MBO(目標管理制度)とは?
MBOとは「Management by Objectives(目標管理制度)」の略で、グループや個人で目標を設定し、達成度によって評価する仕組みです。
従来の目標管理手法では、上司が目標を一方的に設定し、社員はそれに従うケースが一般的でした。
一方、MBOでは社員自身が主体的に目標を決め、達成に向けた進捗管理も実施します。このプロセスにより、目標達成までの道筋が明確になり、達成率や責任感の向上が期待できます。
日本でMBOが導入され始めたのは1990年代後半です。バブル経済崩壊後、成果主義が取り入れられ、仕事の成果を評価基準とする流れのなかでMBOも注目されました。
現代では、社員の主体性やモチベーションを引き出し、個人やチームの成果向上に寄与する制度として導入されています。
ドラッカーが説いたMBO
マネジメントの父と呼ばれる経営学者「ピーター・F・ドラッカー」は『The Practice of Management(現代の経営)』において、適切に目標管理がなされれば、指示されることなくみずから目標に従って行動できると言及しています。
すなわちMBOを人事評価としてだけでなく、モチベーションを高める術としても利用可能であると述べています。人事評価の課題へと通ずる考え方ともいえるでしょう。
MBOとOKRやKPIとの違い
MBO、OKR、KPIはどれも評価手法ですが、それぞれ違いがあります。
違いをまとめると次のようになります。
| MBO | OKR | KPI | |
|---|---|---|---|
| 目的 | 人事評価 | 会社の目的を達成 | 目標の進捗把握 |
| 目標の立て方 | 企業に依存 | SMART | 定量的な指標で設定 |
| 目標の共有範囲 | 上司と部下のみ | 全社的 | 部門・チーム |
| 評価・振り返りの頻度 | 半年〜1年に1回 | 四半期〜1か月に1回 | 四半期〜1か月に1回 |
| 期待される達成度 | 100% | 60〜70% | 100% |
OKRとの違い
OKR とは「Objective and Key Result」の略であり、全従業員に、重要な組織目標を共有し、目標達成に向けて集中してもらう手法です。
一人ひとりの目標をたどっていくと、最終的には組織全体の目標となるよう目標を設計します。
MBOは評価制度の趣旨が強い一方、OKRはコミュニケーションを活性化させる目的が強いのが特徴です。
MBOとOKRの違いについては、次の記事でより詳しく解説しています。ぜひ参考にしてみてください。
KPIとの違い
KPI とは「Key Performance Indicator(重要業績評価指標)」の略で、組織や個人の目標達成度を定量的に評価・分析するための指標です。
組織全体の目標から逆算して、各プロセスにおける成果や進捗を測定するために設定されます。
OKRと同様に、KPIも目標に紐づけて設計されるのが特徴です。MBOが評価制度に重きを置くのに対し、KPIは進捗の可視化や改善点の把握を通じて、業務効率や成果向上をサポートする役割を持っています。
KPIを活用することで、目標達成までの各段階での達成度を定量的に確認できます。
MBOのメリット
MBOを活用することで、組織全体の主体性と成長速度を高められるでしょう。理由と、MBOの5つのメリットをあわせて解説します。
社員の主体性が高まる
MBOでは、社員自身が目標設定に関わり、達成に向けた行動計画をみずから考えるため、主体性を高められる点がメリットです。
目標達成のために足りないものを把握し、どのような行動を取るべきか判断することで、社員の自主的な行動が促されます。
結果として、一人ひとりが役割を理解し、責任を持って行動するようになります。組織全体としても、社員の主体性が組み合わさることで、業務効率やチームのパフォーマンスが向上するでしょう。
能力の開発・向上
MBOは、目標達成のために必要なスキルや知識を社員自身が認識し、計画的に習得することを促します。
目標に到達する過程で必要な学習や改善が求められるため、能力開発につながる点もメリットです。
社員はみずからの成長を実感できるようになり、専門性や問題解決力、計画力などのスキルが向上します。組織にとっても、個々の能力が底上げされることで、全体の生産性や業績の改善につながります。
評価への納得感が高まる
MBOでは、達成すべき目標や基準が明確に設定されており、評価の根拠がわかりやすくなる点もメリットです。
目標に対する進捗や結果が可視化されることで、評価が客観的に実施されるため、社員は評価に納得しやすくなります。
結果、社員の間で評価に対する不満や疑念が減り、組織全体の信頼感が高まるでしょう。
