株式譲渡契約書とは?ひな形付きで記載事項を解説
株式譲渡契約書とは
株式譲渡契約書とは、「会社の株式を買主へ譲渡しその対価を受け取る」という内容の契約書で、SPA(Stock Purchase Agreement)とも呼ばれます。また、企業の株式の全部または一部を取得して、その会社の支配権を手に入れることもあります。
たとえば、オーナー会社において株式の譲渡により後継者(次期社長、妻や子など)へ会社の経営権を移す場合や、既存の事業の一部を切り離して、ノウハウ・資金・人員・設備・仕入れや販売ルートなどを含む事業を譲渡する場合などで、株式譲渡契約を締結します。
株式譲渡契約書の重要性
株式譲渡契約書(SPA)は、株式の値段や保証期間その他の約束事など、利害が相反する売手と買手が合意するためにリスクや対策まで想定した、大変重要な文書です。
株式譲渡は会社の合併や分割をせずとも経営権や事業を移転できる、簡便なM&A手法でもあります。ただし、動かす金額も手続きにかかる手間や時間も大きい取引になるため、契約締結前には買収先企業から適切な手順で機密情報をもらい、デューデリジェンス(株式を譲渡する会社に対する慎重な調査や準備)を行うのが一般的です。
株式譲渡と株式投資の違い
このような経営権の移転や事業譲渡ではない種類の株式譲渡として「株式投資」がありますが、株式投資では株式の取引所や販売所で売り買いをするだけで、株式譲渡契約などの手続きは必要ありません。
株式譲渡契約書の主な記載事項
株式譲渡契約書に記載すべき10の事項について、理由とあわせて解説します。
- 基本合意事項
- 譲渡の対価
- 譲渡実行日
- 前提条件
- 表明保証
- 誓約事項
- 損害賠償
- 秘密保持
- 契約解除
- 反社会的勢力の排除
基本合意事項
まずはじめに契約書内の言葉の定義をしましょう。株式の譲渡側(売主)を甲、譲受側(買主)を乙と定義します。
次に、基本合意の根幹である下記のような株式譲渡の主な内容を記載します。
- 譲渡する株式を発行する会社の商号と所在
- 譲渡の対象となる株式数
- 譲渡する株式の対価(金額)
- 譲渡する株式の種類
なお、株式の数量の記載方法には2つの方法があります。一つ目は「具体的な株式数を記載するか」、もう一つは「譲渡する株式数割合を記載するか」です。
具体的な株式数の記載例
具体的な株式数を記載する場合、「売主は買主へ株式会社Aの普通株式〇〇株を譲渡する」と記載しましょう。
株式数割合の記載例
株式数割合の記載する場合、「売主は買主へ譲渡実行日時点における発行済株式数の〇〇%に相当する株式会社Aの普通株式を譲渡する」のように記載しましょう。
譲渡の対価
株式譲渡の対価は、売主と買主の合意によって決定します。しかし、デューデリジェンスの結果により譲渡側の会社に何らかのリスクが判明した場合には、譲渡対価の価格調整が行われます。契約締結からクロージング(譲渡対価の支払い)までの期間内に変動する会社の財産を反映させるために、「基準価格 + 価格調整額」にするという方法も可能です。
ちなみに、価格調整額は譲渡契約時点からクロージングまでの「純利益や現預金 + 運転資金の変動額」などを加味する場合もあります。
一方で、「ロックドボックス」という価格調整を行わない方式では、クロージングまでに資産の変動はあったとしてもその変動を考慮せず「株式の譲渡価額を◯◯円」と固定して取引します。
M&Aの実務で価格調整をするケースは少なく、ロックドボックスで価格を固定して決定する場合が圧倒的に多いといえます。
譲渡実行日
株式譲渡契約では、契約締結日と譲渡実行日を分けるのが一般的です。この期間は、契約締結によって関係者が同じ方向を向いて動き出し、万全の準備を整えて譲渡実行日を迎えるための期間として設定されます。
期間の長さは、契約締結日から数週間〜1か月を目安に取引の規模や事情を考慮しながら設定し、譲渡実行日を株式譲渡契約書に明記しておきます。
前提条件
株式譲渡契約における「実行前提条件」とは、譲渡実行日時点で当事者が満たしておかなければならない条件を意味します。当事者の一方が譲渡実行日時点で全ての実行前提条件を満たせなかった場合には、相手方は株式譲渡に着手する義務を負いません。
なお、前提条件として下記の内容を定めるのが一般的です。
- 株式譲渡の必要書類が揃っていること
- 表明保証の内容が全て真実であること
- 実行前の誓約事項に違反がないこと
ただし、当事者の任意の判断によって前提条件の完備を免除できます。
表明保証
「表明保証」とは、売主・買主自身の潔白や株式を譲渡する会社の内情について、一定の事項が真実かつ適正に運営されてきたことを相手方に表明し、その真実性を保証する意味があります。
