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メンタルヘルスに問題を抱える患者「600万人超」の現状
厚生労働省の精神疾患データによると、ストレス社会を反映するように国内の「精神疾患を有する総患者数」は増加傾向にあり、2023年には603万人の患者が医療機関で外来受診（約576.4万人）および入院（約26.6万人）している状況です。
出典に示した資料には、精神疾患の外来患者数の疾病別割合をグラフ化したものがあり、「気分（感情）障害」「神経症性障害」「ストレス関連障害」「統合失調症」などが大部分を占めていることがわかります。
この要因には、長時間労働やハラスメントにより、メンタルヘルスの問題を抱える従業員が増加していることが挙げられ、企業活動におよぼす影響や損失が懸念されています。
※出典：厚生労働省「 精神保健医療福祉の現状等について 」（2025年12月12日閲覧）
パンデミックにより世界でうつ病が5,300万人増
世界的にもメンタルヘルスに問題を抱える患者は増加しています。新型コロナウイルス感染症（COVID-19）のパンデミックに伴い、2020年に世界ではうつ病性障害患者が5,300万人超、不安障害患者が7,600万人超それぞれ増加したことが、2021年10月にLancet誌に掲載された論文で報告されました。
※出典：U.S. Department of Health and Human Services「 Global prevalence and burden of depressive and anxiety disorders in 204 countries and territories in 2020 due to the COVID-19 pandemic – PubMed 」（2025年12月12日閲覧）
メンタルヘルスによる企業の損失は1人あたり400万円以上
日本では、メンタルヘルスに問題を抱え、休職や退職に追い込まれる従業員も少なくありません。
令和5年の厚生労働省の調査※1によると、メンタルヘルス不調で従業員が休職や退職した企業のうち、メンタルヘルス不調が要因で連続して1か月以上休業した労働者がいた事業所の割合が10.4%、退職した従業員がいた事業所の割合が6.4%といった結果が報告されています。
内閣府の資料※2によると、年収600万円の従業員が休職した場合、休職前後における周囲の従業員の残業コストを踏まえると、休職者1人あたり約422万円ものコストが発生するとされています。
退職した場合も同等かそれ以上のコストが発生すると考えられます。
※出典1：厚生労働省「 令和5年「労働安全衛生調査（実態調査）」の概況 」（2025年12月12日閲覧）※出典2：内閣府「 企業が仕事と生活の調和に取り組むメリット 」（2025年12月12日閲覧）
つまり1,000人規模の企業であれば、メンタルヘルスに起因する休職者・退職者が5人発生する計算となり、損失額は2,000万円以上に達すると見込まれます。
休職や退職まではいたらないとしても、メンタルヘルスの問題による労働生産性の低下も無視できず、企業の業績に大きな影響があるだけでなく、社会的な問題にまでなっているのです。
メンタルヘルスの市場規模
メンタルヘルス対策の重要性が高まる中、市場規模は日本はもちろん世界全体でも拡大を続けています。日本でもストレスチェック義務化や働き方改革を背景に、関連サービスへの投資が年々増えている状況です。
世界のメンタルヘルス市場規模 – 2030年には5,399億ドルへ
REPORTOCEANのレポート※1によると、世界のメンタルヘルス市場規模は2021年時点で3,974億ドルでした。2022年から2030年にかけて年平均成長率3.7%で拡大し、2030年には5,399億ドル規模に達すると予測されています。
WHOによる報告※2では世界で10億人超が何らかのメンタルヘルス不調を抱えているとされ、各国でメンタルヘルスへの投資や政策強化が進んでいる状況だといえるでしょう。
※1出典:「
メンタルヘルス市場は2030年まで年平均成長率3.7%で成長する見込み | Report Oceanのプレスリリース
」(2025年12月12日閲覧)
※2出典:WHO「
Over a billion people living with mental health conditions – services require urgent scale-up
」(2025年12月12日閲覧)
日本のメンタルヘルス市場規模 – 2033年には369億ドルへ
IMARCの調査では、日本のメンタルヘルス市場規模は2024年時点で約265億ドルでした。今後は年平均成長率3.7%で拡大し、2033年には369億ドル規模に達すると予測されています。
EAPやストレスチェックサービスの市場は、厚生労働省によるストレスチェック義務化をきっかけに、2017年以降拡大が続いています。法令対応だけでなく、離職防止や生産性向上の観点から投資を強める企業も増えており、今後も堅調な成長が見込まれる分野です。
※出典:IMARC「 日本のメンタルヘルス市場規模、シェア、動向、レポート2033 」(2025年12月12日閲覧)
メンタルヘルス市場動向 | 現状と今後
こうした状況を踏まえ、メンタルヘルス市場の現状はどのようになっているのか、そして、今後どのような成長が見込まれているのか、調査結果を確認していきましょう。
日本のメンタルヘルス政策と企業への影響
日本では2015年から、厚生労働省の制度※1により常時50人以上の労働者を使用する事業場では、年1回のストレスチェック実施が義務づけられています。さらに2025年5月の法改正により、50人未満の事業場にも段階的に対象が広がり、2028年5月までに全面施行される予定です。この制度の目的は、従業員のメンタル不調を早期に把握し、職場環境の改善につなげることです。
