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買い替え動機が失われてしまったスマホ市場
調査会社のガートナーが発表した調査レポートによると、2019年のスマートフォンと携帯電話を合わせた世界出荷台数は18億239万4,000台で、2018年の18億1,192万2,000台から0.5%減と、わずかであるが少なくなる見通しだ。
急拡大してきた市場が踊り場を迎えた要因の1つは、先進諸国で頭打ちになったスマートフォンの普及率だろう。潜在ユーザーが残っているあいだは拡販しやすかったが、普及率9割ともなると、購入者層はすでにユーザーになってしまった。
そして、スマートフォンの進化する速度が鈍化し、最新モデルや高性能モデルでなくとも不満を感じなくなったことも影響している。少し前のモデルを使い続けていても、たいてい十分なのだ。その結果、新しいモデルに飛びついたり、高性能なモデルに買い替えたりする動機が失われ、出荷台数が減少する。
ちなみにガートナーは、これまで平均2.6年だったハイエンドモデルのスマートフォン1台を使い続ける期間が、2023年には2.8年へと長くなるとみている。つまり、消費者はそれだけスマートフォンを買い替えなくなるのだ。
それでもスマホ出荷はやや持ち直す
5Gと折りたたみ式が好材料?
ただし、2020年の出荷台数は対2019年比で1.2%増の18億2,462万8,000台になるとガートナーは予測した。低迷していたスマートフォン市場は、どうして持ち直すのだろうか。
考えられる要素として、商用サービスが提供され始めた次世代移動通信方式の5Gにまず思い当たる。5Gネットワークに接続して最先端技術の恩恵を得るには、5G対応の新型スマートフォンが欠かせない。新し物好きは間違いなく購入する。
技術やデバイスに興味があるのなら、間もなく米国で発売されるサムスン電子の「Galaxy Fold」に目がないはずだ。なにせ画面の真ん中で折りたためる(フォルダブル)スマートフォンなのだから、目新しさは群を抜いている。
出典:サムスン / Galaxy Fold
折りたたみ式が爆発的に普及しないワケ
そんな折りたたみ式スマートフォンについて、ガートナーは2023年に全世界で3,000万台が出荷されると予想した。3,000万台は少なくない数字だが、ハイエンドモデル全体に占める割合は5%にとどまるという。Galaxy Foldが起爆剤になり、折りたたみ可能なスマートフォンが爆発的に広まる、という状況ではなさそうだ。
ガートナーのアナリストは、折りたたみ式スマートフォンに市場を再活性化する潜在能力があると期待している。その一方で、革新的なデバイスに付き物のトレードオフがいくつも存在するため、短期的な普及には懐疑的だ。
まずガートナーは、繰り返し折りたたむことで画面に傷のつく可能性を指摘した。画面やボディにはガラスや硬い金属素材が使えず、柔軟性のある樹脂を用いることになる。この種の樹脂は表面が柔らかく、擦り傷ができやすい。かなり価格の高いデバイスであるにもかかわらず傷がすぐついたら、購入者は失望するだろう。
高価格といえば、現時点で具体的な価格が示されている折りたたみ式スマートフォンは、2,000ドル(約22万円)前後もする。部品コストや製造コストが高いうえ、低価格モデルほどの販売台数が望めないことから量産効果による低価格化も期待できない。徐々に価格は下がるだろうが、しばらくは超高価格モデルであり続けるだろう。
耐久性や実用性が未知数なこともあり、今はまだ新し物好きのアーリーアダプターでも飛びつきにくいニッチな高級デバイスだ。
スマホ市場をときめかすフォルダブル
そうはいってもメーカーの開発競争は白熱しており、各社が相次いで折りたたみ式モデルを発表している。
折りたたむ仕組みは三者三様
サムスンのGalaxy Foldは、米国で4月26日に発売される。5月には、欧州各国でも販売が始まる予定だ。ところが、開閉機構に問題があるとして、米国発売の直前に延期されてしまった。メディア関係者へ配布したレビュー機で画面故障が相次いだ影響もあるのかもしれない。サムスンは問題の原因を把握しており、ディスプレイ保護対策を強化するとしているので、そう遠くない時期に登場するだろう。
すでに入手可能なデバイスとしては、世界初の折りたたみ式スマートフォンとなった柔宇科技(ロウユー・テクノロジーズ)の「FlexPai」がある。ただ、ロウユーは開発者向けの「Developer Model」としており、同社のディスプレイ技術をアピールすることが目的のように感じる。
出典:ロウユー / FlexPai
また、ファーウェイ(華為技術)はGalaxy Fold同様2つに折りたためる「Huawei Mate X」の発売を2019年半ばに予定している。
出典:ファーウェイ / Mate X
面白いのは、同じ折りたたみ式スマートフォンであるが、Galaxy Foldは画面を内側に折りたたみ、Huawei Mate Xは外側に向けたまま折りたたむという相違だ。グーグルはAndroid OSで両方式の折りたたみ方をサポートしており、スマートフォン市場で世界1位のサムスンと2位のファーウェイが分かれる形になった。
出典:グーグル / Unfolding right now at #AndroidDevSummit!
どちらの折りたたみ方が便利なのかは、実際に使ってみないと分からないし、使い方や人によって異なるだろう。それに、そもそもスマートフォンを折りたたむことが便利かどうかも不明だ。そういう意味で今は、折りたたみ式スマートフォンの実用性に加え、どのような形式やサイズが使いやすいかなどを実験している段階といえる。
その点では、デザインが画一的になり、機能や性能もあまり変わらない現在のスマートフォンと違い、折りたたみ式スマートフォンにはそれぞれ個性がある。今後も次々と新しいアイデアが投入されるだろう。
新技術も楽しみな要素
たとえば、LGエレクトロニクスは画面が透明な折りたたみ式スマートフォンで米国特許を取得した。画面の上に別の透明ディスプレイを重ねて二重に表示できるようになると、これまで想像もしなかった便利で画期的な使い方が可能になるかもしれない。
出典:米国特許商標庁 / MOBILE TERMINAL
スマートフォン市場にときめくのは久し振りだ。さらに増えるであろう折りたたみ式スマートフォンの発表を楽しみたい。