従業員エンゲージメントやモチベーションの向上
MBOでは、社員が自分で設定した目標に向かって計画的に行動することが求められます。目標が明確で、成長や成果が見える化されるため、達成感ややりがいを感じやすくなります。
これにより、社員の仕事への関与度やエンゲージメントが高まり、モチベーションの向上につながるでしょう。
結果として、社員は主体的に業務に取り組むようになり、業務効率やチーム全体の生産性向上も期待できます。
具体的な行動指針が立てやすい
MBOでは、目標達成のために必要なプロセスやアクションを社員自身が考えるため、具体的な行動指針を明確に立てやすいです。
結果として業務の効率化が進み、日常の意思決定がスムーズになります。また、目標に対して計画的に取り組む習慣が身につくことで、長期的な自己成長にもつながるでしょう。
MBOのデメリット
MBOの導入は目標が個別化されることで生じる課題や、運用上の落とし穴を理解することが重要です。MBOの注意すべきデメリットを紹介します。
公平な評価が困難
MBOでは、社員ごとに目標を設定するため、全員を完全に公平に評価するのは容易ではありません。
特に、成果の数値化が難しい業務や定性的な職務の場合、評価の基準が曖昧になり、評価者の主観が入りやすくなります。さらに、評価者の負担も増大するため、全社的に公平な評価を実現するのは難しいでしょう。
解消するためには、評価基準の明確化や、多角的な評価の導入が有効です。
複数の評価者による360度評価や、目標の達成度を数値だけでなく行動面も加味して評価するなど、偏りを防ぐ仕組みを整えることが推奨されます。
ノルマ管理ツール化の恐れがある
MBOは成果主義の一環として導入されることが多いため、人事評価のためのツールとして運用される場合があります。
結果、社員にとって目標が単なるノルマのように感じられ、達成のためだけに動く傾向が強まる恐れがあります。
これを防ぐためには、目標設定の段階で社員の成長や業務改善につながる内容を重視することが有効です。目標達成だけでなく、プロセスや行動も評価の対象に含めることで、単なる数字管理に偏らない運用が期待できます。
目標設定が難しい
職種や業務内容によっては、具体的な数値目標を立てるのが難しい場合があります。
難易度が低すぎる目標や、反対に高すぎて現実的でない目標を設定すると、社員のモチベーションや評価の妥当性に悪影響を与えかねません。
これに対処するには、目標設定の段階で上司と社員が協議し、達成可能かつ挑戦的な目標を設計することが重要です。数値化できるものと定性的な目標を組み合わせると、現実的で実行可能な目標設定が可能になります。
これらのデメリットは、MBO制度が問題ではなく、間違った運用により引き起こされることが問題です。組織全体で、MBOの仕組みやメリット・デメリットを理解し、正しく運用できるように制度を見直しましょう。
MBOの導入手順
MBOの導入手順と運用の流れについて解説します。基本的に、目標達成までのプロセスは、「 PDCAサイクル 」で管理します。
設定した目標(Plan)を実行(Do)して、定期的に達成度合いを確認(Check)します。当初の目標が実行できていたか、成果に結びついたのかを検証し、評価しましょう。
そのうえで、明らかになった課題や問題点の改善策を検討、改善(Action)して、次の目標につなげます。
また、MBOもできる人事評価システムはこちらの記事で紹介しています。
1. 目標設定
まずはMBOに必要な「目標」の設定から始めます。
経営戦略をもとにした組織目標と、それに整合する個人目標を明らかにします。公正な評価のためには、各々の目標を正しく設定しなければなりません。
目標を設定する際は、難易度や達成期限、具体的かどうかなど、細かい部分まで社員と上司がしっかりコミュニケーションを取りながら立てることが重要です。
また、組織全体の目標を共有することで、社員同士の一体感を醸成する狙いもあります。
目標設定に使える評価シートは、次の記事で紹介しています。無料でダウンロードできるので、すぐに使える評価シートを探している方へおすすめです。
2. 計画・実行
設定した目標にもとづき、具体的な行動に移す段階です。目標を達成するためには、日々の業務やプロジェクトのタスクを計画的に進める必要があります。
ただし、現場では計画どおりに進まないことも多く、予期せぬ問題や優先度の変化によってスケジュールがずれることもあります。
単に行動するだけでなく、定期的に進捗状況を確認し、目標とのギャップを把握することが重要です。ずれが生じた場合は、原因を分析し、優先順位の見直しや業務プロセスの改善など、柔軟に行動計画を修正しましょう。
