に取り組めていません。
また、米国企業の63.8%がDX推進人材の評価基準を定めているのに対し、日本企業で基準を設けていたのは12%だけです。ここも、日本企業はDX人材の明確化で後れを取っています。
DXのハンドルを握るのは経営陣
DX人材として欠かせないスキルやレベルを定義できないと、必要な人材を社内で選んだり、外部から採用したりする際の判断に迷います。その結果、人材確保が思うように進まず、DX推進の速度も高められません。
これは、経営視点からみた全社的なトランスフォーメーションの遅れとも連動します。DXに関する人材像や評価基準を定めるのは、経営陣の大きな役割です。DXを推進して具体的な成果へつなげるには、経営陣が自ら変革を起こし、DX人材育成への道筋をつける必要があります。
社内変革と人材育成がDX推進の両輪で、その車のハンドルを握るのは経営陣です。