Sansanが最重視する、カスタマーサクセス機能「3つの役割・4つのアクション」

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記事の情報は2017-10-30時点のものです。

Sansanプロダクトアライアンスマネジャー山田尚孝氏による本連載。最終回となる第3回は、「強い法人向けクラウドサービス」事業収益安定の鍵となるカスタマサクセス部門の果たすべき役割とアクションについて語っていただきました。
Sansanが最重視する、カスタマーサクセス機能「3つの役割・4つのアクション」

Saasビジネスで存在感を増すカスタマーサクセス

最終回である今回は、昨今、SaaSビジネスにおいてメキメキと存在感を示しているカスタマーサクセスについて語りたいと思います。強い法人向けクラウドサービスの多くはSaaSであり、サブスクリプションモデルを採用しています。そしてそのようなサービスを持つ企業には必ずといっていいほどカスタマーサクセス部門が存在しています。より短絡的には、強いクラウドサービスを持つ企業には、カスタマーサクセス部門の存在が不可欠と見ることもできます。

私はSansan株式会社で半年ほど前からカスタマーサクセス部門に在籍しています。異動当初はカスタマーサクセスの存在意義や役割についてあまりピンときていませんでしたが、在籍して半年が経過した今は、その重要性や存在意義、更にはカスタマーサクセスとはどうあるべきか?についてある程度語れるようになりました。本記事では私の半年間の経験と、昨今のIT業界のトレンドに基づいて、カスタマーサクセスについて深く語っていきたいと思います。

  • ちなみに本記事は「逆説のカスタマーサクセス」という発表資料を元情報とし、自身の体験を加味した上で作成しています。同資料を作成されたTakaaki Umadaさんに改めてお礼申し上げます。

重要な役割になりつつあるカスタマーサクセス

第1回のプロダクト、第2回のマーケ&セールスにおいては、強い法人向けクラウドサービスを持つ企業の特徴を見てきましたが、今回のカスタマーサクセスについては論理展開がいささか異なります。なぜかというと、強いクラウドサービスを持つ会社はほぼ必須でカスタマーサクセス部門を有しており、(乱暴にいうと)カスタマーサクセス部門を持つことがサービスを強くする必要条件でもあるからです。

プロダクトやセールス、マーケの機構はどのような製品・サービスを提供している企業でもその中に存在していますが、カスタマーサクセスは成功している、もしくは成功途上の企業にだけ存在しています。なぜなら、従来のサービスにおいてこの部分は重視されず、かつサービス提供活動における優先度が低かったからです。結果、予算もタレントも十分に付かないため、余力のない企業には同部門が存在しないという現象が起きていました。しかしながら昨今、サブスクリプションモデルの一般化と、キャズム超えのためのスタートアップ戦略として、初期段階でのカスタマーサクセスの重要性が叫ばれています。カスタマーサクセスはカスタマーサポートとして以前から認識されていましたが、ITプロダクトのサービス化に伴い、サポートのカバー範囲の拡大を余儀なくされた結果生まれたものです。

元々サポートは当該サービスの操作方法の問い合わせ先、トラブル発生時の連絡窓口の役割が主でしたが、SaaSのサブスクリプション化に伴い、解約予備軍のウォッチやフォロー、LTV最大化などを行う必要に迫られました。これは従来のサポートの業務範囲を超えるものであり、かつ異なったスキルを求められる業務であったため、それらを充足する機構が別途必要となりました。それがカスタマーサクセス部門です。

カスタマーサクセスが生まれる少し前は、この部分を「既に顧客と関係を構築している」という理由でフィールドセールスが担当していましたが、常に新規の数値を追わなければならないセールスが同業務を担当した場合、十分な時間を顧客に割くことができず、かえって信頼を損ねるという皮肉なループを生み出してしまったため、その改善案としてカスタマーサクセス部門が生まれたという背景もあります。

一昔前、この役割を持つ人は「運用コンサルタント」として営業部門に存在していたりもしていましたが、最近はカスタマーサクセス部門を作り、その中に運用コンサルタントを抱える体制が一般化しつつあります。

カスタマーサクセスの役割

私が考えるカスタマーサクセスの役割は以下の3つです。
(1)継続利用によるChurnの削減
(2)Negative Churnの発生
(3)2nd Order Revenueの仕込み

例によって一つずつ見ていきましょう。

(1)継続利用によるChurnの削減

Churn(チャーン)とは解約のことです。Churn Rateといったら解約率のことで、日本ではまだ馴染みのない言葉ですが、最近普及の兆候が見えるので、近いうちに違和感がなくなると思います。サブスクリプションモデルにおいて、Churnの削減が重要であることは言うまでもないでしょう。

新規の顧客を獲得するよりも解約率を下げるほうが、人的・金銭的エネルギーも少なくて済みますし、中長期的にそのサービスの収益基盤を厚くします。このあたりについては「スタートアップのお金と指標入門講座:チャーンレート (Churn Rate)」に詳しい記載があるのでご参照ください。

(2)Negative Churnの発生

Negative ChurnはChurnの反対で、収益や利用者数をUPさせる事象のことです。具体的にはクロスセルやアップセル、またはサービス利用枚数(SaaSの場合はIDの数等)の追加などを指し、広義ではサービスの継続も意味します。

サブスクリプションモデルのサービスの場合、このNegative Churnが起こると複利効果が発生するため、数年単位で見ると、発生しない時と比較して大きな差が出ます。カスタマーサクセスのミッションがLTVの最大化である以上、こちらも外すことができません。

(3)2nd Order Revenueの仕込み

2nd Order Revenueとは、顧客が顧客を連れてくることによって発生する収益のことです。例えば、あるサービスを利用している人が転職をし、その転職先で同一のサービスを導入した、という場合に発生します。

C向けのサービスでは口コミを重視したバイラル戦略を立案したりしますが、それはB向けでも同じことです。ただし、B向けサービスの場合は購買のステークホルダーが多岐に渡るため、その分バイラルコントロールが難しかったりします。

しかしながら、サービス利用者とのエンゲージメントを深めて、顧客が顧客を連れてくるループを構築する重要性はB/Cともに変わりがないため、何らかの方法でサービスに愛着を持ってもらう仕掛けを持つ必要があります。その部分が「仕込み」なのです。

他に注意すべき点はありますが、私はカスタマーサクセスのミッションはこの3つに集約されると思っています。いずれもそんなに目新しいものではないのですが、セールスでもマーケでもサポートでもない視点で再定義されたと捉えることができます。