グーグル「Pixel」でAIエコシステム囲い込み アップルとアマゾンに切り込む

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グーグルが、自社製スマートフォン「Pixel」を日本でも販売すると発表した。Pixelは、余計なアプリや機能のない「ピュアAndroid端末」というだけでなく、グーグルの提供する新機能をいち早く使える点が魅力的だ。Nexusを代替する端末としても期待されている。だが、スマートフォン市場を本気で取りに来たグーグルが本当に目指しているのは、AIファースト戦略によるエコシステム構築だろう。

グーグル「Pixel」でAIエコシステム囲い込み アップルとアマゾンに切り込む

Essential Phoneを一瞬で忘れさせたGoogle Pixelの衝撃

国内Nexusユーザーを沸かせた「Essential Phone PH-1」

Android向けアプリやサービスを手がける開発者たちが、米エッセンシャル・プロダクツ(Essential Products)製スマートフォン「Essential Phone PH-1」の日本発売、という知らせに沸いた。

Essential Phoneは、ピュアAndroid端末、素のAndroidなどと呼ばれるタイプのスマートフォンであり、余計な改造の施されていないAndroid OSが搭載されている。しかも、OSアップデートの提供も迅速で、早いタイミングで最新版OSが利用できる。アプリやサービスの動作確認に適しているため、開発者が使いたがる。

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Google Pixelも突然登場、ピュアAndroid市場に切り込む

ところが、この話題を一瞬で忘れさせる大ニュースが飛び込んできた。Android OSの開発元であるグーグルが、自社開発スマートフォン「Pixel」を日本でも販売するとツイートしたのだ。

出典:グーグル / 新しいスマートフォン Google Pixel がまもなく日本にやってきます。

案内されていたGoogle Pixel公式サイトには、発売されるモデルのスペックや発売時期など、具体的な情報は何も掲載されていない。それでもこのサイトは、Essential Phoneをかすませるほど大きなインパクトを与えた。

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悩む日本のAndroidアプリ開発者

海外開発者に好評のPixelシリーズ

Pixelとは、グーグルが自ら開発して販売しているスマートフォン・シリーズのブランド名。2016年10月に初代モデル「Pixel」「Pixel XL」を発売し、現行モデルは2代目で2017年10月発売の「Pixel 2」「Pixel 2 XL」である。

Pixelシリーズは、グーグルがかつて提供していた「Nexus」シリーズ同様、Androidアプリ検証用リファレンス端末という性格を持っている。そのため、最新のAndroid OSがいち早く配信されるなど、開発者にとって好ましいデバイスなのだ。

そのうえ、グーグルの開発している新機能や新サービスが、早い段階から使える世界で唯一のスマートフォンであることも多い。たとえば、グーグル製の画像処理チップ「Pixel Visual Core」に搭載されていた美しい写真を実現するための一部機能は、当初Pixelの専用カメラアプリでしか利用できなかった。カメラでとらえた対象物が何かを特定する人工知能(AI)機能「Google Lens」や、拡張現実(AR)プラットフォーム「ARCore」なども、まずPixelシリーズで試験的に提供され、その後ほかのスマートフォンで使えるようになる、という流れだ。

日本で使えないPixel、最新OSの動かないNexus

開発者にとって魅力的なスマートフォンなのだが、残念なことに日本で販売されていない。海外から購入しても、技術基準適合(技適)マークを取得していないため、国内での使用は法律に触れてしまう。せっかくの本家グーグル製ピュアAndroid端末であるのに、日本では使えない。

Nexusシリーズのスマートフォンは一部モデルが日本でも正式販売されたため、法律上の問題はない。事実、アプリの動作検証にNexusを使うユーザーは多かった。ただし、Nexusの最終モデルは2015年発売の「Nexus 5X」「Nexus 6P」で、いずれも2018年8月にリリースされたAndroid OSの最新版「Android 9 Pie」に非対応だ。

つまり、現在日本で活動している開発者は、Android 9の使えるピュアAndroid端末を持っておらず、困った状況に陥っている。

新型「Pixel 3」から日本投入か

そんな日本市場へのPixel正式提供を突如グーグルが表明したものだから、大きなニュースになった。しかも、ニューヨークで現地時間10月9日に開催される製品発表会「Made by Google」において新型スマートフォン「Pixel 3」「Pixel 3 XL」発表の可能性があり、日本初PixelはAndroid 9ネイティブ対応の最新モデルになるかもしれない。

出典:グーグル / Google Pixel - 新しいスマートフォンがやってくる。

Nexusシリーズは、グーグルが外部のスマートフォンメーカーに大きく依存し、共同開発で作られていた。これに対し、Pixelシリーズはグーグル社内のハードウェア部門が担当しているグーグル純正スマートフォンといえる。そして、スペックはサムスン電子やアップルのハイエンドモデルに引けを取らない。

