AI活用は「リスクの見極め・許容」と「計画性」がカギ‐AI SaaSの雄 PKSHA TechnologyがFAQを変える

自然言語処理・画像認識・機械学習・深層学習などの技術を用いたカスタマイズ型のAIソリューションや、チャットボット・ボイスボットなどのAI SaaS プロダクトを開発・提供するAIベンチャー。エンタープライズ企業を中心に累計4400社の導入実績を誇る。※。
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丸川 貴弘(マルカワ タカヒロ)氏
株式会社PKSHA Technology
AI Knowledge & Communicationカンパニー
AI Knowledge Stream事業本部
CX開発本部 CXChatAgent開発部 部長
生成AIの進化が心理的ハードルを下げ、追い風に
―――近年の生成AIの著しい進化は、顧客のニーズにどのような変化をもたらしましたか?
生成AIが出てから、市場にはAIを活用したツールが増えていますし、お客様の中でもAIで業務改善することへの心理的ハードルはかなり下がっていると思います。
実際、弊社の引き合いも増えてビジネスが伸びていますので、生成AIが注目されていることが追い風となっています。
―――プラスの影響だったんですね。クライアントの依頼の内容にも変化はありましたか?
やりたいことがはっきりしているお客様も多いですが、最近ではAIでどんなことができるのか、どういうリスクがあるのかといったご相談も増えています。
抽象度の高いご相談には、弊社の強みの一つである社内のAIコンサルティングチームが、PoC(概念実証)を通じて伴走支援することもあります。
―――SaaSにおけるAIの活用が特に進んでいる領域はありますか?
ほとんどの領域に広がっていると感じています。弊社もボイスボットやチャットボットをAgent型として変化させてきましたが、これまでよりもできることが複雑化して広がっていくことがお客様からも期待されています。
―――クライアントの期待に対して、実現できることとのギャップなどはありますか?
テキストチャネル領域と音声チャネル領域の2つの観点があります。
テキストチャネル領域(チャットやFAQなど)では、ChatGPTなどの生成AIの登場によってお客様の期待値が大きく変わってきております。文脈や意図を深く理解し、人間と話しているかのような自然で柔軟な会話が可能になったことで、「AIチャットボットはこれくらいできるはずだ」という期待値が非常に高まっています。
一方で、実用化にはハルシネーション(嘘の情報を生成する)や、セキュリティリスク、コスト管理や回答のコントロールが難しいなどの新たな課題があります。
音声チャネル領域(通話)でも生成AIの活用は求められています。複雑な手続きを音声だけで完結させたり、オペレーターをリアルタイムで支援したりと、AIがコールセンター業務を大きく変えられる可能性を秘めています。
弊社ではこうした機能をAI SaaSに適用を進め、実用化しながら企業の業務に変革を起こしたいと考えています。
AIと人間の共進化の形「コネクティブAI」
画像提供:PKSHA Technology
―――御社が事業を展開するうえで、大切にしている価値観を教えてください。
大きく2つあります。
一つは、ソフトウェアは生活の必需品という考えのもと、その進化をAI技術で促進し、実際の生活や業務の変化に貢献できるものを作ることを大事にしています。これは弊社のソリューションでもプロダクトでも共通の考え方です。
もう一つは、ビジョンにも掲げている「人とソフトウェアの共進化」です。
AIが社会に浸透する形は国や地域で異なります。西洋では個人を強化するツールとして広がっていますが、日本では人と人の"間"をつなぐ存在としてAIが浸透していくと考えています。これを私たちは「コネクティブAI」と呼んでいます。
AIが人の仕事を奪うのではなく、AIがより人と人の間で働き、共に進化していく社会を目指しています。
ナレッジの循環を生む「AI FAQ Assistant」で自己解決最大化へ
―――御社ではコンタクトセンター向けのプロダクトを多く作られていますね。
はい、代表的なのはVoiceAgent(ボイスボット)、Chat Agent(チャットボット)、FAQなどです。企業が抱える課題である、問い合わせ削減やユーザー満足度向上に向け、電話・チャット・Webサイトなど各チャネルでAIサービスを提供しています。
―――現在、力を入れているプロダクトはありますか?
