近畿大学はなぜ志願者数日本一になれたのか?敏腕広報に聞く「名刺管理」活用術
志願者数日本一、急成長を続ける近畿大学
――まずは、近畿大学さまのご紹介をお願いします。
世耕氏:今年で設立93年目の大学です。民間企業からすると古く感じるかもしれませんが、大学の世界では慶應義塾大学が150年、同志社が140年、龍谷大学が370年というところからみると、設立93年だと新しい部類で、今は急成長中の大学という認識です。
建学の精神である「実学教育」に基づいて、他大学と違うことをいろいろとやっています。クロマグロの完全養殖に代表されるように、ユニークな研究を世の中に出しているのです。
産学連携や大学発ベンチャーのように、大学も企業化していくことが世の中のニーズとして認められてきているので、近大の取り組みが評価されるようになってきました。そのおかげか、志願者数は5年連続日本一となりました。関西で日本一になったのは近大だけです。
――いつからその情報発信の改革を始めたのですか?
世耕氏:10年くらい前からです。それ以前は、学校名を隠したら、どこの大学かわからないような横並びの広告ばかりでした。そこで、一目見て近大だとわかるような広告を始めました。
東京でいう早慶とかMARCHのように、関西でも関関同立、産近甲龍のような昔からの名残でランク付けされているものがあり、それを打ち破るためには教育と研究だけを頑張っても難しいというのがありました。そこで、広報・PRの力を使って突破していこうとしています。
学生を集めなければいけないので、設備投資に力を入れました。以前の近大は、女子率が5%くらいでした。学生の人口が減っているのですから、今までとは異なる層も獲得しなければいけません。
そこで、女子を獲得するために、パウダールームや女性専用の24時間開いている自習室などを作りました。今では、女子率が30%を超えています。
図書館も新しく作っています。昔から、図書館という概念があり、建物が綺麗になっても本の置き方に関しては変わっていません。そこも、若い大学らしく、大学生が本を読みたくなるような配架をしています。
20〜30年前は、近大といったら汚いキャンパスの代名詞でしたが、今ではキャンパスの綺麗な大学として外部調査でも1位になっています。
近畿大学はなぜ名刺管理を活用したのか?
――Sansan導入前の課題を教えてください。
世耕氏:昔、学生があふれているときは、大学はキャンパス内にこもっていてもよかったんです。ただ、子供の数がこれだけ減ってくると、さすがに外を向く必要があります。
研究に関しても産学連携のように、外と結びついていくというのが今の大学の流れです。そのような状況で、この10年ほどで名刺の交換枚数が100倍くらいに急増しました。
普通の会社だと、顧客リストの管理などはノウハウが溜まっていると思うのですが、大学だとそれがまったくありません。名刺管理をしなければならないのはわかっていたので、方法を模索していました。
その頃は、頻繁に高校を訪問しており、1日に6〜7校回ります。すると、事前に学校ごとの資料を用意する時間はありません。外出先で、交換した名刺を確認して動きたいというニーズがありました。
報告書形式で情報を共有していましたが、それも時間がかかります。私は個人的に、もらった名刺をスキャンすることにしました。OCRアプリなどである程度は認識してくれますが、最後は人の目で確認する必要があります。そこで、毎週土曜日に出てきて、その週に交換した名刺の登録作業をしていました。
それでも、処理しきれずにスキャンできていない名刺が溜まり始めて、それがストレスでした。名刺をデータ化する場合、全部入れなければ意味がありません。よく知っている人は入れなくてもいいわけで、二度と会わないかも知れないという人のデータほど大切なのです。
しかも、電話番号やメールアドレスは1文字間違っていたら使い物になりません。名刺の入力作業にとても時間がかかり、自分自身の人件費もかかっているわけですから、これでいいのかと思っていました。
――そこまで名刺をデータ化しようとしたのはなぜですか?
世耕氏:僕は物覚えが悪くて、人の顔と名前を覚えるのが苦手です。ですが、高校訪問する際、あらかじめ準備をして行くのは難しい。以前は、訪問予定先に関連する紙の名刺を持って外出していたのですが、忘れてしまうこともあります。
そんな時、職場に電話して探してもらうのですが、とても時間と手間がかかるのです。
他にも、卒業生の集まりである校友会に顔を出すことが多いのですが、自分の記憶力だけに頼ると、初対面だと思った相手に名刺を渡そうとしたときに「先週ごめんなさい!」とか言われて「そ、そうでしたね」と焦ることになるんです。やはり、名刺のデータは外出先でもスマホで確認したいと思っていました。
ひとりで1万2,500枚も名刺を交換!縦横無尽にデータ活用
――Sansanを導入する経緯を教えてください。
世耕氏:Sansanというサービスは知っていましたが、なかなか有料で名刺を入力するということにピンときませんでした。
そんな中、働き方改革や残業時間の制限などが出てきて、自分や部下が名刺の入力に時間を取られるわけにはいかなくなってきました。そこで、やはり誰がやってもコストはかかるのだからと受け入れました。
扱うのが名刺なので、最初は個人情報がどうなるのか気になっていました。そこで仕組みを聞いたら、名刺を分割して入力作業を行っているので、個人情報が漏れるという心配がないことがわかり、安心しました。それで、きちんと入力できるのですから、夢のような仕組みですよね。
上層部の理解を得るのが難しいかもしれないと思っていましたが、意外とスムーズに話が通りました。上層部も時短や残業時間の問題は理解しており、業務効率を上げなければいけないという認識はすでに持っていたのです。
――Sansanを導入してどうなりましたか?
