業務提携契約書とは?ひな形付きで記載事項を解説
業務提携契約書とは
業務提携契約書とは、特許技術や独自ノウハウの使用権限および活用範囲を業務提携契約書で厳格に規定して、経営資源の流出を予防するために必要な契約書です。業務提携では、複数の企業同士が互いの経営資源(人材・資金・ブランドネーム・販売網・特許技術・独自ノウハウなど)を共有するため、業務提携契約書を締結してからスタートさせるのが一般的です。
法律上は「業務提携契約」に関する規定はありませんが、「民法上の売買契約(第555条)」「請負契約(第632条)」「委任契約(第643条)」などの性質を含む複合的なものと考えられています。
なお、企業とは経済活動を行うすべての個人・団体を指すため、業務提携は個人間であっても事業同士を協力関係でつなぎます。
業務提携とは共通の事業目標を達成する約束
業務提携(別名:アライアンス)は、企業間契約の一つです。業務提携では、複数の企業が経営資源を提供し、サービスや製品の質の向上やコスト削減などによって市場での競争力を増強します。そして、共通の目標の達成や売上向上のために事業を共同で行うものです。
業務提携には、提携する目的や得意分野および相手に求める役割などにより、次の3つの形態があります。
形態 | 詳細 |
---|---|
販売提携 | ・開発した商品の販売を別の企業が代行する提携形態 ・販売スキルやリソース、店舗および販売網などがない場合に、販売が得意な企業へ販売協力を仰ぐ └ 販売活動を代行する代理店契約 └ 企業がまず商品を仕入れて販売活動を代行する販売店契約 └ ノウハウを提供する本部と販売活動をする店舗のフランチャイズ契約 |
生産提携 | ・質の高い商品の生産や商品を大量に生産するための提携形態 └ OEM:製品の企画・設計は他社が行い、生産だけ他社に委託する └ ODM:製品の企画・設計・生産のすべてを行い、他社ブランドで販売 |
技術提携 | ・知的財産リソース(技術・ノウハウ・特許など)を共有する提携形態 └ ライセンス契約:技術リソースを他社に使用させる └ 共同開発契約:複数の企業が独自の技術リソースを持ち寄る |
業務提携契約を締結すべき場面とは
業務提携契約は、円滑な業務提携を進めていくための事前準備として締結します。提携関係に関するお互いの認識を一致させ、将来のトラブルを未然に防ぐためのものなので、業務提携時には必ず締結しましょう。
業務提携契約の締結時に注意すべき点
現状の事業内容とかけ離れた内容での提携では、狙う相乗効果が得られずお互いの動きを制限しただけという結果にもなります。その提携関係を企業の生き残りや成長戦略の起爆剤にするために、業務提携では何を得て何を失うのか、あらかじめ具体的に洗い出しておく必要があるでしょう。
また、提携関係をスタートしないと見えてこない課題もあります。だからこそ、事前に詳細な市場調査を行い、何事も協力して解決しようとする姿勢まで共有することが大切です。
下請法(代金支払遅延等防止法)の適用
提携企業間に規模の差がありすぎる場合には、「下請法(代金支払遅延等防止法)」の対象になる場合があります。
下請法では、親事業者に対し、下請け業者への優越的な地位を濫用した業務上の対応に関する11項目の禁止事項を定めています。その中で主要なものは次の5つです。
- 下請代金の支払遅延
- 下請代金の減額
- 買い叩き
- 物品購入・サービス利用の強制
- 不当な給付内容の変更・やり直し
業務提携契約書の主な記載事項
業務提携契約書の主な記載事項は、9つあります。
- 目的
- 業務範囲
- 契約期間
- 設備利用
- 知的財産権
- 秘密保持義務
- 個人情報保護
- 収益分配・費用負担
- 製造物責任
- 競合製品取扱
- 支配権の変更
- 契約解除
企業間の有意義な提携のために、提携目的や契約期間などの基本事項から、協業によって生まれた成果物の取り扱いや企業秘密保持の義務、収益の分配や禁止事項と解除権など、ルール設定はなるべく細かくすることが大切です。
目的
業務提携契約書には、業務提携を行う目的を記載しましょう。提携目的が明確なら、それぞれの役割と供出する資源の規模がはっきり見えてくるため、資源の共有がスムーズに進みます。
業務提携契約を締結する段階で提携目的はすでに統一されているはずですが、契約書でも明文化しておくべきです。
業務範囲
お互いが担当する業務の範囲とそれぞれの詳細な業務内容も、業務提携契約書に記載する必要があります。
この業務範囲や業務内容が詳細であるほど、トラブルが発生したときの対処が迅速かつ適切に行えるため、顧客が被る被害は最小限にとどまるでしょう。また、企業間の責任の所在や範囲が明確になり、オペレーションの改善や企業損失の補填など事業の問題解決も確実に行えます。
契約期間
業務提携によって協業する期間も明記しましょう。協業が成功した場合には関係が継続できるように、期間満了だけでなく期間延長や契約更新についても決める必要があります。
ただし、信用を失墜する事態が起こった場合は、業務提携契約の解消や権利義務の効力の期限など、万が一に備えて合意しておくべきです。
設備利用
一方の企業の特許技術を共有する場合では、相手企業にその技術を利用する環境や機械および活用できる人材がいないことがほとんどです。そのため、スムーズに技術やノウハウを利用して生産性を上げるためにも、必要な機材・参考資料・システムなどの貸与や新規調達の支援、技術者の派遣などでも協力関係が必要です。
知的財産権
業務提携にて新たに生まれた成果物(製品やサービス)の作成者としての権利は、作成の過程で使用した知的財産(独自の技術やノウハウ)を持つ企業、もしくは分配割合に従って帰属させます。新たに生み出された知的財産についても同様です。
