新リース会計基準(IFRS16)とは - 日本はいつから?会計処理の変更点
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- 新リース会計基準とは
- 改正の背景はIFRS16と日本基準の差異
- 対象企業は従来のリース会計基準と同じ
- 適用時期は2027年4月1日以降に開始する事業年度
- 現行のリース会計基準からの主な変更点3つ
- 1.リース区分が廃止され、旧オペレーティングリースはオンバランス化
- 2.リースの定義が拡大し、不動産も対象に
- 3.会計処理における使用権資産の仕訳
- 新リース会計基準によって発生する課題
- 全契約を新基準にもとづいてリースかどうかを判定
- 財務指標が変化し、投資家や金融機関への説明が発生
- 対象が増加し仕訳も複雑になることで工数が増加
- 新リース会計基準に伴ってやること例
- 契約を洗い出して、リースに該当するか吟味
- 財務指標がどのように変化するのかの試算
- 既存システムを新基準に向けて改修
- 新リース会計基準への対応に役立つシステム
- 会計ソフト
- 固定資産管理システム
- 契約書管理システム
- 早めに備えて安定した運用を開始しましょう
新リース会計基準とは
新リース会計基準とは、2024年9月13日に公表された、リース取引に関する新しい会計ルールです。正式には「企業会計基準第34号『リースに関する会計基準』」、「企業会計基準適用指針第39号」、および関連する改正の総称として用いられています。
従来のリース会計基準は、当時の日本の会計基準と国際的な会計基準の整合性を図るために定められていました。
しかし、2016年に公表された国際財務報告基準(IFRS)第16号やTopic 842により、日本の会計基準との間で、とくに負債の認識における違いが問題視されるようになりました。
そのため、企業会計基準委員会は財務諸表の作成者や利用者から意見を聴取し、現在の国際的な会計基準との整合性を図るため、リースの資産や負債を計上する新基準の開発に着手。企業会計基準委員会に寄せられた意見を参考に検討を重ね、基準が改正されました。
改正の背景はIFRS16と日本基準の差異
新リース会計基準が改正された背景には、国際的な会計基準であるIFRS16と日本の会計基準の差異が関係しています。
これまでは、リース取引を「ファイナンスリース」と「オペレーティングリース」と区分していました。また、オペレーティングリースに関しては資産や負債を貸借対照表に記載せずにリース料の費用処理をしていました。
しかし、2016年に公表されたIFRS16によって国際的なリースの扱いが大きく変更され、借手側はオペレーティングリースを含めたすべてのリースに関する資産、負債を計上することに決定しています。
なお、貸手側については、従来のように「ファイナンスリース」と「オペレーティングリース」を区分し続けることになっています。
日本の会計基準と国際基準に大きな差異が生じたこと、財務諸表利用者のニーズの変化、そして日本の資本市場や財務報告の国際的信頼性を維持する必要性などから、国際基準に合わせた改正が求められ、新しい基準が策定されました。
対象企業は従来のリース会計基準と同じ
新リース会計基準の対象企業は、従来のリース会計基準と変わりません。金融商品取引法の適用を受ける企業、およびその子会社や関連会社です。また、会計監査人を設置する企業とその子会社も対象になります。
具体的な対象企業の例は次のとおりです。
- 上場企業
- 大会社(資本金5億円以上または負債200億円以上)
- 監査等委員会設置会社
- 指名委員会等設置会社
- 会計監査人を任意で設置した企業
これらに該当しない企業には新リース会計基準は適用されません。たとえば、中小企業は新リース会計基準の対象ではありません。中小企業の場合は「中小企業の会計に関する指針」に準じてリース取引の計上を行います。
適用時期は2027年4月1日以降に開始する事業年度
企業会計基準委員会では、新リース会計基準の適用時期を2027年4月1日以降開始の事業年度の期首からと定めています。ただし、2025年4月1日以後に開始する事業年度であれば早期適用が可能です。
注意点としては、新リース基準の適用は必ず期首から行う必要があることです。期中や期末からの適用はできません。
適用初年度においては新リース基準を適用するのが原則ですが、比較年度については遡って適用させる必要はありません。累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減して、当該期首残高から新基準を適用できます。
また、経過措置が豊富に定められているのも特徴です。どのような経過措置を活用するかによって、利益剰余金が変化するかもしれません。
