ビジネスパーソンが自分のキャリアを考えるうえで、「ジェネラリストになるか?」それとも「スペシャリストを目指すか?」という問いがされることがあります。その人の目標や価値観によって考え方はさまざまですが、将来どういうキャリアを積んでいくかを考えるうえでは、よい指針になることは間違いないでしょう。
しかし両者の特徴や、必要とされるキャリア構築に関しては、実はよく知らないという方も少なくありません。そこで、まずジェネラリストとスペシャリストの定義を明らかにし、両者の違いについて説明するとともに、具体例を用いて個人のキャリアプランとの関係について解説していきます。
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ジェネラリストとは
まずはジェネラリストの定義と、それが注目されるようになった背景について押さえておきましょう。
ジェネラリストの意味
ジェネラリストとは、幅広い分野の知識や技能、経験を有する人のことをいい、特にビジネスシーンでは、それらを総合的に駆使してさまざまな場面で一定以上の成果を上げられる人材を指すのが一般的です。
変化する状況に臨機応変に対応できる人材が多いということもあって、日本の職場環境においては、比較的評価されやすいタイプだったといえるでしょう。
ジェネラリストが注目される背景
そもそも、日本においてジェネラリストという存在が注目されるようになった背景としては、いわゆる年功序列型の終身雇用制度があります。幅広い知識や経験をもつ人材は、管理職や役員としての職務に合致しやすく、状況に臨機応変に対応できる柔軟性は、どんな部署でも重宝される傾向にありました。
また、定期的に部署を異動したり転勤を伴ったりする総合職は、さまざまな分野でスキルと経験を積むことが求めらます。いわばジェネラリストになることこそが、出世の必要条件と考えられていたわけです。
ジェネラリストとスペシャリストの違い
ジェネラリストの対義語として、よく引き合いに出されるのがスペシャリストです。続いて両者の違いについて解説します。
スペシャリストの意味
スペシャリストとは、特定の分野に関する深い知識とスキル、経験をもち、その分野において高いパフォーマンスを発揮できる人材をいいます。
その多くは他者の真似できない特殊技能をもち、それを生かして社会に価値を提供する職業に就いています。たとえば医師や弁護士、司法書士といった士業や、建築士やデザイナーといった職業です。
ジェネラリストとスペシャリストは何が違うの?
スペシャリストが特定の領域に関わる深い知識と経験をもつのに対して、ジェネラリストは広い分野に一定レベルの知識と技能を有します。
前者はその分野に集中することにより早い段階で熟練の技術を身につけられ、他の真似できない結果を出せるでしょう。そして後者は領域を絞らず幅広く活躍できるため、視野が広く汎用性の高い人材と認知されるようになります。
どちらの職能を目指すべきか、あるいはどちらのタイプが自分に合っているのかを知ることは、今後のキャリアプランを考えるうえで非常に重要です。両者の違いを理解し、自分の将来の目標と照らし合わせながら慎重に選択すべきです。
看護師を例にキャリアイメージを考える
ジェネラリストとスペシャリストの違いについて説明したところで、看護師を例に挙げながら、双方のキャリアイメージについて考えてみます。
ジェネラリストはどんな看護師?
看護師の業界におけるジェネラリストは、特に「ジェネラルナース」などと呼ばれ、患者の病気や症状を問わず、その状況に適したケアを行える汎用性の高い人材として認知されています。
医療現場では人命に関わる臨機応変な対応を迫られることもありますから、どんな状況にも対応できるジェネラリストは、現場でとても重宝される人材であることは間違いありません。
ジェネラリストのキャリアイメージ
看護の世界においてジェネラリストを目指すのであれば、早い段階で幅広い知識と経験を身につけ、どんな分野においても患者を適切にケアできるような人材にならなければいけません。それこそ子供からお年寄りまで、その特性を理解してうまく対応できるスキルが必要となります。
看護師として必要な技能に加え、対人コミュニケーションや病気に関する幅広い知識など、たんに看護学校で学ぶ以外の分野にも興味をもち、積極的に学ぶ姿勢も重要です。一朝一夕で身に着けることは難しいですが、ジェネラルナースを求めている医療機関は多く、周囲にジェネラリストだと認知してもらえれば、将来的に管理者として活躍できる道も広がっています。
スペシャリストはどんな看護師?
