CXのパイオニア「Zendesk」が提唱する"AI on SaaS" - 76%の担当者が使うシャドーAIを防ぐために

顧客とのあらゆる接点を一元管理し、優れた顧客体験(CX)の実現を支援する。電話、メール、チャットボットなどのオムニチャネルからの問い合わせを「チケット」として管理し、AIエージェントが対応の一部を自動化することで、サポート業務の効率化と品質向上を両立させる。顧客サポートだけでなく、社内ヘルプデスクをはじめとした従業員体験(EX)向上にも活用できる。
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【画像:左】
株式会社Zendesk
代表執行役社長
森 太郎氏
【画像:右】
株式会社Zendesk
最高技術責任者室 プリンシパル プロダクト ソリューション マネージャー
吉岡 さやか氏
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46億件の「解決」から生まれた、顧客の「本当の課題」を達成するAIエージェント
―――最初に、Zendeskがビジネスを展開するうえで大切にされているミッションや価値観について教えてください。
森:Zendeskはグローバルミッションとして「あらゆる人々が卓越したサービスを享受できる世界を実現する」を掲げています。
問い合わせされる方は、何かしらの課題や問題を抱えているので、ネガティブな状態から始まっています。それを迅速かつ最適な形で回答することで、お客様をハッピーな状態へと転換させるのがひとつのゴールです。個別の課題解決を通じて顧客のビジネス、ひいては社会全体へ貢献していくという価値観が、私たちのソリューションの根幹にあります。
競合他社と比較しても、弊社のようにCX(顧客体験)に特化したサービスは珍しく、これは私達の大きな強みです。ちなみに、顧客体験を表す「CX」という言葉は、Zendeskが業界に先駆けて提唱してきたと自負しています。
―――幅広い解釈が可能な「CX」ですが、ZendeskではCXをどのように考えていますか。
吉岡:Zendeskでは「企業との初めての問い合わせから商品購入後のやり取りまで、一連の体験を通じて顧客が受ける印象」と定義しています。誰かからの問い合わせを受け、それを解決に導く、あるいはサポートする行為のすべてがCXに含まれます。
現在、私たちはCXとしてお客様サポートと従業員サポートの2つのパッケージを提供していますが、問い合わせを解決するという本質は相手が誰であっても変わりません。また、電話、メール、チャット、Webといったチャネルも問いません。このように顧客の社内外を問わず、さまざまなオムニチャネルにも対応した我々のソリューションは、日本市場でも世界でも唯一無二の存在だと考えています。
―――そのようなCXに向き合うべく、提供している具体的なソリューションを教えてもらえますか。
吉岡:代表的なサービスが「AIエージェント」です。従来のAIは一次対応に留まっていましたが、ZendeskのAIエージェントは解決に至るまで対応します。大まかな流れとして、まずはお客様の問い合わせをもとに本当の意図を「理解」します。次に、状況を「判断」し最適な提案を考えます。そして最終的に「実行」します。
たとえば、会話の中で「プラン改定で月額費用が高くなった」とお客様が発言した場合、単に解約を受け付けるのではなく、代わりに低価格なプランをAIが提案します。
お客様が「値段が上がったから解約する」と言っていても、AIが本当の課題は料金であると理解し、「3,000円以下なら継続してくれるだろう」と判断します。そして下位プランを提示し、「広告が入りますが良いですか」と確認したうえで、プラン変更まで実行するという流れです。

森:本質的な課題解決へと導く、AIエージェントをはじめとしたソリューションの根本には「チケット管理システム」があります。Excelや紙で管理されているやりとりを電子化する。チャネルごとに分断されていた情報を取りまとめる。そうやってあらゆる問い合わせをチケットとしてトラッキングすることが、AIを導入する土台として大事です。
このようなDX化された基盤があるからこそ、AIが効果的に機能します。実際、弊社は46億件※の解決チケットを保有しており、これらのデータをもとにAI開発を進めています。
※2025年10月12日時点の数値
担当者の76%が使う"シャドーAI"を「AI on SaaS」で防ぐ
―――SaaS×AI市場が盛り上がってきた現在、SaaSの提供価値は変わっていくでしょうか。
