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IT分野のオールドメディア、ポッドキャスト
ラジオ番組を聴く手段として、放送電波を受信する昔ながらのラジオでなく、PCやスマートフォンで楽しむ「radiko(ラジコ)」などのサイマルストリーミング聴取も一般的になった。ただ、この種のインターネットラジオは目新しいものでない。スマートフォンが登場する以前から利用されていた。そうしたインターネットラジオと似たオンライン音声コンテンツとして、2000年代半ばからポッドキャストが存在する。
ポッドキャスト配信者は、ラジオ番組のような音声コンテンツをインターネットアクセス可能なストレージにストックしておき、コンテンツの更新情報をRSSフィードで発信する。聴取者はそのRSSデータをポッドキャスト対応アプリに読み込ませると、聞きたいコンテンツをPCやスマートフォンなど手元のデバイスにダウンロードし、好きなときに楽しめる。
ちょうど、音声版ブログといったところだ。アップルの音楽プレーヤー「iPod」と音楽管理ソフトウェア「iTunes」がこの仕組みに対応して人気が出たため、iPodの「pod」と放送の「broadcast」を組み合わせた造語「podcast(ポッドキャスト)」と呼ばれるようになった。
誕生から約15年経過したオールドメディアであり、技術的には新しくない。廃れはしなかったが、目立つ変化もなかった。ところが、ここにきて注目され、ポッドキャスト対応を強化する大手IT企業も出てきた。
調査結果で裏付けられる注目度
現在ポッドキャストがどのように利用され、どの程度注目されているか理解するため、関連する調査結果を確認しよう。
2010年代半ばから利用者が増加傾向に
調査時期が2018年の1月から2月なので少し古いデータだが、エジソン・リサーチとトライトン・デジタルの調査レポートをみると、ポッドキャスト人気が最近高まったことがわかる。
米国で12歳以上を対象に調査したところ、ポッドキャストという用語の認知度は2006年が22%で、2007年に37%へ急上昇。その後やや上がったものの、2010年代半ばまで45%程度のまま推移していた。それが2016年に55%、2017年に60%、2018年に64%となり、増加傾向へ転じた。
出典:エジソン・リサーチ/トライトン・デジタル / THE PODCAST CONSUMER 2018
ポッドキャスト聴取経験者の割合は、2006年が11%、2010年代前半が20%台で横ばい、そして2014年に30%に達してから増加が続き、2018年には44%になった。エジソン・リサーチが新たに実施した別の調査によると、経験者はすでに50%を超えている。
出典:エジソン・リサーチ/トライトン・デジタル / THE PODCAST CONSUMER 2018
2018年の聴取率を年代別でみると、12歳から24歳が30%、25歳から54歳が32%、55歳以上が13%となり、ポッドキャストは若者にも利用されている。1週間の平均聴取時間は「1時間以上3時間未満」「3時間以上5時間未満」がそれぞれ25%、「10時間以上」が17%、「5時間以上10時間未満」が16%で、聴くことが習慣になっている人は少なくないらしい。
出典:エジソン・リサーチ/トライトン・デジタル / THE PODCAST CONSUMER 2018
出典:エジソン・リサーチ/トライトン・デジタル / THE PODCAST CONSUMER 2018
ポッドキャストの聴取手段について、2013年はPCが58%、スマートフォンやタブレット、携帯機器が42%だった。2018年になると、前者が24%、後者が76%で、モバイルデバイスで聴くことが圧倒的に増えた。
出典:エジソン・リサーチ/トライトン・デジタル / THE PODCAST CONSUMER 2018
2018年におけるスマートスピーカーの所有率は、米国平均が18%なのに対し、調査対象の1カ月間にポッドキャストを聴いた人に限ると30%もあった。スマートスピーカーの普及も、ポッドキャスト人気に一役買っているのかもしれない。
出典:エジソン・リサーチ/トライトン・デジタル / THE PODCAST CONSUMER 2018
拡大するポッドキャスト広告市場
インターネット広告の業界団体、インタラクティブ・アドバタイジング・ビューロー(IAB)によると、ポッドキャストの広告としての価値も高まっているようだ。
