奉行シリーズが選択したクラウド×オンプレによる価値提供-オービックビジネスコンサルタント

「SaaS業界レポート2016-2017」のインタビュー(全15本)の第8弾として株式会社オービックビジネスコンサルタントにインタビューしてきました。 【SaaSレポートインタビュー第8弾】

奉行シリーズが選択したクラウド×オンプレによる価値提供-オービックビジネスコンサルタント

西 英伸

マーケティング部 マーケティング推進室 室長

1996年株式会社オービックビジネスコンサルタント(以下OBC)入社。営業部、関東営業所責任者、大手アライアンスの協業を経験したのち、2009年よりマーケティングに従事。既存顧客のダイレクトマーケティングからインサイドセールスの立ち上げと連動をおこない、現在はマーケティング活動の全般を担う。2010年からマーケティング推進室室長(現任)

企業規模やフェーズにあわせて最適な製品を提供

―――――貴社では「勘定奉行にお任せあれ」のCMでお馴染みのERPパッケージソフト「奉行シリーズ」を2014年12月からクラウド化されています。現状、対象となる顧客層にあわせて「奉行iシリーズ」「奉行V ERP」「奉行J」を展開されています。それぞれどのような特徴があるのでしょうか?

奉行iシリーズになる「奉行i10」では中小企業向けの製品として提供させていただいています。それよりも上層の顧客に対しては「奉行V ERP10」を提供しており、こちらは現在、日経コンピュータさんの顧客満足度調査でも1位をいただいている中堅企業向け製品となります。

特に、「奉行V ERP」は最近IPOされる企業様の6~7割に選んでいただいております。最近では上場に耐えうる製品として評価されるようになってきたと感じています。OBCとしても、今後も継続的にその期待にお応えできるように製品開発を進めていきたいと思っています。

奉行iシリーズと奉行V ERPについてはMicrosoft Azure上で提供するIaaS型です。一方で、奉行JシリーズはSaaS型で提供させていただいています。奉行iシリーズが対象としている規模よりも小さい10名~50名規模の企業様を対象としているためです。

―――――V ERPシリーズはIPO含め上場企業に耐えうるアプリケーションとのことですが、このIPOに耐えうる、決算に耐えうるためにどのような機能を提供しているのでしょうか?

上場企業になると規模が大きくなればなるほど決算の範囲が拡大して、大量データの処理に対応できる仕組みづくりや締め処理等の監査基準に耐えうる機能が必要となります。弊社では、そのような処理能力や機能性はもちろんのこと、連結会計システムのディーバ社等と提携し、OBCからワンタッチでデータを流せるような仕組みを提供しております。

さらに、企業の外部公開用の資料や、管理会計にも活用できるオプション、海外からの外貨取引に対応した多通貨管理のできる債権債務管理等、企業に必要な周辺業務までカバーしております。
他では、人事・給与・勤怠などのHuman Resourceの分野のソリューションも含め、トータルで提案をさせていただいております。

―――――500名を超えるような大規模企業向けにもサービスを提供しているのでしょうか?

そうですね。大企業では外資系のERPを利用しているケースが多いのですが、最近では関連子会社向けに奉行V ERPをご提供させていただくことが非常に増えています。

奉行V ERPではグループ導入・運用に最適化した「奉行V ERP Enterprise Group Management – Edition」というものも展開しております。関連子会社が5社以下の場合と5社以上の場合で分けながらご提供させていただいております。関連子会社の場合には本社・親会社が導入しているERPを導入するレベルの料金で導入するのはレアケースですし、よりコンパクトでグループ企業の必要要件を網羅しているパッケージを検討したいという背景がありました。そういったこともあり、奉行V ERPをご利用いただくケースが増えています。

また、外資系の大手ERPでは日本の商習慣・法令や制度の細かい点になかなか対応しきれない、かゆいところには届かない点があります。特に固定資産管理や各種申告関連は、奉行シリーズを部分的にご利用いただくことで上場関連会社や子会社での採用が増加しています。

ストレスフリーを目指してクラウドとオンプレミスを組み合わせる

―――――奉行iシリーズ、奉行V ERPをIaaS型で提供している点は特徴的かと思います。なぜSaaS型ではなくIaaS型での提供を選択されたのでしょうか?