森:AIは最近バズワードになっていますが、「経営課題やお客様の業務を改善する」というSaaSの本質は変わりません。多くの企業がAIの導入自体を目的化しがちですが、AIはSaaSを支えるに過ぎません。そのため、DXによって業務基盤が整備されていなければ、AIによる価値は生まれないでしょう。
システム化、Web化、そしてAI化と、技術は変われど本質は同じです。そのうえで我々は、AIでより生産性を高めていくことがひとつの使命だと考えています。
―――AI活用の期待が高まる一方で、現場レベルではどのような課題が生まれているのでしょうか。
森:近年、会社が認めていない生成AIツール、「シャドーAI」の利用が蔓延しています。コールセンターやお問合せ窓口の現場では、会社が公式なプラットフォームを用意できておらず、従業員が個人で生成AIを利用している状況です。弊社の調査レポート「CX Trends 2025」によると、日本のサポート担当者のうち76%がシャドーAIを利用しているというデータもあります。
シャドーAIは情報漏えいのリスク以外にも、個人のノウハウが組織に還元されず、会社の資産が損なわれる事態を引き起こします。そのため、会社としては、統合されたプラットフォームを提供し、こうした機会損失を防ぐ必要があるでしょう。その点において、AIが組み込まれたSaaSであれば、個人情報を入力してもリスクが低く、それぞれのSaaSに最適化されたAI機能を利用できます。
これらをふまえると、今後のSaaSベンダーには、基盤となるSaaSの上に業界や業務に合わせてチューニングされたAIを組み込む「AI on SaaS」「SaaS with AI」という考え方が重要になります。
各SaaSの中だけで最適化されたAIだからこそ、お客様は安心して高精度なAI機能を利用できる。その価値を追求していくべきだと考えています。
―――その他にSaaSベンダーが意識すべき点はありますか。
吉岡:場合によっては、ベンダーがバックエンドで選択するChatGPTやGeminiといった異なるAIモデルへの乗り換えも求められます。性能やセキュリティなど、さまざまな観点から最適なAIモデルを選ぶには、業界知識に長けたSaaSベンダーの力が必要だからです。
SaaSベンダーがバックエンドで使用するAIモデルを最適化しているからこそ、ユーザーは見慣れたUIをそのまま使い続けられます。これこそがSaaSの大きな利点ですが、反対にSaaSベンダーが意識すべきポイントとも言えるでしょう。
日本企業がAI活用で直面する3つの壁
―――Zendeskがグローバルに事業を展開される中で感じた、日本企業特有のAIに関連する課題はありますか。
森:はい、大きく3つの壁があると考えています。1つ目は「言語と文化」、2つ目は「セキュリティと信用」、そして3つ目が「組織のナレッジ継承」です。
―――最初の壁である「言語と文化」について教えてください。
森:まずは、AIの日本語対応が挙げられます。傾向として、日本人は他の国以上に高い精度の日本語を求めているように感じます。たとえば、アメリカでは多様なバックグラウンドを持つ人々がいるため、英語の表現方法が少し独特であってもコミュニケーションの幅として受け入れられます。
しかし、日本では助詞の使い方やイントネーションを含め、正確さに対する要求が非常に厳しいです。これに対し、私たちは2つの解釈をしています。
1つは、AIの回答の正確性はもちろん、敬語や業界特有の用語への対応が日本市場でAIを活用させる鍵となること。もう1つは、ユーザー側がAIの回答に対してある程度の「寛容さ」を持つ必要があることです。即時に返答してくれたり、24時間対応してくれたりするメリットと引き換えに、多少正確さに欠ける日本語でも受け入れる寛容さが重要だと思います。

―――2つ目の「セキュリティと信用」の観点はどうでしょうか。日本企業は不確かなことに消極的な態度を取りやすいと感じています。
吉岡:おっしゃる通りです。特に「AIがどのようなプロセスで回答に至ったのかがわからない」という点に懸念を持つ企業は少なくありません。私たちのソリューションでは、AIがどのようなプロセスでその回答に至ったのか、そのプロセスをすべて可視化し、管理者がチューニングできるようにしています。これからはAIのブラックボックス化を防ぎ、信頼の壁を乗り越える工夫が求められていくでしょう。
森:また、データサーバーの設置場所や日本基準の第三者認証についても注意すべきです。Zendeskはデータセンターを東京と大阪に国内2箇所設置しており、政府認定のISMAP取得を目指すなど、日本の厳格なセキュリティ要件にも対応しています。日本市場での普及を考えるなら、日本人のセキュリティの関心に合わせた対策が、今後いっそう必要になるでしょう。
―――最後に組織のナレッジ継承における課題について教えてください。
