保険業界の働き方改革に「RPA」がベストマッチな理由

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記事の情報は2018-03-13時点のものです。

10年以上も前から概念としてあったRPAが、働き方改革の機運を背景に注目が集まっている。特に保険業界では、保険にITを融合したインステックの取り組みの一環としてRPAに取り組むことが増えている。RPAは保険業界をどのように変えていくのだろうか。

保険業界の働き方改革に、なぜ「RPA」導入が効くのか

RPAは事務処理の自動化が基本であるため、幅広い業界に適用できるのだが、その中でも保険業界では意欲的に導入に取り組んでいる。それはなぜかー。

その理由は、「働き方改革の機運の高まり」「人手不足」の背景に加え、取り扱う商品の価値が事務処理の質と直結しているという保険業界の特性にある。

保険商品はモノ・サービスの販売と違い、契約した人は、実際に保険金が支払われない限りは、その価値を感じることができない。契約に関連する業務は、そうした契約者に安心感を与えるために、他の業界以上に気を遣う。

こうした契約に関連する事務オペレーションとシステム処理をアンダーライティングと呼ばれ、おおまかに以下の業務で構成されているのだが、これらが密接に関連し、かつタイムスパンが長いのは保険業務の大きな特徴だ。

アンダーライティングとは
(1)契約前の審査・契約成立の手続き(新契約)
(2)更新状況の管理(保全)
(3)保険料の入金管理(収納)
(4)契約内容に基づく保険金等の支払い(保険金等支払)

また、顧客数も非常に多い。たとえば次章で紹介する三井住友海上の持ち株会社、MS&ADインシュアランス グループ全体の個人顧客数は約4,200万人にもなる。膨大な数の顧客について契約を長年にわたって正確に、迅速に管理しなければならないのが保険業務の特徴なのだ。

人手による事務処理はミスがゼロにはならない。ゼロに近づけるために何重ものチェックを行うと、時間がかかり人件費がかさむという構図だ。

しかし業務の自動化を進めることでストレスフルな作業から社員を開放し、高付加価値な仕事を割り当てることができ、契約管理の精度向上による顧客サービスの向上が期待できるのだ。

保険業界ではさらに、(1)~(4)のそれぞれの業務を別々の部署に分かれて行う。処理をするたびに別の部署への照会等が発生することになる。こうした部署間の事務上のやり取りを自動化することで全体的な生産性を上げられるというわけだ。

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三井住友海上がRPAで取り組む「顕在化しない低生産性」の解消とは

三井住友海上では、ICTを活用した新たなビジネスモデルの構築に取り組んでいる。RPAの本格導入もそのひとつだ。もともと三井住友海上では2007年以降、PC作業を自動で行うツールを自社で継続して開発していた。

今回、あらためてRPAを導入することに決定したのは、「業務全体の効率化」を図るためだという。今までのツールは、個別の部署からあがってくるリクエストに応じて開発していた。しかしその場合、リクエストがあがってこない業務については、効率化が図れないままになってしまう。またアンダーライティングでさまざまな部署が関わる全体の業務効率化を図れていないという課題があった。

そこで三井住友海上はまず、PCのログを解析することから始めた。本社部門、営業部門、損害サービス部門で使用するPC数十台分において数百におよびPC作業の分析を行ったところ、約2割の業務時間を使う作業がRPAに置き換えられることが判明した。そこで、複雑なプログラミングが必要なく、比較的短時間で実装できるRPAを導入したのだ。今後はより対象業務範囲を広げて分析を進めていく予定だという。

RPA製品の良いところは、Excelマクロのようにツールが各部署に分散せず、自動化した範囲を「見える化」できることだ。個別に作成した「便利ツール」にありがちな、ブラックボックスがなくなり、部署や業務の垣根を超えた全体的なフローを可視化し、全体最適を実現できる。

三井住友海上では人財戦略の一環として「働き方改革」に取り組んでいる。19時前の退社ルールの設置や業務効率化等を通じて、総労働時間の短縮を図り、自己成長とライフスタイルの充実を促進し、個人の力を最大限に引き出そうというものだ。RPAのようなテクノロジーの導入に加えて、事務ルールや会議運営ルールを抜本的に見直して生産性の向上を図る。