現在の基幹系業務システムはSaaSのようにアプリケーションそのものをWebブラウザ上で操作する方式では、スピードや大量のデータに耐えることが難しいのが実状です。一方、お客様が現状の社内サーバーをアプリケーションも含めデータセンターに移管し、従来のインストール型の操作のままにIaaS型として利用するケースが増えています。そういったお客様としては現状の性能が大きく落ちるというようなことがありませんし、クラウドへの一歩目としては入りやすい方法がIaaS型となります。

しかし、スピードや大容量にも耐え、現状のオンプレミスよりも、IaaS型のクラウドよりもお客様志向のSaaS型が実現できれば、もちろんOBCもそこに舵を取り進みたいと思います。そのためにも、お客様と会話し、お客様が求めるものと最新のテクノロジーの結合部分を模索して、実現に向けた活動を強化しております。

その一環として、2016年12月にまずは奉行JクラウドをSaaS型で提供を開始しました。小規模企業では必ず会計事務所が必要であり、会計処理そのものをお願いするケースが多いので、会計事務所とお客様がつながる入力・閲覧インターフェースを提供いたしました。クラウドだからこそできる「つながる・広がる」の世界観で提供しております。こちらは入力スピードが極めて速く、双方向での入力を実現するための工夫がされております。

また、奉行Jクラウドはより自動化へをコンセプト明確化しておりますので、領収書の取込や、銀行からの入出金データの取込等、AI分野やFintech分野にも乗り出し、お客様の利便性も追求したサービスとなっております。

―――――今後、奉行iシリーズ、奉行V ERP SaaS型で提供していくというお話もありますが、どのような変化が背景にあるのでしょうか?

中小企業、中堅企業様に関しては、クラウド化にともなうセキュリティや操作性の低下への懸念を背景として、これまでご利用いただいてきたオンプレミスの需要が依然として強いです。とはいえ、クラウドを利用している企業の成長やデジタルネイティブ層の方々が徐々にビジネスの世界を席巻するようになりますとクラウドが主流になっていきます。

また、大企業もBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)への対策や情報システム部門のスリム化などを背景としてクラウド化を進めつつありますので、IaaS型で現状の需要にあわせつつ時期を見計らっていると感じています。そのような中、OBCでは、どの企業層にも対応できるSaaS型も取り揃えて、来るべきクラウド時代に備えている状況です。

―――――奉行シリーズ以外にも「業務サービス」をSaaS型で提供していますが、こちらはなぜSaaS型で提供しているのでしょうか?

いままでの奉行シリーズは、主に経理部や総務部・人事部といった企業内のプロフェッショナル部門が中心の利用者でした。一方、企業内の多くの従業員が利用するもの、また参照するようなものを弊社では「OMSS+業務サービス」と呼んでサービスを提供しています。

例えば、最近ではマイナンバーの収集・保管の業務を支援する「OBCマイナンバーサービス」では、SaaS型でご提供しています。マイナンバーは全従業員が対象で、SaaS型であれば自宅でも、工場が遠隔地にあるなど、離れた場所に従業員がいても簡単に収集・保管できるようになるのでクラウドの利便性を活かすことがでます。

その他にも、例えば「勤怠管理サービス」では、日々多くの従業員が打刻や申請をしますので、こういったすべての従業員が行うような業務は、クラウドによるコスト削減や柔軟性とマルチデバイスで対応していくことが求められていると感じています。

―――――しばらくはすべてがクラウド化するのではなく、こういったオンプレミスとクラウドの共存状態が続いていきそうですね。

そうですね、オンプレミスとクラウドのどちらの方が利便性の点で優れているかということを考えながら上手に組み合わせていくことが重要だと思っています。弊社としては、すべてクラウドで提供できるようにしていく予定ですが、最終的にはお客様に必要なものを選択していただくという世界を目指しています。

IaaS型でのご提供にあたっては、IaaSそのものも選べるように主要なIaaSには幅広く対応しています。これまで既に日本マイクロソフトさん、アマゾンウェブサービスジャパンさん、NTTコミュニケーションズさん、IBMさん、ニフティさん、NECさん、ビッグローブさんのIaaSへの対応を実現しました。

オンプレミス時代では、サーバーを選択できたのにクラウド時代では選択できないというのもおかしな話ですので、お客様に選択していただけるように幅広く対応できるようにしました。SaaS型に関しては、戦略的に日本マイクロソフトさんと提携してAzure環境でご提供しています。

―――――SaaS型ではMicrosoft Azure環境で提供されるとのことですが、なぜMicrosoft Azureを選ばれたのでしょうか?

