狩猟業特化SaaSの「ジビエクラウド」、創業メンバー全員が副業起業という挑戦

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記事の情報は2019-05-17時点のものです。

野生鳥獣による農作物への被害は年間で約160億円にものぼるという日本。鳥獣による被害を食い止めるイノシシ・シカの捕獲頭数が大幅に増加する一方、そのうちジビエとして食肉転用された割合は2016年度でわずか7%にとどまっている。こうした状況をテクノロジーを活用して解決しようとしているのが、ジビエ流通拡大に向けた「ジビエクラウド」を提供するhuntechだ。
狩猟業特化SaaSの「ジビエクラウド」、創業メンバー全員が副業起業という挑戦

野生鳥獣の農作物被害は年164億円にも及ぶ

農林水産省の発表によれば、2017年度の野生鳥獣による被害金額は約164億円にものぼる。前年度から減少傾向にあるが、依然として大きな額だ。

また被害が及ぶのは農作物だけでなく、鳥獣が人々の生活圏に侵入し、地域住民に危害を加えるケースも少なくない。

捕獲した鳥獣のジビエ活用も盛んに

捕獲した鳥獣は、食肉「ジビエ」として活用できる。だが、イノシシやシカの捕獲頭数が大幅に増加しているものの、ジビエとして食肉転用された割合は2016年度でわずか7%にとどまっている。

2018年の日本政策金融公庫の「消費者動向調査」によると、ジビエの認知は全体の6割にのぼる一方で、食べたことがある人は3割。2018年9月以降の豚コレラの流行により、ジビエ消費の落ち込みも報じられており、ジビエの普及には品質の向上と信頼性の担保が求められている。

ジビエ流通管理を実現する「ジビエクラウド」とは?

こうした獣害対策、ジビエ流通の信頼性担保といった課題を解決すべく、狩猟関連機器・サービスの企画・開発・販売を行うhuntech(ハンテック)は、ジビエのトレーサビリティシステム「ジビエクラウド」を開発し、2019年5月7日から提供を開始した。

ジビエクラウドは、狩猟によって捕獲された野生鳥獣の食肉「ジビエ」の捕獲から流通までを管理する、いわゆる狩猟業に特化したバーティカルSaaSだ。

主な機能は「個体ごとの捕獲・加工情報の登録」と、「QRコードを用いた消費者向けの情報配信」である。

「ジビエクラウド」の仕組み/huntech

個体ごとの捕獲・加工情報の登録

獲物の捕獲場所・捕獲日時や、性別・年齢などの個体情報、重量・解体日時・加工者などの加工情報を登録できる。

huntechは、ジビエクラウドのほかにも2018年11月に捕獲時にモバイル端末に通知を送る狩猟罠用のIoT機器「スマートトラップ」を提供している。

このスマートトラップを捕獲用の罠に接続することで、罠が作動するとセンサーが捕獲を検知、管理者に通知メールが送信される。

スマートトラップの取り付けイメージ。罠の設置者に義務付けられている見回りの頻度を毎日から週1〜月1回程度に、猟師の労力を1/30ほどにまで軽減できるという/huntech

スマートトラップにはGPSセンサーが搭載されており、捕獲日時や気象情報などとあわせて捕獲場所の位置情報も含めたデータベースを自動で作成できる。これにより、ベテラン猟師の持つ暗黙知となっていた「野生鳥獣の行動特性」を見える化し、捕獲効率を高められるという。

スマートトラップの基本的な仕組み/huntech

ジビエ流通の安全性向上と透明性の確保を目指し、ハンターや処理加工施設が簡単に捕獲から加工情報の登録・管理が可能なトレーサビリティシステムをSaaS型で提供することを目指す。

QRコードを用いた消費者向けの情報配信

製品ラベルに表示するためのQRコードを作成し、一般的な汎用シールプリンターで簡単に印刷し、商品に貼り付け可能。消費者は、QRコードを読み取ることで、手軽に個体情報を確認できる。

圧倒的シンプル&安価にSaaS型で提供

これまでも、鳥獣対策に関するIoT機器やトレーサビリティシステムは大手ベンダーや罠の製造を行うメーカーなどを中心に提供されていたが、どれも大規模で重厚長大なシステムになりがちで、導入・初期運用コストも高かった。

これに対してジビエクラウドは、初期費用が1処理施設あたり5万円(税別)、月額費用が4,000円(税別)と手軽に導入できるのが魅力だ。

野生鳥獣被害が深刻な自治体を中心にサービス導入を進め、2019年末までに40の処理場への納品を目指す。また、2019年度中に都内のレストランと連携したジビエイベントの開催や、消費者・レストラン向けの情報配信、販売機能の追加も予定しているという。

メンバー全員が「副業起業」という挑戦

huntechは2017年9月設立のスタートアップ。テクノロジー活用による地方創生を目指し、野生鳥獣の捕獲・流通プロセスの改革を目指している。

代表取締役CEO 川﨑 亘氏は、経営コンサルティング会社、ベンチャー企業を経験したのちhuntechを創業。現在は、中小企業の管理職を務めながらhuntechを経営している。

「私の生まれは東京ですが、父方が茨城、母方が熊本出身なので、幼いころから地方への愛着がありました。今後、人口減少などの課題が出てくるであろう地方の産業に貢献できないかと考え、一次産業の中でも、農業や漁業と比べてIT化の遅れている狩猟業のIT化に注目しました」(川﨑氏)

創業メンバーは川﨑氏を含めて3名だが、全員がhuntechは“副業”だという。川﨑氏は週3、4日勤務の正社員、ほかの2名はフルタイムで他の会社で働いているというから驚きだ。

川﨑氏は「目先の利益は考えていない。狩猟業を皮切りに地方のリレーション作っていき、中長期的には林業をはじめとした一次産業の改革にもチャレンジしたい」と今後の展望を語ってくれた。

ジビエ・狩猟業という一次産業のなかでも比較的ニッチな市場に注目し、少数精鋭のメンバーで事業を行っている。全員が副業起業という挑戦に今後も注目したい。