新たな成果物の特許・実用新案・意匠は共同で取得するのか、提携解消後でも自社単独で利用できるのかは重要です。成果物や知的財産に関して、どちらか一方が過度に不利益を被るおそれがあるため、契約締結時には成果物の帰属について明確にしておくようにしましょう。
秘密保持義務
業務提携下の実業務では、双方が特許技術・ノウハウ、仕入れルート・販売戦略などの機密事項を開示することがあります。
このような場合には、必ず機密事項の扱いに関して契約書に記載します。業務提携の打ち合わせ段階から機密事項が飛び交うケースが多いため、業務提携契約に先だってNDA秘密保持契約を締結するのが一般的です。
NDA秘密保持契約とは、共有する情報や技術を他企業社が本来の用途以外の目的で利用することや、第三者への開示につき法的な拘束力によって制限するための契約です。
個人情報保護
協業ともなれば、相互企業間で顧客管理や情報連携がシームレスに行えるように、業務支援システムを共有する場合が少なくありません。業務提携によって扱う個人情報が増えたとしても、個人情報の漏えいは企業を簡単に廃業に追いやるほど重大な問題であるため、けっして起こしてはなりません。
そのため、提携によって漏えいリスクが上がるものと想定し、個人情報取り扱いの厳格化や厳重なチェック機構の創設などについて充分に話し合いましょう。
収益分配・費用負担
業務提携による収益・費用は、事業への寄与度に応じて分配・負担します。技術や機密事項やノウハウなどの提供度合いと同様に、協業事業に関する費用の負担の割合も、寄与度を決める指標になり収益分担の割合にも響きます。
これらについてもはじめに合意しておかなければトラブルにつながる可能性があるため、費用負担金額だけでなく支払日や支払方法もあわせて合意しておきましょう。
製造物責任
共同で開発した製品について、製造物責任および製造者や販売者としての責任が生じた場合には「欠陥の原因が製品開発や設計ならA企業、企画や販売ならB企業、製造過程なら双方折半でこれを負担」などと責任の範囲を明確にしておきます。被害者の救済にはPL法などに従います。
なお、PL法とは「製造物の欠陥が原因で生命や身体または財産に損害を被った場合に、被害者が製造業者に対して損害賠償を求められる」と規定した法律です。
競合製品取扱
A社との業務提携関係の解消後に、B社が競合商品を販売してA社の商品販売に支障をきたすことがないように、一定期間を設けて制限する場合があります。ただし、A社・B社間の関係や市場でのシェアなどによって独占禁止法に抵触する場合があるため注意が必要です。
支配権の変更
支配権とは、発行済み株式の一定割合以上を保有することで得られる、会社の活動に指示が出せる支配権です。
たとえば、A社・B社間で業務提携をしているときに、競合他社Cの権限が介入する例を挙げてみましょう。C社の介入によりB社が合併または事業譲渡、株式交換や株式移転、株式分割、株式取得など、A社・B社間の友好的な提携関係を継続していくのが難しくなる場合があります。
このように相手企業が競合企業に買収された場合を含め、業務提携によって発生した成果物や知的財産、ノウハウなどが流出(漏えい・転用)するリスクが存在します。
そのため、法人の提携では「相手企業の支配権が変更された場合は契約を解除できる」と定めるのが一般的です。
契約解除
相手企業が禁止事項に違反し、相当の期間を定めて改善を要求しても状況が変わらない場合に契約解除ができるとして、下記のような事項を定めます。
- 営業停止や営業許可の取り消しの行政処分を受けたとき
- 民事再生や会社更生法の適用または破産の申立て、差押や仮処分および税金の滞納など
- 支払が困難な経営状態になったとき
- 解散・合併・代表者変更など企業内で重大な変化があったとき
- 株式譲渡や買収などで企業の支配権が変更された場合
- その他、相互の信用を失墜させる事象があったとき
業務提携契約書のひな形(テンプレート)
業務提携契約書の形式に法的な規定がないため、汎用的なテンプレートをもとに個別の状況に応じて内容を加筆修正する必要があります。こちらに、業務提携を検討している場合に利用できるテンプレートを用意しています。業務提携契約書を作成する際にはぜひご利用ください。
なお、業界特有のルールや所属団体の方針および業法の改正などに対応するために、適宜リーガルチェックを受け、最新の状態が維持できるようメンテナンスしておきましょう。
業務提携契約と業務委託契約の違い
業務提携と業務委託の違いは法的に定義されていないため、両者の一般的な違いをまとめました。
種別 | 詳細 |
---|---|
業務提携 | ・お互いが協力、資材やアイデアノウハウを出し合う ・業務内容や収益と費用の分担および負担責任の範囲などを規定 |
業務委託 | ・業務を外部企業や個人に依頼する委託者と受託者の関係 ・建前は対等な立場だが、親事業者と下請け事業者のように委託者が発注する立場として優位になりやすい |
業務提携契約書に印紙は必要?
契約書を紙で作成する場合、業務提携契約書に印紙を貼付して印紙税を納税する場合がほとんどです。なお、業務提携契約は請負や売買の契約および知的財産権の譲渡などの対価によって印紙税額が変わります。
また、電子契約の場合は印紙の貼付が不要になるため、双方合意のうえ、Web上で業務提携契約書の作成・やりとり・保管を行うのもよいでしょう。
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