Sansanが最重視する、カスタマーサクセス機能「3つの役割・4つのアクション」

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記事の情報は2017-10-30時点のものです。

Sansanプロダクトアライアンスマネジャー山田尚孝氏による本連載。最終回となる第3回は、「強い法人向けクラウドサービス」事業収益安定の鍵となるカスタマサクセス部門の果たすべき役割とアクションについて語っていただきました。

カスタマーサクセスのアクション

カスタマーサクセスの役割について理解したところで、次はその役割を果すための具体的なアクションを見ていきましょう。大雑把に分けると以下の4つに大別されます。

(1)Implement(導入支援)
(2)Optimize(活用支援)
(3)Training(トレーニング)
(4)Engage(ファン化)

(1)Implement(導入支援)

日本語では導入支援といったりしますが、法人向けでは、サービス契約後にそのサービスがスムーズに社内に浸透するようにいろいろと支援することを指します。導入決定後のImplementといえば、一般的には
• そのサービスの価値が最大限に発揮される業務フローを顧客とともに設計する
• システム管理者に導入サービスの設定やユーザー登録をしてもらう
• エンドユーザーに対して具体的な操作方法を教える
などを指します。

特に業務フローの設計は多くのカスタマーサクセスが最も工数を割く部分なのですが、実はその前段階にもっと重要なタスクがあります。それはそのサービスの価値をエンドユーザーに届けることです。これは特に勤怠システムや財務・経理システム以外の、業務上必須ではないシステムにおいては非常に重要です。B向けサービスはC向けサービスと異なり、利用者が使いたくて買ったわけではないという事情があります。多くの場合、利用者は会社からそのサービスを使いなさい、といわれたから使っているのであり、そこに自分の意志が発生するのは、使ってみた後であったりします。B向けのサービスでは「導入はされたけど定着しなかった」とう例に枚挙に暇がありませんが、根本原因はここにあります。

この問題をクリアするために、カスタマーサクセスはImplement工程において、導入先の担当者を巻き込みつつ、ありとあらゆる方法でユーザーの感心を奪い、かつそのサービスが社内に浸透するように手をつくします。昨今カスタマーサクセスの盛り上がりに伴い、カスタマーサクセス関連の記事を多く目にするようになりましたが、まだこの「ユーザーの関心を奪う」という部分について言及している記事が少ないように思えます。個人的にはImplementにおける最大の障壁だと思っているので、ネット上でこのあたりの記事が充実することを望んでいます。

(2)Optimize(活用支援)

仮にそのサービスの導入が上手くいった場合、次に(というか同時に)行わなければならないのは、そのサービスがより活用されるよう、ユーザーを支援することです。多くの場合、市場にあるサービスは複数の機能を持っており、導入初期~定着と利用が進むにつれ、より深い利用ができるようにサービスが設計されています。Optimizeではそのサービスの設計思想に従い顧客をよりアクティブな状態に導いていくこと、いわゆる「ユーザーを育てる」という行為を指します。そしてこれは、前述のカスタマーサクセスの役割で確認した、Negative Churnを発生させる上で欠かすことのできないアクションです。なぜなら顧客の利用がアクティブ化し、使い方がよりディープになっていけば顧客がそのサービスを解約する可能性はどんどん低くなっていくからです。

ただし、この「ユーザーを育てる」という行為は、言うは易しの代表格だったりします。多くの場合、顧客には顧客の事情があり、こちらの想定どおりに利用が深化しないことがほとんどだからです。この場合に最も障害となるのが、事前に利用進化後のイメージを共有することができないという点です。サービスを提供している側からすると、そのサービスの利用が深化するとどのような状態になり、導入企業にとってどのようなメリットがあるかを想像・語るのは容易なのですが、まだそこに至っていない顧客からすると、いわれていることの多くが理想論や夢物語に過ぎず、現実感もって理解することができません。