テキストチャネル領域でお伝えすると、お客様のユーザー自己解決最大化に向け、「PKSHA FAQ」「PKSHA ChatAgent」「PKSHA Knowledge Stream」を組み合わせた「AI FAQ Assistant」の開発を進めています。「AI FAQ Assistant」ではFAQのナレッジ循環構造を構築し、お客様の継続的な自己解決をご提案しています。
―――ナレッジ循環構造について詳しく教えてください。
お客様の満足度や問い合わせ削減などの課題に対して、お客様が自己解決するためのAI SaaSを我々は提供しています。この自己解決に必要な変数には、「FAQが網羅的であるか(FAQ網羅性)」「お問い合わせ前にどれだけFAQを介在させられるか(FAQ介在率)」「FAQがユーザーの問いに的確に答えているか(FAQ品質)」の3つがあります。
以前はFAQが増えるほど人による運用負担が大きかったり、類似しているFAQが増えて検索精度が低下したりする課題がありましたが、それらを解決するのがナレッジ循環構造です。
ナレッジ循環構造では、問い合わせデータから質問と回答を自動作成し、重複チェックやカテゴリー分けもAIによって管理できます。作成したデータからは次に優先すべきFAQを可視化できるため、効率的な運用が可能です。
画像提供:PKSHA Technology
また、生成AIを活用して検索性能や対話性能の強化を進めています。より人との対話に近い、あいまいな質問に対する聞き返しや回答生成ができたり、タグ検索するだけでFAQ候補を絞り込めたりできるようになっています。これらの機能により、FAQの網羅性や介在率を向上させられる仕組みができています。
加えて、FAQ品質の向上のため、Webサイトの導線構築やFAQの改修サポートも承っております。たとえば、FAQサイトやChatAgentを導入してもお客様に活用いただけるようにうまくサイト設計できていないと自己解決へ導くことはできません。
自己解決できるお客様には自己解決を促しながら、問い合わせが必要なお客様には問い合わせを提示することで、AI SaaSの効果を最大限引き出させていただきます。
―――FAQの管理や運用の手間をかなり削減できそうですね。「AI FAQ Assistant」の技術面・プロダクト面での競合優位性について教えてください。
自己解決に必要な要素(網羅性・介在率・品質)を包括的に解決する手段をご提供している点です。
また、テキストチャネル領域に加えて、「PKSHA Voice Agent」や「PKSHA Speech Insight」(AI書き起こし・音声分析)など音声チャネル領域を含むプロダクトによる自己解決の最大化ができるのは、弊社ならではの強みだと思います。
さらに、その先の広がりとして、カスタマーサポート領域の課題を解決するAI SaaSに加え、企業の特性に合わせた「カスタマイズアルゴリズム」の構築と、業務改革に向けたコンサルティングの提供も可能になっております。プロダクトとソリューションの強みを活かしたコンタクトセンターの包括的なDXが可能な点も弊社の強みです。
―――AIによる改良の余地はどのくらいありますか?
まだまだあります。質問に回答する物知りなAIから、自発的に業務を処理できる「AI Agent化」には全く到達できていません。コンタクトセンターは弊社の軸となる領域ですので、お客様接点や従業員接点、オペレーター支援など全方位で人と共進化するAI Agentの実現を進めています。
AIはSaaSを通じて普及する
―――今後、SaaS業界におけるAIの扱いはどのようになると思いますか?
SaaSにAIが組み込まれていることは当たり前になると思います。また、AIと人が対話できるようになったので、SaaSに限らずソフトウェアのインターフェースが変わっていくのではないかと思います。
―――5年後、10年後のSaaS業界はどのようになっていると思いますか?
技術進歩のスピードが大きく変わってきており、半年後の予測も難しいですね。先ほどの「AI FAQ Assistant」も1年後には全く違う形になっているかもしれません。
ただ、弊社としてはプロダクトの「Agent化」を会社全体で打ち出しています。考えて行動するAIで人をエンパワーする世界を目指しています。AIの技術進歩は目覚ましいものがありますが、それを実社会に適用するには、リスクや技術課題も多くあります。
弊社では、それらのリスクや課題を一つひとつ解決しながら、「未来のソフトウェア」を形にしていきたいと思います。
AI活用を成功させるカギは「リスクの見極め・許容」と「計画性」
―――企業が生成AIやAIを搭載するSaaSを活用するうえで重要なポイントはありますか?
リスクを許容しながら活用していく姿勢は必要になると思います。たとえば、「AIは嘘をつくのでは?」という不安から敬遠されることも多いですが、それに対してあまりある「できること」が多くあります。
不確実な事柄の発生要因を紐解いていくことで、できることとできないことが明確になり、活用の促進につながると考えております。
これらの点は、弊社もお手伝いしながら一緒に進めていければと思っています。パートナーとして弊社を選んでいただけましたら課題の解決に向けたより幅広い事例の提供やご提案をさせていただきます。
―――AIを搭載するSaaSの導入後に陥りがちな失敗や注意点はありますか?
生成AI以後でまた変化していますが、何も考えずに導入しても、望む効果が得られるわけではありません。きちんと計画性をもって取り組むことが必要です。
たとえばFAQやチャットボット導入で問い合わせ削減、ユーザー満足度向上ができるかどうかは、運用次第です。AIによる分析や可視化で運用負荷は減りますが「何を目的に使うか」を明確にして継続的な運用と改善が重要だと思います。
―――最後に、AIを搭載するSaaSの導入を検討されている方々に向けてメッセージをお願いします。
画像提供:PKSHA Technology
10年前は「社会にソフトウェアが浸透する」という流れがありましたが、今はAIがそれらを飲み込む時代です。この大きなうねりの中で、より良い形でどうやって社会に実装するかに向き合う必要があると思います。
AIは「怖いもの」や「人の仕事を奪うもの」と捉えられがちですが、弊社は「人々が個性を最大限発揮できる社会」を目指し、ソフトウェアを提供しています。より良い社会をお客様と一緒に作っていきたいと考えています。