また経済産業省※2は、健康経営や人的資本経営を推進し、ストレスチェックや相談体制の整備を、企業価値向上への投資と位置づけています。メンタルヘルス施策は、採用力の強化や生産性の向上、優秀人材の離職抑制に直結する経営課題とみなされつつあります。
こうした政策の流れを受け、企業は法令対応だけでなく、戦略的な投資としてメンタルヘルス対策を強化していく必要があるでしょう。
※1出典:厚生労働省「
ストレスチェック制度について
」(2025年12月12日閲覧)
※2出典:経済産業省「
健康経営
」(2025年12月12日閲覧)
中小企業のメンタルヘルスケアが課題
厚生労働省のデータによると、メンタルヘルス対策に取り組んでいる国内事業所の割合は、令和5年で63.8％です。
事業所の規模別にみると、50人以上の事業所は90％を超える割合である一方、10人～29人の事業所は55.7％でおり、中小企業のメンタルヘルス対策への取り組みが課題であることを示しています。
※出典：厚生労働省 2 職場におけるメンタルヘルス対策の状況「 メンタルヘルスケアに取り組んでいる事業所の割合及び事業所規模別割合 」（2025年12月12日閲覧）
企業のメンタルヘルス対策への取り組み
厚生労働省の調査では、企業のメンタルヘルス対策の取り組みとして多い順に、「ストレスチェックの実施」「職場環境の評価および改善（ストレスチェック集団分析を含む）」「事業所内でのメンタルヘルスに関する相談体制の整備」などが挙げられています。
対策を実施している企業の多くはストレスチェックの実施や分析をもとに、制度や体制の整備に積極的に取り組んでいることがうかがえます。
ストレスチェック実施比率が高まるなか、メンタルヘルス対策への取り組みは分野によって外部委託先を使い分ける方向にあるようです。
次の記事ではストレスチェックサービスや外部への相談窓口サービスをまとめて紹介しているので、ぜひご覧ください。
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ストレスチェックの全体像
このストレスチェックは、50人以下の事業所に関してはしばらくの間は努力義務とされていますが、従業員数50人以上の対象企業は最低で年1回の実施が義務付けられ、希望する高ストレス者には面接指導も行う必要があります。
実施準備
ストレスチェックを実施するにあたっては、事業者である企業が中心になり、衛生委員会などを設置して実施準備を行う必要があります。
具体的には実施目的や方針・方法の決定があり、個人情報を取り扱うことによる結果の保存方法、結果の提供に関する同意取得をどのように行うかなどが含まれ、従業員に対する説明と情報提供を行っていきます。
ストレスチェック実施
さまざまな準備が整った時点で、ストレスチェックを実施します。
担当の医師（産業医）や保健師などを交えて行われ、結果は従業員に直接通知されます。結果の提供に同意していない場合、相談窓口などを活用してセルフケアを行います。
また、結果の提供に同意していた場合は、企業側にも個人ごとの結果が通知されます。
対象者の面接指導
ストレスチェック実施後は、担当医師が高ストレスであると判断した対象者に対し、面接指導の申し出を企業に行うよう勧めます。
これを対象者が受け入れ、企業に申し出を行うことにより面接指導が実施されます。
面接指導実施後は、担当医から企業へさまざまな勧告が行われ、必要に応じて企業は対策を行うことになります。
集団分析と活用
ストレスチェック実施後に行われる、個々の高ストレス者への対応とは別に、担当医は結果を職場ごとに集団分析し、事業者に情報提供します。
この結果をもとに、企業側では職場環境の改善を実施していきます。
全体評価と改善
全体プロセスが完了後、企業は高ストレス者への面接指導の結果と、集団分析の結果をもとに職場環境改善の実施と点検、確認を行い、次回のストレスチェックへのフィードバックを行っていきます。
企業が行わなければならないこと
これらのプロセスは推奨されるストレスチェックの全体像となりますが、企業が必ず行わなければならない義務領域、実施を努力すべき努力義務領域、実施が推奨される領域に分けられます。
義務領域
- 実施体制づくり
- 実施者となる医師・産業医、事務従事者の確保
- 対象従業員への周知徹底
- 回答結果のセキュリティ環境整備
- 面接指導を行う医師・産業医の確保
- 面接指導の申出手順の確立
- 5年間の記録保持
- 労働基準監督署への実施報告
努力義務領域
- ストレスチェック結果の集団分析
- 集団分析を踏まえた適切な措置、ソリューションの検討・実施
推奨領域
- 外部相談窓口の設置
- 全従業員を対象としたメンタルヘルス教育
- メンタルヘルスに精通した医師・産業医の確保
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メンタルヘルスケアはツール活用と社内整備の両輪で
ストレスチェックの義務化により拡大傾向にあるメンタルヘルス市場ですが、実際には、専門的な知識を必要とするストレスチェック分野以外は、社内での環境整備に力を入れる企業が増えているようです。
従業員のこころと身体の健康は定量的に判断することが難しい問題であり、だからこそ多様な取り組みと企業独自の対策が求められているのです。
メンタルヘルスケアに関しては、合理化できる分野はツールやアウトソーシングを活用し、それ以外の分野ではじっくりと社内取り組みを継続するといった流れがこれからの主流となっていくことでしょう。
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