自社開発で本腰を入れ、高いスペックで需要喚起を図っており、単に検証用リファレンス端末としてだけでなく、実際にユーザーを獲得することが目的のハードウェアと思われる。Pixelシリーズには、市場を取りに来たグーグルの本気度が感じられる。

グーグルはPixelで「AIファースト」実現を加速する

スマホにとどまらないPixelブランド

ブランド名のPixelは、スマートフォン以外のグーグル製品でも使われている。その筆頭は、ウェブブラウザ「Chrome」および各種クラウドサービス使用を前提とする専用OS「Chrome OS」ベースのノートPC「Chromebook」だ。

Chromebookなど日本ではマイナーだが、安価なうえ、OSアップデートやセキュリティ対策、ユーザー管理といったメンテナンス作業がほとんど必要ないなどの長所が評価され、米国では特に教育市場で生徒用PCとして広く利用されている。最近ではAndroidアプリも動かせるようになり、ユーザーが増えてきた。

グーグルは以前からChromebookの上位モデルにPixelと冠し、現在は「Google Pixelbook」というモデルもある。ちなみに、Pixel 3発表が期待されるMade by Googleでは、新型Pixelbookの発表も予想されている。

さらに、Pixelと名付けられたワイヤレスイヤフォン「Google Pixel Buds」も存在する。Pixel Budsは、Pixelスマートフォンと連携してさまざまな機能を提供してくれる。音声で各種操作を実行する「Google Assistant」はもちろん、リアルタイム翻訳もできるそうだ。単なる音楽を聴くためのデバイスではなく、グーグルお得意のAIに対応するスマートイヤフォンである。

PixelがAIファースト戦略のキーアイテムに?

ハードウェア開発に力を入れているグーグルだが、必ずしもスマートフォンのようなデバイスに固執しているわけではない。以前は「モバイルファースト」という概念を掲げ、各種サービスのスマートフォン対応を推進してきた。しかし、現在CEOのサンダー・ピチャイ氏は「AIファースト」との方針を示している。人間が利用するのはあくまでもAIであり、スマートフォンなどのデバイスは意識されなくなるらしい。

確かに、スマートフォンの使用目的はコミュニケーションやスケジュール管理といった作業が多く、間接的にグーグルのクラウドサービスやAI機能を使っている。写真やビデオを撮影することはあるが、スマートフォンの本質的な用途とは違う。Pixel Budsも、AIと人間との音声インターフェイスに過ぎない。

ブランド名のPixelは、AIファースト戦略の一端を担っている。

グーグル、アップル、アマゾンがAIで衝突する時代へ

グーグルが目指すAIエコシステム構築

グーグルのAI戦略には、当然Pixel以外の製品も欠かせない。代表格は、スマートスピーカーの「Google Home」シリーズだろう。「Amazon Echo」シリーズを擁する業界1位のアマゾンとの差は大きいものの、グーグルはシェアを順調に拡大中で、現在のスマートスピーカー市場はアマゾンとグーグルの2強体制といえる状況だ。

また、グーグルが買収して傘下におさめたネスト(Nest)の各種スマートホーム用デバイスもGoogle Assistant対応が進み、AI戦略の重要な位置を占めるようになってきた。日常生活を自動的に撮影し、大切な瞬間をAIが切り取ってくれるというスマートカメラ「Google Clips」などは、Google Home以上にデバイスの存在を意識させずAIを利用できるようにする。

こうしてグーグルは、スマートフォンやスマートスピーカーを普及させることで、消費者の生活を取り囲むAIエコシステム構築を目指す。

先行するアップル、アマゾンに迫れるか

エコシステムといえばアップルだ。「iPhone」「iPad」「Mac」「iTunes」「App Store」「iCloud」などでユーザーを囲い込み、ワイヤレスイヤフォン「AirPods」とスマートスピーカー「HomePod」でアマゾンとグーグルに対抗しようとしている。

一方アマゾンは、2014年にリリースした「Fire Phone」でスマートフォンをインターフェイスとする経済圏を作ろうとしたが、ユーザー囲い込みが強すぎて失敗してしまった。それが今やスマートスピーカーでは圧倒的な強さを誇り、音声アシスタント「Alexa」に対応する電子レンジ「AmazonBasics Microwave」まで発表し、勢いに乗っている。

ここに、Android OSやクラウドサービスという強力な武器を持つグーグルが、Pixelで攻勢を強めてきた。この3社の動きからは、しばらく目を離せない。

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