看護業界におけるスペシャリストといえば、特定の看護分野について深く学んでおり、そこを中心に教育や相談なども高いレベルでこなせる人材と認知されています。具体的には、専門看護師や認定看護師などの学会認定の資格を取得し、選択した分野における高度な技術やテクニックを身につける必要があります。
スペシャリストのキャリアイメージ
看護の専門分野は多岐にわたるため、早い段階でいずれかの分野の知識を身につけなければなりません。必要な知識や技能を身につける期間に加え、それを磨き上げて高いレベルで実践するための修練も必要とされるでしょう。
専門レベルが高ければ高いほど習得に時間はかかりますが、その領域に関する高い実践能力を発揮できることは大きな差別化要因となり、その分野の人材を求めている医療現場では重宝されるでしょう。
また、スペシャリストは視野が狭くなりがちなどといわれますが、看護の世界ではけっしてそういうわけではなく、スペシャリストの多くは組織横断的に活躍でき、自らの強みを生かして指導的な役割を担うケースも多いです。得意分野を生かして幅広い貢献が可能になるのです。
ジェネラリスト・ソーシャルワークとは
最後に、ジェネラリストとともに検索されることの多い、「ジェネラリスト・ソーシャルワーク」について解説しておきます。
ソーシャルワークとは、一般的には、医療や介護といった社会福祉サービスを利用者に提供する際に必要となる援助技術のことを指し、その技術を用いて働く人はソーシャルワーカーと呼ばれることは、多くの人が知っているでしょう。
そしてジェネラリスト・ソーシャルワークとは、現代のソーシャルワークを考えるための代表的理論として位置づけられている概念であり、近年、社会福祉の業界で注目を浴びている考え方です。
ジェネラリスト・ソーシャルワークの定義は定まっていない
ジェネラリスト・ソーシャルワークという概念は、多様な生活環境に社会福祉を対応させる必要から提唱されはじめた言葉であり、まだ発展途上の段階にあるため、言葉の定義や用語の使い方に関しては、完全に統一されているとは言えない状況にあります。
そのため全体像を把握するのが難しい言葉ではありますが、ざっくりと定義すると、ソーシャルワークを実践的かつシステマチックに行うための理論をシステム論などを用いて体系化しようとするアプローチであるといえます。
なぜ「ジェネラリスト・ソーシャルワーク」なのか
なぜ、こういった考え方が必要とされるのでしょうか?
一つの要因としては、ソーシャルワーカーが多種多様な価値観や、変化する環境に適応しながら活動を行う必要が出てきたことが挙げられます。
人と環境の相互作用を包括的に捉え、援助を求める人に社会心理的ケアの提供を行うのがソーシャルワーカーの主な仕事です。しかし限られた専門知識や技能だけでは、そういった総合的なケアが難しくなってきているのが現状です。
そこで福祉の分野でも積極的にジェネラリストを育成し、さまざまな要素が複雑に絡み合う福祉利用者の問題を解決できる人材を増やそうとするアプローチが注目されるようになりました。それこそが、これまでのソーシャルワークの理論を発展させたジェネラリスト・ソーシャルワークという概念であり、その理論をもとに提唱されているさまざまな方法論なのです。
ジェネラリスト・ソーシャルワークのこれから
ジェネラリスト・ソーシャルワークは、これまでのソーシャルワーク(社会福祉援助技術)の理論を統合し、より福祉利用者の気づきや価値観に添った解決への取り組みが主軸となっています。しかし新しい考え方だけに、その理論の体系化はまだ手探りの状態が続いているのが実態です。
今後は、まずソーシャルワークの世界における「ジェネラリストとはどういうものか?」を明確にし、現場のソーシャルワーカーがジェネラリスト的な思考ができるような環境を整えていく必要があるでしょう。
理論自体はかなり専門的で難しい概念ですが、ソーシャルワークの世界では今後ますます注目される考え方であることは間違いありません。この分野に興味のある方は、ぜひ自分なりに勉強してみてください。
ジェネラリストか、スペシャリストか
ビジネスパーソンが自らのキャリアプランを考えるうえで重要となる「ジェネラリスト」と「スペシャリスト」について、看護師のキャリアイメージの例を用いつつ、両者の違いを説明してきました。
どちらのタイプを目指すべきか、どちらがより自分に合っているのかを知っておくことは、これからのキャリアを考えるうえでおおいに役立ちます。
どちらのタイプがより優れているかについては、さまざまな意見や考え方があるのは多くの人が知っていることでしょう。しかし結局のところ、自分の目指すべき方向によって変わってくるものです。
他者の意見を鵜呑みにせず、双方のメリットとデメリットを考慮したうえで、自分の目標に照らしながらしっかりと考える時間を持つとよいでしょう。