注目クラウドサービスのユーザー企業にインタビュー!
新連載「ホットベンチャー・ケーススタディ」では、注目のベンチャー企業のサービスを利用しているユーザー企業に取材し、導入前の課題や導入経緯、導入効果などを聞いていきます。
第1回で取材したのは、元は石灰石を扱う石屋でありながら、現在はワイヤレス温度計といったIoTデバイスまで手がける廣浦です。
平均年齢64歳というベテラン企業の廣浦は、増え続ける顧客管理のためにITサービスの活用を決定。2年前からサイボウズの「kintone」を本格的に導入し現在に至ります。今回は廣浦の皆さんに、kintoneの導入エピソードを聞きました。
石屋からIoT事業にシフト、きっかけは酒蔵からの相談
ーー御社の事業を教えてください
以前は石灰石を主に扱う石屋で、建築や肥料用途の製品を販売していました。しかし、中国が安く製品を出してくる中で、需要が減ってきました。そこで8年ほど前から、ワイヤレス温度計というIoTデバイスを販売開始し、今では事業の柱になっています。(遠藤さん)
ーー石屋からIoTとはいきなり事業範囲が変わりましたね。
8年前に日本酒の酒蔵さんから相談を受けたのです。酒蔵では、麹を作る時に、まる2日間付きっきりで温度を管理します。寒い時期なのに、2時間おきに温度をチェックしなければならないというのです。そこで、我々でスマートフォンで遠隔地の温度をチェックできる「kojimori」を開発したのが始まりです。(遠藤さん)
ーー麹のチェック以外にも、いろいろと活用できそうですね。
もちろん、酒蔵さんだけでなく、温度管理が重要なところからいろいろと引き合いをいただいています。今ではスキー場や温泉旅館、ビニールハウスなどにご利用いただいています。(遠藤さん)
顧客が増えてくると紙での管理が難しくなってきた
ーーkintoneを導入する以前、どんな課題があったのですか?
8年前に「kojimori」の販売を始めた後も、それまでと同じように紙で仕事を管理していました。エクセルで作成した「かんばんシート」を印刷して、そこに手書きしていたのです。昔は、建材屋とか左官屋だけと取引していたので、管理しなければならない顧客数が少なかったのです。それに、商品も規格が決まっているものだけだったので、手間もかかりません。
でも、「kojimori」はお客さまそれぞれのニーズに合わせて設定していますので、環境を覚えきれません。出荷が完了するまでは壁にかんばんシートを貼っているのですが、完了すればファイリングします。その後、問い合わせがあると、ファイルをめくってシートを探し出さなければならないのです。お客さまが100件を超えたあたりから手に負えなくなってきました。(赤間さん)
ーーkintoneを導入するきっかけはなんでしたか?
かんばんシートのようなものを簡単に作れるアプリやウェブサービスを探しました。我々は、2000年ごろに「Lotus Notes」のアドオンソフトを日本語化して売っていた時期もありました。そのため「Lotus Notes」のように非定型の機能を作成できるサービスがあればいいなと思っていたんです。
一度、「WordPress」というオープンソースのCMSをカード型データベースとして利用しようとしました。しかし、本を買って読んだのですが、どうしても難しくて。そんな中、kintoneのことを知って試したのがきっかけです。これが3年くらい前のことです。そこから、いろいろとアプリを作りました。(廣浦 代表取締役・廣浦雅敏さん)
導入に抵抗はあったが今ではなくてはならないツールに
ーーkintoneの導入はすんなり進みましたか?
時間はかかりました(笑)。kintoneを使い始めてから、本格稼働するまでに1年くらいかかっています。ほとんどのkintoneアプリは社長が作っていて、使うように指示されます。まずは、最初に入れておかなければいけない必要な情報を入力するのが面倒でしたね。みんなで分担して作業しました。(永田さん)
ーー初期データの入力が終わったら問題なく運用できましたか?
