早期退職制度とは?メリット・デメリット、退職金の問題や運用ポイントを解説

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記事の情報は2018-08-31時点のものです。

早期退職制度とは会社が退職者を募り、自主的に退職する社員に対して割り増しの退職金を支払ったり、転職先を斡旋したりする制度です。早期退職制度は早期希望退職制度と選択定年制度の2つがあり、どちらも上手に使えば企業にとっても従業員にとってもメリットがある制度ですが問題点もあります。早期退職制度のメリット・デメリットや制度運用のポイントなどについて説明します。
早期退職制度とは?メリット・デメリット、退職金の問題や運用ポイントを解説

二種類の早期退職制度とは

一口に早期退職制度(早期退職優遇制度)と言っても、制度は2種類に分類できます。1つめは早期希望退職制度。業績悪化を背景に整理解雇の回避を目的として断行されることが多いようです。2つめは選択定年制度で、一定の条件を満たすと早期に退職して退職金などの優遇を得られる制度です。

早期希望退職制度とは

まず最初に、早期希望退職制度について説明します。これは経営の立て直しや事業戦略の大きな転換を行う際に使用されやすい制度です。

業績悪化を背景に整理解雇を行うと従業員のモチベーションが顕著に下がるので、整理解雇を回避し自主的に退職者を募ります。早期希望退職制度を使って退職した場合には、退職金が割り増しされたり、再就職支援を受けられることがあります。

選択定年制度とは

もう1つの早期退職制度が選択定年制度です。早期希望退職制度が業績悪化による整理解雇の回避を目的に行われることが多いのに対して、選択定年制度は業績に関係なく、組織の若返りや従業員の自由な生き方を支援するために、会社の人事制度として常時運用されている退職制度です。

大抵の場合は勤続年数や適用開始年齢に要件が定められていて、一定の条件を満たすと、早期に退職できて、退職金や退職年金で優遇を受けられます。

早期退職制度の目的

早期退職制度はどのような目的で運用されているのでしょうか。企業側の目的としては、人件費の削減がメインとなります。不必要な役職を是正する役割を果たす場合もあるようです。また、組織の新陳代謝を促したり、キャリアチェンジ・キャリアアップのきっかけとしても活用されています。

人件費削減

企業側の目的として多いのが人件費の削減です。特に早期希望退職制度は、整理解雇を避けるための手段として用いられる人件費削減施策です。会社にとって人件費は重くコントロールが困難な経費のひとつなので、事業縮小の際にはまずコスト削減の対象となります。割増で退職金を支払ったり、再就職先の斡旋の手間をかけたりしても十分にコスト削減効果が期待できます。

会社内の高齢化対策

組織の若返りという側面もあります。少子高齢化が進むので、放っておくと会社の平均年齢は上昇し続けます。一般論として年次の高い社員ほど給料は高くなりますし、それなりの役職を用意しなければならなりません。彼らを支えるための人件費、不必要に役職が多くなったいびつな組織構造を是正し、組織の若返りと活性化を図る目的でも、早期退職制度が運用されています。

キャリアアップのきっかけになる

従業員側の視点として早期退職制度は、キャリアチェンジ・キャリアアップのきっかけとして活用することもできます。早期希望退職制度で退職者を募集している場合は会社の先行きが不透明であることが多いですし、もともと転職を考えていた人は、転職する際に退職金などで優遇を受けられます。

いずれは起業したい、お店を構えたいなどの夢がある人にとっては、退職金が割り増しされる早期希望退職制度が渡りに船というケースもあり、早期退職制度の利用は長期的なキャリアという視点から好機となる場合も少なくありません。

早期退職制度 メリット・デメリット

早期退職制度は、労働者にとってどのようなメリット・デメリットがあるのかについて説明します。大きなメリットとしては、退職金が増加することではないでしょうか。逆にデメリットとしては、再就職の際に不利になる、退職後の余暇の時間に張り合いがなくなるといったことが挙げられます。詳しくみてみましょう。

メリット

まずメリットとして挙げられるのが、退職金の増加や、転職支援を受けられる場合があることです。特に早期希望退職を会社が募っている場合は、業績の悪化による経営強化や事業戦略が大きく変わる可能性もあります。これまでの経験を活かして活躍することが難しくなる場合もあり、長期的にその会社に勤めることは望ましくないかもしれません。

長期的なキャリア形成の観点から、早期退職制度を上手に利用して転職や起業することが絶好のチャンスということもあり得るのです。

また、十分に老後の資金がある場合は、選択定年制度を利用することによって、早めに仕事からリタイアして、旅行や趣味など好きなことに時間を使ったり、第二の人生の備えて学び直すなどの選択肢も得られます。