吉岡:日本企業にありがちな「勘と経験」に頼る構造はAIの活用において大きな障壁だと言えます。ノウハウが個人の頭の中に留まるため、その人が辞めてしまうと業務の進め方がわからなくなります。人間だけでなく、AIが活用する観点においてもマニュアルやFAQの整備は欠かせません。
これまではシニアの人がマニュアルでトークスクリプトを作成したり、OJTで伝えたりしていました。それが、システム化およびマニュアル化されることで、AIが全てのログを取り、データベース化してくれます。これにより運用が自動化され、効率も上がります。個人の知見をデータとして蓄積していく地道な取り組みこそが、AI活用の成否を左右するでしょう。
AIが8割の業務を代替し、人間が顧客ロイヤリティ向上やCSを経営に活かす未来へ
―――テクノロジーの進化が加速する中で5年後のビジネスや私たちの働き方はどのように変わっていくと予測されますか。
森:「CX Trends 2025」に掲載したデータによると、日本の62%のCXリーダーが、今後5年間で企業とお客様のやり取りが5倍に膨れ上がると見ています。そのため、この増大するコミュニケーション量に対し、企業はAIを活用して品質と効率を両立させながら対応する必要に迫られるでしょう。
それと同時に、将来的には顧客対応業務の80%をAIによって解決可能にする目標もあります。AIが解決できる業務としては、複数のチャネルをまたいで顧客に応答したり、担当者の対応をサポートしてくれたりするものが考えられます。
そうして残る2割の業務は、人が対応すべき複雑な課題や高品質な回答を求められる案件です。これにより、人は単純作業から解放され、顧客ロイヤリティの向上やCS(カスタマーサクセス)を経営に活かすといった、より創造的で付加価値の高い業務へシフトしていくと思われます。
―――AIを活用する範囲は、さらに広がっていくのでしょうか。
森:はい。AI活用の波は、社外の顧客だけでなく、人事や総務、IT部門といった社内ヘルプデスク、つまり従業員体験(EX)の領域にも急速に拡大すると考えています。そのため、社外の顧客だけでなく従業員に対しても質の高いサポート体験を提供することが、企業の競争力に直結するでしょう。
日本語で専門的なプログラムを動かせる「技術の民主化」を目指す

―――AIの現状と将来を踏まえ、Zendeskとしてはこれからどのようにサービスを展開していく予定でしょうか。
森:Zendeskは創業以来、特に日本市場においては、中小企業および中堅企業に広く受け入れられてきました。これからはエンタープライズ企業、たとえばより複雑で大規模、かつ堅牢なソリューションが必要とされる顧客にもさらに受け入れられるのではないかと考えています。AIを活用し、CXもEXも効果を実感してもらえるように努めてまいります。
また、既存のお客様に対するカスタマーサポートも充実させていきたいです。たとえば、Zendeskのユーザーコミュニティである「Zenlab」を活性化するべく、施策を検討しています。
―――AIを活用したサービスのうち、近日中に展開予定のものはありますか。
吉岡:2025年に私たちが目指すのは「技術の民主化」です。専門的な知識がない方でも、自然言語※で指示するだけで必要なレポートや簡易的なアプリが作成できる世界を実現し、現場主導のDXを加速させたいと考えています。これまで専門家にしかできなかったデータ分析やツール作成が、AIのサポートを得て会話しつつ考察し、回答にたどりつくような感覚で可能になるイメージです。
※編集者注:日本語や英語のように人間同士が意思疎通の際に一般的に利用する言語。ITの文脈においては、人間がコンピュータに指示をする際に用いる「プログラミング言語」と対比して用いられる
AI時代のシステム選定は、機能比較より「ビジョンへの共感」がカギ
―――最後に、SaaS×AIが拓く未来について、読者へのメッセージをお願いします。
森:経営者やDX推進者にとっては、ビジネスのゴールや問題解決が主軸であると思います。SaaSもAIもツールです。ビジネスゴールの実現や課題解決の支援を念頭に、単なる機能評価や価格比較ではなく、ビジョンに共感して導入を検討することが大切なのではないでしょうか。
Zendeskとしても、優れた顧客体験を提供する思想とマッチしているか、ともに成長していける「伴走者」であるかどうかを重視し、導入を検討いただきたいです。
お客様のビジネスを改善すべく、製品の提供はもちろん、カスタマーサクセスによるサポートや、進化し続けるAIをあわせて提供します。Zendeskを使ったことがある方やご検討されている方には、どのようなCXを望んでいらっしゃるか、ユーザーコミュニティ「Zenlab」に参加してご意見いただけますと幸いです。