現行のリース会計基準からの主な変更点3つ
1.リース区分が廃止され、旧オペレーティングリースはオンバランス化
現行のリース会計基準では、「ファイナンスリース」と「オペレーティングリース」に分かれていました。ファイナンスリースは通常の売買取引に係る方法で会計処理され、オペレーティングリースにおいては通常の賃貸借取引で会計処理されていました。
しかし、借手側は新リース会計基準でこのような取引区分がなくなり、いずれもリースとして扱うこととなります。そのため、すべてのリース取引をオンバランス化することが求められます(短期リース・少額リースの認識免除を選択した場合を除く)。
なお、貸手側は従来どおりファイナンスリースとオペレーティングリースに分類して会計処理を行います。
オンバランス化をするかどうかの判断基準は、現行の基準ではファイナンスリースであるかオペレーティングリースであるかでした。一方、新リース会計基準の判断基準はリースであるかどうかになり、IFRS16に準拠しています。
2.リースの定義が拡大し、不動産も対象に
新リース会計基準ではリースの定義が拡大しました。新リース会計基準では契約名称にリースと記載されていなくても、特定の資産を対価と引き換えに一定期間利用できる権利を与える契約は、オンバランスを求められる可能性があります。
サービス契約や業務委託契約などに組み込まれたリースも評価対象になります。旧基準下でも不動産の賃貸借はリース区分(オペレーティング)に含まれていましたが、新基準ではオンバランス処理に転換される点が大きな実務上のインパクトです。
3.会計処理における使用権資産の仕訳
新リース会計基準ではリース開始時に使用権資産とリース負債の計上を行います。使用権資産とはリースの使用権のことで、リース負債は権利に対して発生する支払い義務のことです。
仕訳は次のように行います。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 使用権資産 | 3,359,841 | リース負債 | 3,359,841 |
使用権資産の金額には契約期間中のリース料だけでなく、リースを開始する日よりも前に支払った金額も含まれます。たとえば、前払いや運送費、仲介手数料といった料金も含まれるため、見落とさないように注意が必要です。
新リース会計基準によって発生する課題
全契約を新基準にもとづいてリースかどうかを判定
新リース会計基準では今までリースとみなされなかった契約がリースにあたる可能性があるため、全契約を新基準にもとづいて一斉に見直す必要があります。
たとえば、不動産の賃貸借契約や業務委託契約のように、契約名称にリースと書かれていないものに関してはこれまではオンバランスが不要でした。
しかし、新リース会計基準では、条件を満たせばリースとみなされるため、リースに該当する契約を早期に判別する必要があります。
財務指標が変化し、投資家や金融機関への説明が発生
新リース会計基準が適用されることで、今までリースとみなされなかった契約がリースと判断されるようになります。そのため、多くの財務指標の数値が変化し、投資家や金融機関にも説明が必要です。
たとえば、販売費と一般管理費だけの計上で済んでいた費用が、同費用が減価償却費と営業外費用の支払利息に組み替えられ、営業損益に大きな差が生まれます。またEBITDAや自己資本比率にも変化があります。
したがって、大きく変化する貸借対照表や損益計算書の数値に対して投資家や金融機関に説明を行い、使用権資産やリース負債、利息費用といった項目が記載された財務諸表を作成し提供する必要があります。
対象が増加し仕訳も複雑になることで工数が増加
新リース会計基準が適用されるとリースの対象が増加します。それに伴って仕訳も複雑になり、工数も増加するため、これまでは不要だった作業が必要になります。
たとえば、これまではリース開始時には必要なかった使用権資産とリース負債の計上が求められるようになるため、対応が必要です。また、毎期の使用権資産の減価償却、支払時の利息計上といった作業も必要になります。
このように、これまでオペレーティングリースでは不要だった作業が必要になるため、工数が増加し、従業員の負担も増加するのが課題です。
新リース会計基準に伴ってやること例
契約を洗い出して、リースに該当するか吟味
新リース会計基準は今までの基準と比較して、オンバランスを求められるリースが増加します。したがって、自社が関与する契約を見直して貸借対照表に計上すべき契約があるかを確認しなければなりません。
たとえば、不動産賃貸借やサービス・業務委託契約、電力供給契約などに組み込まれた「特定資産の使用権」があればリース該当性を再評価する必要があります。