とてもシンプルですが、複数のデータセンターやIaaSのコストを試算した結果Microsoft Azureが最も低コストだったことは1つの理由です。その他には仮想マシンを動かすハードウェアだけではなくSQL Database のようなソフトウェアも用意されていてパッケージの稼働環境の整備や運用が容易である点やMicrosoft AzureではIaaSだけでなくPaaSが提供されている点も大きな理由でした。特にPaaSについては、これからのクラウド活用の形を考えると非常に重要な要素です。

パートナーとともにクラウドビジネスを創造する

―――――一方でIaaS型の場合はユーザーが選択できるように幅広く対応されていますが、こちらはどのように選ばれることが多いのでしょうか?

日本の商習慣上という面も大きいのですが、これまでのパートナー企業の皆様との関係によって選ばれるケースが多いです。クラウドが当たり前になれば状況も変わると思いますが、現時点ではパートナー企業様がおすすめするものに安心を感じるお客様も多くいらっしゃいますのでこの選ばれ方が最も多いと感じてます。

また、弊社はパッケージ時代からパートナー企業様とともにビジネスをしてきましたので、パートナー企業様の顧客層にOBCもリーチしているということも背景にあります。

―――――SaaS型の場合、パートナー企業であるSIerさんにとって収益が小さくなってしまいますが、SIerさんとともにビジネスをしてきたからこそIaaS型での提供を選ばれたということもありますか?

パートナー企業様と一緒にSaaS型に対応した売り方改革をしていかなければならない面もあります。サーバーの収益はオンプレミス型でもクラウド型でも大きなものではありませんが、やはりなくなってしまうのは寂しいですし、IaaSの構築・運用の部分は大きなビジネスにもなります。

このようにパートナー企業様にとっても収益に繋がるようにビジネスを一緒に作っていかなければならないと思っています。OBCアライアンスパートナー制度(OAP)というものを設けていますので、こういった制度も活用してパートナー企業様とはコミュニケーションを取らせていただいています。

―――――パッケージ時代から構築してきた関係性も活かしながらクラウド化への対応を進めているということですね。

そうですね、とはいえ業界的にはクラウド・fintech・ビックデータ等最先端キーワードにも対応していくことを期待されていると感じています。OBCも、これからご検討をいただく企業様に、常に新しいことにチャレンジしているOBCに期待していただきたいと思っています。三菱東京UFJ銀行様や三井住友銀行様といったメガバンクと連携や、スマートデバイスを取り扱う企業様とも新しい関係性を組み、新しい試みをお客様へ活用提案をする動きも積極的に進めています。

人工知能によりこれまでにない新しい気づきを提供する

―――――与信の領域では人工知能の活用が少しずつ話題になっていますね。貴社ではどのような部分で人工知能を活用されているのでしょうか?

会計領域では仕訳の自動化はやはり人工知能が活きる領域です。例えば入出金データを受け入れて仕訳をする際、弊社のお客様全体の仕訳データを基に機械学習をしていれば、新たなお客様がはじめて仕訳をする際にも高い精度で自動入力することが可能になります。こういった部分にはしっかり取り組んでいきます。

―――――与信の部分ではいかがでしょうか?

与信の部分に関しては、会計データだけでは十分ではなく、銀行側では社長の人柄など総合的なデータを必要としていますので、弊社としては銀行に対して会計データを接続し、与信データは銀行から接続してもらい活用していく形になるかと思います。例えば販売管理において与信を超えた際にアラートを出すということができると考えています。

―――――人工知能の研究体制を充実化させるSaaSベンダー増えてきていますが、貴社ではどのような体制で取り組んでいるのでしょうか?

開発部門に人工知能の専門チームを設けて研究しています。人工知能のような新しい領域では、世の中の先進的な部分を学んで社内に取り込んでいくことを常にしていかなければならないと思っています。一方で前述の入力インターフェースの部分のように古きを温めるといったこともしていて、会社全体でバランスを取りながら進めている状況です。

―――――人工知能を有効活用するためには、まずデータを収集することが重要です。貴社はどのようなデータ収集を進めているのでしょうか?

会計の分野においては統計データの重要性が高いと思っていますので、各省庁が発表するようなオフィシャルな業界データ、例えば営業利益率をはじめとした財務データや販売管理データといったものにもこれから連携していきたいと考えています。

というのも、弊社のお客様のデータから個社を特定しない形で業界データを作るというようなことはできると思いますが、こういったデータとさらに日本全体の規模でのデータを組み合わせることでこれまでとは違う新しい気づきをお客様にご提供できると考えているからです。

―――――人工知能もMicrosoft Azureの機能を活用しているのでしょうか?