そうなると、「ウチは他社と違って特殊だから」といったセリフで片付けられてしまい、こちらの想定どおりにサービスを使ってくれない状況が続いてしまいます。こうなると顧客がChurn予備軍化し、事業収益が安定しない状態を生み出してしまいます。このような状態に持ち込まないためには、後述するカスタマージャーニーの考え方が重要になってくるのですが、そちらについては後述することにします。

(3)Training(トレーニング)

ユーザーにそのサービスの利用方法や活用方法を教える、一般的にいうトレーニングと同義です。カスタマーサクセスをあまり知らない人からすると、同部門の具体的な活動の多くはこれにあたると思っているでしょう。しかしながら、私のようにカスタマーサクセス部門に身を置いている人間からすると、TrainingはImplementとOptimizeの両方を実現するための手段にすぎず、それ自体が目的化することはありません。

とはいってもこのTrainingでもカスタマーサクセスのセンスが問われることが多いです。多くの企業ではTrainingを完了するために、ユーザーマニュアルを作成してサービスから参照できるようにするか、顧客のオフィスで説明会を開いて完了しようとしますが、そもそも「見てくれない」「参加してくれない」ということも多く、たいていは片手落ちな状態でTrainingが終了してしまいます。

実はこのTraining、数少ないサービス以外でのユーザーとのタッチポイントであり、Optimizeに繋げられる大きなチャンスなのですが、ほとんどのサービス提供企業はそれを理解していません。言葉を選ばずにいうと、とりあえず実施する”やっつけ仕事”ぐらいにしか思っていないのかもしれません。例えば、説明会の参加人数や参加率一つとっても、それらをKPIとしている企業はおそらく稀でしょう。また、マニュアル・説明会以外のトレーニング方法を用意しているサービスもあまりないかと思います。

昨今はUXが非常に重要視されている時代ですが、Trainingの分野においてもしっかりとしたUXを提供する努力をしてかないと、いつまでたってもImplementやOptimizeが進まないと思います。ちなみに後述する、Engageによってこれを強化しているサービスもあり、私はこの手法に注目しています。

(4)Engage(ファン化)

Engageはそのサービスのファン化を促進することで、長期的には2nd Order Revenueの呼び水となります。これは直接的な利益に繋がりにくいという理由から、サービス初期のカスタマーサクセスでは重視されないケースも往々にしてありますが、サービスの年齢経過に連れ「やっぱり必要である」と位置づけられたりします。

※サービス年齢が経過するということはそのサービスが継続している=市場で支持されている、ということなので、ファン化する可能性が高いからです

具体的にはユーザーコミュニティを運営したり、オフラインの会合を開いたりとイベント運営的な活動をすることになりますが、このような活動は収益に直結していないとみなされることも多く、リソースが割り当てられることは稀でしょう。

ちなみにこのEngageですが、上手く機能すればユーザー間で互いにTrainingを行い合うことも可能なようです。現にSalesfarceやMarketoなど、比較的使いこなすのが難しいサービスにおいては、お互いにノウハウを教え合う行為が発生しやすいため、この手法がそれなりに機能しているように見えます。

ここまでカスタマーサクセスが行うべきアクションについて見てきましたが、上述の4アクションをしっかりと行えている会社は稀かと思います。多くの企業はImplementとTrainingは(申し訳程度に)行っているものの、OptimizeとEngageは(必要性は感じているものの)まだ手を付けられていない、もしくは、やり始めたばかりというところがほとんどでしょう。

個人的な見解では、強いクラウドサービスを持つ企業のカスタマーサクセスは、この4つのアクションのメソッドを持っており、かつそれらが関連しあった方法論を有しています。特に海外のシェアの高いクラウドサービスは、その企業独自の方法論とそれを具現化したフレームワークまで持っています。しかしながらこのフレームワークは一朝一夕で持てるものではなく、長期の検証を必要とするため、それらを保有する企業はそれなりの歴史がある企業に絞られます。と同時に、一度そのレベルに達すると長期に渡ってカスタマーサクセスが成功し続け、それがサービスの強さに繋がるという面もあるようです。

※このあたりは卵と鶏の話で、どちらがどちらを生み出しているのかは興味深いところです