勤務間インターバル制度とは?助成金の条件や金額

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勤務間インターバル制度とは、終業から次の始業までに一定の休息時間を設ける制度のことで、2019年以降は企業の努力義務とされています。勤務間インターバル制度の概要とメリット、導入のための助成金や導入事例、インターバル時間確保の方法などをわかりやすく解説します。

目次

勤務間インターバル制度とは

勤務間インターバル制度は、働き方改革や健康経営の文脈で注目される制度です。長時間労働の是正や従業員の健康確保を目的に導入が進んでおり、企業にとっても労務管理の質を高める重要な取り組みです。

制度の概要

勤務間インターバル制度とは、1日の勤務が終わってから翌日の勤務が始まるまでの間に、一定時間以上の休息時間を確保する仕組みです。十分な休息を設けることにより、心身の疲労回復を促し、過重労働を防ぐ役割を果たします。

慢性的な長時間労働が続くと、集中力の低下や健康障害のリスクが高まります。睡眠時間が不十分な状態での業務は、事故やミスの原因にもなりやすく、企業にとっては生産性の低下や労災リスクの増大といった大きな問題になりかねません。

勤務間インターバル制度は、こうした問題を根本から抑制するための制度として位置づけられています。

導入背景

勤務間インターバル制度が導入された背景には、社会問題の長時間労働の是正があります。過労死やメンタルヘルス不調といった労働問題が顕在化し、企業には従業員の健康に配慮した働き方の整備が強く求められるようになりました。

国内では「労働時間等設定改善法(労働時間等の改善に関する特別措置法)」の改正により、2019年4月から勤務間インターバル制度の導入が事業主の努力義務として位置づけられています。

法的な強制力はありませんが、国として制度の普及を後押しする姿勢が明確に示されている点が特徴です。働き方改革関連法とあわせて、企業にはより柔軟で持続可能な労務管理が求められています。

EUの勤務間インターバル制度

海外に目を向けると、勤務間インターバル制度はすでに労働ルールとして定着している地域もあります。EUでは1993年に制定された欧州労働時間指令により、24時間当たり最低連続11時間の休息を確保することが義務づけられています。

たとえば通常の終業時刻が17時の職場で、残業により23時まで勤務した場合、翌日は10時より前の労働が認められません。このように、勤務終了時刻に応じて翌日の始業時刻が自動的に後ろ倒しになる仕組みが運用されています。

また、EU加盟国では、この基準に違反した際の罰則や是正措置が国内法で定められており、違反企業に対する監督体制も整えられています。
日本の制度が努力義務にとどまっているのに対し、EUでは法的義務として制度が運用されている点が大きな違いです。

勤務間インターバル制度の法的位置づけと企業の義務

勤務間インターバル制度は、企業が労務管理を適切に進めるために把握しておくべき制度のひとつです。法的な位置づけや就業規則への記載方法を理解することで、制度導入後のトラブルを防ぎ、安定した運用につなげられます。

努力義務としての位置づけと罰則の有無

勤務間インターバル制度は、労働時間等設定改善法の改正によって事業主の努力義務として位置づけられています。法律上の義務ではないため、導入しなかった場合に罰則が科されることはありません。

また、災害や不可避な事情によって休息時間の確保が困難となるケースでは、インターバルの確保が事実上免除されることもあります。制度を柔軟に運用できる点は、現場の実態に配慮した仕組みといえます。

改善基準告示の内容とポイント

勤務間インターバル制度に関連する制度として、厚生労働省が定める「改善基準告示」があります。この告示は、トラック・バス・タクシーといった自動車運転業務に従事する人の労働時間・休息時間に関する基準を示したものです。

2024年4月1日の改正により、これまで「継続8時間」とされていた休息期間は、原則「継続11時間以上」が基本となり、最低でも9時間以上の休息を確保することが求められるようになりました。

改善基準告示は法律ではなく告示であるため、違反した場合でも罰則が科されることはありません。
ただし、労働基準監督署の監督指導において違反が確認された場合には、是正の指導が行われることがあります。企業にとっては、実務上遵守すべき基準として重要な意味を持ちます。