そうですね、活用させていただいています。Microsoft Azureの機能という意味では、その他にもPower BIもサービスとして提供しています。お客様には会計データ、給与データ、販売データをすべて一緒に集計したいといった需要がありますのでこの需要に応えるためにPower BIを活用しています。

会計以外で言えば、例えば小売店舗の場合、店舗内の従業員数や店舗面積などのように弊社のデータにはない管理会計データもデータベース上に取り込みたいという需要がありますので、弊社が提供するオープンDB上にすべてのデータを置くことで、Power BIを活用してフレキシブルなデータ分析を実現しています。最近ではIoTデータの取り込みも増えています。

本当に必要かという意識を持ってクラウドビジネスを推進

―――――貴社では企業規模やフェーズの面だけでなく、領域の面でも会計、勤怠管理、人事管理、給与計算、販売管理など、幅広い製品ラインナップを取り揃えています。今後さらに領域を広げていくのでしょうか?

弊社の自社サービスとしては業種を問わない共通の業務部分に注力しています。一方で、建設業向けなど一部業種向けに既にサービスは提供してはいますが、基本的には業種に特化したサービスには取り組んでいません。例えば生産管理は製造業向け、ロジスティクス管理は運送業向け、POSレジは小売業向けになります。このような特定の業種向けのソリューションは、そこに特化しているアプリケーションをお持ちの会社と接続をしながらトータルソリューションとして提供していく方針です。

その他にも弊社がオリジナルサービスとして提供するよりも既に優れたサービスがあれば連携していく方針です。例えばストレスチェックについて、この領域では信頼性が重要ですので今から弊社が開発しようとしても難しいため連携しています。またタレントマネジメントについても、タレントを評価するビッグデータを弊社が持ち得ているかというとそうではありませんので、このあたりも他社サービスと連携しております。

―――――連携先としてはベンチャー企業のサービスよりも比較的大手企業のサービスが多いのでしょうか?

規模は問わず、お客様のニーズに応えられるかといった視点で連携を進めています。最近ではタレントマネジメントの領域でCYDAS社のサービスとも連携しました。

―――――優れたサービスがあれば連携していくとのことでしたが、改めて、今後貴社ではどのようにクラウドビジネスを推進していくのでしょうか?

実は、なぜこんなにSaaS対応が遅れているのですか?と言われることもあるのですが、大多数の人が本当にそれを求めているのか?という視点を常に持つようにしています。弊社としてはお客様が本当に必要だと思っている製品を提供することにこだわっていきたいと思っています。大多数の人が必要だと思うからクラウドサービスを提供するといった考え方で進めていきます。

また、これまでの製品や体制の良さもしっかり守りながら、新しい動きとしてお客様の利便性を追求したつながる世界へのチャレンジをしていきたいと思います。

SaaS業界レポート著者の視点

オンプレミスからクラウドへの移行のハードルの一つとして、あまり話題にはなっていませんが「ブラウザの更新スピード」があげられます。パッケージソフトと異なりSaaSの場合はブラウザ上でデータの入力・確認を行うため、大量のデータを打ち込むような業務や大量のデータを表示するような業務では依然としてパッケージソフトに軍配が上がるケースが多い状況です。

このようなSaaSの欠点を踏まえ、「勘定奉行にお任せあれ」のCMでお馴染みのオービックビジネスコンサルタントでは中小企業向けの「奉行iシリーズ」、より中堅企業向けの「奉行V ERP」をUI/UXを最大化するためにSaaS型ではなくIaaS型(IaaS+パッケージソフト)でクラウドサービスとして提供しています。

一方でSaaSの強みである「つながる・広がる」の世界観がより求められる小規模企業向け「奉行Jシリーズ」では、2016年12月からSaaS型での提供を開始しています。ターゲットとなる顧客のセグメントによって異なる業務や効率化のニーズをしっかりと捉えてIaaS型とSaaS型を選択しているのです。

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著者紹介:阿部 慎平 (あべしんぺい)
新卒でデロイトトーマツコンサルティングに入社後、大手企業の事業ポートフォリオ戦略、成長戦略、新規事業戦略、海外事業戦略、ベンチャー企業買収戦略など戦略プロジェクトに従事。 より主体的に事業に取り組みたいという思いから2017年3月にスマートキャンプに参画。現在はSaaS業界レポートや事業企画・営業、新規事業立ち上げを推進。