建物使用貸借契約書とは?ひな形付きで記載事項を解説
建物使用貸借契約書とは
建物使用貸借契約とは、所有者などから建物を無償で借り受けて使用および収益をして、使用目的を達成したときもしくは契約期間が終了したときに、建物を所有者などへ返還する契約のことです。
「建物使用貸借契約書」とは建物使用貸借契約の内容を書き記した書面です。ただし、契約の成立要件において書面の作成は絶対的な要素ではなく、むしろ契約は当事者双方が口頭によって条件を確認しあって合意するだけで、法律上も有効に成立する(諾成契約)と民法で規定されています。
賃貸借と使用貸借の違い
建物や土地などを含む不動産を、所有者(もしくは転貸人)から借りる方法には次の2種類があります。
種類 | 定義 |
---|---|
使用貸借(しようたいしゃく) | 【民法第593条で規定】 使用貸借は、当事者の一方がある物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物について無償で使用および収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって、その効力を生ずる |
賃貸借(ちんたいしゃく) | 【民法第601条で規定】 賃貸借は、当事者の一方がある物の使用および収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことおよび引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる |
簡単にいえば、無料で借りられるのが「使用貸借」で、賃料を支払うことを約束して借りるのが「賃貸借」という点が異なります。
「使用貸借」という契約は、貸主が無償で借主に使用収益を許可する契約です。そのため「建物使用貸借契約書」に記載される条項は「建物賃貸借契約書」にある条項とは主旨や内容が大きく異なる部分があるため、そのまま流用することはおすすめしません。
建物使用貸借契約書が必要になるケース
不動産においては高額な金銭の授受があることが一般的で万一のトラブルの際の損害額も大きいことから、「宅地建物取引業法」にて建物使用貸借契約を含む契約における不動産実務上の取り扱いを下表のよう規定しています。
書類 | 関連条項 |
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重要事項説明書 | 【宅地建物取引業法第35条で規定】以下、貸借部分を抜粋 宅地建物取引業者は、建物の貸借の各当事者へ貸借建物に関し貸借の契約が成立するまでのあいだに、宅地建物取引士から重要事項説明書を交付して説明をさせなければならない |
・使用貸借契約書 ・賃貸借契約書 ・売買契約書 |
【宅地建物取引業法第37条第2項で規定】以下、貸借部分を抜粋 宅地建物取引業者は、建物の貸借に関し契約が成立したときは、契約の各当事者に契約書を交付しなければならない |
土地や建物の使用貸借では、所有者と使用者が直接交渉して口約束で無償使用させることが少なくありません。
しかし合意内容や権限内容が不明確であり、相続などで所有者が代替わりした場合に何も証拠が残っていないというリスクがあるため、必ず書面で残しておくようにしましょう。
建物使用貸借契約書の主な記載事項
建物使用貸借契約書を作成する際に、契約書上で合意しておくべき主な記載事項を解説します。
なお、不動産賃貸借契約書は印紙税の課税文書にあたりますが、無償で建物の使用収益をさせる建物使用貸借契約書は不課税文書とされるため、印紙税は課税されません。
貸付物件
この部分に建物使用貸借契約の対象となる物件を下記のように明示します。ただし建物の棟数が多い、もしくは広大な土地を含むため筆数が多い場合には、「物件目録」といったように巻末に集約して記載してもよいでしょう。
もしくは
このとき、土地や建物の表示では郵便物が届く「住居表示」ではなく、法務局に登記された「土地の地番」や「建物の番号」などで特定するのが一般的です。あわせて登記簿謄本(履歴事項証明書)を合綴しておくと貸付物件が明確で誤認する余地がなくなるでしょう。
また、使用収益する期間の終期を決めるもしくは当初に約束した使用目的からみだりに変更されないように、使用目的を「農機具を置く倉庫として」や「地域の集会場および避難施設として」などのように明記しておくことが大切です。
なお使用貸借は無償利用が原則ですが、対象不動産の固定資産税や都市計画税の年額相当の金銭を貸主へ支払った場合には無償とするわけにはいけません。賃料ではなく「通常の必要費」としての格安の支払と見なし、賃貸借ではなく使用貸借にあたると解釈されます。
また、周辺の賃料相場よりもかなり格安な賃料設定の場合にも、上記同様に使用貸借にあたるとされる場合があります。
契約期間
期間の定めのない使用貸借の場合の契約期間満了時期については、当事者で使用収益の目的のみを定めた場合には、その使用収益の目的が達成されれば契約は終了します(民法第597条)。
しかし、目的の達成の認識が当事者間で異なる場合や、使用者が使用を継続したいばかりに目的達成を認めないことも考えられます。したがって、契約期間を明確に区切ることが将来のリスクを防止可能です。
契約期間は下記のように確定した日付で記載します。
なお、使用貸借は「借主の死亡によって終了(民法第597条第3項)」しますが、念のため一代限りであるという規定も記載しておきましょう。
契約更新
契約期間を定めた場合に、その期間が満了してもさらに使用を継続する場合はよくあります。その場合には、契約期間の条項に契約更新の規定をあわせて設けておくとよいでしょう。
免責事項
建物が天災地変(自然災害)やその他の事情など、当事者にとって不可抗力の原因で建物が破損することがあります。この場合には、次のように定めるのが一般的です。
禁止事項
建物使用貸借契約における禁止事項を下記のように定めます。貸主は厚意で建物を無償譲渡するため、貸主の意向を無理のない範囲で反映させておくとよいでしょう。
- 本件建物を無償で使用収益できる権利を第3者へ譲渡する、または本建物を転貸(別の者へ又貸し)すること
- 本建物を危険回避などの保全行為以外の理由で増改築すること
- 本建物の形状を貸主の承諾なく変更するとき
原状回復
借主は、本契約が終了したときは直ちに本建物を原状(使用開始で引き渡しを受けたときと同程度の状態)に回復(劣化や破損箇所は補修や交換)させて、貸主へ返還するのが一般的です。
なお、借主がこの義務を無視しないように「借主がこの義務の履行を怠った場合には、本契約終了日の翌日から原状回復をして返還するまでのあいだ、1日につき金〇万円の損害賠償金を貸主へ支払うものとする」などと定めておくとよいでしょう。
契約解除
貸主と借主は、双方の根底にある信頼関係を土台として建物の無償の貸し借りをしています。そのため、貸主が禁止する行為や信頼関係が崩れるような裏切り行為を借主がすれば、建物使用貸借契約は借主へ通知することなく即時で解約できるように、下記のような規定を設けるのが一般的です。
合意管轄
貸主および借主は、本契約に関して話し合いでは解決せず裁判上の紛争にまで発展する場合があります。そのため、あらかじめ係争の舞台となる裁判所を「〇〇地方裁判所を第1審の管轄裁判所とする」と貸主が指定して契約書上で合意しておくのが一般的です。
建物使用貸借契約書のひな形(テンプレート)
こちらに、建物使用貸借契約を検討している場合に利用できるテンプレートを用意しています。契約書を作成する際にはぜひご利用ください。