デメリット

もちろんデメリットもあります。まず挙げられるのが、良い条件の再就職先が見つけられない可能性があることです。急に早期希望退職制度の対象者とされてしまった場合、転職の準備が整っていない場合は多々あります。準備不足ゆえに転職活動がうまくいかず、職先の雇用条件が前の会社と比較して劣るということは往々にしてありえます。

早期希望退職制度の対象となりやすい50代などのミドル世代は転職市場で年収が下がることが多く、彼らの多くは住宅ローンや子どもの学費で出費がかさむ年代でもあることから、早期希望退職制度が人生を大きく左右してしまうことも懸念されます。

また、選択定年制度で退職するとその分だけ支払う厚生年金の保険料などは減りますが、老後の年金の受給額が減少する可能性もあります。また、実は仕事や会社が好きだった場合、退職後の生活に退屈さを感じて後から後悔する場合もあるでしょう。

早期退職制度 運用のポイント

このように早期退職制度は、その人が選択するしないや希望の有無に関わらず、人生に大きなインパクトを与えるものです。また企業にとっても、人的リソースが減るリスクも孕んでいます。企業側が早期退職制度を運用する際、気をつけるべきことを紹介します。

応募条件を具体的にする

早期退職を募集するときの条件は具体的にしてください。早期退職を募集する部署や応募期限、年齢や勤続年数などによって、早期退職を募る人材を定めないと、想定以上の社員が早期退職を希望したり、特定の部署から人材が過度に流出したりして組織がいびつになってしまう可能性があります。

会社の承諾が必要と明記する

会社の承諾が必要な旨はきちんと明記するようにしてください。会社の承諾を必要とせずに誰でも制度を利用できるようにすれば、会社が退職してもらいたくないと考える優秀な人材から早期退職制度を利用し、人材が流出していく可能性が考えられます。

守秘義務があること明記する

退職した人材との間で後々トラブルが発生しないように、退職時の契約はきちんと結ぶようにしてください。必ず結んでいた方が良いのは守秘義務契約です。守秘義務契約をきちんと結んでいないと、会社のノウハウなどを退職者から流出してしまう可能性があります。必要に応じて競業避止義務契約も結ぶこともあります。

労使ともに知っておくべき、早期退職制度の問題点まとめ

最後に、早期退職制度の問題点について、労働者側と企業側の双方の視点から説明します。

労働者側が知っておくべき早期退職制度の問題点

認められない場合がある

まず、早期退職制度を利用する場合は、退職制度の利用条件が決められていたり、会社の承諾が必要になったりする場合が多いです。利用条件を満たしていなかったり、会社として辞めて欲しくない人材だったりした場合、早期退職制度の利用を希望しても会社がその利用を承諾しない場合があります。

お金のことを考える

お金について考える必要もあります。早期希望退職制度を利用する場合は転職先に目星をつけておいた方が良いですし、転職先によっては給料が下がってしまう可能性もあります

また、選択定年制度を利用して早期退職する場合は老後の資金をきちんと確保しておいた方が無難でしょう。一般論として老齢年金だけでは十分な生活費を確保できないはずなので、きちんと老後の資金を考えたうえで退職を検討しましょう。

企業人事が知っておくべき早期退職制度の問題点

退職は突然やってくる

企業は誰がどのタイミングで退職届を出すのか把握できません。早期退職する社員が会社の重要なポジションだった場合は、引継ぎだけでも多大な労力が必要になったり、一時的に組織が混乱する場合があります。

早期退職を募集すると、思わぬタイミングで思わぬ社員から退職を希望される場合もあるので、会社組織を維持するために、退職後の組織のフォローを行う体制を整えておく必要があります。

優秀な人材が退社することも

早期希望退職制度で退職者を募ると、優秀な人材から退職していくことも多いです。優秀な人材は転職市場でも価値つきやすいので退職した方が待遇は良くなる場合もあるからです。優秀な人材から退職されると、人件費はカットできるかもしれませんが、結果として社員の平均的な質が低下してしまい収益が悪化していくことも考えられます。

早期退職制度を有効活用するために

企業にとっても従業員にとっても、早期退職制度はメリットのある制度ですが、きちんと考えたうえで運用・利用しないと、後から思わぬ副作用が発生する場合があります。企業の場合は早期退職制度によって社員が退職したあとの組織を、どのように立て直すかをしっかり考えたうえでの運用が必要です。従業員側もきちんと転職先や老後の資金のことを考えたうえで、後から後悔しないように退職の判断をした方が良いでしょう。