IABの調査では、2018年の米国ポッドキャスト広告市場は4億7,910万ドル(約506億8,000万円)規模で、1億570万ドル(約111億8,000万円)だった2015年からの年平均成長率(CAGR)は65%もあるという。さらに、市場拡大は今後も続き、2021年には10億4,480万ドル(約1,105億2,000万円)まで増えると予測した。
出典:IAB / IAB FY 2018 Podcast Ad Revenue Study
ポッドキャスト番組のジャンル別で広告売上高を調べたところ、「ニュース/政治/最新情報」が18.4%、「コメディ」が13.9%、「ビジネス」が12.8%、「教育」が10.6%、「アート/エンターテインメント」が10.0%あり、これらで全体の約3分の2を占めていた。また、2017年から2018年の成長率が特に高かったジャンルは、「子ども向け」(500%増)、「ゲーム/趣味」(385.7%増)、「ドラマ」(344.4%増)。これまでと違うユーザー層がポッドキャストを利用するようになり、ポッドキャストの幅が広がったのだろう。
出典:IAB / IAB FY 2018 Podcast Ad Revenue Study
ポッドキャストに積極的な大手IT企業
利用者が増え、広告媒体としての価値が高まると、ポッドキャストに対して積極的な企業も増えてくる。
本家アップルが乗り出すか?
ポッドキャストの火付け役で、ポッドキャストという言葉を生み出す切っ掛けとなったアップルだが、いよいよ本腰を入れてくるようだ。
ブルームバーグの報道によると、オリジナルのポッドキャスト番組を配信するため、独占権を得ようと複数のメディアに接触しているという。
アップルのポッドキャスト対応は歴史が長いだけあり、多くのポッドキャスト番組で聴取手段の5割から7割が同社製ポッドキャスト用アプリだそうだ。利用者の多いアップルが独自番組を配信するようになれば、ポッドキャスト人気が爆発的に高まるかもしれない。
興味のなかったグーグルも参入
ポッドキャストに興味のなかったグーグルも、初のポッドキャスト用アプリ「Google ポッドキャスト」を提供してきた。サードパーティ製アプリと比べ特別優れた点はないものの、必要十分な機能を搭載しており、シンプルで使いやすい。
さらにグーグルは、ウェブ検索結果にポッドキャストを表示するようにした。表示されたポッドキャストはその場で再生することも可能で、配信者にとっては重要な導線になる。将来的には、ポッドキャスト番組の内容まで自動テキスト化され、それらも検索対象になるとみられる。
音楽配信だけでないSpotify
スポティファイのストリーミング音楽配信サービス「Spotify」は、ポッドキャスト配信プラットフォームとしても多用されている。そこでスポティファイは、ポッドキャスト配信者の活動を支援しようと、番組管理ダッシュボード「Spotify for Podcasters」の正式提供を開始した。配信したポッドキャスト番組の聴取者数、聴取者の性別や年代、平均聴取時間などのデータが得られ、ファン獲得に役立つだろう。
なお、Spotifyユーザーは75カ国以上に2億人以上おり、ポッドキャスト利用者数は世界第2位だという。そして、Spotifyのポッドキャスト聴取者は、2019年初めから2倍に増えたとしている。
スマホやスマスピが追い風
ポッドキャストのような音声コンテンツは、動画コンテンツと違って画面を注視する必要がない。そのため、何かのついでに利用しやすく、鉄道通勤や自動車通勤の多い地域では情報入手に重宝される。コンテンツ制作者にとっては、制作や配信のコストが動画ほどかからない点が長所だ。
番組の内容も、音楽はもちろん、ニュースから学習、エンタメなど幅が広い。オーディオブックとも相性がよいだろう。番組によっては、深夜のラジオ番組と似た、配信者と聴取者の関係が近い魅力的なメディアになりうる。
このようにメリットの多いポッドキャストが、家庭や職場でのインターネット常時接続と高速モバイルネットワークの普及、そしてスマートフォンやタブレットの登場により、利用しやすくなった。スマートスピーカーの影響も大きいだろう。
また、音声広告に対する期待は高く、商品購入の導線としても機能し出した。利用され始めてから約15年経過したポッドキャストに、いよいよ日が当たるようになった。