就業規則への定め方と実務上の注意点

勤務間インターバル制度を企業の制度として定める際は、就業規則に内容を明記する必要があります。記載すべき主な項目は次のとおりです。

  • インターバルとして確保する休息時間
  • インターバルを確保するための方法や措置

制度内容を明確にすることで、従業員との認識差を防ぎ、適切な運用につながります。
あわせて、勤務実績とインターバルの管理が適切に行えるよう、勤怠システムや運用フローの整備も重要です。制度が形骸化しないよう、管理者の理解促進や従業員への説明も欠かせません。

勤務間インターバル制度の導入メリット

勤務間インターバル制度は、従業員の休息時間を確保することで、企業と従業員の双方に重要なメリットをもたらします。勤務間インターバル制度がもたらすメリットについて、詳しく解説します。

従業員の健康維持と向上

従業員の心身の健康維持は、勤務間インターバル制度の最も重要なメリットの一つです。十分な休息時間が確保されることで、慢性的な疲労の蓄積を防ぎ、メンタルヘルスの改善にも大きく貢献します。

深夜残業後すぐに朝から勤務するような状況が解消され、十分な睡眠時間を確保できることで、心身の回復が促進されるでしょう。また、規則正しい生活リズムが確立されることで、生活習慣病の予防にもつながります。

労働生産性の向上

適切な休息を取ることで、従業員の集中力と判断力が向上し、結果として労働生産性が高まります。長時間労働による疲労が蓄積している状態では、ミスの発生率が高まり、作業効率も低下しがちです。

勤務間インターバル制度により十分な休息を確保することで、従業員は心身ともにリフレッシュした状態で業務に取り組めるようになり、高いパフォーマンスを発揮できます。
同時に、属人化していた業務の見直しや、チーム内での業務分担の適正化も進みやすくなります。

これにより、残業代の削減はもちろん、健康障害による休職者の減少や離職に伴う採用・教育コストの低減、生産性向上による業務コストの削減も実現できるでしょう。

リスク管理の強化

勤務間インターバル制度の導入は、過重労働による健康障害や事故のリスクを大幅に低減できます。従業員に十分な休息を確保することで、疲労による判断ミスや事故を防止し、業務上の安全性が向上します。

また、労働関連法規のコンプライアンス面でも、企業としての責任を果たし、労働災害や訴訟リスクの低減にもつながります。

企業イメージの向上

働き方改革に積極的に取り組む企業として、社会的な評価が向上します。とくに、若い世代の求職者は、ワークライフバランスを重視する傾向が強く、インターバル制度の導入は優秀な人材の獲得につながる可能性が少なくありません。

また、取引先や顧客からも、従業員を大切にする企業として高い評価を得られるようになり、企業ブランドの価値やパートナーシップの向上にも寄与します。

人的資本経営の促進

長時間労働を是とする従来の企業文化から、効率的で生産性の高い働き方を重視する人的資本経営への転換が促進されます。働きやすい職場環境が整備されることで、従業員の職場満足度が向上し、離職率の低下が期待できるでしょう。

管理職層においても、部下の労働時間を意識した業務管理が定着し、より健全な組織運営、健康経営が可能となります。結果として、優秀な人材の流出を防ぎ、組織の安定性と競争力の維持につながるでしょう。

インターバル時間確保の方法

勤務間インターバルは何時間が推奨されているのか、インターバルを確保するための具体的な方法について解説します。

インターバル時間の推奨時間

勤務間インターバル制度の導入支援のための助成金規定によると、厚生労働省では、9時間以上11時間未満、または、11時間以上のインターバル時間の設定を推奨しています。

インターバル時間を確保するための方法

時間外労働によって、終業時刻から始業時刻までの時間が、規定のインターバル時間に満たない場合、翌日の始業時刻を遅らせる必要があります。

たとえば、11時間の勤務間インターバルを定めている企業にて、終業時刻が23時で翌日の始業時刻を8時に予定していた場合、始業時刻を10時に繰り下げて11時間分の勤務間インターバルを確保します。翌日の終業時刻を延長するかは規定によります。