株式譲渡契約書では、株式を譲渡する会社へのデューデリジェンスによってリスクが判明した場合に売主側にペナルティを課すため、もしくはペナルティがあることで偽りの表明を予防する目的で設けられています。
表明保証の内容はどのケースでも一定ではなく、デューデリジェンスの結果を踏まえて売主・買主が相談して決定しますが、一般的に記載される内容は次のとおりです。
表明保証の例 | 詳細 |
---|---|
対象株式の存在 | 対象会社の株式数は正確であり、その他に新株予約権などの潜在株式は発行していない |
対象株式の所有 | 株主の株式保有は間違いなく、株式に担保権その他の権利も付いていない |
許認可などの取得 | 事業の実施および株式譲渡に必要な許認可や事前手続きが適切に完備している |
反社会的勢力との関係 | 反社会的勢力とは無関係である |
債務および負債 | 対象会社に簿外負債や偶発債務は存在しない |
上記はほんの一例であり、譲受側(買主)のものを含めると膨大な内容の表明保証が考えられます。
誓約事項
株式の譲受側(買主)が契約締結時点で確認していた対象会社の状態が、クロージングまでに譲受側(売主)の故意・過失で変更されてしまうと、株式譲渡によるメリットや動機にも関わるため買主としては困惑します。したがって、対象会社の状況変化を抑制するために、実行前の誓約事項(遵守事項)を株式譲渡契約書に記録しておくのが一般的です。
株式譲渡の実行前後で売主・買主が遵守すべき誓約事項の例は下記のとおりです。
売主の競業避止義務(実行前)
譲渡側が譲受側企業の競業に該当する業種で仕事をすることで、譲受側企業の事業を妨害する恐れがあるため、それを禁止する規定です。競業避止の期間は2〜3年が妥当だと考えられます。
売主の重要財産の流出防止義務(実行前)
その財産が株式譲渡を手段とする事業譲渡の目的になっている場合には、財産の流失(処分)によって譲渡する事業の価値が目減りする恐れがあるため、それを禁止する規定です。
買主の雇用維持義務(実行後)
株式譲渡を手段とする事業譲渡によって従業員の一部が譲受側(買主)で再雇用される場合に、解雇することなく保証や待遇を維持して雇用を継続する約束です。
なお、デューデリジェンスで判明した懸念を譲渡日までに改善すると約束しているものや、表明保証で宣言しているものは、その内容も誓約事項に盛り込まれます。
損害賠償
表明保証や誓約(遵守)事項への違反などによって、当事者に発生した損害を補填し、被害を償うための損害賠償に関する規定です。
株式譲渡契約書では、売主と買主双方が相手方に損害賠償をする状況や条件について決めておく必要があります。とくに、譲受側(買主)は譲渡側(売主)が宣言した表明保証にある内容と実態が大きく異なっている場合、相手方へ損害賠償が請求できるようにしておく必要があります。
また、次のような項目も詳細を定めておくといいでしょう。
- 損害賠償を問える範囲
- 補償金額の上限
- 相手方に請求できる期間
秘密保持
株式譲渡では、デューデリジェンスによって財務内容・特許技術・製造ノウハウ・販売や仕入のネットワークなど、多くの機密事項にアクセスします。これらの機密事項を外部に漏洩させないために、秘密保持に関する規定は株式譲渡契約に必ず記載します。
なお、事業譲渡や経営権譲渡の打ち合わせ段階でデューデリジェンスの前にNDA(秘密保持契約書)を締結するのが一般的です。その場合には、NDAの内容を株式譲渡契約書中で引用するとよいでしょう。
契約解除
株式譲渡契約の締結から譲渡実行日までに、当事者双方に重大な債務不履行や見過ごせない状況変化が起こった場合に備え、契約の解除に関する規定を決めておきます。なお、株式譲渡契約が解除できる事由の例として下記があります。
- 実行前提条件が満たされなかった
- 表明保証に重大な違反があった
- 誓約(遵守)事項に違反があった
- 譲渡側(売主)に重大な状況の変化があった
- 天災地変など株式譲渡に優先することが起こった
このように、株式譲渡を中断するのもやむなしという事情がなければ、株式譲渡契約の解除事由として認められません。
反社会的勢力の排除
解約解除の理由としてどの契約書にも記載されるのがこの解除理由です。コンプライアンス遵守の観点から、自身が反社会的勢力であるもしくは反社会的勢力活動に加担する者は、社会的経済活動から排除されることになります。
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