旧基準下ではこれらの多くが「オペレーティングリース」としてリース区分には含まれていたもののオフバランス処理でした。しかし、新基準では原則オンバランスとなるため、業務プロセスや情報収集体制を全面的に見直す必要があります。
財務指標がどのように変化するのかの試算
新リース会計基準にもとづいた財務諸表を作成した際に、財務指標がどのように変化するか試算する必要があります。
従来のオペレーティングリース取引のリース支払い料金は販売費や一般管理費で計上されていました。しかし、新リース会計基準では使用権資産の減価償却費やリース負債に係る利息費用として計上されるようになります。
したがって、大きく損益が変わるため、財務諸表が今までとどのくらい乖離するかの確認が必要です。乖離が大きくなければ問題ありませんが、大きく変化する場合は投資家や金融機関などに説明が必要になるため、どのように情報を開示するかを検討する必要があります。
既存システムを新基準に向けて改修
リース会計基準が新しくなることで、使用しているシステムも新基準に合わせて改修する必要があります。
たとえば、会計システムや固定資産管理システムを使用していた場合、バージョンアップやオプションの追加機能を加えることで新リース会計基準に適応できるかの確認が必要です。
新リース会計基準は2027年4月から強制的に適用されるため、それまでに既存システムのバージョンアップ版を購入するのか、システムを入れ替えるのかを検討しなければなりません。
システムを入れ替える場合、新リース会計基準に対応したシステムを導入すれば早期に対応できます。また、SaaS型のシステムを導入すれば、今後、法改正といった更新が必要な際も、面倒な業務を行わずに自動でアップデートできます。
新リース会計基準への対応に役立つシステム
新リース会計基準に対応したシステムを紹介します。導入することで新リース会計基準への早期対応が可能です。また、SaaS型のシステムは新リース会計基準だけでなく電子帳簿保存法やインボイス制度へも対応しやすくなるため、課題に合わせて選びましょう。
会計ソフト
新リース会計基準に対応した会計ソフトを導入することで、早期に基準に対応できます。また、ソフトによってはオンバランス化しやすいように機能を備えたものがあるため、早期実施したい企業は早めに検討するといいでしょう。
たとえば、仕訳入力とチェックをAIが自動で行ってくれたり、他システムとの連携が容易であったりします。そのため、迅速な経営判断が可能です。
また、SaaS型の会計ソフトを導入すれば、最新の状態に自動でアップデートしてくれます。たとえば、法改正が行われた際には自動でアップデートしてくれるため、対応の手間が省け、業務の効率化が可能です。
会計ソフトには他にもさまざまなメリットがあります。具体的なメリットは別記事を参考にしてください。
固定資産管理システム
会計ソフトと同様に、各社が新リース会計基準に対応した固定資産管理システムの提供をはじめています。会計ソフトと連携することで便利に使えるサービスが多いのであわせて検討するとよいでしょう。
たとえば、新リース会計基準向けの機能の実装が予定されていたり、日本会計基準に準拠したオンバランス処理の早期準備ができたりする固定資産管理システムがあります。
固定資産管理システムには他にもさまざまなメリットがあります。具体的なメリットは別記事を参考にしてください。
契約書管理システム
新リース会計基準では契約名称に「リース」の記載がなくてもリースとみなされる可能性があります。そのため、契約書を洗い出してリースに該当するかを判定するために契約書管理システムが便利です。
契約書管理システムを導入することで、判定漏れがないようにできるため、基準に向けた準備を整えられます。
とくに不動産や業務委託契約、サービス契約を扱っている企業におすすめです。また、契約書管理システムには他にもさまざまなメリットがあります。具体的なメリットは別記事を参考にしてください。
早めに備えて安定した運用を開始しましょう
新リース会計基準は従来の日本のリース会計基準で生じた違い、とくに負債の認識の違いを解消し、再度整合性を図るために公表された新しい会計ルールです。
新リース会計基準では借手側でファイナンスリースとオペレーティングリースの取引区分がなくなり、いずれもオンバランスを求められるのが特徴です。また、リースの定義が拡大し、不動産や業務委託といったこれまではリースとして扱われなかったものが、リースとして扱われるようになりました。
そのため、新リース会計基準にもとづいた全契約の見直しや、財務指標の変化によって発生する投資家や金融機関への説明が必要です。
新リース会計基準に対応したシステムを導入することで、早期の対応が可能となります。システムを導入する際は各ツールを比較し、気になるシステムの資料をダウンロードして自社に合うのか検討してみましょう。