そのほか、一定時刻以降の残業禁止や、一定時刻以前の早出残業の禁止もインターバル時間の確保に有効でしょう。

インターバル時間と所定労働時間の重複への対応

インターバル時間と翌日の所定労働時間が重複する場合、次のような対応が考えられます。

  • 重複する部分を働いたものとみなす(繰り下げはしない)
  • 所定労働時間をずらす

勤務間インターバル制度の導入手順

勤務間インターバル制度の導入には、次のようなステップがあります。

1. 現状分析と課題の把握

まずはじめに、現在の勤務実態を詳細に分析する必要があります。
残業時間の多い部署や職種、深夜勤務の頻度、休日出勤の状況などのデータを収集し、問題点を明確にします。また、従業員の健康状態や仕事の生産性についても調査を行い、改善が必要な領域を特定することも重要です。

2. 制度設計と規程の整備

収集したデータをもとに、法令遵守も考慮して具体的な制度内容を設計します。インターバル時間の設定や適用範囲、例外規定などを明確にし、就業規則への追加や労使協定の締結を行います。

この際、経営陣や人事部門だけでなく、労働組合や従業員代表との協議を十分に行い、合意形成を図ることが重要です。

3. システム環境の整備

勤務間インターバルを確実に実施するために、 勤怠管理システム 労務管理システム の改修、新規導入を検討します。
システムでは、インターバル時間の自動計算、違反のアラート通知、実施状況の集計などの機能を実装します。

また、従業員が自身の勤務状況を容易に確認できる仕組みも必要です。

システムの導入にあたっては、助成金を活用することも検討できます。厚生労働省が提供する「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」を利用することで、導入コストを軽減できます。

4. 従業員への周知と教育

勤務間インターバル制度の導入に際しては、管理職および一般従業員向けの説明会を開催します。制度の目的、具体的な運用方法、システムの使い方などについて、わかりやすく説明を行いましょう。

とくに管理職に対しては、部下の勤務管理における注意点や、業務の効率化・平準化の重要性について重点的に研修を実施します。

5. 試行運用と課題の抽出

本格導入の前に、特定の部署や職種で試行運用を行います。この期間中は、運用上の問題点や従業員からの意見を積極的に収集し、必要に応じて制度やシステムの改善に努めましょう。試行期間は通常1〜3か月程度を設定し、十分な検証を行います。

6. 本格運用と継続的な改善

試行運用での課題を解決した後、全社での本格運用を開始します。運用開始後も、定期的に実施状況を確認し、従業員からのフィードバックを受け取りながら、必要に応じて改善を行いましょう。

インターバル違反が多い部署については、業務プロセスの見直しや人員配置の適正化などの対策を講じる必要もあります。

7. 効果測定と見直し

制度導入後は、定期的に効果を測定しましょう。具体的には、残業時間の削減状況、従業員の健康状態の変化、業務効率の向上度合いなどを数値化して評価します。また、従業員アンケートも実施し、制度に対する満足度や改善要望を把握します。

これらの結果をもとに、必要に応じて制度の見直しや改善を行い、PDCAサイクルを回しながら、より効果的な運用を目指しましょう。

勤務間インターバル制度の助成金制度

厚生労働省は2017年度に勤務間インターバル制度を奨励するため、中小企業を対象とした「勤務間インターバル導入コース」の助成金制度を新設しました。2025年度の交付申請の受付は2025年11月28日で終了しており、2026年度の交付申請の受付は未定です。

2024年8月に厚生労働省が発表した「令和7年度厚生労働省予算概算要求」から、2025年度の助成金をうかがい知れます。2025年度の助成金では賃上げ支援に尽力するようです。助成金を上手に活用するには、変更点を確認し把握することが大切でしょう。

詳細は厚生労働省の 「働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース)」 にて確認してください。

この助成金は、勤務間インターバル制度導入に際して必要な研修やシステム構築、労務管理機材費用に対して支払われる助成金です。「9時間以上11時間未満」、「11時間以上」といったインターバル時間の目標によっても金額が変わります。

助成金制度の対象

助成金制度の対象となる中小企業は次の表のとおりです。

対象となる中小企業の条件
労働者災害補償保険の適用事業主であること
次のいずれかに該当する事業場を有する事業主であること

・勤務間インターバルを導入していない事業場

・すでに休息時間数が9時間以上の勤務間インターバルを導入している事業場であって、対象となる労働者が当該事業場に所属する労働者の半数以下である事業場

・すでに休息時間数が9時間未満の勤務間インターバルを導入している事業場
すべての対象事業場において、交付申請時点および支給申請時点で、36協定が締結・届出されていること
すべての対象事業場において、原則として、過去2年間に月45時間を超える時間外労働の実態があること
すべての対象事業場において、交付申請時点で、年5日の年次有給休暇の取得に向けて就業規則等を整備していること