今にして思えば便利なんですけど、最初は使い方が頭に入ってこなくて。kintoneの解説本を渡されたんですけど、読めないんです。だから、自分なりのマニュアルを作って、何を入れるのか書いたんです。会計アプリは和暦なんですけど、kintoneアプリは西暦なので、その変換表も手書きして。
でも、そのおかげで電話応対が楽になりました。以前は営業の人が出ているときに電話がかかって来ると、私たち事務員が「ただ今いませんので」と答えるのですが、人によっては気分を害されてしまいます。
kintoneを入れたことによって、お客さまの名前で検索するとすぐに情報が出るので、だいたいの内容を見てそこで一言「○○様、○○の件ですね」って言うと、相手の態度ががやわらぐんです。そして、それを問い合わせデータベースに入力しておけば、営業の人が外出先で見て、必要に応じて対応してもらえます。
私は昭和52年から働いているので、もう40年近く勤めています。もし体調を崩したりやめたりしても、引き継ぎしなくても誰でも仕事を進められるので気軽です(笑)(永田さん)
ーー顧客管理以外のアプリもありますか?
見積もりや顧客設定、仕入れ先、問い合わせ、貸し出し機材、契約書、賃貸契約、商標特許、連絡先、お中元・お歳暮、決算資料、クラウドアカウント、DM住所、業務監査、議事録など、何十個もあります。私が普段よく使うのは5つくらいですね。(遠藤さん)
ーーそんなにたくさんのアプリを使うのは大変ではないですか?
たしかに、他の仕事をしているときに電話を受けると、その後問い合わせ内容を登録しなければならないので、一時仕事が中断してしまいます。でも、データを入力することで、ミスが減ったり、引き継ぎが楽になります。今では、kintoneのページは画面に出しっぱなしになっています。(遠藤さん)
日本語がわからない外国人でも簡単に使えるUIがGood!
ーー外国の方もいらっしゃるのですね。
クリッサです。ギリシャの学生ですが、インターンで来日しました。まだ日本は3週間目で、あと6か月滞在する予定です。ハンガリーの「Sunbears」というクラウド製品のマーケティングを担当しています。(クリッサさん)
ーーkintoneを業務で使ってみてどうでしたか?
ギリシャでは普段エクセルを使っていて、ここに来て始めてkintoneを使いました。私は日本語ができませんが、少し教えてもらえれば、すぐにkintoneを使えるようになりました。UIが日本語でも、見やすくてわかりやすいので簡単でした。たくさんのデータを整理するのも楽ですね。(クリッサさん)
記事中で紹介したサービス
サイボウズの「kintone」は業務で利用するアプリを手軽に作成・運用できるサービスです。従来はエクセルで管理していたような作業をすべてクラウド化し、手軽に確実に情報を共有し、活用できます。従業員同士のコミュニケーション機能も充実しているのが特徴です。価格も1ユーザー780円からと安く、無料お試し期間も用意されています。
インタビュー後記
廣浦は、品川の歴史を感じさせるビルに入っていました。歴史のある石屋といわれればもちろん納得ですが、IoTをメインにしているというのは驚きました。そして、海外の方をインターンとして何人もいらっしゃるのにもびっくりしました。
本文に登場するクリッサさんにもしびれました。美女が目の前に座ったので「I'm a writer.」と言ったら、「Writer? Perfect!」と髪の毛をふぁさーっとしながら笑いました。まるで、ヨーロッパの外資系企業に来たみたいでした。
kintoneの導入に関しては、目的意識をしっかり持ち、最短距離で導入できたという印象を持ちました。ユーザー数がそれほど多くない割に、アプリの数が多かったので驚きましたが、ITが苦手な中高年の方たちも頑張って使いこなしているのがさすがです。
ライター歴は19年目で、ベンチャー企業のサービスをビジネス目線で紹介する記事を多数手がける。執筆業以外に、飲食店「原価BAR」を運営するハイテンションや海底熟成ウイスキー販売会社であるトゥールビヨンなども経営している。連載記事は、ASCII.JPの「スタートアップ DIVE!」など。