世耕氏:Sansanは4年前に導入しました。キャリアセンターなど外部と接点を持つ部署で利用しており、僕だけで1万2,500枚以上、ユーザー26人全体では4万3,000枚以上が溜まっています。僕の次に登録しているのが広報室長で、3,500枚です。
マスコミの集まる昼食会やパーティーに部下を参加させるのですが、私なら10人いたら10人全員と名刺を交換します。でも、大学の中にずっといた職員は、そういうのが結構苦手なんです。誰がどのくらい名刺交換しているのか、Sansanを見れば一目瞭然です。名刺が増えていない人には、すぐ指導できます。
僕はいろいろな所に行っているので、会う人が初対面かどうか判断できません。人の顔を覚えるのは能力で、努力でカバーできるものではないと思います。その弱みをSansanでカバーしています。パーティなどで席に座ったら、周りの人の名前をSansanで検索し、初対面の人とだけスムーズに名刺交換できるようになりました。
僕は1年に講演を100回くらいするのですが、大きい会場だと、100人くらい名刺交換の行列ができるんです。当然、覚えきれないのですが、日付を入れてSansanに登録しておけばいつでも検索できます。そこから、講演の依頼をいただいたり、産学連携の研究や学生の就職につながったりということもあります。
Sansanには、今後会うかどうかわからないな、という人の名刺も登録しています。先日も、商標を取ろうという話が出てきて、特許事務所に依頼しようとなりました。誰も特許事務所のつてがなかったはずなのですが、Sansanで検索したら4人ヒットしました笑。
メディアへのニュースリリースの発信も、Sansanなしではできなくなっています。昔は、記者に情報を出そうと思ったら、とても苦労したのです。今では、名刺という財産を持っているので、そこにニュースを発信できます。1年に500本以上、ニュースリリースを発信しています。
一つだけ要望としてあるのは、Slack上で名刺情報の共有ができるようになってほしいです。近大ではSlackを使っているのですが、そこにデータをコピーするのが手間なので、もっと手軽に送れるようになると嬉しいです。
――今後の展望や予定などを教えてください。
大学は斜陽産業です。18歳人口が1993年に205万人だったのが、今は118万人、2040年には80万人まで減ります。
大学運営はどこも厳しくなり、国際化やキャリア教育といった世の中が求めることに対応しなければなりません。とはいえ、今の人数で処理しなければならないので、効率を上げていく必要があります。
近大では広報が目立っていますが、これからは事務の効率化でも外から注目されるようにしていきたいと考えています。
記事中で紹介したサービス
法人向けクラウド名刺管理サービスです。テレビCMで、俳優の松重豊氏が「それ、早く言ってよ〜」と嘆くのを見た人は多いのではないでしょうか。Sansanは、スキャンや撮影した名刺をほぼ100%の精度でデータ化し、ビジネスに活かせるのが特徴です。単なるデータ入力サービスではなく、企業全体で多数の名刺を蓄積させることで、大きな効果を発揮できるようになります。もちろん、クラウド名刺管理サービスでは国内トップで、国内の大手企業が名刺管理サービスを導入する場合、ほぼこのSansanが選ばれています。
インタビュー後記
世耕氏の名刺交換枚数が、1万2,500枚を超えているのは驚異的です。ライターである筆者も人と会う機会は多いのですが、それでも10分の1くらいです。枚数だけでなく、Sansanを使い倒しているのも驚きました。ニュースリリースを年間500本以上出すというのもスゴイのですが、送信先の名刺を確保するための工夫も凝らされていました。
近畿大学では、先生などに直接取材依頼が来ても広報を通すようにしているそうです。他の大学では、先生にお任せしますので、となるところ、広報の誰かが同席するのです。これは、取材内容をコントロールする目的ではなく、記者の名刺を確保するためだそうです。記者の名刺は貴重だと、おっしゃっていました。このような取り組みの積み重ねが、PR力につながっているのだなと感じました。
Sansanを使っているユーザーが26人というのは実はずいぶん少ないのですが、ものすごい結果を出しているのは流石です。名刺が蓄積するほどに、メリットやシナジーも大きくなるので、今後も近畿大学の名前は轟いていくことでしょう。
ちなみに、インタビュー最後に世耕氏が要望されていた、SansanとSlackの連携ですが、開発予定とのことです。近いうちに、Slackに連絡先の情報を手軽に送信できるようになることでしょう。