3. 進捗確認
定期的に目標達成に向けた進捗状況を確認することは、MBOを運用するうえで欠かせません。
進捗確認のための1on1ミーティングは、こまめに実施することが重要です。問題点や課題の早期発見、適切なフォロー、必要に応じた行動修正を実施することで、目標の達成度を高められます。
部下と上司の双方で現状を共有することで、チーム全体のパフォーマンス向上にもつながるでしょう。
4. 評価・評価後のフォロー
各期の終了時には、まず社員自身が自己評価をし、事前に設定した評価基準にもとづき上司が最終的な評価を実施します。
このとき、評価基準をあらかじめ明確化することで、納得感のある評価ができます。
評価時は単に結果を見るだけではいけません。目標達成までの行動や取り組み方を振り返ることで、成功要因や改善点を明確にできます。これにより、次の目標設定や業務改善に活かせます。
MBOを実施する際の注意点
MBOを実施する際には、押さえておきたい注意ポイントがあります。なかでも重要な項目を2つ紹介します。
プロセスを考慮して評価する
MBOでは、目標の達成度だけでなく、達成までの取り組みも評価することが重要です。
社員がどのような工夫や努力をしたか、課題にどう対応したかを把握することで、公平で実態に合った評価ができます。日々の行動を記録し、面談で振り返るのが効果的です。
結果だけを評価すると、短期的な成果ばかり意識して無理な行動が増えたり、チームワークがおろそかになったりすることがあります。
努力が評価されずモチベーションが下がることもあるため、プロセスを評価に含めることが大切です。
個人と組織の目標につながりを持たせる
MBOを導入する際には、社員一人ひとりの目標が組織全体の目標ときちんと関連づけられていることが重要です。
個人の目標を設定する際には、部署やチームの方針、さらには会社の経営目標と整合性を取るよう注意する必要があります。
たとえば「売上を伸ばす」といった全社目標がある場合、営業部門では「新規顧客の獲得数」、マーケティング部門では「リード獲得件数」などの目標が良いでしょう。このように、具体的かつ役割に応じた目標を設定することがポイントです。
個人と組織の目標につながりを持たせないと、社員が頑張って成果を出しても全社の成果につながらず、本人のやりがいを損ねる原因になりかねません。
組織と個人の成長につながる目標設定のポイント
MBOでは、立てた目標が会社やチームの成果にどのようにつながるか理解できると、主体的に行動しやすくなります。ここからは、組織と個人の成長につながる目標設定のポイントを紹介します。
目標設定では社員の自主性を重んじる
社員に自分で目標を決めさせることが重要です。目標設定のためのワークショップや研修を実施し、社員が主体的に考える時間を確保しましょう。
また、組織の方向性や経営理念を理解させることで、個人目標と会社の目標を自然に結びつけられます。
自主的に目標を設定することで、取り組みに対する意欲が高まり、達成感を得やすくなります。
社員は自分の行動が組織全体の成果につながることを実感でき、個人の成長と組織のパフォーマンス向上の両立が可能です。
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良い目標例
「3か月以内に新規顧客10件を獲得する」
「月内に業務プロセス改善案を2件提出する」 -
悪い目標例
「もっと売上を上げる」
「業務を頑張る」
定量的な目標を設定する
目標には、達成度を測定できる数値を盛り込みましょう。「いつまでに」「どのくらい」といった具体性を持たせることで、行動の優先順位や進捗を判断しやすくなります。
数値で目標を示すと、進捗状況が明確になり、計画の修正や改善策の検討がスムーズに進められるでしょう。結果的に達成する可能性も高まります。
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良い目標例
「半年で新規顧客20社と面談を実施する」
「月間売上目標を前月比10%増にする」 -
悪い目標例
「新規顧客との面談を増やす」
「顧客対応を改善する」
努力すれば達成できる目標を設定する
目標は、現実的かつ挑戦的なレベルに設定することが大切です。簡単すぎる目標は成長につながらず、反対に難しすぎる目標は挫折感を生みます。
過去の実績やスキルレベルを踏まえ、達成できそうな目標を意識しましょう。
適切な難易度の目標は、社員にチャレンジ意欲を与えます。また、達成できる目標はチーム全体のモチベーション向上にもつながります。
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良い目標例
