システムを2つのエリアに分けてクラウド活用
なお「デジタルフォーメーション戦略」では、開発案件を2つに分けています。1つは「品質・安定重視の従来型開発エリア」です。
例えば、銀行において最も重要なシステムは、銀行の預金残高や出入金を管理する「勘定系」システムであることは疑いありません。勘定系システムは、災害時にも切り替わって動作するように、例えば東京と大阪など異なる場所でバックアップ体制が取られて運用されています。
こうした「絶対に止まってはいけない」「止まったら『事故扱い』され、金融庁への報告が必要」となるようなシステムをクラウドに移行することは、当面はないと推察できます。「デジタルフォーメーション戦略」にも、こちらのエリアについては「オンプレ(オンプレミス)+クラウドのハイブリッド」と明記されています。
もう1つのエリアは「不確実性を前提とした俊敏性重視の開発エリア」で、こちらは「クラウド中心」と記載されています。
こうしたエリアで中心となるのは、(1) 顧客情報を含まないシステム、(2) 顧客が利用しない社内業務システムだと推察できます。つまり、システム障害が発生しても金融庁への報告が不要で、顧客に影響がないシステムです。
これらのパブリックラウド移行は、AWSやSalesforce Platformだけでなく、SaaS(※3)への移行も含まれてくるでしょう。すなわち、これまで自社で作っていた業務システムを捨て、SaaSとして提供される機能を利用するというものです。
SaaSで提供されるシステムを利用すると、自社に応じた機能の追加改変が行えない代わりに、月額費用を支払うだけで多くの面倒ごとから解放されコストも低減できます。
※3)SaaS: Software as a Serviceの略で、クラウド経由のソフトウェアサービス利用
AWS以外の選択肢も残し、交渉力を確保する方針
三菱UFJフィナンシャル・グループのIaaS利用は、そのほとんどがAWSとなりますが、システムに応じてはPaaSやSaaSの利用も進むのは確実です。実際に、「デジタルフォーメーション戦略」には、AWS以外のパブリッククラウドプラットフォームである「Google Cloud」「Microsoft Azure」「IBM Bluemix」「Salesforce」についても簡単な記載があります。
AWSを中心に据えるが、AWSが強くなりすぎて交渉力を失わないように、複数のクラウドプラットフォームを常に検討していく姿勢を見せ、AWSをけん制する。三菱UFJフィナンシャル・グループのクラウド戦略は、こうした「したたかさ」の上に成り立っているのです。