スマートコントラクトはau経済圏のインフラへ
スマートコントラクトの認知度はまだまだ低いがすでに導入に向けて動き出している企業も存在する。KDDIもそのひとつだ。
KDDIは2017年度営業利益予想について前年比4%増の9,500億円を見込んでいる。そして2017年上半期で5,425億円・進捗率57%と順調に推移している。このままいけば2018年度は史上初の営業利益1兆円超えを達成する見込みだ。
しかし業界全体ではスマートフォンはガラケーから乗り換える残りのユーザーを奪い合う最終段階となっており、ゆるやかに市場は縮小していくとみられている。将来確実に市場が拡大するIoTの新事業を展開しているものの、まだ業績にインパクトのあるほどには市場が成長していない。
そこでauが取り組むのが「au経済圏の最大化」だ。auと契約する顧客に、通信以外のサービスを利用してもらうことでより接点を増やし顧客のライフスタイル全般にかかわり利便性を向上させる狙いである。
物販・電力・金融などのライフデザインサービスやauスマートパスといったデジタルコンテンツなど、オフライン、オンライン両方をカバーする。全国約2,500店舗を最大限に活用し、au経済圏の流通額を2016年の7,300億円から中期目標の最終年度となる2019年3月期には2兆円超えを目指している。
au経済圏の次世代インフラとして期待されているのがスマートコントラクトなのだ。
2017年9月には業界他社に先駆けてスマートコントラクトの実証実験を開始した。まず第一弾として取り組むのが携帯電話の店頭修理申し込みだ。
顧客が故障した携帯電話をショップに持ち込むと、店舗は複数の修理業者に対して条件を提示する。修理業者と顧客が提示した料金がマッチしなければ顧客にその旨を伝えて売却したほうがいいかを問い合わせる。マッチすれば修理を継続し、状況は店舗と顧客がいつでも把握できる。
修理を依頼する顧客は年間で数百万人に上るため、店舗業務の負担軽減や顧客へ利便性向上の効果が見えやすい。この事例を皮切りにさまざまな商材をブロックチェーンに対応させていき、au経済圏のインフラにしていく狙いだ。
これと同じことは従来のシステムでも実現できる。だが、外部のパートナーの事業者を含めてインターネットやVPNを介してアプリケーションを構築した場合、パートナーが増えるたびにシステム接続のための検証を行わなければならない。アプリケーションが追加されるごとにインフラ構成を変更する必要もあった。
スマートコントラクトで構築しておけば拡張やパートナーの拡充が低コストでセキュアに構築できると判断したのだ。
KDDIが採用したブロックチェーンはエンタープライズ・イーサリアム(Enterprise Ethereum)。イーサリアム本体もスマートコントラクトを扱う構造になっている。ただ、透明性の確保というコンセプトから「情報の秘匿性」「アクセス制限」といった機能がない。KDDIは個人の契約情報を扱うため、アクセス制限などビジネス面での要求が反映されているエンタープライズ・イーサリアムを採用したのだ。