「今期のプロジェクトで担当タスクを100%完遂する」
「新製品の販売数を前年比5%増加させる」 -
悪い目標例
「全社員トップの売上を上げる」
「短期間ですべての見込み客と新規契約する」
目標とあわせて具体的な行動計画を立てる
目標だけでなく、達成までのステップを明確にすることが重要です。はじめての取り組みの場合、何から手をつければ良いか、進め方がわからず足踏みしてしまう可能性があります。
行動計画を明確にすると、目標達成までの道筋が見え、効率よく業務を進められます。進捗管理や調整もしやすくなり、目標未達時にも原因分析や改善策の検討がスムーズになるでしょう。
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良い計画例
「週に2回営業先を訪問し、月末までに新規案件を3件獲得する」
「毎週金曜日に業務改善案を1件レビューし、月末にまとめて提案する」 -
悪い計画例
「頑張って新規案件を増やす」
「業務改善に取り組む」
部下育成につながるフィードバックの仕方
MBOの中間面談や評価面談を実施する際、押さえておきたいフィードバックのコツがあります。部下のやる気を引き出すポイントを紹介します。
目標達成度だけでなくプロセスを評価する
部下の成果を評価する際は、数字や結果だけに注目せず、目標達成までの取り組み方も重視しましょう。
たとえば、業務の進め方や工夫した点、課題への向き合い方などを具体的に認めることで、部下は成長を実感できます。
プロセスを評価することで、部下は次の目標に向けてどのように工夫すればよいか理解でき、主体的な行動を促す効果も期待できます。
対話を通じて本人の気づきを引き出す
フィードバックは一方的にせず、部下と対話しながら改善点を話し合うことが重要です。
「もっと頑張ろう」と励ますだけでなく、具体的な改善策や次のステップを一緒に考えることで、部下自身の気づきや理解を深められます。
ここで重要なのが、アドバイスをするのではなく、質問をすることです。「新規訪問は足りていたから、次は商談の成約率を上げれば目標を達成できるはずだよ」のように答えをいうのではなく、「新規訪問は十分だったのに、なぜ目標に届かなかったんだろうね?」のように質問をしましょう。
質問を通し、部下が自分で改善点に気づく経験は、自律的に問題解決する力を育みます。上司がヒントを与えつつ考えさせることで、指示待ちではない、主体的な行動につなげられるでしょう。
次の行動につながる具体的な助言をする
フィードバックでは、抽象的な評価にとどまらず、次に何をすればよいか具体的な助言を伝えることが大切です。質問を交えながら部下自身に考えさせると、理解度が深まり、行動に移しやすくなります。
具体的な助言は、次回の目標設定や日々の業務改善にも直結します。行動指針が明確になることで、部下は迷わず取り組めるようになり、成長速度やモチベーションの向上につながるでしょう。
MBOの事例
A社では、目標達成を5段階の指標で明確化し、上司と部下が1on1ミーティングで定期的に振り返ることで、組織としての目標達成や個人の成長が実現できています。
同社ではMBOが次のサイクルで実施されています。
| 上期 | 下期 | |
|---|---|---|
| 目標の設定 | 6~8月 | 12~2月 |
| 進捗確認 | 7~12月 | 1~6月 |
| 振り返り | 12~1月 | 6~7月 |
「目標の設定」では、提示される部門目標をもとに各社員が目標設定実施します。数値目標に留まるのではなく、「何をすべきか」をアクションベースで設定することで、目標への道筋が具体的になります。
「進捗確認」では1on1ミーティングによって、上司から部下へアドバイスします。
そして「振り返り」では、成果と自己評価を上司からの評価と合わせて確認し、次期へと反映させます。
このように、上司と部下が対話して目標や評価をすり合わせることが、成功させるポイントの一つといえるでしょう。
MBO活用で従業員の能力を引き出そう
日本では、経済状況の変動や企業の人事評価ポリシー変更に伴って、導入された背景があり、MBOは成果主義に関する制度と思われがちです。
しかし、個人のモチベーションや能力向上に重きを置いていることを忘れてはいけません。
単に数値目標を達成させる制度ではなく、自主性の尊重と適切なサポートが欠かせません。
こうした、従業員の能力を最大限に引き出す評価制度が、厳しい環境にある日本企業にとって重要ではないでしょうか。
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