支給対象となる取組

助成金の支給対象となる取組は次の表のとおりです。

支給対象となる取組
1. 労務管理担当者に対する研修
2. 労働者に対する研修、周知・啓発
3. 外部専門家(社会保険労務士、中小企業診断士など)によるコンサルティング
4. 就業規則・労使協定等の作成・変更
5. 人材確保に向けた取組
6. 労務管理用ソフトウェアの導入・更新
7. 労務管理用機器の導入・更新
8. デジタル式運行記録計(デジタコ)の導入・更新
9. 労働能率の増進に資する設備・機器等の導入・更新(小売業のPOS装置、自動車修理業の自動車リフト、運送業の洗車機など)

助成金制度の金額

助成金制度では、経費の3/4(※)に値する金額を受け取れます。助成金の上限金額は、休息時間数と取組内容によって変動し最大で720万円です。

(※ 常時使用する労働者数が30名以下かつ、支給対象となる取組の6〜9を実施し、その所要額が30万円を超える場合のみ経費の4/5に変更)

休息時間数「新規導入」に該当する取組がある場合「適用範囲の拡大」または「時間延長」に該当する取組がある場合
9時間以上11時間未満100万円50万円
11時間以上120万円60万円

また、対象の労働者に対して賃金を3%以上もしくは5%以上引き上げた場合、賃金引上げ数の合計に応じて、上限額が加算されます。

申請方法について

厚生労働省のホームページに掲載されている手続き要領に従い、申請する必要があります。交付申請書に必要事項を記入し、最寄りの労働局雇用環境・均等部(室)に提出します。

勤務間インターバル制度の運用のポイント

勤務間インターバル制度を効果的に運用するためには、単なるルール作りにとどまらず、職場全体での理解と協力が不可欠です。勤務間インターバル制度の運用のポイントについて詳しく解説します。

インターバル時間の適切な設定

インターバル時間の設定は、勤務間インターバル制度の根本的な重要な要素です。9~11時間を目安に、業務の特性や職場環境に応じて柔軟に設定することが望ましいでしょう。

たとえば、深夜勤務がある職場では12時間以上を設定したり、繁忙期と通常期で異なる時間を設定したりするなど、実態に即した運用が効果的です。

管理職の意識改革

管理職は勤務間インターバル制度の運用の要となります。
部下の勤務時間を適切に管理し、業務の平準化や効率化を図る必要があります。そのためには、定期的なマネジメント研修を実施し、労務管理の重要性や具体的な業務改善手法について学ぶ機会を設けることが大切です。

従来の「残業は当たり前」という価値観から脱却し、健康経営の組織文化を醸成することが重要といえます。

業務プロセスの見直し

勤務間インターバル制度を運用するためには、既存の業務プロセスの見直しが不可欠です。特定の個人に業務が集中しないよう、チーム内での業務分担を最適化することに注力する必要があります。

また、業務の進捗状況や個人の事情などを共有し、互いにサポートし合える環境を作ることで、無理のない勤務計画を立てることが実現できます。定期的なミーティングを通じて、業務の優先順位や締切の調整を行うことも効果的です。

モニタリングとフィードバック

勤務間インターバル制度の実効性を高めるためには、定期的なモニタリングが欠かせません。勤怠管理システムを活用して、インターバル時間の遵守状況や違反事例を把握し、必要に応じて是正措置を講じます。

また、従業員からのフィードバックを積極的に収集し、運用上の課題や改善点を早期に発見することも重要です。

勤務間インターバル制度を導入して健康経営を実現しよう

勤務間インターバル制度の導入は、単なる制度の追加ではなく、働き方改革の一環として捉える必要があります。従業員の健康維持と業務効率の向上を両立させるため、経営層のリーダーシップのもと、計画的かつ段階的に進めることが重要です。

勤務間インターバル制度を導入して健康経営を実現し、企業と人材の持続的な成長につなげましょう。

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